二十九日目 旅行
僕の働く旅館は、箱根の奥地。
この時期は真っ赤な紅葉を見に、世界各地からお客様が訪れる。
彼女もその一人__
「やあ、少年。また会ったね」
昨日から、雅の間に滞在されているお客様はにこやかに僕に挨拶をした。
僕はぺこりと頭を下げる。
女中の噂によると、彼女はかの有名な作家らしい。
「庭園を見させてもらったけれど、実に風情があったよ」
「それはよかったです」
すると彼女は、スッと千両の枝を差し出した。
「これ、地に落ちてしまっていたんだ。綺麗だから、部屋に飾ろうと思って拾ってきたんだけど、君にあげるよ」
「そんな、僕は……」
何て反応をして良いか固まっている僕に、彼女は微笑んだ。
「仕事ご苦労様。君のおかげで、素敵な滞在になりそうだ」
ギュッと僕の手を包み千両を握らせると、彼女は颯爽と客室の方へ去って行った。
「イ、イケメンだ」
僕は彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、果てしなく続く廊下の先を見つめていた。
