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ISO/SBTn/LEEDの最新動向:土壌から考える不動産ビジネス

「土壌」。これまでも土壌は大切でした。けれど、企業の経営や不動産開発、建設プロジェクトの現場では、土壌は主役ではありませんでした。

ところが今、その空気が変わってきています。土壌は「自然保全の一分野」ではなく、「土地をどう使うか」というビジネスの中核に近づいてきたのです。この変化を後押ししているのが、ISOとSBTNとLEEDです。まず、国際標準化機構(ISO)が、土壌の機能を共通の言葉で測るための枠組みを整え始めました。次に、科学的根拠にもとづく自然目標設定の枠組みであるScience Based Targets Network(SBTN)が、企業に対して土地転換の停止、自然地被率の確保、土壌有機炭素の改善、土壌侵食や酸性化の抑制、さらには景観単位での協働まで求め始めました。そして、米国グリーンビルディング協会が策定するLEED v5が、建築を「省エネの点数ゲーム」から「土地・生態系・レジリエンス・人への影響を設計初期から統合する制度」へと、進化させました。

今日は、土壌から考える不動産ビジネスを、最新のグローバル国際標準化動向を見ながらご紹介して参ります。なお、今日の音声DeepDiveは、SBTNにフォーカスしてご紹介しています。
今日も楽しんでいってくださいね!

(関連する過去記事です)

  1. 世界が注目する土壌

  2. ネイチャーポジティブな農業に向けた、土壌テックとは?

  3. 環境再生型農業「ランドスケープ投資ガイドブック」(WBCSD)を読む。

  4. バイオレメディエーション



SBTN、ISO、LEEDの変化から見えてきた、次のネイチャーポジティブビジネス

なぜ今、土壌がここまで注目されるのか

 たとえば雨が降ったとき、その水が地面にしみ込むのか、すぐに流れ出してしまうのかは、土壌の状態に大きく左右されます。植物が育つかどうかもそうです。炭素を土の中にため込めるかどうかも、土壌の質と深く関わります。さらに、生きものの多くは土壌の上か中で暮らし、その活動がまた土壌を豊かにします。ここが重要なのですが、土壌の問題は農地だけの話ではありません。物流施設、工場、住宅地、リゾート、データセンター、道路、港湾、再開発地区。こうした場所でも、土地をどう造成し、どこまで舗装し、表土をどう扱い、水をどう流し、どれだけ浸透させるかによって、土壌の機能は大きく変わります。つまり、土壌は農業だけのテーマではなく、都市とインフラと不動産のテーマでもあるのです。

 欧州ではこの認識がかなり前に進んでいて、土壌の監視と健全性評価を強める法制度の整備が進んでいます。そこでは、侵食や有機物の減少、汚染、締固めだけでなく、土壌被覆、つまりコンクリートやアスファルトで地面をふさいでしまうことも重要な論点になっています。この変化は、建設や不動産の人にとっては見逃せません。これまで「造成」「舗装」「外構」として処理していたことが、これからは「土壌機能の損失」として見られる場面が増えていくからです。さらに、森林破壊や土地転換に関するルールも強まっています。土地は、もう単なる開発余地ではありません。どんな自然の働きを持つ場所なのか、どのような履歴を持つ土地なのか、どこまで改変してよいのかが、問われる時代に入ってきています。


ISOは、土壌をどう変えたのか

 こうした流れの中で、実はとても大きいのがISOの動きです。土壌は重要だと言われながらも、企業が扱いにくかった理由の一つは、何を見て、どう測ればいいのかがバラバラだったことです。研究の世界では議論が進んでいても、企業実務にそのまま持ち込むのは難しかった。そこで意味を持つのが、国際標準です。いま押さえておきたいのは、二つの文書です。

一つは、ISO/TS 18718です。これは、土壌の生態学的な機能と生態系サービスをどう捉えるか、基本的な考え方や関係性を整理するものです。いわば、土壌をどう読むかの「定義編」です。

もう一つが、ISO/TS 18721です。こちらは、土壌の生態学的機能をどのような指標で評価するか、どう測るかを示す「測定編」です。

ISO/TS 18721:2026は2026年2月発行済み、ISO/TS 18718:2026は2026年1月発行済みです。ですので、いまの正確な理解は「概念編も測定編も、Technical Specificationとして世に出た」ということになります。

ISO/TS 18721は、土壌の生きもの、水、炭素、栄養循環などにかかわる「生態学的機能」を評価する規格です。一方で、建物の基礎を支える地盤性能、トンネルの支持、地熱といった「非生態学的機能」は対象に含まれていません。ISO公式サイトでも、建築基礎の支持やトンネルなどの地盤工学的機能、地熱機能は対象外と明記されています。もう一点、18721は「生態系サービス全体を総合採点する規格」でもありません。土壌の特性や指標をどう測るかの方法を示すものであり、全体としての生態系サービス評価そのものまではカバーしていないのです。この点も実務では重要です。土壌評価の標準ができたからといって、それだけで開発の是非や生態系全体の価値評価が完了するわけではありません。むしろ、ほかの評価枠組みと組み合わせて使う前提の「基礎標準」と捉えるべきです。

ISO/TS 18721は都市や汚染地も適用文脈に含んでいます。つまり、これまで農業・林業の専門領域だった土壌機能の議論が、都市開発やブラウンフィールド再生にも広がる余地が出てきました。欧州のSoil Monitoring Lawは、侵食、有機物の損失、汚染、締固め、被覆、生物多様性の喪失を含む共通の監視フレームを求めています。ISOの標準化は、こうした制度と企業実務との間をつなぐ共通言語として機能しやすいポジションにあります。ご共有メモでも、EUの土壌法制と18718・18721の整合性が高い点が指摘されており、この方向性自体は妥当だと考えます。

この二つがそろってきたことの意味は、とても大きいです。
ひとことで言えば、土壌が「大切そうなもの」から「標準化して測れるもの」に変わり始めた、ということです。これはビジネスにとって決定的です。
測れないものは、目標にもなりにくい。目標にならないものは、投資判断にも入りにくい。そして投資判断に入らないものは、経営の優先順位が上がりにくい。その意味で、ISOは土壌を経営に載せるための土台をつくっていると言えます。ただし、このISOは地盤工学の規格ではありません。建物の基礎をどう支えるか、トンネルをどう安定させるか、といった土木・建築の地盤性能の話ではなく、生きた土壌が持つ生態学的な機能をどう捉えるか、という話です。つまり、「地耐力を見る規格」ではなく、「土壌が水や炭素や生きものを支える働きをどう見るかの規格」なのです。これからは、地盤としての安全性だけでなく、生態系としての土壌の状態も併せて考える必要が出てくるからです。支えられるかどうかだけではなく、育てられるか、浸透できるか、つなげられるか、という視点が加わるわけです。


SBTNは企業に何を求め始めたのか

次に見ておきたいのがSBTNです。
SBTNは、企業が自然に関する目標を科学的に設定するための枠組みです。気候変動でいえばSBTiに近い位置づけだと考えるとわかりやすいかもしれません。ここで土壌が重要になるのは、SBTNの土地に関する考え方がかなり具体的になってきたからです。現時点でLand Version 2は公開協議版の段階にあります。SBTN公式サイトによれば、2025年4月29日から5月27日に公開協議が行われ、正式版は2026年のローンチを見込んでいるとのことです。なお、Version 1は現在も有効で、今すぐに採用できます。

SBTNのLand Version 2草案は、三つの柱で構成されています。第一が「自然生態系の転換を止める」目標、第二が「人間が利用している土地を再生・改善する」目標、第三が「景観単位で協働する」目標です。Version 2では特に第二の柱が大きく拡張され、従来の土地フットプリント削減にとどまらず、自然地被率と土壌品質まで含む形になっています。

難しい言葉を使わずに整理すると、一つ目は、まず壊さないことです。自然の生態系を新たに転換しない。二つ目は、すでに使っている土地を良くしていくことです。ここで重要になるのが、自然地被率や土壌の状態です。三つ目は、自社の敷地の中だけで完結しないことです。流域や景観の単位で、他のプレイヤーと一緒に改善していくことが求められます。

この三つの組み合わせが、実はかなり新しいのです。

以前の自然対応は、「森林破壊を避ける」「植樹する」「どこかで保全に貢献する」といった話に寄りがちでした。もちろんそれ自体は大切なのですが、SBTNはそこからもう一歩踏み込みます。土地を壊さないだけではなく、使っている土地の質をどう改善するかまで見にいくのです。

その象徴が、土壌有機炭素、土壌侵食、そして陸域酸性化。これに加えて、自然地被率が面の指標として設けられています。

自然地被率については、自然地と半自然地を合わせた割合が1平方キロメートルあたり25%未満の生産単位では、25%超にまで引き上げる目標が設定されます。すでに25%を超えている場合は、その維持が最低ラインです。

この「25%」という数字は、今後の土地ビジネスにとって非常に示唆に富んでいます。これは単なる植栽面積の話ではありません。開発地や運営地の中に、どれだけ自然や半自然の面を残し、つなぎ、水を浸透させ、生き物が動ける余地を確保するか——という設計思想そのものを問うているのです。

ここで面白いのは、SBTNが「木を切っていないから合格」という見方をしないことです。森を残していても、土壌が痩せている、侵食が進んでいる、水がうまく保たれない、という状態であれば、それは十分ではない。つまり、土地の表面だけではなく、土地の質そのものが問われ始めているのです。

さらに、自然地被率という考え方も重要です。
土地の中にどれだけ自然または半自然の状態が残っているか。これを一定水準まで引き上げ、すでに高い場合は維持する。この発想は、単なる緑化率とは違います。芝生を増やせばよい、植栽本数を増やせばよい、という話ではありません。自然に近い面がどれだけ残り、つながり、機能しているかが問われます。

もう一つは、世界平均ではなく場所ごとのしきい値を使おうとしている点です。SBTN草案は、土地の状態を地域ごとの生態学的しきい値で見る方向へ進んでおり、企業の操業地や生産単位がそのしきい値を超えているかをもとに、改善目標あるいは維持目標を設定します。しかも、改善目標にはしきい値から10%の安全余裕をとる設計になっています。これは、従来の「平均点を見る方式」から、「地域ごとの安全圏に戻す方式」への大きな転換です。

不動産や建設に引き寄せて考えると、これはかなり大きな変化です。
開発地の中に、どれだけ自然的な面を残せるか。
雨水がどこでしみ込み、どこで滞留し、どこで再利用されるか。
表土をどこまで守れるか。
樹木を何本植えたかではなく、樹冠がどれだけ広がるか。
そうした設計思想そのものが、これからの競争力になっていきます。しかもSBTNは、特に金属、インフラ、建設、採掘といった分野では、重要な自然地を避けるための考え方をかなり重く見ています。建設・不動産に携わる方にとって特に見逃せないのは、SBTNが金属、インフラ、建設、採掘(いわゆるMICE分野)に特別な経路を設けていることです。これらの分野では、自然生態系転換ゼロの達成にあたり、国際金融公社(IFC)のPerformance Standard 6——つまり重要生息地や高保全価値地域の評価プロセス——や、重要生物多様性地域・保護地域などを使った判断が求められます。

ここで特に大事なのは、「あとで埋め合わせればよい」という発想に依存できなくなることです。生物多様性オフセットは適合手段として認められていません。これまでの開発実務では、壊した後に別の場所で保全を行う、追加的な緑化をする、といった対応がしばしば語られてきました。けれど、SBTNの方向性はもっと厳密です。まず触ってはいけない場所を避ける。そのうえで、やむを得ない利用があるなら、その土地の質をどう回復していくかを見る。つまり順番が違うのです。これは、開発後の環境配慮より、開発前の立地判断が重要になることを意味します。

さらにSBTNが面白いのは、景観単位での協働をかなり重視している点です。これは単なる寄付や地域貢献ではありません。企業の土地影響は、一社の敷地だけでは完結しないからです。上流の森林、周辺の農地、水の流れ、周辺住民、自治体、地域の生態系ネットワーク。こうしたものがつながって初めて、土地は機能します。草案によれば、少なくとも土地影響の10%をカバーする一つの景観イニシアティブ、あるいは面積にかかわらず二つの景観イニシアティブへの関与が必要とされています。しかも、そこには関係者の参加、共同目標の設定、透明な情報公開、地域コミュニティのニーズ評価、人権への配慮が含まれます。

この点は、これからの土地ビジネスを考えるうえで決定的に重要です。土地は一社だけでは完結しません。上流の森林、周辺の農地、流域、道路、排水、地域雇用、観光、地域の受容性——多くの要素が絡み合います。ですから、今後のネイチャーポジティブビジネスにおいては、「自社敷地の改善」だけでは物足りなくなります。「地域の景観単位での共同改善」に資金とデータを投入できる企業こそが強いポジションを取れるようになるでしょう。


LEED v5は、不動産と建設の考え方をどう変えたのか

 不動産事業者や建設事業者にとって特に重要なのがLEED v5です。LEEDというと、多くの方は「環境認証」「省エネ」「高性能ビル」といったイメージを持たれると思います。もちろんそれは間違っていません。ただ、v5を見ると、明らかに思想が進んでいます。ひとことで言えば、建築を建物単体で評価するのではなく、土地、生態系、水、レジリエンス、人への影響まで含めて統合的に見る方向に進んだのです。これはとても大きな変化です。

LEED v5は、米国グリーンビルディング協会(USGBC)の最新版です。近接ゼロカーボン、レジリエンス、人を重視する方向が打ち出されています。BD+C、ID+C、O+Mのv5は2025年4月に承認され、認証運用もスタートしています。ここで特に重要なのは、LEED v5のBD+Cが評価全体を「脱炭素」「生活の質」「生態系の保全と回復」という三つのインパクト領域で整理していることです。「生態系の保全と回復」の領域には、Sensitive Land Protection、Minimize Site Disturbance、Biodiverse Habitat、Rainwater Management、Enhanced Resilient Site Design、Heat Island Reductionなどが並んでいます。これはつまり、敷地と外構と水を、もはや周辺論点ではなく、評価の真ん中に据えたということです。

LEED v5の骨格のうち、不動産・建設の実務に直結するポイントを先にお伝えします。

第一に、設計初期の必須事項が重くなっています。気候レジリエンスの評価や、人への影響の評価が前提条件として入ってきます。これは、企画がかなり進んだ後で「そういえば洪水は大丈夫か」「暑さ対策はどうか」と考えるのではなく、最初からそこを見ろというメッセージです。

第二に、立地・交通の考え方が再編されています。v4では個別クレジットだったHigh-Priority Site、Surrounding Density and Diverse Uses、Access to Quality Transit、Reduced Parking Footprint、Bicycle Facilitiesなどが、Equitable Development、Compact and Connected Development、Transportation Demand Managementといった新しいまとまりに再編されました。単に便利な場所に建てるという話ではなく、周辺との接続、公共交通、車依存の低減、社会的な妥当性まで含めて評価する方向になっています。

第三に、炭素と資材が前提化しています。運用時の炭素だけでなく、建設時に材料に含まれている炭素も重く見られます。つまり、建物の性能だけではなく、その建物がどの土地に、どんな材料で、どのようにつくられるかまで含めて評価されるのです。

LEED v5では、全体の評価の軸として、脱炭素、生活の質、生態系の保全と回復が前面に出ています。つまり、省エネだけで高評価になる時代ではなく、敷地のあり方や土地との付き合い方が大きな意味を持つようになっています。

さらに重要なのは、炭素と資材が前提化していることです。そして、土地・外構・自然に関わる部分のアップデートがかなり効いています。

まず、Sensitive Land Protectionです。
これは、感受性の高い土地を避ける考え方をより明確にしたものです。優良農地、洪水リスク、重要な生息地、水域、湿地、急傾斜地などに対して、どう向き合ったのかをきちんと説明することが求められます。つまり、「この土地に建てられたから建てた」では足りず、「なぜこの土地でよいのか」を示す必要が出てくるわけです。

次に、Minimize Site Disturbanceです。
ここでは、特別な保全が必要な植生を原則として完全に守る方向が明確になっています。これは、開発側にとってはかなり重いですが、同時に考え方としては筋が通っています。重要な植生があるなら、あとから補えばよいのではなく、まず壊さないことが優先されるからです。

Rainwater Managementの扱いも印象的です。
単に雨水タンクを入れるとか、排水計画を整えるとか、そういう話にとどまりません。地表をどう流れ、どこで浸透し、どの土壌が受け止め、どこで再利用するのかまで含めて考える必要が強くなっています。ここでも、土壌は脇役ではありません。むしろ、雨を受け止めるインフラとして主役です。

洪水対応も進化しています。
外構だけで水を防ぐのではなく、重要設備の位置、耐水材料、設計標準との整合まで含めて一体で考える方向です。豪雨や浸水リスクが高まるなかで、これはかなり現実的な変化だと思います。

そして暑熱対策では、樹木を植えた本数よりも、どれだけ樹冠が広がるか、どれだけ実際に地表面環境を改善できるかが重視されます。これも象徴的です。見た目の緑ではなく、機能する緑を求める方向に進んでいるわけです。

ここまでを見ると、LEED v5は、不動産や建設の世界に対して、かなりはっきりしたメッセージを出しているように見えます。
これから評価されるプロジェクトは、ただ性能の高い建物を建てる案件ではなく、その土地をどう扱い、どれだけ壊さず、どこまで回復させ、水と暑さと洪水と生きものまで含めて考えた案件です。


ISO、SBTN、LEEDはどうつながるのか

ISOは、何をどう測るかをそろえるものです。
SBTNは、その測定や地理情報をもとに、企業としてどこまで改善するかの目標を置くものです。
LEEDは、その考え方を実際の案件の設計や施工、運用に落としていくものです。

言い換えれば、ISOは言語、SBTNは目標、LEEDは実装です。

この見方をすると、経営と現場の間がつながります。

たとえば、経営層はSBTNに沿って「土地転換を避ける」「自然地被率を高める」「土壌の状態を改善する」といった目標を持つ。
そのために、土壌の測り方はISOを参考にする。
そして個別案件ではLEEDのような仕組みを使って、敷地選定、外構、雨水、樹冠、レジリエンスまで落とし込む。この形ができると、サステナビリティ部門だけが頑張るのではなく、開発、設計、調達、施工、アセット運用、開示の各部門が一つの流れの中で動けるようになります。

「土地取得前」が最大の勝負どころに

これまで多くの開発では、土地を取得してから環境配慮を考えてきました。しかしこれからは、土地取得前のスクリーニングが主戦場になります。理由は明確です。SBTNのMICE分野は、重要生息地、高保全価値地域、重要生物多様性地域、保護地域などを先に除く発想です。LEEDもSensitive Land Protectionを強化しています。つまり、後から良くするよりも、最初に避けるほうが制度的にはるかに強いのです。こうした流れの中で、今後伸びるビジネスは何でしょうか。それは、開発候補地の自然リスク、土壌機能、水文、傾斜、植生、保全価値を短期間で可視化する「プレ開発診断」です。衛星画像、GIS、地形データ、土壌情報、洪水データ、保護区、KBA、土壌汚染履歴などを一体で見せるサービスは、土地取得判断そのものの質を変えます。わたしの見立てでは、これが最も早く市場化しやすい分野です。

「土壌の見える化」が設計条件に

次に来るのは、土壌の見える化です。ISOが共通言語を提供し、SBTNが土壌有機炭素、侵食、酸性化を目標に組み込んだことで、土壌は「あるかないか」ではなく「状態がどうか」を問われるようになります。したがって、今後の設計条件は容積率や建蔽率だけにとどまりません。表土保全、浸透能力、土壌有機炭素、侵食リスク、樹冠被覆、雨水流路、半自然地被率といった性能条件を含むようになっていきます。これは行政基準として一気に広がるというよりも、まずは先進的な案件、ESGファイナンス案件、外資テナント案件、国際認証を取る案件から浸透していくと見るのが妥当です。根拠としては、LEED v5がすでにその方向へ舵を切っていること、欧州ではSoil Monitoring Lawが都市土壌も含めた監視を始めたことが挙げられます。

「敷地の外」が評価対象に

ネイチャーポジティブの土地ビジネスは、やがて敷地の外へと広がっていきます。SBTNのLandscape Engagementが象徴的ですが、今後は一つの案件の中だけで自然の価値を語っても説得力が弱くなります。流域、周辺の緑地、連続する生態ネットワーク、農地、森林、湿地、地域コミュニティとの関係まで含めて評価される時代です。したがって、伸びるのは単独の敷地改善だけではありません。工業団地全体、流域全体、港湾後背地全体、リゾート圏全体、再開発地区全体での共同改善です。こうした取り組みには、開発会社、ゼネコン、自治体、農業者、森林所有者、水管理者、地域金融機関が参画する必要があります。SBTNはまさにその方向で制度設計を進めており、景観イニシアティブには共同目標、透明な情報公開、地域ニーズの評価が求められています。

「材料調達の土地影響」が本格化

土地の話というと敷地だけを思い浮かべがちですが、それでは足りません。SBTNのNo Conversionは、木材、コーヒー、ココア、ゴム、パーム、牛など、さまざまな「転換駆動商品」を対象にしています。さらにLEED v5は、埋込炭素の定量化や材料選定を必須・重点領域に位置づけています。つまり、建物の土地影響は敷地と資材の両方で見られる時代なのです。不動産・建設の文脈で考えると、これは木材だけの話にとどまりません。ゴム系部材、パーム由来の化学品、牛由来の皮革、紙、包装、工事用食材、さらには採掘由来の資材にまで広がります。ですから、今後の調達競争力は価格と納期だけでは決まらなくなります。土地転換リスクと、その証跡の有無で差がつく世界です。EUDRの適用開始が2026年末以降に迫っていることも、この流れを加速させるでしょう。

「再生型アセット」が資産価値に

最後にやってくるのは、再生型の土地・不動産アセットに対する評価です。まだ市場として完成しているとは言えませんが、方向性はかなりはっきりしてきました。今後評価されるのは、単に自然への負荷が低い土地ではありません。土壌、水、植生、景観を改善し続ける土地です。たとえば、表土を守る、透水性を高める、在来植生を増やす、半自然地被率を高める、雨水を地域内で循環させる、外部の景観イニシアティブに継続的に資金を投入する——こうした性能を備えた資産が、これからの評価軸になっていきます。まず間違いなく伸びるのは、土地取得前の自然・土壌デューデリジェンスです。これまでは、土地を押さえてから設計で工夫するという順番が一般的でした。けれど、これからはその順番では遅い場面が増えます。重要な自然地、急傾斜地、洪水リスク、土壌の状態、水の流れ、既存植生、保護価値。こうしたものを土地取得の前に見ておかなければ、あとでどうにもならなくなるからです。

これまでは、不動産の価値は立地、収益性、利便性、スペックが中心でした。もちろんそれは今後も大事です。ただ、そこに「土地機能を維持・回復できる資産かどうか」という視点が加わってくると、市場の見え方はかなり変わります。


土地は、質が問われる

 今日見てきた、3つの国際標準規格。この流れを一つにつなぐと、かなりはっきりした未来像が見えてきます。
 ISOは、土壌を測るための共通言語を整え始めました。
 SBTNは、企業に対して土地転換の停止、土壌の改善、景観単位での協働を求めています。
 LEED v5は、建築の評価を土地、生態系、水、レジリエンスまで広げました。

 これから土地は、炭素をためる力、水を受け止める力、生きものを支える力、暑さや洪水を和らげる力、地域とつながる力。そうした複数の機能を持つ資産として見られるようになります。

どの土地を避けるべきかを見極め、
どの土壌機能を守るべきかを理解し、
どこまで回復させるのかを設計し、
それを地域の文脈の中で実装できる。
その実力が、企業価値や案件価値を左右する時代に入っていきます。

これからの土地ビジネスは「開発して終わり」から「土地の機能を維持・回復し続ける運営」へと移行するかもしれません。売買益中心のモデルから、機能維持による収益、利用価値、テナント価値、資金調達上の優位性、保険上の優位性、地域からの受容性といった複合的な軸へ、重心が動いていきます。


#NaturePositive

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