アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第十五話
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♢主艇の帰還♢
アメミットとマアトが部屋を出てドアが閉まった瞬間、動力室の異変を知らせる警告音が船内に鳴り響いた。
けたたましいアラームの音に我に返ったトトは、緊急時とはいえ動力室に得体の知れない異物を持ち込ませたうえ、コアクリスタルに接続までさせてしまったことを激しく後悔する。
そんなトトの内心などどこ吹く風で、海王星は鳴り響く警告音と激しく点滅する回転灯を物珍しそうに眺め回すと、再びトトに向かい直し、さも楽しげに、にやりと笑う。
「私からのお話は済みましたし、地上に残してきた『私の分御霊たち』の様子も気になります。そろそろお暇いたしましょうか」
まるで彼らが自分のものになることは決定事項であるかのように、さらりと『私の分御霊』などと宣う様子にトトはぴくりと眉を上げる。
海王星はトトの苛立ちなど当然のように受け流すと、さらに笑みを深くする。
「それでは地上にて色良いお返事をお待ち申し上げておりますね」
そう言い残し、大仰な深いお辞儀をすると、ふわりと踵を返した瞬間、きらきらとした光のかけらを残して消えてしまった。
依然として鳴り響く警告音の中で海王星の残した光の粒を呆然と眺めていたトトとアヌビスだったが、低く伝わる船の起動音に思わず顔を見合わせる。アメミットとマアトが操舵室で計器の設定を始めたのだろう。
船の起動に伴い、コアクリスタルはその動きを一度完全に停止すると、しばしの静寂ののち、底から徐々に、まるで咲きかせた花が一気に開くように、内側から光を放ちながら回転を始めた。
そしてコアクリスタルは徐々に回転速度を上げてゆき、きいんという高く耳障りな音と共に爆発的な光を放ち始めた。
その凄まじい光景に、二人は一瞬顔を見合わせると、動力室を飛び出して操舵室へと向かっていった。
操舵室ではアメミットとマアトが忙しなく出立の準備をしていた。
「なぜ断りもなく船を起動した」
アヌビスが自席につきながらアメミットを詰る。アメミットはチラリと視線を動かしたものの、手元の操作を止めることはなく返事も寄越さない。
「私たちの分御霊を救うには帰還するしかないだろう。それに、こんな得体の知れない星にこれ以上留まるのはごめんだ」
同じく機械の設定に余念のないマアトが答えてきた。
「その得体の知れない星で無節操な行いをしてきたのはいったい誰だというのか」
自業自得だ、と吐き捨てるアヌビスの言葉には答えずにマアトは言葉を続ける。
「この船は羅針盤が起動すれば出立する。トト、お前は地上に降りる役目を受けたのだから、アヌビスの船に乗り換えてシリウスからの指示を待て」
トトは目を見開くと思わず叫ぶように切り返す。
「まさか、シリウスからの返信も待たずに帰還すると言うのか!それはあまりにも」
無責任だ、と続けようとするのを皆まで言わせずマアトは言葉を被せてくる。
「帰還と分御霊たちの維持に必要なコアクリスタルの量は先ほど計算した。少し余裕は見させてもらうが、残りはアヌビスの船に載せ替えたらいい。あとのことは委細任せた」
もはや話し合うことすらせずに逃げると言うのか。トトは自らに課せられた任務の重さに、改めて絶望を感じ始める。
あの得体の知れない星でひとり、難易度の高いキメラの分離作業を果てしなく続けることが、自分にできるのだろうか。
青ざめて俯くトトの肩にアヌビスがそっと手をかける。
アヌビスは軍人であるゆえ分離作業を手伝うことはできない。しかしながらこの星の事前調査を行い、今回の計画をスタートさせたのは自分である。その責任は大きい。彼に唯一できるのは、第三惑星と外宇宙の境界に自艇を待機させ、なにかあればすぐに助けに入れる体制を維持しておくことだった。
海王星は信用ならない。自分が不利となれば簡単にシリウスとトトを裏切るだろう。トトとの通信を切られないよう留意しなければ。
たくさんの思案をしつつ、アヌビスは不器用ながら、できるだけ柔らかな声でトトを労ろうとする。
「まずはオシリス様からの指示を待とう。そして、できるだけ多くのコアクリスタルを私の船に移したら少し休もう。私も少し疲れた」
トトは無言のまま小さく頷いた。
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