「事務が電話に出るものでしょう?」と、誰も言っていないのに感じるあの空気~来客対応・電話対応は本当に事務の仕事なのか、制度と現場の間で考えてみました~|学校事務の思考整理・実務編(渉外)#1
来客対応・電話対応について、誰しも感じるある違和感からお伝えしていきます。
職員室の電話が鳴る。
誰も動かない数秒のあと、結局いつも事務の自分が受話器を取っている。
別に「事務が出ろ」と決められたわけではないのに、その役は自然と固定されていきます。
来客の応対も同じで、玄関のチャイムが鳴れば、まず腰を上げるのは事務の私です。
この「誰も決めていないのに、なぜか事務」という空気は、いったい何なのでしょうか。
そもそもこれは、誰の仕事なのか。
法令や通知をたどると、思っていたより根が深いことがわかってきました。
今回は、その正体を一緒にほどいていきます。

そもそも来客・電話対応は誰の仕事なのか
まず、いちばん素朴な疑問から始めます。
学校で誰が何をするのかは、どこに書いてあるのでしょうか。
出発点になるのは、学校にどんな職を置くかを定めた学校教育法です。
小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。
ここに並ぶのは「職」の名前だけで、誰が電話に出るか、誰が来客を案内するか、といった具体的な役割分担は書かれていません。
つまり、法律のレベルで「来客・電話対応は事務職員の仕事」と名指しした条文は、見当たらないのです。
では、なぜ現場ではそれが事務の役回りとして定着しているのか。
その答えのカギは、後半で触れる職員室の環境と、各学校の校務分掌にあるようです。

「事務が出るものでしょう?」という無言の重圧
法律に書いていないのに、現場ではなぜか役割が固まっていく。
この章では、その正体である「空気」の話をします。
よくある場面
電話が鳴る場面:先生方は授業準備や子ども対応で手が離せず、結局いちばん席が動きやすい事務が取る。
来客がある場面:玄関や職員室の入口に事務机が近く、最初に目が合うのが事務になる。
取り次ぎの場面:「誰につなぐか」を判断できるのが事務だからと、窓口役が固定される。
どれも、誰かが悪意で押しつけたわけではありません。
むしろ「気がついた人がやる」という善意の積み重ねで、自然とそうなっていきます。
問題は、その積み重ねがいつのまにか「事務が出るのが当たり前」という前提にすり替わることです。
明文の決まりがないぶん、断りにくく、相談もしにくい。
これは個人の気の持ちようというより、職務の線引きが曖昧なまま放置されていることの表れのように思います。
その曖昧さがどこから来るのか。
よく「制度のせい」と語られがちな点から、ほどいてみます。

「つかさどる」のせいではない、本当の理由
事務職員の仕事を語るとき、よく引き合いに出されるのが平成29年の学校教育法改正です。
この改正で、事務職員の職務を定めた条文の言葉が変わりました。
事務職員は、事務をつかさどる。
改正前は「事務に従事する」でした。
それが「事務をつかさどる」になり、受け身で携わるイメージから、主体的に担うイメージへと重心が動いたとされています。
この「つかさどる」を、「事務は何でも主体的にやる立場になったのだ」と読む向きもあります。
ただ、私はこの空気を「つかさどる」のせいにするのは、少し違うと感じています。
電話や来客が事務に寄っていく流れは、改正よりずっと前からあったからです。
では、もともとなぜこの流れがあるのか。
正直なところ、理由はもっと素朴で、環境的なものだと思います。
事務職員や教頭は、職員室や事務室に常駐している比率が高く、電話に出やすく、来客にも気づきやすい場所にいるのです。
つまり「つかさどるから」ではなく、「いつもそこにいるから」自然と役が回ってきただけ。
制度の言葉を持ち出すより、この身も蓋もない事実を見たほうが、話は早いように思います。
だからこそ、では誰がどう担うのかを、空気任せにせず決めておく必要があるわけです。

文科省の「標準的な職務」に、電話対応は載っているのか
「事務をつかさどる」だけでは、具体的に何をどこまで担うのかは決まりません。
そこを補うために、国は標準的な職務の考え方を示しています。
文部科学省は令和2年に、事務職員の標準的な職務の参考例を通知しました(教諭等についても、別途同じような参考例が示されています)。
これは各教育委員会が学校管理規則などで職務を明確化するための、いわば下敷きです。
では、その例示には何が並んでいるのでしょうか。
通知の別表は、主として事務職員が担う職務(別表第一)と、他の教職員と連携・分担して参画する職務(別表第二)の二本立てになっています。
標準職務例に並んでいる区分
別表第一(主として担う):総務・財務・管財・事務全般の4区分。
総務の中身:就学支援、学籍、教科書、調査統計、文書管理、教職員の任免・福利厚生など。
別表第二(連携して参画):校務運営、教育活動、学校評価、保護者や地域住民等との連携、危機管理、情報管理など。
ここで、ぜひ気づいてほしいのです。
これだけ細かく並んでいるのに、「来客対応」「電話対応」「受付」という言葉は、別表のどこにも具体的に挙げられていません。
つまり私たちが毎日担っているあの対応は、国が示した標準職務例には、名前すら出てこないのです。
では、なぜそれでも事務の仕事になりがちなのか。
そのカギは、通知の留意事項にあります。
標準職務例に具体的な職務として掲げていない職務であっても,学校規模,教職員の配置数,経験年数,各学校・地域等の実情に応じて事務職員が担うことが必要と校長が認める職務については,校務分掌に位置付けることは可能であること。
裏を返せば、来客・電話対応は「校長が校務分掌でそう定めて初めて」事務の職務になる、ということです。
逆に、どこにも定められていなければ、本来は誰か一人が当然に背負うべきものではありません。
だからこそ、一度、自分の自治体の学校管理規則や、自校の校務分掌表を見直してみる価値はあります。
受付や電話対応が、そこにどう書かれているか。
あるいは、どこにも書かれていないか。
そして、この「標準化」の流れには、現場から強い異論もあります。

「電話対応は事務の仕事ではない」という組合の立場
職務を明確にする動きは、一見すると事務職員を守るようにも思えます。
ところが、これを業務の押しつけだと批判する立場もあるのです。
全国学校事務労働組合連絡会議、いわゆる全学労連は、標準職務例の通知に対して批判的な見解を示しています。
全学労連の見解の要旨(趣旨を要約して紹介)
標準職務例は、他職種が抱える矛盾の「転嫁先」として事務職員を利用するものであり、労働環境や健康への配慮を欠いている。
その主張の中心には、次のような考え方があるようです。
組合側の論理
業務拡大への警戒:「もっと働けば雇用が守れる」という発想では、かえって過重労働を招く。
転嫁への反対:他職種の負担軽減のしわ寄せを、事務へ回すべきではない。
本筋は別にある:真の働き方改革は、学校業務そのものの縮減と教職員定数の改善で実現すべき。
こうした考え方が強い地域では、「電話対応や来客対応は事務の仕事ではない」とはっきり線を引くこともあると聞きます。
私はここで、どちらが正しいと断じるつもりはありません。
ただ、自分が立っている地域の温度感を知っておくことは、無言の重圧と向き合ううえで助けになるはずです。
立ち位置の話はここまでにして、ここからは日々の実務に降ろしていきます。

来客対応の基本動作と安全管理の土台
来客対応は、マナーの話であると同時に、安全管理の話でもあります。
学校は子どもがいる場所だからです。
この点は、学校保健安全法が下支えしています。
学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の実情に応じて、危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領(次項において「危険等発生時対処要領」という。)を作成するものとする。
来訪者をどう迎え、どう動線を管理するか。
これは礼儀作法であると同時に、不審者対応や危機管理の入口でもあるわけです。
来客対応の基本の流れ
最初の声かけ:「こんにちは、どのようなご用件でしょうか」と、明るく声をかける。
身元と用件の確認:所属・氏名・約束の有無をさりげなく押さえる。
取り次ぎ:担当者へつなぎ、必要なら来客スペースへ案内する。
線引き:約束がない、用件が不明確、様子が気になる場合は、一人で抱えず管理職や複数人で対応する。
校門・玄関の施錠も、この土台の一部です。
「誰でも入れる学校」と「誰が入ったかわかる学校」は、安全のうえで大きく違います。
その「誰が入ったか」を残す仕組みが、次の章の記録です。

名札・入校証と来訪者記録簿のつけ方
対応を個人の記憶に頼ると、いつか必ず抜けが出ます。
だからこそ、記録という仕組みが効いてきます。
入校証や名札を運用すると、校内にいる外部の人が一目でわかります。
来訪者本人にとっても、堂々と校内を動ける安心につながります。
来訪者記録簿に最低限残したい項目
日時:来校した日と入校・退校の時刻。
氏名・所属:どこの誰か。
用件:何のために来たか。
対応者:校内で誰が受けたか。
備考:次回の約束や、気になった点があれば一言。
こうした記録は、後日の「言った言わない」を防ぐだけではありません。
万一の事故やトラブルが起きたとき、学校としての説明責任を果たす材料にもなります。
地味な作業ですが、自分と学校を守る保険のようなものだと考えています。
記録が来客対応の備えなら、次は日々いちばん回数の多い電話の話です。

電話対応の第一声と相手別の勘どころ
電話は、相手の顔が見えないぶん、最初のひと言で印象が決まります。
学校の電話に出た人の応対が、そのまま学校全体の印象になると言われるほどです。
基本の型は、第一声・名乗り・取り次ぎ・伝言メモの4つです。
そのうえで、相手によって対応の濃淡を変えると、ぐっと落ち着いて捌けるようになります。
相手別の対応の勘どころ
教育委員会:用件と期限を正確にメモし、担当へ確実につなぐ。
業者・営業:用件を絞り、即断せず担当者や管理職に判断を委ねる。
地域住民:丁寧に傾聴しつつ、対応窓口を明確にして抱え込まない。
保護者:感情に寄り添いながら、事実確認は担当へつなぐ。
特に注意したいのが、児童生徒の在校確認など、個人情報に触れる問い合わせです。
たとえ家族を名乗る相手でも、その場で即答するのは避けたいところです。
折り返しの連絡や本人確認をひと手間挟むことが、子どもを守ることにつながります。
回答してよい範囲は、個人情報保護法や各自治体の条例が関わってきます。
迷ったら答えない、確認してから折り返す。
この慎重さは、過剰ではなく適切な対応だと思います。
ここまで、来客と電話の実務を見てきました。
こうした日々のやり取りは、道具の工夫でもう一歩らくにできます。

記録と取り次ぎをICTで軽くする
最近は、ICTの発達によって、対応の記録をチャットや校内掲示板のような形で残す学校も増えてきているようです。
紙の記録簿を回覧する代わりに、共有のチャットや掲示板に一行書き込んでおく。
それだけで、担当者へわざわざ直接取り次ぐ手間そのものを減らせます。
メリットはそれだけではありません。
授業中で席を離れられない先生にも出欠の確認が伝わったり、出張中や校外学習で校舎にいない先生にも即時に情報が届いたりします。
対面の取り次ぎでは難しかったことが、ぐっとやりやすくなるわけです。
たとえば「○○先生へ、△△から電話、折り返し希望」と残しておけば、伝言が確実に届きます。
もちろん、扱う情報には個人情報も含まれますから、自治体のセキュリティポリシーや情報の取り扱い規程が許す範囲で、という前提は外せません。
そのうえで、使える環境があるなら、こうした活用を小さく始めてみるのは、立派な業務改善の一歩になりそうです。
ただ、道具で楽にしたうえで、最後はやはり「誰がやるか」に向き合う必要があります。

マニュアル化の前に、できる小さな工夫から
ここまで読むと、「では対応をマニュアル化して、役割を決めればいい」と思うかもしれません。
ただ、私はそこに少しだけ慎重でいたいのです。
立派なマニュアルを作り込むと、その流れで「ではこれは事務の分掌に」と、まるごと割り当てられてしまう恐れがあります。
そうなると、これまで空気だった無言の重圧が、今度は明文の業務として固定されてしまう。
これでは目も当てられません。
特に経験の浅い事務職員ほど、学校の中で重い校務を任される比率は低く、こうした周辺の対応に役割が寄りがちです。
よかれと思ったマニュアル化が、かえってそのモヤモヤを強める方向に働きかねないと感じています。
だからまずは、心理的なハードルの低い、小さな工夫から始めるのがいいと思うのです。
今日から試せる小さな工夫
全職員向けの簡単マニュアル:細かい手順書ではなく、誰が見てもひと目で動ける一枚ものにする。
共用のメモとペン:電話のそばに、誰でも使える伝言メモとペンを常に置いておく。
伝言フォーマット:日時・相手・用件・折り返しの有無だけ書けばいい定型を貼っておく。
電話機の配置:特定の席だけに負担が集中しないよう、みんなが取りやすい場所に置き直す。
一次対応の声かけ習慣:手が空いた人がまず出る、という空気を全員で少しずつ育てる。
どれも「ちょっとやってみようかな」と思える大きさです。
重い制度を作るより、こうした小さな一歩のほうが、現場は実際に動き出します。
そして、その積み重ねの先に、管理職の力を借りたいところです。
最後のひと押しは校長から
ここで、地方公務員法が後ろ盾になります。
職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
来客対応や電話対応は、本来、事務だけのものではなく、全職員に関わる校務のはずです。
それは学校安全のためであり、地域への住民サービスの向上のためでもあります。
当たり前のことなのに、先生方は日々の忙しさの中で意識しづらいのも事実です。
だからこそ、校長から全職員へ、「受付や電話は学校みんなの仕事です」と折に触れて伝えてもらう。
その注意喚起があるだけで、現場の空気は確かに変わります。
トップの一言は、一人の事務職員がいくら声を上げるより、ずっと早く広く届くからです。
一人で感じてきた無言の重圧を、まずは小さな工夫で軽くする。
その先で、学校全体の仕事として位置づけ直してもらう。
今日も電話は鳴りますが、その役を「自分だけのもの」にしなくていいのだと、私は思っています。

法の関連マップ
日本国憲法(公務員は全体の奉仕者・服務の大枠を規定)
├─ 学校教育法
│ └─ 第37条(学校に置く職を規定)
│ └─ 第14項(事務職員は事務をつかさどる=職務の根拠)
├─ 学校保健安全法
│ ├─ 第27条(学校安全計画の策定=来校者を含む安全管理の計画)
│ └─ 第29条(危険等発生時対処要領=施錠・不審者対応の根拠)
├─ 地方公務員法
│ ├─ 第32条(法令等・上司の職務命令に従う義務=分掌の根拠)
│ └─ 第35条(職務専念義務=何にどこまで時間を割くかの前提)
├─ 個人情報保護法/各自治体の個人情報保護条例
│ └─ 在校確認・問い合わせへの回答範囲を縛る根拠
├─ 文科省通知「標準的な職務の明確化」(令和2年)
│ └─ 学校管理規則で校務分掌を定める指針(誰の仕事かを決める場)
└─ 各自治体の学校管理規則・各校の校務分掌
└─ 受付・電話対応を実際に割り当てる最終的な場
└─〔任意〕全学労連ほか職員団体の見解(職務範囲をめぐる対抗的な主張)


