三十日目 車
「す、すみません。さっきの角やっぱり左だったみたいですぅ」
運転席に座る彼は、申し訳なさそうに私の顔色を伺った。
私の最近できた彼氏__宮下透くんは、ドジっ子だ。
車の運転でもその属性は十分に発揮されていた。
いつもなら困ってるその可愛い横顔を堪能しているところだけれど、今回ばかりはそうも言っていられない。
深まる霧に、先が見通せない。
このままだと事故の危険性だってある。
「ごめんね、私が運転できたら、代わってあげたいんだけど」
「いえ、悪いのは全部僕なんです。いつも葉山さんに頼ってばっかりで。運転くらいはできると思ってたんですけど」
「こんなに霧が深いんじゃ、誰だって迷子になるよ」
透くんは「……はい」と今にも消え入りそうな声で相槌を打った。
「あ、霧が」
あんなに濃かった霧がスッと晴れていく。
すると、目の前には立派な洋館が現れた。
しかし、車から出て後ろを振り返ると、帰り道はやはり霧で見渡せない。
「ここだけ霧の晴れ間なのかな」
私の呟きに、透くんは頷いた。
「そうみたいですね」
「……どうする、入る?」
「行きましょう」
車を端に止めて、私たちは洋館の入り口を目指す。
震えているのに、私より前を歩こうとする透くんが愛おしくて、私は彼の腕にぴったりと体を密着させた。
