【noteでBL正月特番】「食事風景を入れる」+「失恋」+「ゾンビ」
皆様ごきげんよう、四四田です。
いつも参加させていただいているnoteでBL、
FFのなみさんが主宰されている、毎月一回三つのクレイジーなお題でBLを書く、という企画ですが、
今月は正月休み。
ゆえに、現在過去お題が解放中です。
過去のお題に取り組みなおしたり、締め切りを気にせずにじっくり参加できるチャンス、というわけで四四田も何か書きたいなあと思っていたのですが。
過去お題ではなく、なみさんが例題としてあげられていた、
「食事風景を入れる」+「失恋」+「ゾンビ」のお題のブロマンス〜BL小説を5000字以内で書く。
が、たしかに良さそうで、
書いてしまいました!!
だって浮かんできちゃったんだもん。
というわけで、
お付き合いください。
本文3000字~
※見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
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スライスした玉ねぎをフライパンで炒めると、部屋の中にいい香りが漂った。
肉を、入れるか入れないか迷って、結局入れることにする。
何の肉なのだろう。ラップにくるまって、冷蔵庫に入っていた、白っぽい脂の多い肉。包丁で一口大に切って、半透明になりかけた玉ねぎの上にばらばらと落とす。
火が強すぎたのか、じゅわっと音を立てて、フライパンから白い煙がたなびいた。焦げないように、慌てて火を小さくした。
あとはキノコ。
小麦粉とバター。弱火でかき混ぜながら牛乳を入れてホワイトソースにしていく。
かき混ぜるへらで、一瞬フライパンの底が見える。ホワイトソースを割る一本の道。どろりとしたホワイトソースは、すぐにへらの跡に流れ込んで、フライパンの中は、あっという間に元の白いソースの海に戻る。
リビングから、ガンガンと音が聞こえているけれど、無視をした。
きっと、腹を空かせているのだ。
待っているようにと言おうかどうしようか迷って、止めた。言っても、わからないのだからしようがない。
ホワイトソースに、先に茹でておいたマカロニを放り込む。
くっついていたマカロニをホワイトソースでほぐしながら、耐熱皿に移し流す。ピザ用チーズを覆うように振りかけて、オーブントースターに入れる。
ろくに手入れされていなかったらしい古いオーブンのつまみは、がちがちと不穏な音を立てるけれど、ゆっくりと電熱線が赤くなっていく。
つまみを、15分にセットした。
「この状況で、よくそんな悠長なことをしてられる」
と、後ろから声がかかる。
黙っているのに、耐えられなくなったらしい。
「生肉と古い玉ねぎ、古いチーズとただの小麦粉があって、たまたま未開封の常温保存用牛乳のパックが手に入った。あとは外に生えてたキノコも。生で食うには向かないものばかりだけど、組み合わせれば食事になる。選択肢はなかった気がするけど」
男は、鼻を鳴らして、腕に抱えたままの小機関銃を持ち直した。
初めの頃はいちいち怯えたものだけれど、今となっては気にならない。この男の銃が、僕に向けられることはない。少なくとも、今の段階では。
「別に、気に入らないなら食わなくていい」
男は、絶望的な顔になる。
彼もまた、腹が減っているのだ。だったら、文句なんか言わなきゃいいのに。
街が壊滅して、三か月が経つ。
理由は、わからないけれど、原因ならばわかる。
ゾンビが出たのだ。
こんなことを言うと、何の冗談かと思われるかもしれないけれど、本当に。
まるで、B級のゾンビ映画の登場人物になったような数か月の記憶は、だんだんと薄れていって、何があったのかも、もうあまり思い出せない。
どこへ行けばいいのか、どうすればいいのかもわからないまま、手をこまねいているうちに、住んでいた街は壊滅した。
供給が途絶えた店から、食材が消えるのはあっという間で、人々は数少ない生きるための必需品を奪い合っている。
けれど、真に恐ろしいのは結局はゾンビの存在だ。
どんなに、ずる賢さを発揮して、他の人間たちを出し抜けたとしても、ゾンビに襲われればひとたまりもない。
男と出会ったのは、そんな最中のことだ。
彼は、変な奴だった。
一人でも困らない癖に、僕を守り、僕の側にいる。
一度、好きだと言われて、断った。
おかしな話だ。こんな異常な世界でそんなこと、それこそ彼の言葉を借りるのなら、悠長なことだと思う。
それに、残念ながら、僕には恋人がいるのだ。
チン、と軽い音が鳴る。
15分が経った。
マカロニグラタンの出来上がりだ。
皿を持って、男の前を通り過ぎる。
男は、鼻をひくりと動かした。
リビングでは、ガンガンと音が鳴っている。
「ぐがががごごごごごごるるるる」
イスに縛り付けておいたゾンビが、意味の通らないうめき声をあげている。白目をむいて、大きく開いた口からは涎を垂れ流す。
腹が、減っているのだ。
「お待たせ、水口」
僕はゾンビに話しかける。
水口は、イスから逃れようと、闇雲に身体を跳ねさせるから、縛り付けた鎖や、椅子の足が浮いて音を立てる。
「腹減っただろ。マカロニグラタン、好きだったもんな」
「……ゾンビは、飯は食わない」
と、男は後ろでうめいた。
「食うよ、水口は」
マカロニグラタンが、好きだったのだから。
口うるさい男の前と、自分の手元に、同じものをひとつずつ用意をして、僕は膝の上に乗せたグラタンをスプーンですくった。
「ほら、水口」
そうして、鼻先にスプーンを差し出す。
拘束され、白目をむいて、涎を垂らすゾンビが、本当に水口なのかどうか、その確証はない。それでも、僕は水口だと思っている。
だって、ほら、あんなに暴れていたのに、グラタンを見て、おとなしくなった。
僕は、その様子を見て、ホッとした。
ああほら、やっぱり、わかるんだ。どんなに変化をしてしまっても、わからないわけがないんだ。自分たちが過ごしてきた時間は、こんなに簡単になかったものになるわけがない。
水口は、かぱぁと大きく口を開けて、差し出したスプーンを口に含む。
そして次の瞬間、ありえない可動域で首が伸びて、僕の目の前に大きく開いた口が迫っていた。
ダン!
とテーブルを踏み越える音がして、気が付いたら、男の腕に囲われていた。
男に、すんでのところで助けられたようだった。
(助けてなんて、言っていないのに)
僕を見失ったゾンビは、イスごと態勢を崩して、床に這いつくばっている。あらぬ方向に首は伸びて、僕を食らおうとしていた口は、がちがちと歯を鳴らしている。
「この、馬鹿野郎が、死にてえのか!」
男が僕を腕に囲ったまま、わめきたてる。
そういうわけじゃない。だってほら、水口は生きているし。
「あれが、あんたの恋人とは限らないってわかってるだろ……?」
でも、そうじゃないとも言い切れない。
首の後ろに、二つ並んだほくろがある。水口は知らない。僕だけが知っている水口のほくろ。それを、この無人の家の中で何があったのか、拘束されているゾンビの首の後ろに見つけた時、どれだけ僕が嬉しかったことか。
「それ、貸せ」
「え?」
「手に持ってるそれ」
グラタンを、水口に食べさせるために使ったスプーンを、ずっと握りしめていた。スプーンの先が、てらてらと濡れている。水口の唾液が付いている。
ゾンビウイルスが、感染性のものならば。
これを僕が口にいれれば、ウイルスは僕に移って、僕は水口と同じものになれるだろうか?
それは、とても幸福なことに、僕には思えた。
ぎゅうと握りしめたスプーンは、男の手にいともたやすく奪われる。
男は、スプーンを、部屋の隅に放り投げた。
「スプーンがなきゃ、グラタンが食えないのに」
「スプーンなら、あるだろ」
男は立ち上がると、僕の手を取った。
倒れ伏した水口のそばに、僕の分のグラタンがひっくり返っている。水口には見向きもされていない。
男は、水口とは反対の側の席に僕を座らせると、僕がテーブルに置いてやったグラタンに綺麗なスプーンを差しこんだ。
「ほら、口開けろ、あーん」
そうして、掬い上げたグラタンを僕の鼻先に突き付けて来る。まるで、僕が水口にしてやったみたいに。
食欲をそそる匂いだ。
こんな時なのに、それでも人間は、旨そうだ、なんてことを思う。温かい食事の匂いが漂ってくると。
やたらと上出来だったグラタンが、口の中に飛び込んで、唾が出てくるのがわかった。噛み締めた顎の下が痛いくらいだ。
もごもごと、不格好に咀嚼をする僕を、男は満足そうに眺めている。
