自分を好きでいるために|私を形作る3冊の本
人生を変えるきっかけになった1冊。
お守りみたいに大切に持ち続けている1冊。
本好きな人なら心の本棚にそんな特別な本をしまってあると思う。
幼稚園の頃から「本さえ与えておけばおとなしい」と親たちから言われ、本とともに育ってきた私にも、特別な本たちがたくさんある。
その中から、今の私にとってなくてはならない厳選した3冊を紹介したい。
十角館の殺人/綾辻行人
ミステリ作家、綾辻行人のデビュー作にして不朽の名作。映像化不可能とまで言われた驚愕のトリックだが、コミカライズに始まりドラマ化や舞台化まで2026年現在注目を集め続けている。
「あの一行」と称される短い一文で真相が解明され、世界がひっくり返るあの瞬間は唯一無二。私自身ももれなく「あの一行」に衝撃を受けた一人で、初めて中学生で十角館を読んで以来、20年以上綾辻作品を追いかけ続けている。
だが十角館の魅力は、衝撃的なトリックだけにとどまらない。描かれている登場人物たちの心情にも私は強烈に心を惹かれている。
十角館は犯人が判明してからの真相解明パートが、犯人の語りによって進むという特徴がある。犯行時に犯人が何を考え、行動していたのか、読者も追体験できる構造になっている。
ネタバレになるので詳しく書けないが、復讐以外の複雑な感情の揺れ動きが、とてもリアルで人間らしいと感じている。犯人の内面を知った上で読み返すと、何気ない日常のやりとりの印象がまったく変わってしまったりするのだ。あるシーンでのセリフが、再読では別の意味にとらえられることもあるから面白い。何度読み返しても発見がある。
そして何より、たったひと言で一生忘れられない衝撃を与えられる、文章の持つ力を味わえる本書は、私の読書体験を色鮮やかに塗り替えた、かけがえのない1冊になっている。
美容は自尊心の筋トレ/長田杏奈
しまむらのスウェット姿でキーボードを叩いている私だが、美容とオシャレは昔から大好きだ。ただし、デパコスやブランド物には悲しいけれど縁がなく、「手に入る範囲でささやかにお気楽に楽しむ(できればお財布にもやさしく)」をモットーに、SNS巡りで美容情報のチェックを欠かさない、ごくごく平凡なアラフォー女子である。
でもそんな雑な美意識でも大丈夫!と背中を押してもらえるのが、『美容は自尊心の筋トレ』だ。
本書で扱われるのは、美容を通して誰もが認めるキレイを手に入れ、自尊心を高めましょうという話ではない。「自分の好き」を軸に、日々のスキンケアやメイクで自分自身を大切に扱おうと訴えている。
美しさは実は、絶対的なものではない。他の誰かが勝手に決めた基準ではないか?と本書には書かれている。美人といわれる顔も、時代や国によって移り変わる。
興味深いのが、マリーアントワネットの豪奢な美と、千利休の侘び寂びの美を対比させているところだ。どちらも美という同じカテゴリーにあるのに、両者が表す世界は天と地ほども違う。美しさというものは、これほど幅広いものなのである。
ある人にとって美しさとは、芸能人のように華やかに着飾ることである一方で、最低限の身だしなみが整っていればいいという人もいるだろう。
だから、誰かが作った美の基準に合わせるのではなく、自分にとっての美しさや心地よさを選んでいく。それが自尊心、自分を大切に扱う気持ちを育てることにつながる、ということが本書でくり返し説かれている。
人に胸を張って言えない、いい加減な美意識だけど間違ってなかったなと、読み返すたびに勇気がもらえるし気持ちがあたたかくなる。
あなたはなぜ雑談が苦手なのか/桜林直子
40代にもなって人と話すことに苦手意識がある。特に雑談が苦手で、何を話せばいいか頭の中が真っ白になり、冷や汗まで滲む。
本や動画で自分なりに勉強して、コツのようなものをつかんでからは、それなりに会話が弾むようになりささやかな自信もついた。けれど、早々に新しい壁にぶつかることに。「あなたの話をもっと聞きたい」と求められる場面が増えたことで、ますます苦手意識が強まってしまった。
私は雑談について根本的な何かを理解していないのかもしれない。そう悩んでいたときに手に取ったのが本書だった。
新しいテクニックだったり、抜け落ちていたマインドだったりが身につけばいいなと軽く考えていたが、読み進めるごとに胸が苦しくなり時には涙がこぼれそうになり、感情が揺さぶられ続ける大変な読書体験になった。
自分のことが話せないのは、話してもいい安心できる場所がないから
本書に何度も出てくる言葉から受けたショックは、読むのをやめたくなるほど大きく、けれど頭のどこかで「やっぱりそうだった」と思う自分もいた。
私は自分のことを信じていないし、他人や世界も信用しきれていない。だからどこにいても、誰といても、いつも不安な気持ちがある。そのことが私自身の欠点につながっているのでは、と漠然と考えていたけれど、上記の言葉が長年の疑問の答え合わせになっていた。だから雑談ができないわけだと納得感さえあった。
それでは、自分や世界を信じるために何をすればいいのか?その肝心な答えは本書には書かれていない。ひとりひとりその原因も対処も違うから、「これさえすれば解決」といえる明確な答えがないからだ。
さらに、安心できるようになるまで何年もかかる、ということも書かれている。落ち込みたくなる悲しい事実だが、私は反対に希望がある話だと感じられた。
安心できる場所を見つけるには、自分にとっての安心を理解すること、つまり自分自身について知ることが欠かせない。
本書は著者である桜林氏が「自分を知る」ために積み上げた経験や知見が詳細に書かれている。桜林氏自身が「自分を知り、自分にとっての安心を見つけた」先輩だから、言葉のひとつひとつに説得力がある。
道のりは遠いかもしれないけれど、きっと克服できる未来が具体的に見えるから、私もがんばろうと心を奮い立たせることができる。
必要なタイミングで出会えてよかったと思える大切な1冊だ。
この記事は、オンラインサロン【京都くらしの編集室】内の企画、noteチャレンジに参加しています。
noteチャレンジとは、毎月ひとつのテーマでサロンメンバーが記事を書く企画。
4月のテーマ「【本】私という人間を定義した3冊。今の自分の価値観の土台になっている本。2026年度のはじまりに、自分の現在地を確認する」について執筆しました。
