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アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第十四話


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♢コアクリスタル♢

コアクリスタルと呼ばれる高度に圧縮されたエネルギー体は、シリウスにとってだけではなく、宇宙開発を目指すすべての星にとって重要なエネルギー源として厳重に管理されている。

この船の動力室はまさにコアクリスタル研究の中枢であり、常であれば絶対に部外者を入れるような場所ではなかった。

しかし、もがき苦しんだ挙句、今まさに死の瀬戸際にある分御霊の姿を目の前に、船の誰もが動転していた。


トトは動力室の認証を解除するとドアを開けて海王星に入室を促した。

動力室の内部には、大小さまざまの青い正八面体(オクタヘドロン)が規則正しく配置され、常に回転しながら強い光を発している。

コアクリスタルが一番安定して働く形状が正八面体であると言うことすら研究を重ねて得られた重要な機密であり、実際に動力源として起動している姿はシリウスでも一部の高官にしか開示されていない情報だった。

海王星は、美しく光りながら回転する青い幾何学を眩しそうに見つめると静かに頷き、瀕死の分御霊たちを動力室へと転送する。

そして、ぐったりと横になる彼らを転送した氷で包み込み、コアクリスタルのエネルギーと繋ぎ合わせた。

「お二人には冷却措置を行いました。どれほどの効果があるかは未知ですが、残りの時間は限られていることは確かです」

切迫した事態をさらさらと話し、海王星はトトを振り返る。

「先ほどの私の提案については御検討いただけましたか?」

海王星の強い視線にトトは下を向いて口籠もる。

「分御霊の処遇についてはすべて特定の高官の管轄なのです。私ではなんともお答えしかねます。すぐに母星(シリウス)に伺いを立てますゆえ少しお待ちください」

トトは詳細を明かさなかったが、分御霊の管理についてはすべてシリウスの最高神官の一人である冥主(オシリス)が決定していた。

分御霊の再生や修理(リペア)の可否はすべてオシリスの決定でなされている。

今回の第三惑星開発計画の失敗による分御霊の大量損失に対しても、今後の行動の全てにおいてオシリスの判断を仰ぐ必要があった。

トトの返事を聞いて海王星は思案する。

通常通りの報告を行わせたところで色良い返事が返ってくるとは到底思えない。

思案しつつ周囲を眺めた海王星は、凍結した分御霊を目にした途端、にやりと笑う。

「なるほど、承知いたしました。シリウスからのお返事をお待ち申し上げます」

その言葉にあきらかに安堵した様子のトトに、海王星は言葉を続ける。

「ああそうでした。シリウスの皆々様に、もう一つ、とっておきのお土産を差し上げなければ」

海王星は、またしても遠くを見る目をすると、自らの手のひらにふうっと長く息を吹きかけて、ぐっと握り込み引き上げる仕草をする。

そこに、分御霊たちの姿が突然消えたのをあわてて追いかけてきたマアトとアメミットが駆け込んできた。

「いったい何をしている!ここはお前が立ち入るのを許されるような場所ではない!」

アメミットが叫んだ一瞬ののち、彼らの目の前に、突如として巨大なキメラの姿が現れた。

まさにアメミットの2倍はあろうかと言う質量のキメラは、頭は猛禽類でありながら、本来嘴があるべき場所には鰐の大きな口が尖った歯を覗かせて涎を垂らしている。

首から下は巨大な類人猿の姿であり、黒い毛むくじゃらの手足の先には鋭い爪が生えていた。

この巨大なキメラは、海王星の手によって地上で氷結された上でシリウスの船に転送されたために、崩れ去ることなく形を留めている。

海王星は氷結したキメラをコアクリスタルのエネルギーに接続すると満足げに頷いた。これでシリウスに到着する前にキメラが器を失うことはない。

あまりの事態にシリウスの船内はこの上ないパニックに襲われていた。

突然現れた醜悪なキメラの姿に、トトはもはや悲鳴にならない掠れた叫び声をあげて床にへたり込む。

アメミットとマアトは、自らが作り上げたキメラとはいえ実物を目の当たりにするのは初めてのことで、その巨大さと醜悪さに声も出せず震え、トトと同じく床にへたり込むだけだった。

そしてトトの悲鳴に動力室に駆け込んできたアヌビスも、ドアを開けた瞬間硬直したまま動かなくなってしまった。

「この素敵な作品をシリウスにお届けください。こちらをご覧いただければ話が早い筈です」

独り言のように楽しげに言うと、海王星はアメミットとマアトを振り返る。

「氷結処理は致しましたが、早く船を出さなければ溶け出します。大切なコアクリスタルのすぐそばで、可愛い分御霊とキメラが分解してしまいますよ?」

アメミットとマアトはあまりの衝撃に言葉もなく、二人して船の操舵室へと駆けて行った。


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「アトランティス奇譚」は2020年にnoteに発表した「アトランティス崩壊前夜」という物語を大幅に加筆・修正したうえで、2026年note創作大賞に応募しております。

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