二日目 コーヒー
小さい頃は嫌いだった。
舌先に残る苦味も、体に悪そうなあの色も。
父さんはなぜあんなものを美味しそうに飲むのだろうと、俺はずっと疑問に思っていた。
しかし、いつしか異性を意識するようになった俺は、気がつけばいつもコーヒーを頼んでいる。
「潤くんって、本当にコーヒー好きだよね」
俺の前で、プリンアラモードを頬張る沙羅は感心したように言った。
「私、コーヒー苦くてとても飲めないや」
「お前は、甘党だもんな」
「えへへ」
沙羅はホイップクリームがたっぷりのったプリンを口に運んだ。俺は、幸せそうに甘味を咀嚼する沙羅を一瞥してから、苦く、淹れたての熱を失いつつある液体を口に含んだ。
コーヒーは不思議だ。
決して美味くはない。
ただ、カッコをつけて飲み始めてから数年、いつのまにか体の細胞がコーヒーを受け付けるように組み替えられたのか、俺はコーヒーを飲むと、「美味しい」、「美味しくない」、そういった感想を抱く前に、ホッとするのだ。
そう、俺は、コーヒーが美味しいから飲んでるんじゃない。
ただ安心したいだけなんだ。
__いつ飲んでも変わらない味に。
苦いから少しずつしか飲めないコーヒーは、時計の針を遅らせて、自分の中の時間を延ばしてくれる。
忙しない日々に、唯一、時間を感じるひととき。
そうか、もしかしたら父さんがコーヒーを好きだったのは、時間を大切に生きていたからかもしれない。
俺はどうだろう。
「潤くん?」
「こういう日々がずっと続けばいいよな」
沙羅は少し面を食らったような顔をしてから、すかさず微笑んで言った。
「それって、プロポーズ?」
