見出し画像

【W杯 2026】Group E/F - 敗者達の控え室 #1 |始まりは控え室

第1章 Group E/F - 敗者達の控え室


この物語について

『Group EF - 敗者達の控え室』は、FIFAワールドカップ2026のベスト32で大会を去った、Group E, Group Fの国々を擬人化し、敗者たちが控え室から大会の続きを見届ける非公式サッカー擬人化群像劇です。

 試合結果、対戦カード、サッカー史、報道などをモチーフにしていますが、登場人物はすべて創作上の擬人化キャラクターです。公式大会・各国協会・実在選手・実在団体とは関係ありません。

初めて読む方へ

この章の時系列

この章は、ベスト32で日本・オランダ・ドイツが敗退し、さらにフランス戦でスウェーデンも敗れたことで、Group Fが全滅する時点をモチーフにしています。

その後、Group Eのコートジボワール、エクアドル、キュラソーも控え室に合流し、Group E/Fの敗退国たちが「まだ帰らず、大会の続きを見届ける」ことを決める導入回です。


1. 最初に座っていた三人

雨上がりのスタジアム通路。
照明はまだ明るい。
歓声も、遠くでまだ揺れている。

けれど、敗れた国の足音だけが、急に小さくなる。

会場の奥。
誰も使っていない控え室。

古いベンチ。
消えかけたホワイトボード。
大型モニター。

そこに、日本、オランダ、ドイツが横並びに座っていた。


日本

「……負けた」

オランダ

「言わないで」

ドイツ

「事実だ」

オランダ

「事実だから嫌なの」

日本

「ブラジル、強かった」

オランダ

「モロッコもしぶとかった」

ドイツ

「パラグアイも、軽くなかった」

三人の前のモニターには、それぞれの敗退結果が並んでいる。

ブラジル 2-1 日本
オランダ 1-1 モロッコ PK負け
ドイツ 1-1 パラグアイ PK負け

オランダが、膝の上で拳を握った。

オランダ

「PKってさ、終わった後もずっと残るんだよね」

日本

「わかる」

オランダ

「わかってほしくないけど、わかってくれるとちょっと助かる」

ドイツ

「我々も、今はその側だ」

オランダが、ゆっくりとドイツを見つめる。

オランダ

「PKが得意なドイツがそれ言うの、だいぶ事件だよ」

ドイツ

「事件ではない。結果だ」

日本

「でも、結果だけじゃ終われない」

ドイツが、日本を見る。

ドイツ

「……そうだな」

日本はホワイトボードに書いた。

敗退は結果。
でも、意味はまだ決まっていない。

オランダがそれを見て、小さく息を吐く。

オランダ

「日本、こういう時すぐ整理するよね」

日本

「整理しないと、悔しさがそのまま残る」

オランダ

「私はそのまま残ってる」

ドイツ

「私もだ」

少しだけ、三人の空気が緩んだ。

その時、モニターの画面が切り替わる。


2. Group F、最後の一人

モニターに表示された次のカード。

フランス vs スウェーデン

日本が顔を上げる。

日本

「……スウェーデン」

オランダ

「え」

日本

「Group F、もうスウェーデンしかいない」

オランダの表情が変わる。

オランダ

「日本、私、チュニジア……もう敗退」

ドイツ

「残っているのは、スウェーデンだけか」

オランダ

「しかも相手、フランス?」

日本

「最強格」

オランダ

「やめて。言葉にすると余計に重い」

日本は立ち上がった。

日本

「行こう」

オランダ

「どこに?」

日本

「スウェーデンのところ」

オランダも立ち上がる。

オランダ

「行く」

ドイツが二人を見る。

ドイツ

「敗者が勝者に何を託すのか。見届けよう」

オランダ

「まだ勝者じゃないよ」

ドイツ

「なら、最後の希望だ」


3. 託されるスウェーデン

通路の先。
ピッチへ向かう入口の前に、スウェーデンが立っていた。

黄色と青の競技衣装。
濡れた金髪。
青い目は、まっすぐ前を見ている。

日本

「スウェーデン」

スウェーデンが振り返る。

スウェーデン

「日本。オランダ。……ドイツまで」

オランダ

「来た」

スウェーデン

「見ればわかる」

日本

「Group F、もうあなたしかいない」

スウェーデン

「知ってる」

オランダ

「相手、フランスだよ」

スウェーデン

「それも知ってる」

オランダ

「強いよ」

スウェーデン

「知ってる」

オランダが言葉に詰まる。

日本が一歩前に出る。

日本

「勝ってほしい」

スウェーデンは、日本を見た。
次に、オランダを見た。

スウェーデン

「5-1で私たちを倒したあなたが、今度は私に託すなんて」

オランダが顔を伏せる。

オランダ

「……うん」

スウェーデン

「変だね。世界大会って」

オランダ

「変だよ」

スウェーデン

「悔しくないの?」

オランダ

「悔しい」

スウェーデン

「じゃあ、どうして託すの」

オランダは、少し笑った。
悔しそうで、泣きそうで、それでもまっすぐな顔だった。

オランダ

「悔しいから」

スウェーデンは黙る。

オランダ

「私たちはあなたに勝った。
でも、私たちはもういない。
あなたはまだいる。
それが悔しい。
だから、お願い」

日本が続ける。

日本

「私たちの分まで、とは言わない。
でも、Group Fがここにいたことを、少しだけ持って行って」

スウェーデンは、二人を見た。

スウェーデン

「重い」

オランダ

「うん」

日本

「ごめん」

スウェーデン

「謝らなくていい。
重いものを渡されるのが、最後に残った国の役目なんだと思う」

少し離れた場所で、ドイツが腕を組む。

ドイツ

「敗者の願いは、勝者にとって重い」

オランダ

「ドイツ、いちいち重い」

ドイツ

「軽く言える話ではない」

その時、通路の影から声がした。

チュニジア

「なんか、お姉さんみたい」

全員が振り返る。

壁にもたれていたのは、チュニジアだった。
白と赤の競技衣装は泥で少しくすみ、紙コップを片手に持っている。

オランダ

「いたの?」

チュニジア

「いたよ。Group Fの壊れた側として」

日本

「チュニジア」

チュニジア

「なに。邪魔はしないよ。
ただ、日本とオランダに抱きつかれて、思いを託されて、フランスと戦うって……完全にお姉さんじゃない?」

スウェーデン

「姉さんじゃない」

チュニジア

「出た」

オランダが、スウェーデンに近づく。

オランダ

「ごめん。重いよね」

スウェーデン

「重い」

オランダ

「でも、持ってって」

日本も近づく。

日本

「お願いします」

二人は、スウェーデンに抱きついた。

スウェーデンは少しよろめいた。

スウェーデン

「ちょっと」

オランダ

「お願い」

日本

「見てるから」

スウェーデンは、二人の背中に手を置いた。

スウェーデン

「……わかった。持って行く」

チュニジアが少しだけ目を細める。

チュニジア

「いいなあ。
私もそういう、抱きつかれて託される側やってみたかった」

日本が振り返る。

日本

「チュニジアも、予選ではすごく強かったんだよね」

チュニジアが一瞬固まる。

チュニジア

「そういう真面目な励まし、効くからやめて」

日本

「ごめん」

チュニジア

「効いてない。ちょっとしか」


4. フランスが待っている

ピッチへ続く通路の先。

フランスが立っていた。

青を基調にした競技衣装。
赤い髪。
緑の目。
猫耳が、スタジアムの照明に少しだけ光る。

強者の余裕。
ただし、見下しではない。
本気で来る相手を歓迎する顔だった。

フランス

「Groupを背負って戦う?」

スウェーデンが前に出る。

スウェーデン

「そう見える?」

フランス

「いいね」

フランスは笑った。

フランス

「本気で来な。
背負ってるものがある方が、試合は面白い」

オランダが息を呑む。

オランダ

「強者の台詞……」

チュニジア

「言ってみたいね、ああいうの」

ドイツ

「言うには、勝ち残る必要がある」

チュニジア

「正論で刺さないで」

スウェーデンは振り返らない。

スウェーデン

「見てて」

そして、ピッチへ向かった。


5. Group F、全滅

モニターに試合が映る。

スウェーデンは走った。
寄せた。
跳ね返した。
何度も前へ出ようとした。

けれど、フランスは速かった。
強かった。
そして、容赦がなかった。

フランス 3-0 スウェーデン

試合終了。

控え室は、静かだった。

オランダ

「……終わった」

日本

「Group F、全滅」

チュニジア

「全滅って言葉、思ったより痛いね」

オランダ

「痛いよ」

チュニジア

「知ってる。
先に壊れてたから」

ドアが開く。

スウェーデンが戻ってきた。

濡れた金髪。
泥のついた膝。
青い目は、悔しさを飲み込んでいた。

オランダが立ち上がる。

オランダ

「スウェーデン」

スウェーデン

「勝てなかった」

日本

「でも」

スウェーデン

「でも、じゃない。勝てなかった」

その言葉は、震えていなかった。
だから、重かった。

オランダは何も言わず、スウェーデンに抱きついた。

今度は、託すためではなかった。
戻ってきた相手を受け止めるためだった。

スウェーデンは、少しだけ目を閉じた。

チュニジア

「やっぱり、お姉さんみたい」

スウェーデン

「姉さんじゃない」

その声は、いつもより少しだけ弱かった。


6. Group Eも、全滅

ドイツがモニターを見た。

表示が切り替わっていた。

ドイツの表情が変わる。

ドイツ

「……Group Eもだ」

日本

「え?」

ドイツはホワイトボードの前に立つ。

すでに書かれている。

日本 敗退
オランダ 敗退
ドイツ 敗退
スウェーデン 敗退
チュニジア 敗退

ドイツは、空欄だった名前を書き足した。

コートジボワール 敗退
エクアドル 敗退
キュラソー 敗退

ペンの音だけが響く。

オランダ

「Group Eも、全滅」

ドアが開いた。

コートジボワールが入ってくる。
長い黒髪は雨で濡れ、オレンジと緑の差し色が暗く沈んでいる。
でも、目は折れていなかった。

その後ろに、エクアドル。
静かな目。
まだ言葉を選んでいる顔。

さらに、キュラソーが顔を出した。
青い髪。
星の飾り。
初出場の大会を、まだ手放したくないような目。

コートジボワール

「ここにいたのか」

ドイツ

「ここしかなかった」

エクアドル

「……みんな、同じ文字が書かれてる」

キュラソーがホワイトボードを見る。

八つの国名。
その横に、同じ言葉。

敗退

キュラソー

「みんな、帰るの?」

誰も、すぐには答えなかった。

外では、次の試合の歓声が上がっている。
大会は止まらない。

敗者が立ち止まっても、勝者は次へ進む。


7. まだ帰らない理由

日本が、ホワイトボードの前に立った。

日本

「帰ってもいいんだと思う」

オランダ

「うん」

日本

「でも、私はまだ見たい。
私たちを倒したブラジルが、次に何をするのか」

オランダが顔を上げる。

オランダ

「私はモロッコ。
悔しいけど、見ないと気が済まない」

ドイツ

「パラグアイだ。
我々を倒した意味を、どう扱うのか見届けたい」

コートジボワール

「ノルウェー。
私たちを倒したなら、軽く負けるな」

スウェーデン

「フランスを見る。
私たちを倒した国が、どこまで行くのか」

チュニジア

「私は……モロッコとエジプトかな。
アフリカ勢がピッチで残ってるところを見たい」

少し間を置いて、チュニジアは続ける。

チュニジア

「次はニュースじゃなくて、ピッチで残りたいし」

エクアドルが静かに言う。

エクアドル

「メキシコ。
私たちを倒した国が、どんな場所を持っているのか見たい」

最後に、キュラソー。

キュラソー

「私は、カーボベルデ」

全員が見る。

キュラソーは、少し恥ずかしそうに笑った。

キュラソー

「初出場だから。
私たちはすぐ終わっちゃったけど、初めての大会がどう続くのか、見たい」

チュニジアが柔らかく笑う。

チュニジア

「いいね。初出場仲間」

日本は、ホワイトボードの一番上に新しく書いた。

敗者達の控え室

オランダがそれを見る。

オランダ

「そのまんまだね」

日本

「仮タイトル」

チュニジア

「じゃあ、活動名はこっち」

チュニジアは紙コップを掲げる。

チュニジア

「敗退の意味を探る亡霊たち、活動開始」

キュラソー

「かっこいい!」

ドイツ

「亡霊はどうかと思う」

オランダ

「でも、今の私たちっぽい」

スウェーデン

「帰ってないしね」

エクアドルが、ホワイトボードの八つの名前を見る。

エクアドル

「負けた試合は、もう変わらない」

部屋が静かになる。

エクアドル

「でも、負けの意味は、まだ動く」

チュニジアが何か言いかけた。

けれど、少しだけ遅かった。

チュニジア

「……そのセリフ、私が言いたかった」

キュラソーが笑う。
オランダも少し笑う。
日本は、その言葉をメモ帳に書いた。

日本

「じゃあ、見よう」

ドイツ

「何を」

日本

「私たちの敗退の続き」

モニターには、次の試合の映像が流れている。

勝者たちは、前へ進む。
敗者たちは、控え室に残る。

それは諦めではない。
未練だけでもない。

自分たちを倒した国が、次に何を背負うのか。
自分たちの敗退が、どんな意味に変わっていくのか。

それを見届けるために、八人はまだ帰らなかった。


第1章 敗者達の控え室 了

ここまで読んでいただきありがとうございます。
続きが気になった方は、スキやフォローで応援してもらえると励みになります。
次回も、敗者たちの控え室から大会の続きを見届けます。


続き・前回はこちら

次回:#2 |帰らぬ八つの理由


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集