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【逸話1 】後編 Little Town LEGACY #3 【宿す職人の魂】



宿す職人の魂(運命の出会い・転機)

あの日の一言は、

今でも忘れることができません。

あれが、

私の人生を動かす合図だったのかもしれません。

教えてもらった住所を頼りに、

私は小さな板金工場へ向かいました。

正確に言えば、

初めて来る場所ではありません。

小さい頃、

親父に連れられて何度か来たことがあります。

でも覚えているのは、

工場で飼われていたワンちゃんと遊んだ記憶だけでした。

工場へ車を止めると、

古びたシャッターの向こうから、

金属を叩く音が響いていました。

カン――

カン――

一定のリズムで鳴り続けるその音は、

今思えば、

私を職人の世界へ導く音だったのかもしれません。

「すみません。」

そう声を掛けると、

一人の職人さんが振り返りました。

私は少し緊張しながら言いました。

「〇〇の息子です。」

職人さんは私の顔を見るなり、

「あぁ、久しぶりだな。」

そう言って、

少しだけ笑いました。

「中に。」

たった一言。

私は言われるまま、

傷付いた車を工場の中へ入れました。

職人さんは、

事故で傷付いた車を一周すると、

しゃがみ込んだり、

角度を変えたりしながら、

黙って傷を見ていました。

その姿を見ていると、

何となくですが、

職人の魂というオーラを、

初めて見た気がしました。

しばらくすると、

職人さんは私の方を向いて、

「一週間後に来て。」

それだけでした。

私は代車を借りて帰ることになりました。

当時の私は、

事故を起こしてしまった。

それくらいしか考えていませんでした。

まさか、

一週間後、

この工場で、

人生を変える出来事が待っているとは、

夢にも思っていなかったのです。



一週間後。

修理が終わった車を引き取りに、

私は再び工場を訪れました。

工場へ入ると、

昔と変わらない空気が流れていました。

ヤッさん。

お母さん(ヤッさんの奥さん)。

そして、

ワンちゃんたち。

家族で切り盛りする、

小さな板金工場。

工場の事務所では、

大きな「シロ」。

そして、

豆柴の「チビ」。

私が子どもの頃に遊んでいたのは、

二代目シロと、

二代目チビ。

今いるのは、

三代目シロと、

三代目チビでした。

時が流れたことを実感しました。

懐かしい話をしながら、

しばらくは、

和気あいあいとした時間が流れていました。

作業場では寡黙なヤッさんも、

事務所ではよく話す人でした。

私も緊張がほぐれていました。

修理された車を見て、

私は思わず、

「この仕事、いいな。」

と口にしていました。

車が好きだった私には、

板金塗装という仕事が、

とても格好良く見えたのです。

その一言を聞いたヤッさんは、

私の方を見て、

静かに言いました。

「仕事なめんなよ。」

その瞬間、

工場の空気が変わりました。

ヤッさんの表情も、

さっきまでとはまるで別人でした。

私は、

「この仕事いいな。」

そのくらいの軽い気持ちで言っただけでした。

でも、

ヤッさんが言った、

「仕事なめんなよ。」

あの一言は、

当時の私の心構えを、

まさに見抜いた言葉だったのでしょう。

今になって振り返ると、

あの頃の私は、

「車が好きだから。」

そんな軽い気持ちで仕事を語っていた、

かなり痛いガキだったなと、

今では恥ずかしくなります。

すると、

お母さんが私の前へ来て、

「今日はもう帰りな。」

そんな言葉だったと思います。

今思えば、

私を逃がしてくれたのでしょう。

私は何も言えず、

修理された車に乗って帰りました。

家へ帰ると、

親父が誰かと電話をしていました。

その電話の雰囲気だけは、

今でも覚えています。

後になって思えば、

ヤッさんは、

私のことを心配して、

親父へ電話をしてくれたのでしょう。

あの時の私は、

人生も仕事も、

どこか甘く考えていました。

そんな私の心構えについて、

親父へ話していたのだと思います。



数日後。

いつものように家でダラダラと毎日を過ごしてた頃、

急に家の愛犬が亡くなった。

私が小学校に入学した時に

うちに来た茶色と白、

そして少し黒が混じった、

テリア系(ミックス犬)の女の子。

名前はミミ。

はじめて名前を決める時、

色々悩んでは

家族みんなで、

決めた名前。

僕が「ミミはどうかな?」

と提案して

すごく親しみやすく、昔から知っているような感覚になった。

それもそのはず、

家族で付き合いがある

友達の家で飼われている愛犬だった。

「そりゃーしっくりくるわ」

と後に笑ったのを今でも覚えている。

家の外から、ミミの声が聞こえてきた。

「フゥーン……フゥーン……」

最近は歳をとり、
もう長いこと、その声を聞いていなかった。

何か頭の中に電気が走り、

すぐ家の外にかけだした。

ミミは横たわっていた。

俺はとっさに抱き寄せ

ごめん、ごめん

僕が悲しい時、寂しい時と

小さい頃よく母親に怒られた時には、

親父が作ったミミの小屋に入ってはミミは

となりで寄り添ってくれた。

俺がプラプラしていた時ですら、

いつも家に帰ると犬小屋の前で迎えてくれてた。

それなのに俺はいつも横目で見るだけだった。

わたしはいつも自分の時だけ求めていた。

いつもミミは見ていてくれたのに…

わたしは…




この世には限りがある

あの日、

ミミとの別れは、

私に、

「今のままで本当にいいのか。」

そう問い掛けてくれたような気がします。



それから、

私の中で変化が起きていました。

板金塗装のことばかり考えていました。

私は今でも、

一つのことが気になり始めると、

他のことが頭に入らなくなります。

人と話をしていても、

「聞いてる?」

とよく言われます。

私は親父に言いました。

「俺、ヤッさんとこで雇ってくれるかな。」

親父は少し間を置いて、

こう言いました。

「見習いは給料安いぞ。」

それだけでした。

親父らしい返事でした。

私は心の中で、

「今も給料ねぇーし。」

そう思いました。

不思議と、

私の両親は、

私がやりたいと言ったことに反対したことがありません。

「やれば。」

「いいんじゃない。」

いつもそんな感じでした。

私は普段から、

人に相談をすることがありません。

自分の中では、

もう答えは決まっていて、

人に相談ではなく、

いつも報告だけをしていました。

ひとりよがりで、

変なプライドだけは一丁前。

そんな私の性格を、

両親はよく分かっていたのでしょう。



そして後日、

私はもう一度、

ヤッさんの工場へ向かいました。

「働かせてください。」

その一言から、

新たな道、

職人人生は始まります。

あの日の事故は、

決して褒められる出来事ではありません。

でも、

あの事故がなければ、

私はヤッさんと再会することも、

職人という道を歩むこともありませんでした。

人生は、

何が転機になるのか分かりません。

私にとって、

あの日は、

人生最悪の日であり、

人生最高の出会いの日でもありました。

こうして私は、昭和の職人のもとで、弟子としての第一歩を踏み出したのです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。



次回

昭和の職人、最初の一喝(修業編)

職人の世界に飛び込んだ私。

そこに待っていたのは、

技術を教わる前に、

覚悟を叩き込まれる毎日でした

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