三十八日目 農家
俺が大学で一番信頼している友達は、農家の一人息子だ。
穏やかで、全く怒らないそいつのことを、俺は密かに春の陽の光のようなやつだと思ってる。
「春彦、お前、最近どうよ?」
一限の言語の講義を終えて、春彦と俺はまだひっそりとした街中を闊歩していた。
「どうって言われてもなぁ。あ、この間、雑誌の懸賞が当たったんだ」
「へぇ、何が当たったんだ?」
「ゲーム機」
「そりゃあ、いいや! お前ん家ゲームなくて、ずっとあればいいなって思ってたんだよ。……って、そう言うことじゃなくて、どうって言ったら、女の話にきまってるだろう」
すると春彦は俺を見つめて、穏やかに微笑んだ。
「何だよ」
「いや、龍二はそう言う話題が好きだなと思って」
「なっ、男なんてみんなそんなもんだろう」
俺が焦ったようにそう言うと、春彦はますます柔らかい表情をした。
こういう時、俺は春彦がおよそ自分と同い年とは思えない。
すると春彦は言った。
「都会の女の子はみんな、俺が農家の一人息子だと知った時点で、逃げちゃうよ。それは、仕方がないことだよね。俺だって自分が相手の立場だったら、きっと同じことをする」
「そんなの隠せばいいじゃんか。どうせ、結婚するわけじゃないだろう」
「それは、フェアじゃない気がする」
「お前は優し過ぎるんだよ」
「それに、今は龍二といる方が楽しいから」
俺は思わず黙った。
そんな恥ずかしいセリフ、普通の男子大学生は言わないんだよ。
それに、俺だっていつ彼女を作って、お前をほったらかすのかも分からないのに。
あぁ、でも肩書きにこだわって、こいつの良さが見えない女どもはつくづく馬鹿だ。
俺は自分が見つけたひだまりに、今だけは一人浸かっていたいと思った。
