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アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第十三話


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♢分御霊(わけみたま)♢

冷静に話を聞いていたトトも流石に青ざめる。

「それでは…もし本当に彼らが器を得てしまっているとすれば、あなたの示される救いとは、いったいどのような形なのでしょう」

地上に降り立った分御霊の帰還を全員諦めざるを得なくなるということは、今回の計画の大失敗を如実に示していた。

そこにどんな救いがあるというのか。

酷く動揺するシリウスの神々の姿に海王星はほくそ笑む。彼の仕掛けが見事に花開いたしるしだった。

ここで最後の一押し。
とうとう海王星の思い描いてきた夢が叶う時が来た。


海王星はにっこりと笑って提案する。

「地上の分御霊たちは全員私が引き受けます。とはいえ、キメラたちをそのままにされては、あまりの異様な姿にあなた方の大切な秘密である分御霊という存在が他の星に見つかる可能性も高いわけです」

海王星はスラスラと捲し立てる。

「トト様、あなたにしかできないことです。どうか地上に降り立ち、あの気の毒な分御霊たちから、できるかぎりキメラの細胞を分離してください。その際に取り外されたデータはシリウスに送ればいい。私たちは軍事データは要りません」

トトは思わず一歩後ずさる。
全てのキメラを分離せよというのか。
その役目を我が成すというのか。

「そうしていただけるのであれば、残された彼らの安全と幸福は私が責任を持って守ります」



宇宙空間を漂っていた暗い時代を経て、海王星は自らが育てた太陽系第三惑星の植物たちが見る夢の明るさに救われた。

彼らの夢は光にあふれ、ただ健やかに生き物たちが育つよろこびに溢れていた。

地上に生き物が増えるたび、夢も増えていく。海王星はその日々に満足していた。

風向きが変わったのはシリウスの分御霊たちが地上に降りてからだった。

彼らが地上で暮らし始めて数千年の時を経た時、海王星は、彼らとは全く別の場所で生まれた類人猿たちの知能が急激に上がったことに気がついた。類人猿たちが小さな群れを作り、協力し合うようになり、そして、より複雑な夢を見るようになったのだ。

それは、シリウスの分御霊たちの無意識が、地上を生きている他の生物に対して大きく影響を与えたことで引き起こされた現象に間違いなかった。

彼らの無意識は、地上の生き物たちとは比較にならないほどに深淵で、彼らの見る夢は、鮮やかで、物語に満ちていて、あまりに豊かだった。

それは、海王星にとって、今まで見た全ての夢が色褪せるほどの衝撃だった。

彼らの見る夢が欲しい。あの鮮やかな夢でこの星を満たしたい。

このままシリウスの分御霊たちが地上に定着すれば、いずれこの地上に産まれる生き物たちはすべて、彼らと同じように鮮やかで複雑な夢を見るようになるかもしれない。なんと理想的で蠱惑的な星になることか!

そう願っていた海王星にとって、今の状況は、まさに渡りに船だった。

あの醜悪なキメラたちさえ上手く分離できれば、もはや海王星の夢はすぐ手の届くところにある。



海王星のあまりの勢いに後ずさったトトの肩に、目を見開いたアメミットが掴みかかる。

「キメラたちは我が作り上げた傑作!分離などさせるものか!」

怒りに赤い瞳を燃え上がらせるアメミットに海王星はあくまで静かに告げる。

「そろそろ口を慎め。蛮行の後始末すらできもしない無能が騒ぐだけは立派なものだ」

怒りに燃えたアメミットにまともに対峙できるものはいない。あまりの怒りに誰もが恐れ、身を縮めるのが常である。

しかし海王星は少しの動揺も見せることなく、むしろ彼の怒りを受け流し、冷淡なまでに切り捨ててしまう。

「貴方がこの星に残るというならば、私は何も助けない。絶対にその罪を濯ぐことはさせない。最果ての星で己が罪と共に塵と消えるがいい」

凍りつくような表情を浮かべていた海王星は、突然浮かんだ一つのアイデアに、思わずにやりと笑う。

「貴方に何かできることがあると言うなら、自らの分御霊の命くらい助けたらどうか」

自らの分御霊を助ける?

不審な表情を浮かべるアメミットの目の前で海王星は遠くを見るような目をしてから手のひらに何かを握り込むような仕草をすると、そのままぐいっと引き上げる。

と、突然アメミットの目の前にキラキラとした光の粒が浮かびはじめ、次の瞬間、地上にいるはずのアメミットとマアトの分御霊が姿を表し、どさりと床に落下した。

あまりの驚きに動けずにいるアメミットとマアトの姿を見るや、二人の分御霊たちは目を丸く見開き、頬を紅潮させて喜びを表したものの、次の瞬間、自らの喉を掻きむしり、苦悶の表情を浮かべて苦しみ始めた。


その時の彼らは知る由もなかったことだが、この星の生き物たちは酸素を呼吸をすることでエネルギーを得て生きていた。二人の分御霊は一万年と言う長い時を地上で過ごすうち、酸素を取り込みエネルギーとする回路を転写し始めていたのだった。

それゆえ突然に宇宙空間に引き上げられたことで、酸素を失い苦しみ始めたのだ。


突然倒れ込んだ分御霊の姿に、彼らの分神たちは衝撃のあまり色をなくし、慌てふためくしかなかった。

分御霊たちはしばらく喉を抑え、手足をばたつかせて苦しんでいたものの、とうとうぐったりと気を失ってしまった。

アメミットとマアトは、目の前で起こった出来事が信じられない様子で、自らの分御霊たちの頬に触れたりゆすったり、なんとか意識を戻そうと躍起になっていた。

あまりにも無様な二人の姿に海王星は一人呟く。

「聞こえの良い言葉ばかり重ねるゆえ、どんな立派なものかと思えば、やはり何ひとつ理解していないのか」

そして、トトに向き直って静かに告げる。

「彼らは、今はまだ気を失っているだけですが、このまま放置すればすぐに死ぬでしょう。しかしながら、もし、シリウスのエネルギーと繋ぎ直すことができれば、母星の帰還までは命を保てるでしょう。彼らの器を、この船に搭載されているシリウスのエネルギーに接続することをお許しいただけますか?」

トトは一瞬躊躇したものの、青ざめて倒れ伏す分御霊たちが目に入ると苦しげに視線を揺らし、ぐっと唇を噛み締める。

そして、何か決意した様子で、下を向いたまま小さく頷くと、海王星を船の奥へと導いた。


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「アトランティス奇譚」は2020年にnoteに発表した「アトランティス崩壊前夜」という物語を大幅に加筆・修正したうえで、2026年note創作大賞に応募しております。

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