七日目 クイズ
「ねぇ、雨の日好き?」
「嫌いっス。さっき、営業周りから帰ってきたところっすけど、ビッショ濡れになってテンション下がりまくりっていうか」
営業部の大橋くんは、眉間に皺を寄せて答えた。
大橋くんは私が入社3年目のときに、はじめて受け持った後輩だ。
今は人事異動で部署が別れてしまったけれど、こうして休憩所で会った時に話しかけるくらいには仲が良かった。
「そうだよねぇ」
別に期待はしていなかった。誰に聞いても多くの人はそう言うだろう。
雨の日は嫌だと。
それは至極もっともな感想で、かくいう私も朝起きてカーテンを開けた瞬間にはもう、まだ外出していないにもかかわらず家に帰りたいと思ったほどだ。
「……にしても、なんすか、その質問」
大橋くんはフフッと微笑を漏らした。そして紙コップに入ったコーヒーを口に運ぶ。
外は相変わらず雨が降っている。
「ただなんとなく気になったの」
私は窓越しの外を見つめて言った。
「なんとなくねぇ」
大橋くんも、私につられたのか窓の外の景色をボッーと眺めているようだった。
しかし、少しして何か思いついたのか「あ!」と声を上げた。
「どうしたの?」
「星くんとか、どうっすか?」
私が何のことかわからず首を捻ると、大橋くんは続けた。
「雨! 星くんなら雨の日、好きっていいそうじゃないっすか?」
大橋くんは律儀にも私の質問のことをずっと考えてくれていたようだった。
「星くんかぁ。たしかに。でも、私あんまり話したことないんだよね」
星くんは、大橋くんの同期だ。
彼は経理部で、頭が切れて仕事が早く、おまけにイケメンだと女性社員の間では有名だったりする。
いっときは社内の肉食系の女子たちが彼のことを狙っていたのだが、全く相手にされずすごすごと退散していた。
星くんは、クールで人を寄せ付けない雰囲気があるのだ。
「うーん、俺もそんなに親しくないっすけど、悪いやつじゃないと思いますよ。愛想はちょっとばかしないっすけど」
「ふふっ、じゃあ、今度聞いてみるよ」
「結果、教えてくださいね」
大橋くんはそういうと、腕時計に目を落とし、そろそろ戻りますねと言ってヒラヒラと手を振った。
私はその後ろ姿を見送って思った。
私は一体いつまで抜け出せないんだろう、と。
ときどき私は、決して正解者が出ないクイズを出し続けている気持ちになる。
そして、永遠にそのクイズは解かれず私は一人この世に取り残されて__
「あ、星くん」
心の声が声に出ていたのか、廊下の出窓の前に立ち止まっている彼は、ゆっくりとこちらを振り返った。
私は聞かずにはいられなかった。
「雨、好き?」
「……嫌いじゃないです」
私は盛大に笑った。
星くんは、そんな私に冷たい視線を投げかける。
でも、私は痛くも痒くもなかった。
だって、こんなにめでたい日はないのだから。
