ローカルゼブラは、地方創生とネイチャーポジティブを同時に解くことができるか?
この記事では、最近あちこちで耳にするようになった「ローカルゼブラ」という言葉と、「ネイチャーポジティブ」を、地方創生の現場でどうつなげていくかを、考えてみたいと思います。ローカルゼブラは地方創生とネイチャーポジティブを実装段階で接続する、現時点でもっとも筋の良い主戦略かもしれません。とくに自然資本が豊かな自治体にとっては、ローカルゼブラ育成は「数あるメニューのひとつ」ではなく、「地域経営の中核に据えるべきテーマ」になり得ます。ただし、成功している地域には共通の条件があり、失敗している地域にも共通のつまずき方があります。この記事では、国内外の事例を並べながら、何が違いを生むのかを丁寧に解きほぐしていきます。お茶でも淹れて、ゆっくりお付き合いいただければ嬉しいです。今日も楽しんでいってくださいね!
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ローカルゼブラ
中小企業庁の定義によれば、ローカルゼブラとは「事業を通じて地域課題の解決を図り、地域内外の関係者と協業しながら、社会的インパクトを生みつつ収益を確保する企業」です。
ポイントは三つあります。一つ目は、地域課題を事業で解くこと。補助金で課題を上塗りするのではなく、事業として自立させることが前提です。二つ目は、協業を重視すること。単独ヒーローではなく、多主体との連携が本質です。三つ目は、社会性と収益性を両立すること。ソーシャルセクターか営利企業かの二者択一ではなく、その間を担います。
「ゼブラ」という呼び名は、シリコンバレー発の「ユニコーン」への対抗概念として生まれた言葉です。ユニコーンが単独で急成長し、IPOでEXITを目指す一匹狼のイメージだとすれば、ゼブラは群れで協調しながら長く走り続ける存在です。白と黒の縞模様は、社会性と収益性の両立を象徴しています。
この「ゼブラ」に「ローカル」が付いた意味は重要です。地域資本を活かし、地域経済循環をつくり、地域の包摂的な成長に貢献し、最終的には地域への資本還流まで至るビジネス形態を指します。つまり、利益が地元に残る仕組みを内蔵した企業、という思想が埋め込まれているのです。

ローカルゼブラ、自然資本、ネイチャーポジティブという三つの概念は、それぞれ異なる系譜から生まれた言葉です。ローカルゼブラは中小企業政策、自然資本は国際統計、ネイチャーポジティブは国際環境政策から来ています。しかし、地域の現場では、この三つは分かち難く結びついています。自然資本が豊かな地域で、その資本を磨きながら稼ぐ事業者を育て、結果として自然資本が回復していく――これがネイチャーポジティブの地域版であり、ローカルゼブラが担うべき役割です。
共助領域の拡大と自然資本の再発見
公助と自助の間にある「共助」
人口減少と市場縮小が進む地域では、いま何が起きているのでしょうか。
行政だけでは支えきれないが、通常の営利企業だけでも成立しにくい――そんな領域が、じわじわと広がっています。中小企業庁はこれを、公助(行政)と自助(市場)の間にある「共助」の領域として整理し、その担い手としてローカルゼブラを重視しています。
具体的に何が共助領域に該当するかというと、森林整備、遊休不動産の再生、地域交通と観光の接続、再生型農業、里海保全、空き家活用、地域福祉、災害対応、地域エネルギー、子どもの学びの場づくりなどです。これらはどれも、行政の単年度事業だけでは続かず、かといって短期利益だけを追う企業モデルとも相性がよくありません。たとえば森林整備を考えてみてください。林業は利益率が低く、成果が出るまでに数十年単位の時間がかかります。純粋な市場原理だけで成立させるのは難しい。一方で、行政が直営でやろうとすると、単年度予算の制約と人員の問題で、継続的な管理が困難です。そこで、森林組合、製材業者、建築業者、地域金融、行政、住民が一緒に回す仕組みが必要になる。この「一緒に回す」ところを引き受けるのが、ローカルゼブラなのです。
地方創生とネイチャーポジティブ、なぜ「いま」、この二つが急速につながりつつあるのでしょうか。
一つ目は、従来型の地方創生施策の限界が、多くの自治体で共有されるようになったことです。企業誘致、観光PR、移住促進といった定番メニューだけでは、地域経済循環の構造的な改善に至らないことが、経験的に分かってきました。
二つ目は、自然資本への依存が経営の共通言語になってきたことです。TNFDやSBTN、ネイチャーポジティブ経済移行戦略といった枠組みが揃い、企業と自治体が同じ言葉で対話できる環境が整ってきました。

三つ目は、社会的インパクト投資の拡大です。短期の財務リターンだけではなく、社会・環境インパクトを評価して資金を動かす動きが、世界的にも日本国内でも広がっています。ローカルゼブラは、この資金の受け皿になりやすい。骨太方針2025で社会的インパクト評価を資金調達につなげる環境整備が明記されているのは、その表れです。
この三つが重なったところに、自然資本が豊かな自治体の勝ち筋が浮かび上がってきた、というわけです。
ローカルゼブラが、なぜ地方創生とネイチャーポジティブを解きやすいのか
ネイチャーポジティブな地方創生が難しいのは、地域に資源がないからではありません。
自治体の組織図を思い浮かべてみてください。森林は環境部局、観光は観光部局、農地は農政、空き家は建築、交通は企画、金融は別組織。縦割りのなかで、それぞれが真面目に仕事をしている。けれども、自然資本が事業に変わる動線も、事業が保全に還元される動線も、組織をまたいで自然には流れません。
ローカルゼブラは、その分断をまたいで動ける主体です。森を事業として考えるとき、木材、熱、建築、家具、教育、トレイル、食、ウェルビーイング、企業研修、といった多面的な展開が見えてきます。そして、その収益の一部を森の管理に戻すところまで設計できます。自治体の組織図にはない動線を、事業として引けるのです。

ネイチャーポジティブの要点は、自然を保全することと、人間活動を自然の再生に貢献する方向へ変えることの両方です。前者は環境部局が得意ですが、後者は環境部局だけでは難しい。産業側、金融側、教育側、住民側を巻き込む必要があります。この変換装置になりやすいのが、ローカルゼブラなのです。
人口減少地域では、行政が単独で雇用をつくることはできません。かといって、大企業の大型投資だけを待つのも現実的ではありません。
ローカルゼブラは、この間を埋める存在です。行政の補助金だけに依存せず、住民・金融機関・地元企業・外部人材・関係人口を巻き込みながら、地域課題を事業として継続させます。補助金は使いますが、補助金に依存はしません。事業として自立しながら、地域の共助の仕組みを動かす。これが、自然資本のように、長期管理と多主体連携が必要なテーマと非常に相性がよいわけです。
地方創生の現場でよく起きる失敗は、「良い計画はあるが、実行主体がいない」という状態です。総合戦略は立派にできている、ビジョンも美しい、でも実際に動く人がいない。あるいは、実行主体はいるけれど、その会社だけが儲かって、地域には恩恵が広がらない。
ローカルゼブラは、前者には実行主体として、後者には資本還流の仕組みとして効きます。この二つの弱点を同時にカバーできる主体は、実はそう多くありません。
地域資本の還流を前提としている
ローカルゼブラのもう一つの重要な特徴は、地域資本を使うだけでなく、最終的に地域へ資本を還流させることです。これは、地方創生にとって決定的な意味を持ちます。
自然資本が豊かな地域ほど、外から資本が入りやすく、観光客も来やすい。しかし、利益が域外に流出しやすいという構造的な罠があります。高級リゾートが建っても、運営会社、食材、設計、家具、交通、エネルギー、決済のすべてが外部依存なら、地域に残る価値は限定的です。雇用は発生しますが、単純労働の低賃金雇用にとどまり、地域の稼ぐ力の底上げにはつながりません。ローカルゼブラは、地域内調達、地域内雇用、地域内加工、地域内投資を組み込みやすい構造を持っています。完全に域内で完結させることは不可能でも、意識的に地域内循環の比率を上げていく発想を持っています。この「漏れを小さくする」設計ができるかどうかが、自然資本が豊かな地域の勝敗を分けます。

面で扱う発想と相性がよい
自然資本は、点で管理しても成果が出にくい分野です。森林は流域とつながり、里山は農地や集落とつながり、海は陸の土地利用とつながります。環境省が重視しているランドスケープアプローチは、土地や流域のつながり全体で考える方法論ですが、これは点の施策の積み上げでは実現できません。
したがって、自然資本を活かす事業も、単発の施設整備や単独企業の努力だけでは不十分です。面的な連携が必要になります。ローカルゼブラは、単独企業として存在するだけでなく、企業群として、中間支援組織や金融機関や自治体を含む生態系として育成されるときに、本来の力を発揮します。
ここは誤解されやすいポイントですので、強調しておきます。ローカルゼブラ育成を「スタートアップ支援」の延長で考えると、失敗しやすいのです。スタートアップ支援は一社ごとの成長を見ますが、ローカルゼブラ育成は地域全体の事業ポートフォリオを見る必要があります。森なら森、里海なら里海、温泉地なら温泉地という単位で、保全、観光、一次産業、建設、不動産、教育、金融を束ねる。ここまで設計して初めて、ネイチャーポジティブは環境施策ではなく、地域経営になります。
「もっとも実装しやすい主戦略」
ローカルゼブラは強力な選択肢ですが、万能ではありません。たとえば、流域治水、上下水道、基幹道路、学校、医療提供体制、森林境界の明確化、土地利用ルールの設計といった公共基盤の整備は、自治体や国の役割が大きい領域です。これらが弱いままローカルゼブラ育成だけを前面に出しても、局所的な成功にとどまります。
基礎インフラが整っていない地域で、いくら優秀な起業家を招いても、水道が止まる、道路が崩れる、学校が閉校する、医療機関がなくなる、では事業は続きません。自然資本が豊かな地域は、往々にして公共インフラの維持が厳しい地域でもあります。この両立をどう設計するかが、本当の勝負どころです。ですから、「ローカルゼブラこそ唯一の答え」と言うより、「ローカルゼブラは、公共基盤の上で自然資本を経済循環へ変える主戦略」と表現したほうが、実務的にも強い。公共基盤の整備とローカルゼブラ育成は、どちらか一方ではなく、両輪で進める必要があります。
「クイックウィン」は、短期成果ではなく、小さく勝って広げること
自然資本分野では、森林の再生も、生物多様性の回復も、一次産業の転換も、本来は時間がかかります。したがって、クイックウィンを「すぐに大きな経済効果が出ること」と定義すると、ほぼ必ず失敗します。では、クイックウィンとは何か。私の考えでは、「おおむね12か月から24か月で、保全と稼ぐ力が両立する小さな成功モデルを可視化し、横展開できる状態をつくること」です。具体的には、回遊時間の増加、地域内調達比率の上昇、空き家再生の件数、試験的な保全事業の成立、地域金融との案件形成、関係人口の拡大、といった手触りのある成果です。大規模工場誘致のような数百億円単位のインパクトは、まず出ません。しかし、再現可能な小さな勝ち筋をつくることは十分に可能です。

事例が示しているのは、この意味でのクイックウィンです。一気に地域全体が変わるわけではないけれど、具体的な事業が立ち上がり、地元企業が稼ぎ始め、地域外からも注目が集まる。それを見た別の事業者が「自分たちもやってみよう」と動き始める。この連鎖が、じわじわと地域を変えていきます。焦らないことが重要です。自然資本を使った事業は、数年単位で評価するのが適切です。ただし、数年後に「何も動いていない」状態を避けるために、最初の12か月から24か月で手触りのある成果を出す設計をする。これが、地方創生とネイチャーポジティブの両立の現実的なペース感です。
育成の対象は「会社」だけではなく、「会社群」と「中間支援」
三つ目の修正は、育成対象の捉え方です。
自然資本を使った事業は、単独企業では完結しません。山林所有者、加工事業者、宿泊、交通、飲食、教育、金融、行政、住民組織が関わります。中小企業庁のローカルゼブラ政策も、地域課題の構造分析や社会的インパクトの可視化を通じて、新たな関係者との連携・支援体制を構築する地域実証を重視しています。
つまり、育成の対象は単独企業ではなく、連携面そのものです。ここを外すと、自治体は「1社支援」をして終わり、地域は変わりません。
実務的には、「地域事業づくり会社」のような中間支援組織を、ローカルゼブラの一形態として位置づけるのが有効です。個別事業者を伴走し、事業ポートフォリオを設計し、金融との対話を担い、人材育成を行う。こうした中間支援機能は、単独の補助金では育ちません。継続的な運営費を担保する仕組みが必要です。基金、財団、協定、コンソーシアムなど、さまざまな形がありますが、どのような形であれ、中間支援が地域に根づいていることが、ローカルゼブラ生態系の必須条件になります。
事例で見る――日本の現場
ここからは、具体的な事例を見ていきます。日本の地域で、ローカルゼブラと自然資本の接続がどう起きているか、何が成功の鍵で、何が課題として残っているかを、追いかけていきます。

岡山県西粟倉村:森林を「管理対象」から「地域産業の核」へ
岡山県の北東端、鳥取県との県境にある西粟倉村は、面積のおよそ95パーセントが森林です。人口は1400人ほど。典型的な中山間地域です。
この村が注目されるようになったのは、2008年に策定された「百年の森林構想」がきっかけでした。先人が植えてきた森を、あと50年、村ぐるみで守り育て、100年の森林にしていこうというビジョンです。村は森林所有者と長期施業契約を結び、森林を集約管理する仕組みを整えました。間伐や作業道整備を計画的に行い、出てきた木材を内装材、家具、玩具、エネルギーなどに加工する流れをつくっていきました。
さらに注目すべきは、ローカルベンチャーの創出を進めたことです。村はA0(エーゼロ)という会社を中心に、起業家支援プログラムを展開し、森林活用、狩猟、魚の陸上養殖、飲食、メディアなど、多様な事業を立ち上げていきました。村の公表資料によれば、延べ100名以上の雇用と年間11億円規模の売上を生んだと整理されています。この事例の示唆は明快です。森林があるだけでは地方創生にはなりません。森林を預かる制度、加工する拠点、起業家を集める仕組み、村との関係、地域内で回る複数の事業群がそろって初めて、自然資本が雇用と所得に変わります。つまり、自然資本の豊かさそのものではなく、それを見出し、磨き、事業として束ねる主体の厚みが競争優位です。西粟倉村の本質は、森林資源の量ではなく、「森林を起点にしたローカルゼブラ生態系」をつくったことにあります。人口1400人の村が全国から注目されるのは、森があるからではなく、森を事業にする回路が整っているからなのです。
ただし、西粟倉村にも課題はあります。事業所減少や産業衰退リスク、担い手の高齢化、若者流出といった構造問題は、村自身が認識しているとおりです。成功している地域であっても、人口減少のトレンドから完全に自由ではありません。大切なのは、自然資本を活かした事業群が、この減少のスピードを緩やかにし、部分的に反転させていることです。完璧な勝利ではなく、現実的な踏みとどまり。これが中山間地域のリアルです。
宮城県秋保:通過型観光から、回遊・滞在型経済へ
仙台市の市街地から車で30分ほどの距離にある秋保温泉は、奈良・平安の時代から続く古い湯治場です。滝、渓谷、温泉、農産物、古民家、里山が連なる美しい地域ですが、長らく「仙台の奥座敷」として日帰り客中心の通過型観光地になっていました。課題は明確でした。日帰り客は多いが、滞在しない。住民は流出し、空き家や空き店舗が目立つ。温泉旅館は個別に頑張っているが、地域としての魅力を編集する主体がいない。
ここで動いたのが、秋保ツーリズムファクトリーという会社です。築160年の古民家を改修した拠点「アキウ舎」を整備し、サイクルツアーの拠点づくりを進めました。地元食材を活かしたメニュー開発、地域資源をつなぐ街歩き導線づくりにも取り組みました。一つひとつは派手な施策ではありませんが、地域全体のマーケティングと回遊設計を一貫して担う主体ができたことで、空気が変わり始めました。
経済産業省の事例資料では、その後、宿泊増加や新規出店の増加につながったと整理されています。中小企業庁のローカルゼブラ事例でも、秋保ツーリズムファクトリーは、地域全体のマーケティングと回遊設計を担う事業者として紹介されています。
この事例が示すのは、ネイチャーポジティブを自然保護活動に閉じ込めない視点です。秋保の価値は、滝、渓谷、温泉、農産物、古民家、サイクルルートなど、自然と文化が重なった地域景観にあります。これを「滞在時間を延ばす仕組み」と「地域の売上が落ちる場所を補修する仕組み」に変えたことが重要です。
自然資本が豊かな自治体のクイックウィンとは、新しい大きな箱物を建てることではありません。既存の資源をつなぎ直して、客の行動と地域内消費を変えることです。箱物は時間とお金がかかりますし、建てた後の運営リスクも大きい。一方で、既存資源の編集と回遊設計は、比較的短期間で成果が見えます。秋保のアプローチは、この意味で再現性が高いと言えます。
香川県三豊市:一社ではなく、地元企業連合で景観価値を域内循環へ
瀬戸内海に面した香川県三豊市には、URASHIMA VILLAGEという宿泊施設があります。荘内半島の先端近くに位置し、美しい海岸線と里山を見渡す立地です。高品質な宿泊体験を提供する施設として知られていますが、重要なのは建物そのものではありません。中小企業庁の資料によれば、この事業には地元のスーパー、建材店、家具製造、工務店、建設業、バス会社、レンタカー会社など11社が参画しています。それぞれが専門性を持ち寄り、宿泊体験をつくり、同時に地域経済を自分たちで回すことを目指しました。
事業者側の説明でも、外部ブランドホテルの誘致に頼らず、自ら地域内で事業を組み立てた点が強調されています。これは、地方観光開発の標準的なモデルとはかなり異なります。一般的には、外部の大手ホテルチェーンを誘致して雇用と税収を得る、というパターンが多い。三豊のアプローチは、地元企業が連合してブランドをつくる、という逆のベクトルです。
この事例が示すのは、ローカルゼブラは必ずしも「一社のスタートアップ」ではない、ということです。地元企業連合という形で、複数社が束になってローカルゼブラ的な機能を果たすこともできます。
自然資本が豊かな自治体ほど、景観や水辺や農地の価値は高い一方で、収益が宿泊一社に集中しやすい危険があります。美しい場所には高級リゾートが建ち、そのリゾートが地域のあらゆる利益を吸い上げる、という構造は、世界中の観光地で見られる現象です。三豊は、この構造を意識的に避け、宿泊を核にしながらも、交通、建設、家具、エネルギーまで地域内のサプライチェーンを組み込むことで、景観価値を域内循環へ変えようとしました。
これは、自然資本を起点にした「会社群としてのローカルゼブラ」の好例です。地元企業がもともと持っていた個別の強みを、景観価値という新しい市場で再編成する。このモデルは、他の地域でも応用可能な汎用性の高いアプローチです。
北海道厚真町:観光ではなく、一次産業の再設計から
北海道胆振地方の厚真町は、2018年の北海道胆振東部地震で大きな被害を受けた町として知られています。復興の過程で、いくつかの先進的な取り組みが進んでいます。
中小企業庁の資料では、厚真町のGOODGOODという会社が紹介されています。開発途中で空き地となっていた場所を活用し、再生エネルギーやIoTも使いながら、輸入飼料に頼り過ぎない持続可能な畜産を模索している会社です。牧草栽培から和牛生産、加工、卸、精肉、飲食までを一体で行う、いわゆるSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)を畜産で実践しています。
事業者自身も、自然資本や文化資本の価値を磨くことを掲げています。これは、単なる畜産ビジネスではなく、「この土地の自然と文化を、食として編集する」という発想です。この事例の価値は、ネイチャーポジティブを観光や教育に限定しない点にあります。自然資本が豊かな自治体では、農業、林業、畜産、漁業そのものの質をどう変えるかが、本質的な課題です。再生型農業や循環型畜産は、保全と所得の両立が難しい分野です。通常の商品化では、差別化が効かず、価格競争に巻き込まれやすい。
ローカルゼブラは、透明性、物語、加工、直接販売、一貫提供を通じて、その難しさを収益に変えやすい構造を持っています。どこで、誰が、どのように育てた牛肉なのか。どの自然資本を、どう守りながら生産しているのか。これを消費者に直接伝える回路を持てば、価格競争ではなく、価値提案での勝負ができます。厚真町のGOODGOODは、観光地化されていない場所でも、一次産業の再設計によってローカルゼブラ的な事業が成立することを示しています。観光資源に乏しい地域でも、自然資本を活かしたアプローチは可能なのです。
栃木県那須塩原市:自治体は「生態系の設計者」になれる
那須塩原市は、栃木県の北部にある人口約11万人の都市です。那須連山と那須野が原の豊かな自然に囲まれた地域で、酪農や観光が盛んです。この市が注目されるのは、2050 Sustainable Visionでネイチャーポジティブ、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーを三本柱に掲げ、市内の金融機関と「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けた共同宣言」を結んでいるからです。共同宣言の内容は、単なるアピールではありません。自然資本・生物多様性の視点を市の政策と金融機関の業務に組み込むこと、情報発信やビジネスマッチング、新事業・新サービス創出を通じて地域企業の持続的成長に資することが、具体的に示されています。
さらに、企業、団体、研究機関、個人などが連携する「ネイチャーポジティブ那須野が原アライアンス」も設けられています。金融機関、地域企業、農業者、研究機関、NPOなど、多様な主体が参画するコンソーシアムです。この事例が示すのは、自治体の役割は自ら事業をやることではなく、自然資本、金融、企業、研究機関、住民をつなぐ場を設計することだという点です。自然資本が豊かな自治体に必要なのは、単独の補助金メニューではなく、案件形成と資金循環の基盤です。補助金は一時的な支援にすぎませんが、金融との対話回路や、情報共有の場や、認証制度の活用といった「基盤」は、長期にわたって効きます。那須塩原市は、ローカルゼブラを直接名指ししていなくても、その育成に必要な土壌をかなり正しく整えていると言えます。
自治体の中には、「うちも何か新しい政策を打たなければ」と焦って、単発のコンテストやイベントに走るケースがあります。しかし、那須塩原市のアプローチを見ると、本質は派手な政策ではなく、地味な土壌整備にあることが分かります。地域金融機関との継続的な対話、研究機関との共同研究、地域企業との円卓会議。こうした積み重ねが、数年後にローカルゼブラの厚みを生むのです。
滋賀県東近江:中間支援と地域金融の力
滋賀県東近江市には、「東近江三方よし基金」という仕組みがあります。東近江市の自然資本、人工資本、人的資本、社会関係資本などの地域資本を活かしながら、課題解決を目指す多様な主体を支援する仕組みとして整理されています。
基金側の説明によれば、市民、事業者、研究者、行政などが一緒にまちづくりを考え、行動する仕組みづくりを重視しているとのことです。ここで重要なのは、ローカルゼブラを支えるのが、必ずしも単発の補助金ではなく、基金や対話や伴走支援であるという点です。
地方創生で見落とされがちなのは、中間支援の価値です。自然資本を活かした事業は、最初から銀行融資に乗るとは限りません。成果も売上だけでは測れません。創業期の事業者には、事業計画のブラッシュアップ、販路開拓、人材確保、補助金申請のサポートなど、細やかな伴走が必要です。
こうした伴走は、誰かがタダでやるわけにはいきません。運営費を担保する仕組みが必要です。地域基金、信用補完、伴走支援、社会的インパクトの言語化といった機能を、継続的に提供できる主体があるかどうか。ここが、地域によって大きな差が生まれる部分です。
東近江三方よし基金のような仕組みは、ローカルゼブラを「良い志のある事業者」で終わらせず、地域の制度インフラに変えるための条件を示しています。一社や二社の成功で終わらせるのではなく、後続の事業者が次々に生まれ続ける地域にするためには、この中間支援の厚みが重要です。
海外の事例から学ぶ――成功のパターンと失敗のパターン
視点を海外に広げて、いくつかの事例を見てみましょう。日本の事例だけでは見えない構造が、国際比較から浮かび上がってきます。

欧州のLEADER/CLLD:コミュニティ主導型の20年
欧州連合のLEADER(リエゾン・アントゥレ・アクシオン・ド・デヴェロップマン・ドゥ・レコノミー・リュラル)は、1991年から続く農村開発の枠組みです。後にCLLD(Community-Led Local Development)として、より広範な地域に拡張されました。
基本思想は、トップダウン政策の失敗認識への対応です。中央政府が一律の政策を打っても、地域の実情に合わず、成果が出にくい。そこで、地域活動グループ(LAG)という住民・事業者・行政の協議体を各地に設け、地域の優先課題を自分たちで決め、事業を選ぶ仕組みに切り替えました。
ウェールズの評価報告によれば、LEADERは700を超えるプロジェクトを支援し、社会関係資本、地域ガバナンス、事業成果の改善について評価データを残しています。地域の相談と資源を組み合わせる長期支援が「鍵」だと評価されています。
しかし同時に、課題も率直に記録されています。コミュニティ参画の代表性への懸念、地域アニメーションが「補助金配布」に寄る懸念、協力・知識共有の未達。この三つは、どの国でも、どの地域でも、起こりうる普遍的なつまずきです。
第一の「参画の代表性」は、LAGに誰が入るかという問題です。声の大きい人、時間のある人、既存のネットワークを持つ人ばかりが参加すると、本当に支援が必要な層の声が反映されません。結果として、既得権益の追認に近い意思決定になってしまう。
第二の「補助金配布化」は、中間支援組織が案件形成やマッチングではなく、補助金の配分事務に追われてしまう問題です。アニメーションと呼ばれる、地域を活性化するファシリテーション機能が、書類仕事に埋もれてしまう。
第三の「知識共有不足」は、地域間での学び合いが起きない問題です。似たような課題を抱える地域同士が、成功事例を共有し、失敗を回避できれば、全体の効率は大きく上がります。しかし、実際には各地域がバラバラに試行錯誤することが多い。
この三つの課題は、日本のローカルゼブラ育成を考えるうえでも、重要な示唆を与えます。自治体が連携面をつくるとき、誰が参画するか、何に時間を使うか、どう学び合うか。この三点を意識的に設計しないと、欧州のLEADERと同じつまずきを繰り返すことになります。
コスタリカのPES:森林保全への支払いの光と影
中米のコスタリカは、1996年に森林法を改正し、PES(Payment for Ecosystem Services、生態系サービスへの支払い)を制度化しました。森林を保全する土地所有者に対して、炭素固定、水源涵養、生物多様性保全、景観保全の対価を支払う、という仕組みです。
財源は燃料税です。化石燃料を使う人から税金を取り、その一部を森林保全への支払いに回す。原因者負担的な発想で設計されています。
この制度は、世界的に高く評価されてきました。累積で広い保全面積と支払い実績を持ち、森林伐採率の低下、生物多様性の回復、国際的な評価向上など、多面的な成果を挙げてきました。日本で自然資本ファイナンスを語るとき、ほぼ必ずコスタリカPESが引き合いに出されます。
しかし、近年の実証研究では、いくつかの弱点も指摘されています。
一つ目は、追加性の問題です。PESがなくても保全されていたはずの森林に対して支払っているケースがあり、効果が最初の1年に偏り、以後は有意でない可能性が示唆されています。つまり、本当にPESがあるから保全されているのか、PESがなくても保全されていたのか、区別が難しいのです。
二つ目は、財源構造のリスクです。脱炭素の進展に伴い、燃料税の税収は将来的に減少していきます。その時、森林保全への支払い財源をどう確保するかは、大きな課題になります。
三つ目は、遵守確保の難しさです。契約しても実際に保全されているかのモニタリングと、違反時の対応には相応のコストがかかります。制度設計の質が、成果を大きく左右します。
これらの課題は、日本で類似の仕組みを考えるときの教訓になります。森林由来のJ-クレジットや、自然共生サイトの認定など、日本でも自然資本の価値を経済化する仕組みが整いつつあります。しかし、追加性、財源持続性、モニタリングコストという三つの論点は、常に頭に置いておく必要があります。
ナミビアのコミュニティ保全区:自治と収益化の両立
アフリカ南部のナミビアは、コミュニティ保全区(Conservancy)という独自の仕組みで知られています。1996年の法改正で、地域コミュニティが自然資源の利用権を持つことが法的に認められました。
コミュニティ保全区では、住民が選挙で委員会を選び、憲章を持ち、自然資源の持続的利用で収益化を進めています。狩猟ツーリズム、写真ツーリズム、野生動物肉の販売、伝統的工芸品の販売などが主な収益源です。国際的な保全団体や援助機関の支援も受けながら、自治と保全と収益化を同時に回してきました。
ナミビアモデルは、アフリカにおけるCBNRM(Community-Based Natural Resource Management、地域自然資源管理)の代表例として、多くの途上国に影響を与えてきました。住民の自治を尊重しながら、野生動物の保全と生計の向上を両立させる、という理念は強力です。
ただし、近年の年次報告では、課題の指摘が増えています。最大の課題は、保全の直接コストに対して、観光・寄付中心の収益モデルが追いついていないという問題です。新型コロナウイルス感染症の影響で観光客が激減した時期に、この脆弱性が露呈しました。
人間と野生動物の軋轢も無視できません。ゾウやライオンが農作物を荒らしたり家畜を襲ったりする被害があり、住民が保全を続けるインセンティブが弱まる場面があります。補償制度や予防措置のコストも、収益の圧迫要因です。
この事例の示唆は、収益源の多様化の重要性です。観光一本足打法は、外部ショックに弱い。自然資本を活かした事業は、観光だけでなく、一次産品、加工品、教育、研究、カーボンクレジット、生物多様性クレジット、企業連携など、複数のチャネルを組み合わせる必要があります。
日本でも、自然資本が豊かな地域ほど、観光依存になりやすい傾向があります。しかし、観光は天候、景気、感染症、国際情勢など、多くの変数に左右されます。ローカルゼブラ生態系を設計するときは、最初から収益源の多様性を組み込むべきです。
メキシコのコミュニティ林業企業:垂直統合の価値
メキシコは、世界でも珍しいコミュニティ所有の森林面積が大きい国です。エヒードと呼ばれる共同体が、森林の所有権と管理権を持つ仕組みが、20世紀の土地改革を経て確立されました。
コミュニティ林業企業は、このエヒードが運営する林業経営体です。森林管理から伐採、製材、加工までを垂直統合で行い、地域の収入・雇用・公共財に貢献していることが、複数の研究で示されています。
この事例の示唆は、垂直統合の価値です。原木を伐ってそのまま外部に売るだけでは、付加価値の大部分は域外に流れます。製材、加工、販売までを自分たちで担うことで、付加価値を地域に留めることができます。
日本の林業は、長らく原木販売中心で、付加価値の域外流出が課題でした。近年、木材加工や家具製造、建築までを一貫して手がける事業体が増えてきたのは、この問題意識の表れです。西粟倉村のエーゼログループも、まさに垂直統合型の事業群です。
ただし、メキシコの研究では、治安不安定地域では到達コストが制約になると記述されています。どの国でも、ガバナンスの安定は事業成立の前提条件です。日本の場合、治安は安定していますが、過疎化と高齢化という別の形の不安定性があります。担い手が確保できなければ、どんなに良い事業モデルも回りません。
海外事例の総合解釈
これら四つの海外事例を並べると、いくつかの共通項が見えてきます。
第一に、どのモデルも、自然資本の経済化と地域の自治・参画を両立させようとしています。自然を守るだけでも、単に経済化するだけでもなく、両方を同時に追求する姿勢です。
第二に、どのモデルも、長期の時間軸で評価されるべきものです。1年や2年で結論を出せる話ではありません。10年、20年の蓄積が、ようやく構造的な変化を生みます。
第三に、どのモデルも、外部ショックに対する脆弱性を持っています。コスタリカは財源構造、ナミビアは観光依存、メキシコは治安、欧州は参画の代表性。成功しているモデルほど、自分たちの脆弱性を自覚し、対応を進めています。
第四に、どのモデルも、中間支援や連携面の設計が重要です。単独のプレーヤーだけでは回りません。法制度、金融、技術支援、教育、国際連携など、多層的なサポート構造があって初めて機能します。
日本のローカルゼブラ育成も、これらの普遍的な教訓を踏まえて設計されるべきです。海外事例をそのままコピーする必要はありませんが、共通するつまずきを回避する知恵は、大いに学べます。
事例から見える成功条件――五つの共通項
日本と海外の事例を横並びで見ると、成功条件はかなり共通しています。ここで、五つにまとめておきます。
共通項1:自然資本をそのまま売っていない
成功している地域は、自然資本をそのまま売ってはいません。必ず編集と加工が入っています。
西粟倉村なら、森林をそのまま売るのではなく、木材加工、家具、玩具、教育プログラム、ふるさと納税返礼品などへ展開しています。秋保なら、温泉や景観をそのまま売るのではなく、回遊設計、食、体験、宿泊の組み合わせで価値を編集しています。三豊なら、海岸線の景観を宿泊と地元食材と交通で編集しています。厚真なら、牧草地を畜産と加工と飲食で垂直統合しています。
自然そのものは、誰にでも見える素材です。差別化できません。差別化は、その素材をどう編集し、どう物語り、どう体験可能にするかで生まれます。自然資本が豊かな地域ほど、この「編集力」が勝負どころになります。
共通項2:単独企業ではなく、連携の束
成功している地域は、単独企業ではなく、連携の束で動いています。
西粟倉村は村と事業者群の連携、三豊は11社連携、秋保は地域事業者との連携、那須塩原は金融機関や研究機関との連携です。ローカルゼブラは、実際には「一頭のゼブラ」ではなく、「群れ」と「世話をする仕組み」が必要だと分かります。
単独企業のスタートアップ型発想で考えると、「一社の急成長」を追いがちです。しかし、地方創生とネイチャーポジティブを同時に達成するには、一社だけでは足りません。産業連関、雇用連関、教育連関、金融連関といった、面的なつながりが必要です。これは、単独企業の成長戦略とは、質の異なる発想を要求します。

共通項3:地域内循環の意識
成功している地域は、地域内循環を強く意識しています。
地域外から客や資金を呼ぶだけでなく、地元企業の参画、地元加工、地元調達、地元雇用を通じて、利益の漏れを小さくしています。三豊の11社連携、西粟倉の森林集約と地元加工、厚真の垂直統合、那須塩原の地域金融連携は、すべてこの循環を強化する仕組みです。
地方創生の成果を、来訪者数や移住者数だけで測ると、本質を見失います。本当に重要なのは、地域に残る付加価値の総量です。来訪者が多くても、消費のほとんどが大手チェーンに流れてしまえば、地域経済は豊かになりません。逆に、来訪者数は中程度でも、地域内調達率が高ければ、地域経済は確実に潤います。
ローカルゼブラが強いのは、この地域内循環を構造として作りやすいことです。創業時から「地元で調達する」「地元で雇う」「地元で加工する」という意識が埋め込まれています。これは、後から修正するのが難しいので、最初から組み込まれていることが重要です。
共通項4:可視化と言語化
成功している地域は、社会的インパクトや地域還流を言語化しています。
西粟倉村は雇用数、移住者数、事業所数を公表しています。三豊は参画企業数と役割を明示しています。那須塩原市はアライアンスの構成と共同宣言の内容を公開しています。東近江三方よし基金は支援実績を整理しています。
この可視化がないと、資金も仲間も集まりません。骨太方針2025やローカルゼブラ政策でインパクト評価が重視されているのは、このためです。自然資本は価値が見えにくい分野なので、なおさら可視化が必要です。
可視化は、単なる広報ではありません。内部のガバナンスとしても機能します。何を成果として追いかけているかを明確にすることで、組織の意思決定が整います。言語化されていない目標は、組織の中で異なる解釈を生み、混乱のもとになります。

共通項5:行政の役割が「土俵づくり」
成功している地域では、行政の役割が「補助金の配布」ではなく「土俵づくり」になっています。
那須塩原の金融連携、西粟倉の構想と制度、東近江の基金、厚真の復興と再設計などは、その典型です。自治体がすべきことは、事業者の代わりに売上を作ることではありません。自然資本の情報整備、ルール形成、連携面の設計、初期案件の信用補完、といった「土俵」を整えることです。

自治体職員の中には、「もっと直接的に事業者を支援したい」と考える方も多いと思います。その気持ちは理解できます。しかし、直接支援は短期的には効果が見えやすくても、長期的には自治体依存を生みます。土俵づくりは地味ですが、事業者が自立して伸びる基盤になります。
この五つの共通項は、どれも派手ではありません。一発逆転の魔法のような施策ではないのです。しかし、地道に積み重ねた地域が、結果として大きな差を生みます。
おわりに:自然資本を地域経営に変換する
ここまで、長い道のりをお付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、命題を実務に耐える形へ言い換えて、締めくくります。
ローカルゼブラは、地方創生×ネイチャーポジティブを解く「唯一の正解」ではありません。公共基盤の整備、土地利用規制、教育医療の維持、住民の自治など、ローカルゼブラ以外にも重要な要素は多くあります。
しかし、自然資本が豊かな自治体にとって、もっとも実装しやすく、政策とも整合し、地域内循環まで設計しやすい主戦略である、という評価は十分に成り立ちます。国の政策はすでに、自然資本を核とした地域づくりと、ローカルゼブラ育成、社会的インパクトの可視化、金融連携へ動き始めています。この流れを自治体経営に翻訳できるかどうかが、今後の差になります。

自然資本が豊かな自治体のクイックウィンの秘訣は、「自然があること」を売り込むことではありません。「自然資本を見出し、磨き、守りながら稼ぎ、その利益を地域へ戻すローカルゼブラを数社つくり、その周囲に金融、行政、住民、既存企業の共助の仕組みを組むこと」です。西粟倉、秋保、三豊、厚真、那須塩原、東近江の事例が示すのは、まさにそこです。
自然資本の量が勝敗を決めるのではありません。自然資本を地域経営に変換できる主体と仕組みの厚みが、勝敗を決めます。同じだけの森を持つ地域でも、この変換装置があるかないかで、数十年後の姿は大きく変わります。
ですから、自治体への提言を一文で言えば、こうなります。
自然資本が豊かな自治体は、観光振興、環境保全、一次産業振興を別々に進めるのではなく、ローカルゼブラ育成を軸に再統合すべきです。これが、地方創生とネイチャーポジティブを同時に前進させる、もっとも現実的で、しかも再現性のある道筋です。
この道筋は、派手ではありません。一気に人口が増えるわけでも、GDPが跳ね上がるわけでもありません。しかし、地道に積み重ねた地域が、10年後、20年後に大きな差を生みます。そして、この10年、20年は、日本の多くの自治体にとって、存続そのものが問われる時間でもあります。
自然資本が豊かな地域こそ、この時間を活かせるはずです。自然があることは、それだけでは強みになりません。自然を地域経営に変換する仕組みがあって、初めて強みになります。その仕組みの中核に、ローカルゼブラがあります。

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。この記事が、どこかの自治体の政策担当者、ローカルゼブラの経営者、地域金融機関の方、住民組織のリーダー、研究者、投資家の、小さなヒントになれば嬉しいです。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
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