十七日目 ヒーロー
僕が子供の頃に憧れた職業は、この間、どこかのリクルートサイトの調べによると、なりたくない職業ランキング第1位に輝いたらしい。
たしかに、低賃金、長時間労働、年中無休であれば、それも致し方ないのかもしれない。
けれど、それでも昔はあったその職業に対する尊敬の念というものが、現代では欠落してしまっているように思えてならない。
「ひったくりよー! 誰か捕まえて!」
平穏な日常に、緊張感が走る瞬間。
僕はどうすることもできず、手に持っている携帯を握りしめ、視線だけを呆然と走り去る男に向けた。
しかし、彼は違った。
状況を把握するや否や、タッとその場から走り出し、スポーツ選手も顔負けの身体能力で犯人との距離を詰めると、瞬く間に男を組み敷いた。
彼はヒーローらしかった。
それは彼の着ている制服で一目瞭然だった。
しかし、ヒーローの人手不足が叫ばれて久しい現代では、ヒーローを生でお目にかかるのも非常に珍しいことだった。
鞄を取られた女性は、ヒーローから鞄を受け取ると、何度も頭を下げお礼を言っているように見える。
僕はヒーロの仕事を見て、尊いと思い、ネット
のつぶやきを思い出してため息をついた。
『適性診断をやったら、ヒーローが一番向いてるって出たけど、絶対嫌なんだがw』
『就活オワタ。このままじゃヒーローくらいしかつく職ないぞ』
『ヒーロー職の説明会行ったが、ワークライフバランスのワの字もなし! これで低賃金とか、ヒーローやってるやつの気がしれない』
『ヒーロー=社会の底辺職』
いつからだろう、世界がこんな風になってしまったのは。
今、若者の間では、ヒーロー職よりも、ヴィラン職の方が人気だという。働きながら日頃の鬱憤を晴らすことができ、給料も良く、休みもしっかり取れるからだとか。
この世界はまるで、自ら壊れに行っているみたいだ。
深刻なヒーローの人手不足。
もしかしたら、ヒーローがいなくなる時が、僕たちの住むこの世界が滅びる時なのかもしれない。
