四十七日目 参考書
あ、またいる。
最近、本屋で見かける男の子。
ああやって参考書のコーナーで、長いこと立ち読みをしている事が多い。
ここ数日よく見かけるが、受験生なのだろうか。
まぁ、ただのアルバイトの私が知る由もないけれど。
「美奈ちゃん先輩」
声をかけられ、振り返える。そこには、学生アルバイトの吉岡さんがいた。
「吉岡さん、おはよう」
「おはようございまーす」
彼女は軽快に語尾を伸ばした。
仕事柄切り揃えられた短い爪は、それでもほんのりとしたワンカラーのネイルが彩っている。
「あの男の子またきてますねぇ。やっぱり美奈ちゃん先輩も気になりますかぁ」
「いや、私は別に」
「またまたぁー」
吉岡さんは今時の子の喋り方をする。私にはその若さが眩しかった。
棚の補充が終わると、いつものようにレジに入って、作業をする。
特に新刊の発売日もない日なので、ゆるやかなペース。こういう日はやけに考え事をしてしまって、困る。
すると、目の前に商品が差し出され、私は慌てて受け取った。
「レジ袋は__」
それは例の男の子だった。
「あの、簡単にラッピングしてもらえますか」
私は一瞬、言葉に詰まった。しかし、すぐに尋ねる。
「プレゼント用でよろしいですか」
すると男の子は「ハイ」と、照れ臭そうに言った。
物理学の参考書を包みながら、私はぽろっと言葉が漏れた。
「いいものが見つかってよかったですね」
「え」
男の子は驚いてこちらを見た。
「あ、最近、通ってらしたので」
口を滑らせたと焦る私に、男の子は、小さく笑った。
「……なかなか決まらなくて。アイツ、実用的なものしか喜ばないから」
その眼差しはとても優しくあたたかい。
私はその瞳の向けられる先が、なんだかとても羨ましいと、そう思ってしまった。
