正義のあとの、長い空白
5月7日。
彼は、「決死の覚悟」で監督(先生)へ言いたいことを全てぶつけたようでした。
幸い、先生はそれを全て受け止めてくれて、改善に向かう確信を得たようでした。「スッキリした」と、彼は久しぶりに晴れやかな顔を見せてくれました。
その後、野球部の仲間たちが放課後に誘い出してくれ、一緒にご飯へ行く時間もありました。孤独なボイコットは、決して独り相撲ではなかった。ようやく、止まっていた時計が動き出す、そう信じていました。
しかし、心はそれほど単純ではありませんでした。
9日、10日と部活を休み、ついに11日には学校へ行くことさえできなくなりました。彼本人も、早めに戻った方が良いと理解しているし、春季大会を目前にした先輩たちのサポートにも入りたい、「でも身体が動かない」と言いました。
家の中では会話も普通にするし、食欲もある。笑顔も見せる。でも学校へ行くとなると力がわいてこない。そんな状態のようです。
そんな彼を、妻はあたたかく、そして手厚く支えてくれています。動けなくなった彼を責めることなく寄り添い、学校や監督とも密に連絡を取り合ってくれています。
5月12日。
本来なら、彼は野球の春大会初戦のグラウンドに立っているはずでした。「応援だけでも行きたい」
そう言いながらも、身支度を始めることは出来ませんでした。
後ろ髪を引かれるように、私は札幌の自宅を後にし、単身赴任先の東京へ戻ってきました。
自宅を出る前、私はベッドにいる彼を抱きしめ、「動けても動けなくても、お父ちゃんとお母ちゃんはずっと味方だよ」と伝えてきました。
妻と息子は心療内科へ行きました。帰宅したあと、「このわけの分からない状況は病気のせいだったんだ」と落ち着いているように見えたそうです。
何かをきっかけに突然、学校へ通い出すようなことがあるのかと思っていましたが、おそらく彼の中のエネルギーのタンクが空っぽになってしまって、地道に貯まるのを待つしかない。そんな状況なのだと想像しています。
春大会はテレビの前でライブ配信を見たようです。先輩たちは見事にコールド勝ちをおさめました。
奇しくもその日は彼の17歳の誕生日でした。
5月13日。
朝は一番元気が無いようです。学校へは行けませんでした。
「どうせ休むなら、木曜も金曜も休んで、東京に一人旅とか、させてはどうか」
私は妻に言ってみました。
「それいいかも」
妻はそう答えました。
本人に確認すると、迷っているようです。「ほんとにいいんですか」と言いつつ、決断力も鈍っているのでしょう。なかなか決められないようでした。
***
今日、次男が東京にきます。
木曜日に来て、日曜日に帰ります。
私は仕事ですが、夜帰ったら息子がいる。なんとも信じられない気持ちです。
昨日、妻と息子が飛行機のチケットを買いに行ったとき、喜びがわいてきたようで、「こんな家ないよね!ありがとう」と笑顔を見せたそうです。
昨夜は、ゆっくりながらも旅の準備も出来たようです。「どこ行こうかな」と、楽しみにしているようです。
きっとこの一人旅は、ドドドドッとタンクに多めに貯まる良い機会になるかもしれません。でも、特に期待せず、ただただ、彼がリフレッシュできたらと思います。
【続き】
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