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グローバルネイチャーポジティブサミット2026:分科会A3「自然はインフラになる――Nature as Infrastructureの実装戦略」

 グローバルネイチャーポジティブサミットでの、小生がモデレーションを行った、セッション、分科会A3「自然はインフラになる――Nature as Infrastructureの実装戦略」についてのメモを共有させていただきます。遅くなって申し訳ございません。

 このセッションからの持ち帰りは、以下の3点です。
1)Nature As Infrastructureは、理想ではなく現実である。
2)人々は、自然が本来的に大好き。この自然への愛を不動産価値や金融価値に変換することこそが、Nature As Infrastructureである。
3)このイノベーションは、今、一番熱い、Nature Positiveと言える

 セッション前のNOTEには、Natureはサービスであり機能であると書いたのですが、セッションが終わり、これは、不動産価値である金融価値であるからこそ、インフラなのだと思いました。
 なお、本セッションに触発されて、AIを活用して、グリーンインフラに関する学習とナビゲーションのアプリケーションを作ってみました。こちらは、本記事の末尾にリンクを添付しております。
 今日も楽しんでいってくださいね!

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グローバルネイチャーポジティブサミット2026:分科会A3「自然はインフラになる――Nature as Infrastructureの実装戦略」

モデレーター PwC 服部 徹 氏

 「Nature as Infrastructure」は、自然の保全を出発点にしながら、自然がもつ防災、治水、暑熱緩和、健康、生物多様性、都市価値、地域経済、脱炭素などの機能を、社会を支える基盤として扱う考え方です。

 当日のストーリーは、三つの段階で示されました。第一は、国土交通省による「政策で標準化する」です。グリーンインフラ推進戦略2030を軸に、KPI、財源、官民連携を通じて、自然を社会資本の選択肢として定着させる道筋が紹介されました。第二は、大林組による「現場で使いこなす」です。現代版里山という考え方のもと、自然科学を設計と施工に組み込み、整備後の維持管理や利用、評価までを担う建設会社の実践が示されました。第三は、CDLによる「市場へ翻訳する」です。自然を取り入れた不動産の価値、情報開示、金融、アジアの高密度都市への展開が取り上げられました。

 モデレーション資料は、この三つを「Value → Implementation → 2030 & Scale」という流れで結んでいます。自然が生み出す価値を明確にし、現場で実装し、2030年に向けて制度と市場へ広げるという順序です。ラウンドテーブルも、この流れに沿って三つの問いで構成されました。

 最初の問いは、「価値として何が変わるのか」です。自然を守る対象として扱う段階から、都市、公共事業、建設、不動産の標準装備へ広げたとき、政策価値、建設価値、不動産価値がどう変わるのかを、国土交通省、大林組、CDLの順に考えます。

 第二の問いは、「実装の壁はどこにあるのか」です。制度、調達、評価、維持管理、ファイナンス、地域合意をどのように乗り越えるのかが論点となりました。ここでは、標準化、性能評価、維持と資金が重要な要素として示されています。

 第三の問いは、「2030年と国際普及に向けた成功条件は何か」です。Nature Positiveな2030年に向けて、政策、事業実施、資本市場をどう接続するのかを検討します。制度設計、事業連携、グローバルな適用展開が、三つの視点として置かれました。

 モデレーション資料の締めくくりは、三つの明確なメッセージです。第一に、「自然はインフラである」と示されました。自然は、防災、水、暑熱、健康、都市価値、生物多様性を同時に支えます。第二に、「標準装備にする」と示されました。政策、設計施工、維持管理、評価、金融をつなぎ、自然を日常的な事業判断の中へ組み込みます。第三に、「2030年へ連携する」と示されました。政府、都市、開発、建設、金融、地域が早い段階から組み、公共投資、都市開発、事業開発の中で自然をインフラとして扱うことを定着させます。

 この全体設計を土台に、三人の登壇者が、それぞれの立場から実装の具体像を提示しました。

 このセッションの特徴は、自然の価値を理念の説明で終わらせず、政策目標、建設技術、維持管理、利用、測定、開示、融資までを同じ議題の中で扱ったことです。国土交通省は制度とKPIを示し、大林組は設計・施工・運用の現場を示し、CDLは不動産価値と金融への接続を示しました。三つの発表を順に読むことで、自然を社会の基盤へ組み込むために、各主体がどの段階を担うのかが分かる構成になっています。


話者1 国土交通省 総合政策局 環境政策課 柴田優作氏

グリーンインフラを政策の標準へ導く「グリーンインフラ推進戦略2030」

 最初の登壇者は、国土交通省総合政策局環境政策課の柴田優作氏です。発表は、日本の自然環境と暮らしの関係から始まり、グリーンインフラの定義、グリーンインフラ推進戦略2030、代表的な実践事例、事業と投資、ファイナンスガイドライン、2030年までの実装体制へと展開しました。

日本の自然と生活様式を、政策の出発点として捉える

日本は四方を海に囲まれ、海岸線から山林まで、複雑で変化に富んだ地形を有しています。発表資料には、森林、河川、海岸、都市、里山・農地、湖沼、港湾、都市農地、藻場・干潟、湿地が並び、日本の国土が多様な自然環境によって構成されていることが示されました。

日本では古くから、自然の特徴を生かし、自然と調和する営みが各地で続けられてきました。その積み重ねによって、地域ごとの歴史、生活、文化が形成されています。グリーンインフラ政策は、この自然と暮らしの関係を現代の社会資本整備へつなぐ位置づけをもっています。

 グリーンインフラを取り巻く社会経済情勢として、気候変動、生物多様性の損失、人口減少、少子高齢化、都市部の過密、地方部の過疎を挙げています。地球の持続可能性は人類の生存に不可欠であり、これらの社会課題が自然資本の安定性を揺るがしています。国土交通省は、自然資本の持続可能性を確保し、社会課題を同時に解決するため、インフラ整備を担う省として2015年からグリーンインフラの取り組みを推進してきました。

グリーンインフラとは、自然の多様な機能を活用する社会資本

 国土交通省の講演では、グリーンインフラを「自然の多様な機能を活用した社会資本」と説明しています。国土、都市、地域づくりの中で、自然の機能を生かし、社会を支える物理的な資産として整備する考え方です。

自然の機能には、水質や大気質の改善、蒸発散による気温の緩和、緑陰の形成、景観の形成、温室効果ガスの吸収、心理的な安定、ストレスの緩和、雨水の貯留と浸透、斜面崩壊の防止、延焼の抑制、避難場所の形成などがあります。これらの効果は、環境、社会、経済の各領域に広がります。

講演では街路樹、藻場、森林公園、雨庭、屋上緑化、パブリックスペースが例として示されました。良好な生活環境の形成、気候変動の緩和、ウェルビーイングとストレス緩和、防災・減災、不動産価値の向上、にぎわいの創出が、グリーンインフラの代表的な効果として整理されています。

2030年度までに「グリーンインフラの活用が当たり前の社会」をつくる

 「グリーンインフラ推進戦略2030」は、国土交通省が2026年1月23日に策定した計画です。第一次計画は2019年、第二次計画は2023年に策定され、今回の戦略は2030年度までを計画期間としています。

目指す社会像は、「グリーンインフラの活用が当たり前の社会」です。さらに、2050年に向けて「自然共生社会」の実現を目指します。

2030年の社会像には、三つの条件が示されています。第一に、グリーンインフラの概念と効果が正しく理解されていることです。第二に、活用の前提となる法制度、社会的な枠組み、技術、資金調達手法が整備されていることです。第三に、グリーンインフラが社会課題を解決するための実行可能な選択肢として認識されていることです。 この「当たり前」という表現は、個別の先進事例を増やすことに加えて、公共事業、都市政策、流域治水、交通、土地利用、公共空間の計画と実施の中に、グリーンインフラを標準的に組み込む方向を示しています。

七つの社会課題に、国土交通省の事業と制度を対応させる

 推進戦略は、グリーンインフラの実装によって解決を図る社会課題を七つ設定しています。 一つ目は、持続的で快適な都市・生活空間の形成です。二つ目は、防災・減災です。三つ目は、暑熱対策です。四つ目は、生物多様性の確保です。五つ目は、地域経済の活性化です。六つ目は、温室効果ガスの削減です。七つ目は、循環型社会の形成です。

戦略では、各課題に対応する国土交通省の事業や制度を整理し、2030年までのKPIを設定しています。自然の機能を複数の政策領域で活用し、個々の事業を社会課題の解決へ結びつける構成です。

持続的で快適な都市・生活空間の形成に向けては、都市公園における遊び場づくり、居心地が良く歩きたくなるまちづくり、かわまちづくりが示されました。2030年のKPIとして、ウォーカブルなまちづくりに取り組む市町村数を200市町村とし、2025年時点の132市町村から拡大する目標が掲げられています。河川空間とまちを一体的に活用する「かわまちづくり」は、2030年に350か所を目指し、2024年時点では286か所とされています。

防災・減災に向けては、防災公園の整備、湿地再生による流域治水、雨庭の整備が紹介されました。防災公園における防災・減災対策の完了率は、2030年に100%を目指し、資料では令和5年度の実績を48%としています。雨庭の取り組みを実施する組織数は、2030年に500組織を目標としています。

暑熱対策に向けては、屋上緑化、都市内の緑地保全、街路樹が示されました。緑陰の形成、蒸発散作用、風の通り道の形成によって、人が感じる暑さを和らげます。屋上緑化の施工面積は、2023年の227.7ヘクタールから、2030年に302.1ヘクタールへ拡大するKPIです。

生物多様性の保全に向けては、緑地の量的拡大と質的向上、海域環境の再生、多自然川づくりが示されました。都市緑地保全に関する基本方針に基づく目標を定める都道府県の広域計画と市町村の公園・緑地マスタープランは、2030年に150計画を目指します。資料に記載された令和6年度の実績は1計画です。国が管理する河川の河川整備計画のうち、河川環境に関する定量的な目標を盛り込む割合は、2030年に43%を目指し、令和6年度は0%とされています。

大手町の森――都市の中心に約3,600平方メートルの森をつくる

グリーンインフラの好事例として最初に紹介されたのは、東京建物株式会社による大手町タワーの「大手町の森」です。2013年に、敷地面積の約3分の1に相当する約3,600平方メートルの緑地が整備されました。

資料によると、敷地内の平均気温は1.7度低下しました。森に近接する通路は来訪者に開放され、毎月イベントが開催されています。来場者の満足度も高いとされています。

維持管理の面では、モニタリングを通じて、自然の森で見られる「適者生存・競争」が起きていることが確認されました。植物同士が環境に適応しながら変化する自然のプロセスが、都市の緑地でも進んでいることを示す事例です。大手町の森は、2026年のグリーンインフラ大賞で国土交通大臣賞を受賞しました。

おおはし里の杜――道路施設の屋上で自然再生と地域学習を進める

 次に紹介されたのは、首都高速道路株式会社が取り組む大橋ジャンクションの「おおはし里の杜」です。大橋ジャンクション内のトンネル換気所屋上に、2011年、自然再生緑地が整備されました。

2023年度には、鳥類、昆虫類、植物など、約400種類以上の動植物が確認されました。調査開始時と比べて、およそ2倍に増加しています。2019年以降はオオタカが飛来し、複数の希少種も確認されています。

この場所では、毎年、地域の小学生と稲作体験を実施しています。道路インフラの一部に自然再生の場をつくり、生物多様性の回復と環境学習を同じ場所で進める取り組みです。2025年のグリーンインフラ大賞で国土交通大臣賞を受賞しました。

雨庭――小さな空間で雨水を貯留・浸透し、市民と管理する

 三つ目の事例は、特定非営利活動法人雨水まちづくりサポートと、一般財団法人世田谷トラストまちづくりによる雨庭の普及です。

都市河川流域の治水対策では、宅地で雨を貯留し、地中へ浸透させる取り組みが重要になります。資料では、雨庭の認知度を高め、市民が施工、維持管理、モニタリングへ参加する実践が紹介されました。

2024年の武蔵野市では、市民参加型で雨庭を施工し、完成後の維持管理とモニタリングも市民と進めました。2023年の世田谷区では、子ども向けのワークショップを実施し、約3平方メートルの雨庭が年間26立方メートル以上の雨水を地中へ浸透させたと報告されています。この取り組みも、2025年のグリーンインフラ大賞で国土交通大臣賞を受賞しました。

グリーンインフラの経済効果を、事業と投資の言葉で示す

 国土交通省は2024年9月に、「事業・投資のすゝめ」を公表しました。資料では、グリーンインフラが生み出す多様な経済効果を、数多くの事例を通じて示していると説明されています。

具体的には、地域経済の活性化、水害リスクの低減、生産性や生活の質の向上、コストの低減などです。さらに、グリーンインフラへの取り組みが、価格、賃料、利回りなどを通じて、企業の資産価値や不動産価値へ好影響を与えること、その波及経路を整理・分析しています。

自然の効果を、環境面だけで説明する構成から、事業価値、資産価値、投資判断へつなぐための資料です。モデレーション資料が掲げた「価値」を、政策側から具体化する役割を担っています。

ファイナンスガイドラインで、資金の出し手と受け手をつなぐ

 2026年3月には、グリーンインフラ事業のファイナンスガイドラインが中間とりまとめとして整理されました。ガイドラインは、グリーンインフラ事業を金融の観点から類型化し、多様な資金調達手法の選び方、関係者間の連携を促す方法を、事例とともに示しています。

想定する読者には、グリーンインフラ事業の企画・開発を担う担当者、融資判断のための評価やデューデリジェンスを行う融資担当者、地方公共団体、民間事業者、NPO、地域団体などが含まれます。

資金の受け手にとっては、事業に合う資金調達方法を検討し、それぞれの手法に伴う課題を整理する助けになります。資金の出し手にとっては、融資判断のための評価や、新しいグリーンインフラ金融サービスの開発に活用できます。ガイドラインは、資金調達方法への理解を高め、関係者間の対話を進める道具として位置づけられています。

実装のボトルネックに対応する六つの柱

 国、地方公共団体、民間事業者が多様なステークホルダーを巻き込みながら整備と管理を進めた結果、グリーンインフラをさらに拡大するための課題が明確になってきました。推進戦略は、官民で取り組む分野横断的な環境整備策を六つの柱として整理しています。

第一の柱は、国民的な機運と理解の醸成です。グリーンインフラ官民連携プラットフォーム、グリーンインフラ産業展、GREEN×EXPO 2027を通じて、参加者と接点を増やします。官民連携プラットフォームの会員数は、2025年の2,150者から2030年に5,000者へ増やすKPIです。グリーンインフラ産業展の来場者数は、2025年の26,000人から50,000人を目指します。GREEN×EXPO 2027は、有料来場者数1,000万人がKPIとして示されています。

GREEN×EXPO 2027の会場は、横浜の米軍施設跡地です。会場予定地に残る川の源頭部、点在する樹林、川の浸食で形成された谷戸地形などの自然環境と生物多様性を生かし、グリーンインフラを基軸として会場を整備します。関連する取り組みの展示も予定されています。

第二の柱は、多様な効果の見える化です。グリーンインフラの実装効果を評価する定量的・定性的な手法を検討し、ガイドラインを策定します。

第三の柱は、官民の取り組みを促進する環境整備です。グリーンインフラの維持管理に関する知見を整理し、管理と運用のガイドラインを策定します。

第四の柱は、資金調達の円滑化です。ファイナンスガイドラインを普及し、グリーンインフラに関する融資商品の創出を進めます。

第五の柱は、新技術とDXの活用です。グリーンインフラ関連技術の研究開発に取り組む企業への財政的な支援を行います。

第六の柱は、国際展開です。グリーンインフラの評価枠組みをISO化し、国内で蓄積した評価と実装の方法を国際的に展開することを目指します。

2030年までの進捗管理と、実装時の留意事項

 推進戦略は、計画期間の最終年となる2030年へ向け、代表的な取り組みを抜粋し、2030年までに目指す成果を示したロードマップを作成しています。KPIの設定と進捗管理を組み合わせ、計画を実行へ移す構成です。

実装時の共通事項としては、社会課題の解決と、多様な効果の発揮が示されています。計画と体制づくりでは、多様なステークホルダーの参加とランドスケープアプローチが重要です。設計と施工では、地域固有の生態系への配慮と、他のインフラとの連携・融合が求められます。維持管理と活用では、長期的、順応的、予防的な管理と、人材育成が重要になります。

発表資料の結論は、行政と民間事業者が両輪となり、主体的かつ積極的に連携することです。政策が基準と制度を整え、自治体、民間、金融、地域が実装を担い、その成果を評価し、次の事業へつなぎます。柴田氏の発表は、Nature as Infrastructureを政策の標準へ移すための土台を、計画、KPI、事例、金融、維持管理、国際標準化の各面から示しました。


話者2 株式会社大林組 執行役員 技術研究所長 兼 技術本部副本部長 小野島一氏

自然科学を設計・施工・維持管理へ組み込み、現代版里山をつくる

 二人目の登壇者は、株式会社大林組の小野島一氏です。小野島氏は、執行役員、技術研究所長、技術本部副本部長を務めています。大林組は、東京スカイツリーや大阪・関西万博の大屋根リングをはじめ、建築物と社会インフラの整備を幅広く手がけてきました。小野島氏の資料では、代表的な建設実績の紹介に続き、グリーンインフラやNature based infrastructureの施工も建設会社の重要な仕事の一つであると示されています。

大林組は、「自然と、つくる。」をキャッチコピーとして、グリーンインフラに関する研究開発と取り組みを紹介しています。この言葉には、自然の仕組みを深く理解し、その知見をものづくりへ取り入れ、人と自然が共生する社会をつくるという考えが込められています。

資料に示されたキーワードは、「つくる」「管理する」「使う」「評価する」です。自然を取り入れた空間を整備し、長期にわたって管理し、人が実際に利用し、その効果を科学的に評価します。この四つを一つの流れとして扱うことが、大林組のグリーンインフラの基本的な考え方です。

自然の効果を最大限に引き出すには、整備後の状態を見守り、利用のされ方を把握し、得られた効果を評価することが重要です。建設会社の役割は、空間を完成させる工程に加えて、自然と人の関係が育つ仕組みを支える領域へ広がっています。

伝統的な里山から、現代社会に合う人と自然の関係を考える

小野島氏は、グリーンインフラにおける人と自然の関係を、日本の伝統的な里山に重ねて説明しました。里山では、人が自然を利用し、その利用によって形成された生態系に適応した生物が生息していました。人の営みと生物の生息が同じ場所で成り立つ、相互利益の関係です。

 発表で重視されたのは、過去の里山をそのまま再現することより、現在と将来の社会に適応する新しい関係を設計することです。人口構造、都市化、土地利用、産業、生活様式が変化する中で、人と自然の双方に利益が生まれる関係をつくり直します。大林組の資料は、この考え方を「人と自然の関係性の再構築」と表現しています。

ポケット草原――建設物に付随する緑地で、草原性種を守る

 現代版里山の事例として紹介されたのが、建設物の外構に草原性の植物を植栽する「ポケット草原」です。

降雨量が多い日本では、草原は草刈りなどの人の管理によって維持されてきました。人口減少が進み、利用と管理が減ると、草地の面積も減少します。発表資料では、この状況を里山のアンダーユースの問題として捉えています。

大林組は、地域の草原性種を建設物に付随する緑地へ植栽する取り組みを進めています。企業側には、生物多様性保全の取り組みを示せること、四季の花を楽しめること、環境教育の場を提供できることなどの利点があります。生物側には、管理放棄を避けられること、地域固有の遺伝的な多様性を維持できること、シカなどによる食害から守られることなどの利点があります。

草原を建設敷地の一部へ移し、企業活動と保全活動を同じ空間で成立させることで、人と自然の双方に価値が生まれます。小さな緑地を、地域の生物多様性を支える拠点へ変える実践です。

なんばパークス――20年以上育てられてきた都市の大規模緑化

 大林組が関わった代表的な事例として、大阪市のなんばパークスが紹介されました。なんばパークスは、3階から9階までがテラスのような階段状に配置された商業施設です。約5,300平方メートルの広い面積に、約10万株の草木が植えられています。

第一期は2003年、第二期は2007年に開業しました。周辺に大規模な公園が少ない地域で、貴重な緑地を提供しています。運営主体である南海電気鉄道株式会社は、「人、都市、自然がもっと一つになるために、なんばに森をつくりました」というコンセプトを掲げています。

管理面では、ガーデナーが常駐し、20年以上にわたり丁寧な維持管理が続けられています。農薬を使用せず、生物多様性に配慮し、害虫の一部を鳥類の餌として残す管理も行われています。自然の変化を受け止めながら、都市の商業施設としての安全性と快適性を保つ運用です。

鳥類調査で、緑化による生物多様性の効果を定量化する

 2022年度から2023年度にかけて、大林組は、なんばパークスの大規模緑化が地域の生物多様性にどのように貢献しているのかを定量的に評価しました。

周辺の街路樹と、パークスガーデンの鳥類調査を比較したところ、街路樹で確認された鳥類は4種、パークスガーデンで確認された鳥類は11種でした。発表では、なんばパークスの緑化によって、地域で年間を通じて観察できる鳥類が合計15種となり、緑化がない場合に想定される4種から3倍以上へ増えたと説明されています。

緑地をつくれば鳥が訪れるという感覚的な理解を、何種類増えたのかという数字で示した点が、この評価の特徴です。自然の効果を定量化し、事業者、利用者、地域へ伝えることで、維持管理と次の投資を支える根拠になります。

この事例は、大林組が掲げる「つくる」「管理する」「使う」「評価する」の流れを具体的に示しています。施設の完成から20年以上が経過した段階で、生物多様性の効果を測り、都市緑化の価値を科学的に示しました。

「みんまちSHOP」で、緑地を人と人、人と自然をつなぐ場にする

 大林組は、ハード面に加えて、緑地の利用を支えるソフト面の取り組みも進めています。その例が、スマートシティ推進室による「みんまちSHOP」です。

みんまちSHOPは、人、場所、活動をつなぐ地域プラットフォームです。オフィスなどの周辺で開かれるミニイベントやサービスを告知し、利用者が参加日を登録してイベントへ参加できます。

緑地を使ったイベントも多く、自然に触れる活動、地域の人と交流する活動、共有空間を活性化する活動につながります。緑地を、人と人、人と自然を結ぶ場として活用し、地域への愛着を育てます。

建設会社が場所を整備し、その後の利用を支える仕組みも考えることで、地域全体がネイチャーポジティブへ参加する機運をつくります。小野島氏の発表は、自然を取り入れた空間の価値が、日常的な利用と参加によって育つことを示しています。

技術研究所の自然共生サイト、雨と暑さへ対応する舗装、木材循環モデル

 発表資料の後半には、大林組が進める複数の関連事例が示されました。

大林組技術研究所には、30by30の実現に向けたOECMサイトがあります。環境省レッドリストで絶滅危惧II類に位置づけられるキンランをはじめ、地域の野生生物の避難場所として機能する緑地です。企業の研究施設の敷地を、生物多様性保全に貢献する区域として管理する取り組みです。

「Hydropave」は、豪雨と極端な暑さの影響を和らげる舗装技術として紹介されました。神戸の実証事業では、透水性舗装への散水後の路面温度を比較し、処理区が45.1度、対照区が51.1度という結果が示されています。雨水を扱う機能と、路面の暑熱を緩和する機能を同じ舗装へ組み込む考え方です。

「Circular Timber Construction」は、森林の育成、木造建築、再利用、リサイクルまで、木材の価値連鎖を一体化する循環モデルです。森林による炭素吸収、建築物での炭素貯蔵、木材のカスケード利用を最大化し、森林、社会、産業の再生的な関係をつくります。

大林組は、自然を保全・回復し、建築とまちづくりの中で積極的に活用することで、自然を地域の基盤サービスから地域産業を支えるインフラへ位置づけています。カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、ウェルビーイングを包括的に社会実装するモデルです。

二段階で進める、事業者のネイチャーポジティブ

 小野島氏の資料は、事業者が緑地を整備する際に意識する二つのステップを示しています。

ステップ1は、生物多様性に配慮した緑地を整備し、事業者自身のネイチャーポジティブ事例として発信することです。企業や自治体が、自らの敷地で自然の保全と回復に取り組み、その成果を社会へ示します。

ステップ2は、その緑地を参加型で管理し、テナント企業や地域住民へ、ネイチャーポジティブを実践する場として提供することです。デベロッパーはテナント企業を招き、自治体は地域住民の参加を促します。自然関連の取り組みに関心を持ちながら、具体的な行動の機会を探している人々が、植栽、管理、観察、学習などを通じて参加できます。

建設会社にとっては、多くの人に活用される場をつくることが、本業を通じたネイチャーポジティブの実践になります。整備された緑地が、企業の発信、地域参加、環境教育、維持管理の場として継続的に使われる構成です。

「経験の絶滅」を「経験の再生」へ転換する

 小野島氏は、都市に自然と触れ合える場所をつくる意味を、「経験の絶滅」という考え方から説明しました。

資料に示された負の連鎖は、自然を失いながら都市化が進み、人々と自然の距離が広がり、自然体験が減り、自然への関心が薄れ、さらに自然を損なう社会が形成されるというものです。

発表では、この連鎖を逆方向へ動かす「経験の再生」が示されました。都市に自然を創出すると、人と自然の距離が縮まり、自然への興味が芽生え、自然を尊重する社会へつながります。

建設会社が顧客とともに都市の自然を増やすことは、生物の生息場所を確保し、人が自然と出会う機会を増やす活動です。自然への関心が育つ場をつくり、自然を尊重する行動を広げることが、建設会社のネイチャーポジティブに含まれています。

サステナビリティビジョン2050とTNFD開示

 大林組は2019年に「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、「地球、社会、人」と大林グループのサステナビリティの実現を目指しています。

2025年にはTNFDレポートを公表し、自然関連のリスクと機会を分析・開示しました。資料では、TNFDのLEAPアプローチに沿って、自然との接点を把握し、依存と影響を評価し、リスクと機会を分析し、対応と開示を準備する流れが示されています。

具体的には、対象となるバリューチェーンを特定し、建設工事の種類ごとに工事場所を選び、調達する建設資材の原材料採取地も対象に含めます。ENCOREを用いて自然への依存と影響を評価し、IBATを用いて自然保護区や重要種との近接性を確認します。その結果をもとに、リスクと機会を特定し、対応策と開示へつなげます。

大林組は、発表で紹介した取り組みも反映しながら、自然関連課題が財務へ与える影響と、ネイチャーポジティブによる価値創出を、より明確に示す開示へ高度化を進めています。

小野島氏の発表を貫く言葉は、人と自然がともに豊かに生きる場所をつくり、将来世代へ生物多様性の遺産を残すことです。設計、施工、維持管理、利用、評価、開示をつなぎ、現代の都市と事業に合う里山的な関係をつくる実践が示されました。


話者3 City Developments Limited(CDL)最高サステナビリティ責任者 エスター・アン氏

自然を不動産価値、情報開示、資金調達へ翻訳する

 三人目の登壇者は、シンガポールのCity Developments Limited(CDL)で最高サステナビリティ責任者を務めるエスター・アン氏です。発表資料では、TIME100 Climate Leader 2023としても紹介されています。アン氏の発表は、気候危機と自然危機が経済と事業へ及ぼすリスク、高密度都市の暑熱課題、CDLのサステナビリティ経営、自然を組み込んだ建築、ESG評価、サステナブルファイナンス、環境教育、都市型マイクロフォレストへと展開しました。

モデレーション資料がCDLへ求めた役割は、「市場へ翻訳する」です。自然が生み出す効果を、不動産の性能と価値、企業の開示、金融機関との対話、資本へのアクセス、アジアの都市への展開へ結びつける内容でした。

気候危機、自然危機、社会・経済リスクを一つの課題として扱う

アン氏の発表は、持続可能性を損なう世界が、気候、環境、社会、経済の大きなリスクを抱えているという認識から始まりました。

資料では、世界経済フォーラムの情報として、気候変動によって2050年までに世界で1,450万人の追加的な死亡と、12兆5,000億米ドルの経済損失が生じる可能性が示されています。世界の気温が2度上昇すると、2050年までに世界のGDPが11%減少する可能性も紹介されました。さらに、気候リスクによって、2040年までに不動産保険の費用が1,830億米ドル増加するとの見通しが示されています。

自然は、気候変動への対応を支える存在として位置づけられています。陸地と海洋は、人為起源の炭素排出量の50%以上を吸収しています。世界のGDPのおよそ50%が自然に依存し、生物多様性の損失による影響を受ける状況にあります。

同時に、ネイチャーポジティブ経済は、2030年までに年間10兆1,000億米ドルの事業価値を生み、3億9,500万人の雇用を創出する可能性があると資料は示しています。自然は、リスク管理の対象であり、事業機会と価値創出の基盤でもあります。

自然リスクは、金融リスクと事業リスク

 資料は、気候危機と自然危機の相互関係を強調しています。世界のGDPの約50%、金額にして約58兆米ドルが自然へ依存しています。アジア太平洋地域では、粗付加価値の53%が、自然へ中程度または高度に直接依存する経済分野に含まれるとされています。

都市については、自然損失によってリスクにさらされる世界の都市GDPが44%に上ると推計される中、世界で人口の多い500都市のうち、自然や生物多様性の保全に焦点を当てた専用戦略を策定している都市は35%と資料に示されています。

気候変動への対応が進まない場合、今世紀に世界GDPの3分の1に相当する損失が生じる可能性も紹介されました。これらの数値を通じて、自然と気候の変化が、企業の収益、資産、保険、都市運営、投資判断へ直接関わる課題であることが示されました。

暑熱は、健康、生命、生計、経済へ影響する気候リスク

 アン氏の資料は、暑熱を最も重大な気候リスクの一つとして扱っています。2015年から2025年までの11年間は、1850年に世界の気象観測記録が始まって以降、最も暑い年の連続だったと世界気象機関の情報を紹介しています。

 洪水、暴風雨、干ばつなどの極端な気象現象は、過去5年間で強度と頻度が倍増したとの情報も示されました。2025年7月は、観測史上最も暑い7月の一つとなり、世界の気温は産業革命前より1.2度以上高かったとされています。

 資料では、2026年または2027年に新しい世界気温記録が生まれる可能性や、太平洋で非常に強いエルニーニョが発達する可能性も紹介されています。シンガポールは、2026年7月以降、より暑く乾燥した状態となり、気温が35度から36度を超える可能性があるとの見通しが示されました。

各地域の事例として、2026年5月のインドとパキスタンで45度から50度に達した南アジアの熱波、2026年3月に米国で起きた「500年に一度」と表現される規模の熱波、2025年に群馬県伊勢崎市で記録された41.8度、2026年7月にフランスとスペインで44度に達する可能性がある熱波と、6月の猛暑に伴う2,000人を超える超過死亡が紹介されました。

暑熱は、屋外で働く人、子ども、高齢者、住民、利用者の健康へ影響し、都市の経済活動と建物運営にも関係します。発表では、自然を都市の冷却機能として扱う必要性が、この暑熱リスクと結びつけて説明されました。

日本とシンガポールは、高密度都市を冷やし、緑化する課題を共有する

 アン氏は、東京、大阪、熊本、シンガポールの人口、面積、人口密度、自然被覆率を並べ、都市の条件を比較しました。資料に記載された数値では、東京は人口約1,400万人、面積約2,194平方キロメートル、人口密度は1平方キロメートル当たり約6,381人、自然被覆率は約52%です。

大阪は人口約280万人、面積225.3平方キロメートル、人口密度は1平方キロメートル当たり約12,427人、自然被覆率は約10%です。熊本は人口約74万人、面積7,409平方キロメートル、人口密度は1平方キロメートル当たり約100人、自然被覆率は約65%と資料に示されています。

シンガポールは人口611万人、面積約735.7平方キロメートル、人口密度は1平方キロメートル当たり約8,305人、自然被覆率は約40%です。

都市ごとに面積、密度、自然の量は異なります。発表では、日本とシンガポールが、人口が集中する都市を冷やし、緑化し、暮らしやすくする共通課題に向き合っていることが示されました。

シンガポールの暑熱レジリエンス戦略

 資料では、世界の暑熱による健康影響として、毎分1人が暑熱関連で死亡し、世界で年間54万6,000人を超える予防可能な暑熱関連死が生じているとの情報が紹介されました。

シンガポールでは、環境持続可能性省が2026年を「気候適応の年」と位置づけています。国全体の暑熱管理を統括する新しい「Heat Resilience Policy Office」を設置し、関係機関の行動を調整し、研究を監督します。

さらに、暑熱の影響に関する研究と、さまざまな人々の耐暑能力を高めるため、4,000万シンガポールドルの「Adapting to Heat Impacts」資金が示されました。政策、研究、実装をつなぎ、上昇する気温へ備える取り組みです。

CDLの事業規模と「Conserving as We Construct」

 CDLは1963年、8人の従業員で設立されました。1995年には、「Conserving as We Construct」という企業理念を掲げました。建設と不動産開発を進めながら、環境を保全する考え方です。

2026年3月時点の資料では、CDLは世界で15,000人を超える従業員を擁する上場国際不動産事業会社です。28の国と地域、167の拠点に展開し、800を超える事業体をもっています。シンガポール、ニュージーランド、フィリピン、国際証券取引所で、グループの9社が上場しています。

2025年12月時点のグループ売上高は36億シンガポールドル、総資産は350億シンガポールドルです。世界で55,000戸を超える住宅を開発し、オフィス、産業施設、小売、住宅賃貸、ホテルを合わせて約2,300万平方フィートの床面積を保有しています。ホテルは世界で160を超え、所有、運営、フランチャイズを含む形で展開しています。

環境への影響が大きい不動産分野で、早い段階からサステナビリティを事業モデルの中心へ置き、「Doing Well by Doing Good」を実践してきたことが、CDLの紹介の軸となりました。

1995年から積み重ねてきた、戦略、認証、開示、目標

 CDLのサステナビリティの歩みは、1995年の企業理念から始まります。2003年には、シンガポールのデベロッパーとして初めてISO 14001認証を取得しました。2005年には、Green Mark認証制度の開始に合わせ、国連グローバル・コンパクトへ参加し、その10原則を採用したシンガポール初のデベロッパーとなりました。

2008年には、シンガポールで新築と既存建築物へのBCA Green Mark認証が義務化されました。同じ時期に、CDLはシンガポール初のサステナビリティレポートを発行しています。

2015年には、低炭素事業への取り組みを示す気候変動方針を整備し、シンガポールの民間デベロッパーとして初の統合サステナビリティレポートを発行しました。2016年には、温室効果ガス排出量をISO 14064に基づいて検証し、ISSB S2報告にもつながる基盤を築きました。

2017年には、シンガポール証券取引所が上場企業へESG報告を求める中、CDLはFuture Value 2030 Sustainability Blueprintを策定しました。TCFDフレームワークを採用したシンガポール企業5社の一つとなり、シンガポールの上場企業として初のグリーンボンドも発行しました。

2018年には、SBTiによる炭素削減目標の認定を受けたシンガポール初のデベロッパーとなりました。資料では、2030年までに59%削減する目標が示されています。

2019年には、国連グローバル・コンパクトのBusiness Ambition for 1.5°Cキャンペーンを支援する先行87社に参加しました。2021年には、World Green Building CouncilのNet Zero Carbon Buildings Commitmentへ署名し、直接管理する建物の運用時炭素を2030年までにネットゼロとすることを掲げました。

2022年から2023年には、国連生物多様性条約COP15を背景に、世界経済フォーラムのNature-Positive Cities Global Commissionへ参加しました。二本柱の報告フレームワークも採用しています。

2024年から2026年にかけては、シンガポールで初めてTNFDを公表し、最高サステナビリティ責任者が18か国を代表する40人のメンバーで構成されるグローバルタスクフォースへ参加しました。TNFD目標へ連動するサステナビリティ・リンク・ローンも組成しています。

自然を組み込んだ建築は、暑熱、炭素、水、健康、ブランドへ価値を生む

 CDLは、自然を取り入れたグリーンビルディングの特徴を、暑熱と炭素の削減、健康の向上、ブランド価値の向上へ結びつけています。

「Tree House」には、24階建てのグリーンウォールがあります。2014年4月から2015年6月まで、世界最大の垂直庭園としてギネス世界記録に認定されました。シンガポール国立大学デザイン環境学部による2014年の研究として、グリーンウォールが熱の吸収を最大3度低減し、年間240万キロワット時を超えるエネルギーを節約し、年間3万立方メートルの水を節約する効果が資料に示されています。

敷地面積の77%がランドスケープと緑化に充てられ、生物多様性影響評価では、在来動物99種と植物32種が確認されました。在来樹木と植物を慎重に選び、生物多様性の保護に配慮したランドスケープが整備されています。

「Amber Park」は、2024年に完成したプロジェクトです。敷地全体の65%がランドスケープと施設に使われています。屋上庭園をつなぐ600メートルのジョギングトラックには、回収したトラックシューズのゴムが再利用されています。緑化と循環性を、住宅の共用空間へ組み込んだ事例です。

ESG評価とランキングを、資本へのアクセスへつなぐ

 CDLの資料は、世界のESG評価とランキングを、事業価値と資本へのアクセスへ結びつけています。

FTSE4Goodには2002年から選定されています。MSCI ESG Ratingsでは2010年からAAA評価を維持しています。CDPでは2010年から報告を続け、2025年に気候変動と水セキュリティのAリストへ選定されました。

Global 100では、2020年から2026年まで不動産会社の最上位に位置づけられ、2026年は世界69位とされています。GRESBでは5スターを獲得し、オフィス・小売を含む多角型の区分でアジア8位です。

S&P Dow Jones Sustainability Yearbook 2025への選定、EcoVadisのゴールドメダル、Equileapのジェンダー平等Top 100、Singapore Governance and Transparency Indexでの2025年18位なども紹介されました。

 発表では、2017年以降、113億シンガポールドルを超えるサステナブルファイナンスを調達するなど、これらの評価を、情報開示の透明性と事業の信頼性を高め、資本へアクセスしやすくする価値として位置づけています。

 CDLは、2017年以降、113億シンガポールドルを超えるサステナブルファイナンスを確保してきました。目的は、気候、環境、金融などのリスクへ備え、事業と運営を将来にわたって強くすることです。

2017年4月には、シンガポール企業として初のグリーンボンドとなる1億シンガポールドルの債券を発行しました。2019年4月には、新規不動産開発向けとして初の5億シンガポールドルのグリーンローンを組成しました。

2019年9月には、SDGイノベーションに連動する初のサステナビリティ・リンク・ローンとして、2億5,000万シンガポールドルを調達しました。2021年8月には、BCA Green Mark Platinum Super Low Energyのエグゼクティブ・コンドミニアム「Copen Grand」に対し、8億4,700万シンガポールドルのグリーンローンを組成しました。

2023年12月には、企業向けとして初のSBTiネットゼロ整合型1.5度ローンとして、2億英ポンドのサステナビリティ・リンク・ローンを調達しました。2024年6月には、企業による初のTNFD目標連動型として、4億シンガポールドルのサステナビリティ・リンク・ローンを組成しました。

2026年5月には、企業による初の自然を基盤とする解決策に連動したローンとして、3億シンガポールドルのサステナビリティ・リンク・ローンを調達しました。自然関連の目標を、融資条件と企業行動へ結びつける実例です。

CDL EcoTrainで、気候と自然の学びを日常の移動空間へ広げる

 CDLは、自然と気候に関する教育も進めています。刷新された「CDL EcoTrain」は、「Protect Our Glaciers!」をテーマとし、「Melting Ice, Sinking Cities」という展示を通じて、北極圏の温暖化、氷河の損失、海面上昇の影響を紹介します。

資料によると、2026年3月以降、10万人を超える来場者を迎えました。子どもと家族を含む多くの人が、列車内の展示と体験を通じて、気候変動と都市の関係を学ぶ取り組みです。

CDL MicroForest――高密度都市の暑熱と生物多様性へ対応する生きた研究拠点

 アン氏の発表の中心的な事例が、「CDL MicroForest」です。日本で開発された宮脇方式を応用し、数百平方メートル規模の土地でも、数年で密度の高い在来林を育てる考え方を取り入れています。

マイクロフォレストは、2025年3月10日、シンガポールのターマン・シャンムガラトナム大統領によって開設されました。面積は2,800平方フィートです。高密度都市における暑熱と生物多様性の損失へ対応する研究用の森として整備されました。

この場所は、都市環境における生態系の回復力、生物多様性の向上、微気候の効果を調べる「リビングラボ」として機能します。2025年3月と2026年3月の写真では、植栽が短期間で密に成長する様子が示されています。

資料には、マイクロフォレストで確認された生きものとして、Leopard Butterfly、Six-spotted zig zag ladybird、キノコ、Black-naped Oriole、Oriental Pied Hornbillが紹介されています。都市中心部へ在来の生物多様性が戻る様子を、具体的な写真で示しました。

1年間の調査で、最大5度の冷却と70%高い種の豊かさを確認

 1年間の調査では、都市の暑熱と生物多様性に関する複数の結果が示されました。

マイクロフォレスト内は、周辺の道路沿いの区域と比べて最大5度低い温度を記録しました。森の縁から1メートルから2メートル離れた場所でも、周辺気温が最大4度低下する「ハロー効果」が確認されました。

生物多様性については、環境DNAのサンプリングにより、隣接する芝生区画と比べて、種の豊かさが70%高い結果が示されています。

2026年には、City Square Mallの改修再開業に合わせ、マイクロフォレストをさらに2,800平方フィート拡張しました。樹種の80%を在来種とし、地域の生物多様性を強化しています。

この事例は、都市緑化の効果を、気温、生物種、空間の広がりという測定可能な指標で示しています。研究結果を公開し、建物と都市の計画へ活用できる実装モデルとして提示されました。

「グリーンスペース」から「グリーンインフラ」へ

 発表の終盤で、アン氏は、世界の多くの都市で熱波の頻度と強度が高まる中、高密度都市には、自然を都市に不可欠なインフラとして位置づける大きな機会があると示しました。

実装の方向は三つです。

一つ目は、公園に加えて、街路と建物の間の空間を冷やすことです。街路樹の樹冠と、日陰のある公共空間を整備し、人が日常的に歩く場所へ冷却機能を広げます。

二つ目は、屋上緑化と壁面緑化を通じて、垂直方向へ緑化を拡大することです。土地が限られる都市で、建築の表面を自然の機能を生かす場所として活用します。

三つ目は、宮脇方式を応用した都市型マイクロフォレストです。都市を冷やし、生物多様性を回復し、気候レジリエンスを高めます。

CDLの事例は、自然を不動産の付加要素として扱う段階から、建物と都市の性能を支える基盤として組み込み、測定し、開示し、融資へ結びつける一連の流れを示しました。

アン氏の発表を締めくくるメッセージは、「持続可能で健全な地球は、人々と企業が繁栄するために不可欠である」というものです。自然の健全性を、生活の質と事業の持続性を支える条件として捉えています。


三つのラウンドで振り返る「Nature as Infrastructure」の実装

 三人の発表を受け、モデレーション資料は、「価値」「実装」「2030年と普及」という三つのラウンドを設定しました。ここでは、三つの問いに沿って改めて整理します。

ラウンド1 自然をインフラとして組み込むと、何が変わるのか

 街が元気になる、みんな緑が好きである、ということでした。

 国土交通省は、グリーンインフラが生み出す価値を、環境的効果、社会的効果、経済的効果として整理しています。環境面では、水質と大気質の改善、蒸発散による気温の緩和、緑陰の形成、景観の形成、温室効果ガスの吸収などが挙げられました。社会面では、心理的な安定、ストレスの緩和、災害時の避難場所、延焼の抑制、雨水の貯留と浸透、斜面崩壊の防止などが示されました。経済面では、不動産価値の向上、魅力ある公共空間を活用したにぎわいの創出、地域経済の活性化、コスト低減、生産性と生活の質の向上が示されています。この多面的な価値は、一つの緑地が複数の目的へ同時に貢献することを表しています。大手町の森は、約3,600平方メートルの緑地によって敷地内の平均気温を1.7度低下させ、来訪者へ開かれた通路と毎月のイベントを提供し、自然の競争と選択が進む森として管理されています。おおはし里の杜は、道路施設の屋上で400種を超える動植物を育み、小学生の稲作体験の場となっています。雨庭は、約3平方メートルの小さな空間で年間26立方メートル以上の雨水を浸透させ、市民が施工と管理へ参加しています。国土交通省の「事業・投資のすゝめ」は、これらの効果を、事業と投資の判断へつなぐために整理したものです。価格、賃料、利回り、資産価値、不動産価値への波及を示し、自然の機能を経済価値の言葉で説明します。

 大林組は、建設価値が、設計と施工の工程に加えて、管理、利用、評価まで広がっています。ポケット草原は、企業の敷地を草原性種の生息場所とし、企業には四季の景観、環境教育、生物多様性の発信機会をもたらします。生物には、地域の遺伝的多様性を保ち、管理放棄や食害を避ける場所を提供します。なんばパークスでは、約5,300平方メートル、約10万株の緑化が、20年以上の管理によって都市の森として育ちました。鳥類調査では、周辺街路樹の4種に対し、パークスガーデンで11種が確認され、発表では地域全体で観察できる鳥類が15種へ増えたと説明されました。自然の価値を、植栽面積や景観だけで示す構成から、生物種の数という科学的な評価へ広げています。みんまちSHOPは、緑地を利用する価値を示しました。イベントを通じて、人が自然へ触れ、地域の人と交流し、共有空間への愛着を育てます。緑地は、建物の外構として存在しながら、地域の活動を支える場所としても使われます。

 CDLは、不動産価値が、建物の環境性能、健康、ブランド、ESG評価、資金調達へ連動しています。Tree Houseのグリーンウォールは、熱吸収を最大3度抑え、年間240万キロワット時を超えるエネルギーと、年間3万立方メートルの水を節約する効果が示されました。Amber Parkは、敷地の65%をランドスケープと施設へ充て、再生ゴムを使った600メートルのジョギングトラックで屋上庭園をつないでいます。CDL MicroForestは、自然の価値を都市の冷却と生物多様性の数字で示しています。周辺道路沿いより最大5度低く、森の縁から1メートルから2メートル離れた場所でも最大4度の気温低下が確認されました。環境DNAの調査では、隣接する芝生区画より種の豊かさが70%高い結果が示されています。CDLは、これらの取り組みと情報開示を、ESG評価と資本へのアクセスへつなげています。2017年以降に確保したサステナブルファイナンスは113億シンガポールドルを超え、2026年には自然を基盤とする解決策へ連動する3億シンガポールドルのローンを組成しました。

 ラウンド1に示された価値は、防災、治水、暑熱、健康、生物多様性、地域参加、建物性能、不動産価値、企業評価、資金調達に広がります。三つの発表は、それぞれ政策価値、建設価値、不動産価値を具体的な事例と数値で示しました。

ラウンド2 実装の壁を、制度、評価、維持管理、資金、参加の面から捉える

 長い時間に亘り、コストがかかること、手間がかかること、これに尽きそうです。

 実装のボトルネックとして、制度、調達、評価、維持管理、ファイナンス、地域合意を挙げています。国土交通省、大林組、CDLからは、それぞれの壁へ対応する仕組みが示されました。

 制度と標準化の面では、国土交通省のグリーンインフラ推進戦略2030が、七つの社会課題と事業を対応させ、2030年のKPIを設定しています。ウォーカブルなまちづくり、かわまちづくり、防災公園、雨庭、屋上緑化、都市緑地、河川環境など、分野ごとに目標を示し、進捗を管理します。評価の面では、国土交通省が多様な効果の見える化を六つの柱の一つに置き、定量的・定性的な評価手法とガイドラインの整備を進めます。大林組は、なんばパークスの鳥類調査で緑化効果を測り、CDLはマイクロフォレストで温度と環境DNAを測定しました。政策資料と企業事例の双方で、自然の効果を測り、説明できる状態へ整える取り組みが示されています。維持管理の面では、自然が時間とともに変化することを前提とした管理が必要です。国土交通省は、長期的、順応的、予防的な管理と、人材育成を実装時の留意事項に挙げています。維持管理手法を整理し、運用ガイドラインを策定する方針も示しました。なんばパークスでは、ガーデナーが常駐し、農薬を使わず、鳥類の餌となる昆虫を一部残す管理を20年以上続けています。大手町の森では、自然の競争と選択をモニタリングしています。CDL MicroForestは、リビングラボとして成長と生態系の変化を継続的に調べています。自然をインフラとして扱う際には、完成時の形を固定する管理より、変化を観察し、状態に合わせて対応する管理が中心になります。

 CDLは、グリーンボンド、グリーンローン、サステナビリティ・リンク・ローンを段階的に組成してきました。2017年の1億シンガポールドルのグリーンボンドから、2019年の5億シンガポールドルのグリーンローン、SDG連動ローン、2023年のSBTiネットゼロ整合型ローン、2024年のTNFD目標連動型ローン、2026年の自然を基盤とする解決策に連動するローンへと広げています。

 参加と地域合意の面では、国土交通省の雨庭、大林組のみんまちSHOPと参加型緑地管理、CDLのEcoTrainとマイクロフォレストが具体例になります。雨庭では、市民が施工、管理、モニタリングへ参加します。大林組は、テナント企業や地域住民へ、ネイチャーポジティブを実践する場を提供します。CDLは、EcoTrainで10万人を超える来場者へ学習機会を提供し、マイクロフォレストを研究、教育、都市の冷却、生物多様性の回復を同時に進める場所としています。

 調達と技術の面では、国土交通省が新技術とDXの活用を柱に掲げ、関連技術を開発する企業へ財政支援を行います。大林組は、透水性舗装Hydropave、OECMサイト、Circular Timber Constructionなど、建設技術と自然の機能を組み合わせた取り組みを示しました。CDLは、グリーンウォール、屋上庭園、在来種中心のマイクロフォレストを、実際の不動産と都市空間へ実装しています。

 ラウンド2で示された実装の要点は、制度を整え、効果を測り、長く管理し、資金を用意し、地域と利用者が参加し、技術を実際の場所へ適用することです。各資料は、この一連の工程を個別の担当領域へ分けながら、相互に接続できる形で示しています。

ラウンド3 2030年と国際普及へ向け、政策、事業、金融を接続する

 何より、人々の自然に対する「愛着」を大切にすること、これをレバレッジすること、これが、本日の結論とも言えます。

 制度設計の面では、国土交通省が2030年度までの計画期間を定め、七つの社会課題、分野別KPI、六つの横断的な環境整備策、ロードマップを組み合わせています。グリーンインフラの概念と効果を理解する社会、法制度、技術、資金調達の枠組みが整った社会、社会課題への選択肢としてグリーンインフラが採用される社会を目標にしています。

 事業連携の面では、行政と民間事業者が両輪となり、多様なステークホルダーと取り組むことが示されました。国と自治体は政策、公共事業、地域計画を担い、建設会社は設計、施工、維持管理、利用支援、評価を担います。不動産会社は建物と街区へ自然を組み込み、効果を測定し、情報開示と資金調達へつなげます。金融機関は、事業の評価、融資判断、金融商品の開発を担います。地域住民、テナント、NPO、学校は、利用、管理、学習、モニタリングへ参加します。

 国際展開の面では、国土交通省がグリーンインフラの評価枠組みのISO化を掲げています。国内の評価手法、維持管理、資金調達、事業実施の知見を、国際的に共有できる枠組みへ整えます。

 CDLは、シンガポールの高密度都市で、垂直緑化、屋上庭園、マイクロフォレスト、ESG開示、TNFD、自然関連ローンを組み合わせています。高密度で土地が限られる都市において、街路、建物の間、屋上、壁面、小規模な敷地へ自然を実装する方法を示しました。そして何よりファイナンスで実証しているのです。この取り組みをぜひ加速してほしいところです。

 2030年への普及は、事例の数を増やすこと、評価できる状態をつくること、維持管理を続けること、金融へ組み込むこと、国際的に共有できる基準を整えることによって進められます。三人の発表は、政策、現場、市場を順番につなぐ材料を提示しました。


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