5才からはじめるプリンセス入門⑪|閑話 お姫様に聞いてみました
本日は、特別編です。
「5才からはじめるプリンセス入門」全九章を終えた、あのプリンセスに、独占インタビューをお届けします。
インタビュアーは、ちょっと、意外な方です。
では、どうぞ。
🐦「……こほん。はじめまして。本日、インタビューを担当いたします」
👱♀️「……」
🐦「どうされましたか」
👱♀️「……あなた、しゃべれたの?」
🐦「はい」
👱♀️「……ずっと?」
🐦「はい。ずっと」
👱♀️「……なんで、今まで、黙ってたの」
🐦「聞かれなかったので」
👱♀️「……」
🐦「……」
👱♀️「……第二章で、『小鳥はしゃべれません』って、書かれてたけど」
🐦「読みました。少し、傷つきました」
👱♀️「……ごめんなさい」
🐦「いえ。事実、しゃべりませんでしたので。しゃべれないのと、しゃべらないのは、別のことです」
👱♀️「……」
🐦「では、インタビューを、始めてもよろしいでしょうか」
👱♀️「……はい。どうぞ」
Q1:政略結婚を知らされた朝のこと
🐦「まず、第一章。お父さまから政略結婚を知らされた朝のこと。率直に、どう思われましたか」
👱♀️「は?って思いました」
🐦「本の中でも、そう書かれていましたね」
👱♀️「はい。は?って思いました。それ以外の感想は、特に、ありません」
🐦「パンケーキは、食べましたか」
👱♀️「食べました。イチゴは、2個、のっていました」
🐦「覚えているのですね」
👱♀️「あの朝のことは、全部、覚えています」
Q2:ピーマンのこと
🐦「第四章。初対面で、王子さまに『ピーマン、きらい?』とおっしゃいましたね。あれは、計算でしたか」
👱♀️「半分は」
🐦「半分?」
👱♀️「半分は計算で、半分は、ただ、聞いてみたかっただけです」
🐦「聞いてみたかった」
👱♀️「ピーマンが嫌いな人って、どんな顔するのかなって」
🐦「……王子さまは、どんな顔をされましたか」
👱♀️「困った顔。でも、ちょっと、うれしそうでした」
🐦「うれしそう?」
👱♀️「たぶん、誰かに、本当のことを聞かれたの、初めてだったんじゃないかと思います」
Q3:ピーマンの埋葬について
🐦「第七章。ピーマンを、お庭の隅に、埋葬されていましたね」
👱♀️「はい」
🐦「何個くらい、埋めましたか」
👱♀️「……数えていません」
🐦「お庭に、PiMANと書かれた立て札が立っていますが」
👱♀️「……あれは、わたくしが立てたのではありません」
🐦「では、どなたが」
👱♀️「……わかりません。朝、見たら、立っていました」
🐦「庭師でしょうか」
👱♀️「……たぶん」
🐦「庭師は、何も言いませんでしたか」
👱♀️「何も。ただ、翌朝、ピーマンを埋めた場所の土が、きれいに、ならされていました」
🐦「……優しい方ですね」
👱♀️「こわい方です」
Q4:お母さまのこと
🐦「第五章。お母さまと離れることについて。お聞きしてもよろしいですか」
👱♀️「はい」
🐦「お母さまの顔を、目で覚えてほしい、と書かれていました。覚えていますか」
👱♀️「覚えています」
🐦「どんなお顔ですか」
👱♀️「……お茶を飲むとき、小指を、ちょっとだけ、立てます」
🐦「顔ではなく、指なのですね」
👱♀️「顔は、忘れません。でも、指は、忘れるかもしれないから」
🐦「……なるほど」
👱♀️「だから、指から、覚えました」
Q5:ピンクのリボンのこと
🐦「第六章。お母さまとの暗号通信。白いリボンは、使いましたか」
👱♀️「まだ、一度も」
🐦「一度も?」
👱♀️「はい。ピンクのリボンだけです。毎週」
🐦「白いリボンを使いたくなったことは」
👱♀️「……一度だけ」
🐦「いつですか」
👱♀️「引っ越しの最初の夜です」
🐦「でも、使わなかった」
👱♀️「使ったら、お母さまが、泣くから」
🐦「……」
👱♀️「お母さまが泣くのは、わたくしが泣くより、つらいです」
Q6:お目付役のおばあさまのこと
🐦「第八章。お目付役のおばあさまが、実は先輩プリンセスだった。気づいていましたか」
👱♀️「……途中から」
🐦「いつ頃ですか」
👱♀️「編み物を教えてくださったとき、手が、震えていたんです」
🐦「手が?」
👱♀️「編み針を持つ手が。ほんの少しだけ。でも、震えていました」
🐦「それで、気づいた」
👱♀️「編み物が上手な方の手は、震えません。震えるのは、何かを思い出しているときです」
🐦「……6才で、それに気づくのですか」
👱♀️「5才です。あのときは、まだ」
Q7:王子のこと
🐦「王子さまについて。第七章で、イチゴを贈ってくれましたね」
👱♀️「はい」
🐦「あのとき、王子さまの耳が真っ赤だったと書かれていましたが」
👱♀️「はい。真っ赤でした」
🐦「それを見て、どう思いましたか」
👱♀️「……かわいいなと」
🐦「かわいい」
👱♀️「はい。ピーマンが食べられなくて、嘘をついて、でも隠しきれなくて、それでもがんばって、最後にイチゴを持ってきて、耳が真っ赤になっている人を、かわいいと思わない理由が、ありません」
🐦「……」
👱♀️「……なんですか」
🐦「いえ。とても、よいお答えだと思いました」
Q8:ジャム瓶のイチゴのこと
🐦「最後に。ジャム瓶のイチゴ。まだ、食べていませんね」
👱♀️「はい。まだです」
🐦「食べる日は、決まりましたか」
👱♀️「はい。お庭のイチゴが、赤い実をつけた日です」
🐦「新しいイチゴが実る日に、古いイチゴを食べる」
👱♀️「はい」
🐦「それは、なぜですか」
👱♀️「……新しいのが来たから、古いのを食べる、というわけではないんです」
🐦「では?」
👱♀️「新しいイチゴが実るということは、わたくしが、この国で、ちゃんと、何かを育てられた、ということです」
👱♀️「そのときに初めて、5才の自分に、お疲れさまでした、と言えると思うんです」
🐦「……」
👱♀️「ジャム瓶のイチゴは、5才のわたくしへの、最後のお手紙みたいなものです」
🐦「開けたら、届くのですね」
👱♀️「はい。届きます。5才のわたくしに」
Q9:イチゴの苗のこと
🐦「ところで、お庭のイチゴ、順調ですか?」
👱♀️「はい、白い花がたくさん咲いて……」
👱♀️「……って、なぜ、あなたが、気にするの」
🐦「……いえ、べつに」
👱♀️「……」
🐦「……」
👱♀️「……もしかして、食べる気ですか」
🐦「インタビューに戻りましょう」
👱♀️「答えてください」
🐦「次の質問です」
👱♀️「答えてください」
🐦「……鳥は、イチゴを、食べます。一般論として」
👱♀️「柵、作りましたけど」
🐦「存じております。いびつな柵ですね」
👱♀️「……越えられるの?」
🐦「飛べますので」
👱♀️「……」
最後に
🐦「最後の質問です」
👱♀️「はい」
🐦「7才になったら、何がしたいですか」
👱♀️「……王子さまと、もう一度、お庭を歩きたいです」
🐦「もう一度?」
👱♀️「第九章で、一緒に歩きました。でも、あのときは、イチゴの苗を持っていたので、あんまり、まわりを見ていなかったんです」
🐦「今度は、何も持たずに?」
👱♀️「はい。何も持たずに。ただ、並んで」
🐦「……よい答えですね」
🐦「ありがとうございました。以上で、インタビューを終わります」
👱♀️「ありがとうございました」
🐦「……ひとつだけ、よろしいですか」
👱♀️「はい?」
🐦「次にお会いするときは、わたくしの声は、届かないかもしれません」
👱♀️「……どういう意味?」
🐦「……」
👱♀️「……ちょっと、待って」
小鳥は、答えません。
窓の外へ、飛んでいきます。
6才のプリンセスは、窓の外を、見ます。
小鳥が、空に、消えていきます。
「……しゃべれたのに」
次回から、7才からのプリンセス中級編。
小鳥の声は、聞こえません。
鳴いているだけ。
イチゴ、ちゃんと食べましたか?
……あ、これ、次回からは、かぬれですね。
では、7才で、会いましょう。

