【逸話1.5 】後編 Little Town LEGACY #5 はじめて死を予感した日
逸話1.5 後編 はじめて死を予感した日
あの頃の俺は、
一つひとつの行動に、
意味なんてあると思っていなかった。
ただ、
目の前で起きたことに、
必死になるだけだった。
初めの就職先を辞め、
いつものように遊び呆けていた夜のこと。
友達が車の免許を取って、
二週間ほど経った頃だったと思う。
昔から俺たちは
バイクで峠道を走るのにハマっていた。
それは車になってからも変わらなかった。
みんなより遅れて免許を取ったその子は、
毎日のように走りに行きたいと言って
新しく車が納車されたこともあり、
ウキウキしながら話してきた。
「迎えに行くわ。」
そう言って、
私を助手席に乗せ、
いつもの峠道へ向かった。
走っては喋り、
また走る。
そんな時間を繰り返していた。
その時、パトロール中のパトカーと遭遇した。
パトカーはUターンして私たちの後ろに回った。
たまたまスピードもあまりでていなかったので
たぶん事情聴取の為、回ってきたのだろう。
ただ友達は違った。顔つきが変わり急に
アクセルを踏み込み走り出した。
もちろんパトカーはサイレンを鳴らした。
「止まった方がいいぞ。」
と声を掛けた。
友達は黙ったままアクセルを踏み続けた。
もう聞こえなかったのだろう。
カーブに差し掛かりアクセルを緩めない
友達、
俺は曲がれないと、シートに背中を押し当て
足を踏ん張り、左手で窓枠の上部にある取っ手
(アシストグリップ)を力いっぱい握り締め
くるであろう衝突に備えた。
そして車の左前方がガードレールに
突き刺さった。
流れるわけでも、弾き飛ぶこともなく
突き刺さり、止まった。
不思議なものであの瞬間は
スローモーションになるのを
覚えている。もしくは記憶が
そう書き換えられてるのかも知れない。
気づいた時には警察官の方が
かけより「大丈夫か」と声をかけてくれた。
俺は大丈夫っと返した。
友達も大丈夫そうだった。
警察官の方が「怪我はないか?」
「危ないだろ、」
「とりあえず車から降りて身分証明書を出して」と
俺と友達は車から降りた。
友達が免許証を出して警察官の方に見せる
君も出してと俺に声をかける
俺は財布を取ろうと後ろポケットに
手を回そうとしたその瞬間、
手が動かない、
いや腕が動かない
俺は「動かん」そう呟いた。
警察官が「えっ?どうした。」
俺は「腕折れてるわ」
その瞬間、ジンジン痛みが込み上げてきた。
「いてー」「いてーなぁー」
静かにそう呟いた。
警察官が「すぐ救急車を呼ぶ待ってろ」
俺は座り込みどんどん込み上げてくる痛みに
苛立ち、耐えた。
救急隊がかけよりストレッチャーを持ってきた。
俺は「大袈裟だよ」と言って救急車に乗り込んだ。
なぜかその時は強がり、恥ずかしくなったのを
覚えている。
救急車に乗りストレッチャーに寝るよう言われ、
心電図をつけた。
ピッコン
ピッコン
と心電図の音だけが流れていた。
名前と生年月日、血液型だっけな色々と
質問されたのを覚えている。
病院に向かう途中、
心電図の音が消えた。
ピーーーーーーーー。
死んだか、俺。
そう思った。
ただ指から心電図が外れただけだった。
救急隊の方が「おっと、外れちゃったね」
今、冷静に思うと笑えてくる。
「救急車って意外に乗り心地悪いんすね」と
返した覚えがある。
病院につきストレッチャーで処置室へ
検査をしてそのまま入院となった。
病院で友達は俺に何度も謝り、泣き崩れていた。
その当時の年齢でそこまで涙することは少ないと思う。
俺は自分のせいで泣いている友達を見て
俺自身も友達を傷つけてしまった。
罪悪感から
申し訳ない気持ちになり、
その状況から逃げたくもなり、
笑いながら、
「痛くて、泣きたいのこっちだぞ」と
言った。
その時の発した言葉が
あっていたのかはいまだにわからない。
よく朝、
病院からは、
骨折。
そう説明された。
粉砕骨折で骨がないと
言われた。
左腕の一部分にかなりの力がかかり、
力が逃げ場所を失って
砕けたらしい。
根がぐうたらな俺は、
利き腕が左とはいえ、
「リハビリもめんどくさいな」
その程度にしか考えていなかった。
手術室に向かう。
診察台に寝そべり、
少し話があり、
「麻酔を強くしていきますねっ」と
声をかけられ、
その瞬間、指がピクっ
嫌な予感を覚えている。
帰って来れないそんな感覚
意識を失ってはダメだと思い、
目を閉じないようグッと力を入れた。
そんなことも無意味に・・・
骨折の手術が終わり、
覚えているのは
車椅子で病室に、
そして家族、いつもつるんでいた、
仲間たちが
待っていた。
麻酔が切れてなかったのか
それぐらいしかおぼえていない。
切開した傷口が夜中になると
埋めき出す。
静けさの中に
ドクドクと
血液の鼓動
ジンジンと痛みだけが
永遠に流れている・・・。
次の日、
あれ腕が動かない。
いや折れているから
動かないのだが
手首、
指が動かない。
巡回の医師に説明をする。
検査して調べた。
結果、
骨折の他に
神経も
損傷していた。
神経は骨と違い
時間で再生し直らない。
もう一度手術になる。
そう聞かされた。
それから
手術が終わり
3ヶ月が過ぎた頃
骨は再生され、
ギブスが外された。
リハビリが始まり、
リハビリの大変さを知る。
何せ楽しくないし、
やりたいことしかやってきてない
自分にはかなり辛かった。
ただリハビリを
やり続けても
左手首と
左指が
帰ってくることはなかった。
それから大学病院に移ることになった。
元々今の病院で働いていて、
今はアメリカで働いている医師、
俺の手術のためだけに帰国する。
手術の前に「大丈夫だから」と
その一言がなぜか安心できた。
不思議と帰って来れない感覚はなかった。
手首は動き、指も動く。
ただ皮膚の神経を手に代用したため、
腕の一部は麻痺したままだった。
手首と指を動かす感覚が、
頭の伝達と噛み合わない。
まるで自分の意思とは別の人が、
動かしているような感覚だった。
実際のところ、 今でもうまく説明できない。
でも、 あの日を境に、 俺は「今までの俺」ではいられなくなった。
でも、
本当に失ったのは、
左手だけじゃなかった。
利き腕が思うように動かない。
今まで当たり前にできていたことが、
何一つできない。
箸を持つこと。
字を書くこと。
工具を握ること。
全部、
思いどおりにならない。
悔しかった。
腹が立った。
恥ずかしかった。
「こんなはずじゃない。」
「腕さえ動けばできる。」
「俺は誰よりもできるはずだ。」
「誰にも負けないはずだった。」
そう信じていた自分は、
あの日、
音を立てて崩れた。
気づけば、
何もかもどうでもよくなっていた。
仕事もしない。
ただ毎日を、
無職のまま、
ぶらぶら過ごしていた。
そんな自分が
ふと、
頭に浮かんだ。
ヤッさんの、
その日の一喝。
「仕事なめんなよ。」
なぜ、
俺はその日、
何も喋らなかったのか。
ミミが教えてくれた。
ミミは、
どんな時の俺も、
黙って見つめていてくれた。
嬉しい時も。
悲しい時も。
遊び呆けていた時も。
何もできなくなった時も。
変わらなかった。
だから俺も、
今の自分から逃げるんじゃなく、
受け入れようと思った。
やらない後悔より、
やってから後悔。
動かないより、
動くこと。
自分を受け入れ、
自分を信じ、
自分を好きになること。
ミミが、
どんな俺でも、
そうしてくれたように。
だから、
あの日の俺は、
喋れなかったんじゃない。
喋らなかった。
今の自分を受け入れる、
覚悟のために。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回
逸話2.0 未来との遭遇(出会いそして決意)

