ECMOって何ですか? ~“命の橋渡し”をする医療機器について~
「ECMOを入れました」と言われたとき、皆さんはその意味をご存じでしょうか?
医療の現場では日常的に使われている言葉でも、一般の方にとってはなじみがなく、急に聞いてもピンとこないかもしれません。
「何かの機械らしい…」
「コロナのときに聞いたことはあるけど、詳しくは分からない…」
そんなふうに感じた方も多いのではないでしょうか。
こんにちは。私は心臓外科医の田所と申します。重い心不全を抱えた患者さんに対して、補助人工心臓や心臓移植といった治療を専門に行っています。
このノートでは、医療現場で使われるECMOという装置について、なるべくわかりやすく解説していきます。
患者さんのご家族はもちろんのこと、看護師さんや臨床工学技士、医学生、医療に関心のある方など、さまざまな立場の方に読んでいただける内容を目指しました。
ECMOとは一体何なのか。どんなときに使われるのか。そしてその「先」にはどんな医療があるのか。
ECMOとは?簡単に言うと…
ECMOは、「膜型人工肺」と呼ばれる医療機器です。
正式名称は “体外式膜型酸素化装置(Extracorporeal Membrane Oxygenation(ECMO)”。名前がとても長いので、私たちは「エクモ」と呼んでいます。
この装置の大きな特徴は2つあります。
血液に酸素を与える(肺の代わり)
血液を循環させる(心臓の代わり)
つまり、呼吸がうまくできないときには肺の役割を、心臓が弱っているときには心臓の役割を補ってくれる装置なのです。

血液を返す場所でサポートできる臓器が変わります。
ECMOが必要になるとき
ECMOが使われる場面は、非常に限られています。それは、患者さん自身の呼吸や循環の力では命を保つことが難しい、と判断されたときです。
呼吸の力が足りない場合
呼吸がうまくできなくなると、まずは酸素マスクなどでサポートします。それでも十分に酸素を取り込めないと、いずれ血液中の酸素が足りなくなります。これは、長時間息を止めているのと同じ、非常に危険な状態です。
そのとき、ECMOが血液に直接酸素を加えることで、肺の代わりをします。
心臓の力が足りない場合
心臓は、全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。何らかの原因で心臓が弱り、血液を十分に送り出せなくなると、血圧が下がり、意識を失ったり、命の危険に直面することもあります。
そんなとき、ECMOが血液の循環を助け、体のすみずみに血液にのせて酸素を届けるサポートをしてくれます。
ECMOは、管理が多少複雑な機械です。血液を体の外に出し、酸素を加えて、再び戻す。その流れを安全に保つには、専門的な知識と高度な技術が必要です。
臨床工学技士、医師、看護師、集中治療チームが連携しながら、24時間体制で管理を行います。
しかし、日本ではまだECMOの使用経験を積める施設が限られており、実際に日常的に扱っている医療機関は多くありません。
ECMOは“橋渡し”の装置です
ECMOは、実にさまざまな現場で使われています。
救命救急センター、循環器内科、呼吸器内科、心臓外科、呼吸器外科、集中治療科などなど——。
それぞれの専門が交差する現場で、ECMOは「今はこのままでは命をつなげない」という極めて深刻な状況に立ち向かう装置として導入されます。
この装置が果たす最大の役割は、橋渡しです。
命が危機にさらされた状況で、何とか次の治療へとバトンを渡す。
そのための、限られた時間を稼いでくれる存在です。
ECMOは“治す機械”ではありません。
ECMOはあくまで、“命をつなぐ時間”を与えてくれる装置です。
その時間の中で、私たち医療者が何をするか。どんな治療法を選択できるか。
そして何より、患者さん自身の力がどこまで回復できるか。
それらが重なって、ようやく「回復」への道が見えてきます。
患者さんが元気になるかどうかを決めるのは、エクモではありません。
でも、ECMOがあったからこそ治療の選択肢が生まれ、未来につながる希望が生まれる。
それこそが、この装置の持つ真の価値です。

では、ECMOがつなぐ“先”には何があるのか?
私は心臓外科を専門にしています。
だからこそ、ECMOの“その先”、つまり「心臓に原因がある場合の次の治療」について、もう少し詳しくお話ししたいと思います。
エクモがつなぐ未来。その先に待っているのは、決して簡単ではないけれど、命を救うためのもう一段階、さらに高度な治療です。
ECMOの“その先”にある治療とは
ECMOを使っても心臓の回復が見込めない。
そう判断されたとき、私たちが次に考えるのが 補助人工心臓(VAD) や 心臓移植 です。
心臓が動かなくなったとき、すべての希望が途絶えるわけではありません。
技術は進歩し、今では心臓の機能を機械で補うことが可能になりました。
補助人工心臓というのは、小型のポンプのような機械で、心臓の代わりに血液を全身に送る装置です。これにより、患者さんは長期間の生活が可能になりますし、心臓移植までの“つなぎ”としても使われます。
ただし、この治療を誰にでもすぐ提供できるわけではありません。
年齢や持病、体力など、いくつかの条件があり、それを一つひとつ慎重に判断する必要があります。
日本国内の現実 ― 限られた「次のステップ」への扉
現在、日本国内では年間およそ6,000例前後の|ECMO《エクモ》導入が行われているとされています。
これは重症の呼吸不全や心不全など、命にかかわる深刻な状態に対して行われる処置です。

ただし、ECMOの導入経験がある施設は増えてきている一方で、月に3例以上のECMOを扱っている施設は、全国でもごく一部に限られています。
つまり、“導入できる”ことと、“日常的に運用し慣れている”ことは別だという現実があります。
そして、ECMOをただ導入するだけでなく、その後の治療へと確実につなげるためには、さらに高度な医療体制と専門性が必要です。
たとえば、ECMOの“次”として考えられる治療法である補助人工心臓(VAD)。
これを実際に取り扱うことができる医療機関は、日本全国にわずか37施設しか存在しません(成人対応施設のみ)。

また、そのさらに先にある心臓移植を実施できる施設も、成人を対象としたものに限れば、全国でわずか10か所しかないのです。

さらに課題として浮かび上がっているのが、“ECMOの先にどんな治療が必要か”という判断のバラつきです。
2025年に報告された調査研究によると、補助人工心臓や心臓移植といった高度治療の必要性を、適切に認識できていた医療施設は全体の約7割でした。
そして約半数は自院で対応しきれず、大学病院などの高次医療機関に転院して治療を行ったという結果が示されています。
つまり、患者さんの状態が重ければ重いほど、医療機関同士の連携が不可欠になるということです。
命を救うためには、「どこで治療を始めるか」だけでなく、「どこまで見据えて治療をつなぐか」が問われます。
ECMOという装置を本当の意味で“命をつなぐ架け橋”として活かすには、地域全体での医療連携の強さが、極めて重要な鍵になるのです。
まとめ – ECMOを知っておくということ
今回は「ECMOとは何か」「どんなときに使われるのか」「その先にある治療」についてご紹介しました。
このような危機的な状況になる機会は少ないですが、誰にとっても突然訪れる可能性があります。だからこそ、ECMOは何を目的として使われるのか、どんな限界があるのかをあらかじめ知っておくことは、とても大切だとおもっています。
このノートが、患者さんやご家族、そして現場の医療スタッフ、医療を学ぶ方々にとって、少しでも理解の助けになれば幸いです。
また今後のNoteでより詳しい話を書かせていただければと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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