四十四日目 社会人
学生だった時、社会人になることは人生の終わりだと思っていた。
自由な時間が奪われて、自分のわがままも通らなくなる。
待っているのは、コンプライアンスとかいう、よくわからない横文字の規制だけ__そう思ってたんだけどな。
駅のホーム、薄い透明な壁で仕切られた待合室のスペース。
俺は、隣で一時もじっとしていることのない筒井くんに目をやった。
「うわぁ、駅の待合室にわざわざ入ったのボクはじめてデス! 壁一枚隔てただけなのに意外とあったかいんですね。あ、あそこに百円玉落ちています!」
「ストップ、ストップ。落ち着いて。とりあえず、腰掛けようか」
俺は、そう言って、自分の横の席をポンポンと叩いた。筒井くんは、いちおう座ってくれたものの、やはり動きがうるさい。
俺はまた彼がどこか行かないうちにと、手提げから先ほどコンビニで買ったおにぎりを手渡した。
「本当は、お店に入りたいところだけど、ごめんね。仕事が詰まっているから、そうもいかなくて」
「大丈夫デス! ボク普段の桃井サンの様子を知りたいので。むしろ新鮮な気分でワクワクします」
最初、編集者になった友人から、先生がサラリーマンの仕事を取材したいと言っているから、仕事に同行させてはもらえないだろうかと頼まれた時は驚いたが、随分と可愛らしい"先生"もいたものだ。
「筒井くん君何歳だっけ?」
「高一デス」
「そうか」
大人になって、駅のホームで、高校生と肩を並べて昼食をとるなんて未来、いったい誰が想像しただろうか。
社会人も案外悪くないかもしれない、なんて、俺はおにぎりを頬張った。
