【W杯 2026】Group E/F - 敗者達の控え室 #19|四強を知る赤い悪魔|ベルギーの来訪
第19章 四強を知る赤い悪魔
この物語について
『Group EF - 敗者達の控え室』は、FIFAワールドカップ2026のベスト32で大会を去った、Group E、Group Fの国々を擬人化し、敗者たちが控え室から大会の続きを見届ける非公式サッカー擬人化群像劇です。
試合結果、対戦カード、サッカー史、報道などをモチーフにしていますが、登場人物はすべて創作上の擬人化キャラクターです。公式大会・各国協会・実在選手・実在団体とは関係ありません。
初めて読む方へ
この章の時系列
この章は、ワールドカップ2026準々決勝の終了後。
ノルウェーが敗者の控え室へ加わった翌日をモチーフにしています。
準決勝に残ったのは。
フランス。
スペイン。
イングランド。
アルゼンチン。
大会抽選時、世界ランキングの上位にいた四カ国が別々の道を進み。
最後の四つまで残りました。
Group E/Fの八カ国とノルウェーは、
それぞれが持つ、四強との対戦記憶を語り始めます。
しかし、
長い歴史を知るドイツとも、今大会を知るノルウェーとも違う。
現在の四強すべてと、近年の世界大会で対戦した国がいました。
赤い悪魔。
ベルギーです。
1.書かれた名前
ノルウェーが加わった翌日。
敗者の控え室には、九人がいた。
壁際。
スウェーデンの隣には、ノルウェーが座っている。
二人の間に、ほとんど隙間はない。
それでも。
スウェーデンは、姉妹ではないと言い張っていた。
日本は、ホワイトボードの前に立っている。
中央には、準決勝へ進んだ四カ国。
フランス。
スペイン。
イングランド。
アルゼンチン。
その少し横。
小さく、もう一つの名前が書かれていた。
ベルギー。
キュラソー
「来るかな?」
オランダ
「本人には、何も言ってないんでしょ?」
日本
「言ってない」
チュニジア
「勝手に名前を書いて、本人待ち」
チュニジア
「かなり怪しい集会になってきたね」
ドイツ
「来ると決まったわけではない」
ノルウェー
「来なかったら?」
日本
「私たちだけで整理する」
オランダ
「来た方が面白いけど」
その時。
扉の外から、声がした。
ベルギー
「人の名前を勝手に書くなら」
ベルギー
「せめて、本人にも見せてくれる?」
九人が振り返る。
扉が開いた。
赤と黒を基調にした競技衣装。
目の下には、まだ消えきらない疲れ。
しかし。
口元には、少しだけ不敵な笑みがあった。
キュラソー
「本当に来た!」
ベルギー
「ここが噂の」
ベルギーは、部屋の中を見渡す。
ベルギー
「敗退しても、なかなか帰らない国が集まっている控え室か?」
チュニジア
「噂になってるの?」
ベルギー
「敗者の間ではね」
キュラソー
「有名なんだ!」
ドイツ
「喜ぶところではない」
ベルギーは、ホワイトボードへ近づく。
自分の名前を見る。
ベルギー
「それで」
ベルギー
「どうして私の名前がある?」
2.敗れたからではない
日本は。
ホワイトボードに書かれた、四つの名前を指す。
日本
「フランス」
日本
「スペイン」
日本
「イングランド」
日本
「アルゼンチン」
日本
「近年の世界大会で、この四カ国すべてと対戦しているから」
ベルギーは、少しだけ目を細める。
ベルギー
「だから呼んだ?」
日本
「呼んではいない」
チュニジア
「名前を書いて待ってただけ」
ベルギー
「その方が怖いね」
ノルウェーが、スウェーデンの隣からベルギーを見る。
ノルウェー
「あなたも、誰かに託されたの?」
ベルギー
「誰にも」
ベルギーは、短く答えた。
ベルギー
「敗れた国なら、他にもいる」
モロッコ。
スイス。
ベルギー。
ノルウェー。
準々決勝で大会を去った四つの国。
ベルギー
「だが、準々決勝で負けたからという理由なら」
ベルギー
「私だけがここに来るのは、おかしい」
日本
「うん」
日本
「あなたを、準々決勝敗退国として待っていたわけではない」
ベルギーは。
もう一度、四強の名前を見る。
日本
「今の四強を知る者として」
ベルギー
「なるほど」
ベルギーの表情から。
少しだけ警戒が消えた。
ベルギー
「それなら、話は早い」
3.二十四年前のGroup H
最初に近づいたのは、オランダだった。
オランダ
「遅かったね」
ベルギー
「隣の国なのに?」
オランダ
「隣だから」
ベルギー
「ニュース対応で忙しかったんだよ」
オランダ
「監督の話?」
ベルギーの口元から、笑みが少し消える。
スペイン戦。
クルトワは、脚に痛みを抱えながら続行を望んだ。
監督は交代を選び。
代わって入ったラメンスの前へ、スペインの決勝点が入った。
敗退後。
ベルギー国内では、誰の判断が正しかったのかという議論が続いていた。
ベルギー
「敗退すると」
ベルギー
「急に全員が監督になる」
チュニジア
「昨日、同じこと言った」
ベルギー
「なら、経験者の意見は一致したね」
オランダ
「クルトワは?」
ベルギー
「続けたかった」
オランダ
「ラメンスは?」
ベルギー
「自分のせいだと思ってる」
ベルギーは、少し間を置く。
ベルギー
「だからクルトワが、最初に慰めた」
エクアドルは、静かにうなずく。
エクアドル
「同じ場所を守った者だから」
ベルギー
「そうだと思う」
次に。
日本が、ベルギーの前へ立った。
日本
「あなたが、こちら側へ来るとは思わなかった」
ベルギーは。
日本の顔を見て、少しだけ困ったように笑う。
2018年。
日本はベルギーから二点を奪った。
それでも。
最後には、ベルギーが三点を返した。
日本の続きを。
ベルギーが持っていった大会。
ベルギー
「私も」
日本
「八年前は」
日本
「あなたが、私たちの続きを持っていった」
ベルギー
「今回は」
ベルギーは、スペインの名前を見る。
ベルギー
「あの国に持っていかれた」
日本は、小さくうなずく。
その横から。
チュニジアが顔を出す。
チュニジア
「私のこと、覚えてる?」
ベルギーは、チュニジアを見る。
ベルギー
「七点入った試合を、忘れると思う?」
同じく2018年、グループステージ。
ベルギー 5-2 チュニジア。
チュニジア
「こっちは五点取られた側なんだけど」
ベルギー
「二点取られた側でもある」
チュニジア
「勝った国は、内訳に余裕があるね」
ベルギーは、日本とチュニジアを交互に見る。
ベルギー
「でも」
ベルギー
「この三人で顔を合わせるのは、2018年が最初じゃない」
日本が、少しだけ目を見開く。
日本
「2002年」
チュニジア
「Group H」
日本。
ベルギー。
チュニジア。
そして、ロシア。
二十四年前。
三カ国は、同じグループにいた。
ベルギー
「最初に、日本と二対二」
チュニジア
「次に、私と一対一」
日本
「最後に、私とチュニジアが二対〇」
チュニジア
「同窓会で成績表を読み上げるの、やめない?」
ベルギー
「日本と私は、あの組を突破した」
チュニジア
「知ってる」
チュニジアは、少しだけ目を細める。
チュニジア
「二十四年前から知ってる」
日本
「この十カ国で」
日本は、部屋にいる国々を見回す。
日本
「三カ国以上が同じグループに入った過去大会は」
日本
「2002年のGroup Hだけ」
ドイツ
「ただし、今大会は違う」
ドイツは。
ホワイトボードの端に書かれた二つの文字を見る。
Group E。
Group F。
Group Eには、
ドイツ。
コートジボワール。
エクアドル。
キュラソー。
Group Fには、
日本。
オランダ。
スウェーデン。
チュニジア。
キュラソー
「四人ずつ!」
ノルウェー
「二つの同窓会が、ここで合流した?」
チュニジア
「同窓会というより、合同反省会」
オランダ
「ベルギーは?」
チュニジア
「2002年の同窓生枠」
オランダ
「私の隣国枠」
ベルギー
「席を増やす理由が多いな」
日本
「二カ国ずつ同じグループだった例まで数えると、もっと多い」
チュニジア
「それは次の同窓会まで取っておこう」
控え室は。
敗者の観測室であり。
二つのグループの同窓会であり。
二十四年前のGroup Hが。
思いがけず再会する場所にもなっていた。
4.四つの年
ベルギーは、
ホワイトボードの前に立った。
ベルギー
「アルゼンチンは、2014年」
日本が、年を書き加える。
ベルギー
「フランスとイングランドは、2018年」
さらに、二つの年。
ベルギー
「スペインとは」
ベルギーは、一度言葉を止める。
ベルギー
「つい昨日」
四強すべてとの対戦。
しかも。
遠い過去の記憶だけではない。
現在の選手たちへ、直接つながる時間。
キュラソー
「四人とも知ってるんだ」
ベルギー
「知っているというより」
ベルギー
「傷が四つある」
オランダ
「その言い方なら、私も得意」
ベルギー
「あなたは、偏ってるでしょ」
オランダ
「アルゼンチンとスペインに?」
ベルギー
「かなり」
ドイツが、ベルギーの書いた年を見る。
ドイツ
「対戦数なら、私の方が多い」
ベルギー
「知ってる」
ドイツ
「大会終盤での対戦も」
ベルギー
「それも知ってる」
ベルギーは、少しだけ笑う。
ベルギー
「昔の四強を知りたいなら」
ベルギー
「あなたに聞けばいい」
ベルギーは、自分の書いた四つの年を指す。
ベルギー
「今の四強を知りたいなら」
ベルギー
「私が話せる」
ノルウェーが、手を上げる。
ノルウェー
「今大会のフランスとイングランドなら」
ノルウェー
「私も」
スウェーデン
「私も、その二つ」
オランダ
「やっぱり姉妹」
スウェーデン
「違う」
日本は。
ホワイトボードの隅に、三つの言葉を書く。
歴史。
現在。
今大会。
日本
「歴史は、ドイツ」
日本
「現在の四強を横断しているのが、ベルギー」
日本
「今大会のフランスとイングランドを知るのが、ノルウェー」
スウェーデン
「私も」
日本
「スウェーデンも」
チュニジア
「姉妹枠で追加」
スウェーデン
「対戦経験枠」
ベルギーは、その三つの言葉を見る。
ベルギー
「悪くない」
ドイツ
「上から目線だな」
ベルギー
「昨日負けたばかりだから」
ベルギー
「少しくらい、格好をつけさせて」
5.強い順に残ったのか
キュラソーは。
四強の名前を順番に見る。
キュラソー
「この四人って」
キュラソー
「強い順に残ったの?」
ドイツ
「大会抽選時のランキングでは」
ドイツ
「上位四カ国だった」
抽選の時。
四カ国は、別々の経路へ置かれた。
準決勝まで。
互いに当たらないように。
そして。
本当に全員が、準決勝までたどり着いた。
キュラソー
「じゃあ、予定通り?」
チュニジア
「大会が、ランキング表を綺麗に清書したみたいだね」
日本
「結果だけを見れば」
ベルギー
「予定通りに見えるのは」
ベルギーは。
四強の後ろに書かれた国々を見る。
モロッコ。
ベルギー。
ノルウェー。
スイス。
その前には。
さらに多くの敗者がいた。
ベルギー
「途中で消えた国を、見なかったことにした時だけだよ」
エクアドルが、静かに続ける。
エクアドル
「四つの名前だけを見れば、順番通り」
エクアドル
「そこへ続く線を見れば、同じ道は一つもない」
ベルギーは、エクアドルを見る。
ベルギー
「この部屋」
ベルギー
「そういう言い方をする国がいるんだね」
チュニジア
「油断すると、急に綺麗な言葉を刺してくるよ」
エクアドル
「油断しなければいい」
チュニジア
「対策が難しい」
6.怪物を知る三つの距離
日本は。
最初の名前を囲む。
フランス。
ノルウェー
「四点取られた」
スウェーデン
「私は三点」
二人が、並んで同じ名前を見る。
オランダ
「姉妹で七点」
スウェーデン
「足さないで」
ベルギー
「私は、一点だけだった」
2018年。
ベルギーは、
自分たちの歴史でも、最も強いチームの一つを連れて。
準決勝へ来た。
ブラジルを倒し、
優勝へ、あと二試合。
だが、
フランスは、一つのコーナーキックから得点し。
その一点を、最後まで守った。
ベルギー
「一番強いと思っていた大会で」
ベルギー
「一点だけ取られて終わった」
キュラソー
「一点だけ?」
ベルギー
「準決勝では」
ベルギー
「一点で十分なんだよ」
ドイツが、うなずく。
ドイツ
「フランスは」
ドイツ
「美しく勝つ必要がないことを知っている」
ノルウェー
「今大会も」
ノルウェー
「四点取れるのに、一点でも勝てる」
スウェーデン
「強さの種類を選べる」
ベルギーは、チュニジアを見る。
ベルギー
「前回大会だから覚えてる」
ベルギー
「あなたは、そのフランスに勝ったことがあるんでしょ?」
チュニジア
「勝って悪かったね」
2022年。
57分、ハズリのシュートで試合が決まった。
チュニジア 1-0 フランス。
ベルギー
「どうやって?」
チュニジア
「勝った話の続きは」
チュニジアは、フランスの隣にあるスペインを見る。
チュニジア
「対戦予想をする時に取っておく」
日本
「ちょっとカッコいい」
チュニジア
「たまにはね」
フランスを知る距離は、
一つではなかった。
ドイツが知る、長い歴史。
ベルギーが知る、近年の準決勝。
ノルウェーとスウェーデンが知る、今大会の強度。
チュニジアが知る、
倒せる一日と。
それでも残れなかった大会。
同じ国を見ていても。
見えている怪物は、少しずつ違っていた。
7.支配を壊した記憶
次の名前。
スペイン。
ベルギーの表情が、少しだけ硬くなる。
ベルギー
「今、一番新しい傷」
日本
「どうだった?」
ベルギーは、少し考える。
ベルギー
「一度に壊してくる国じゃない」
ベルギー
「こちらへ、ずっと選ばせる」
前へ出るか。
下がるか。
中央を閉じるか。
外を捨てるか。
一つ選べば。
別の場所が開く。
ベルギー
「何度も選ばされて」
ベルギー
「最後に、一歩遅れる」
クルトワが離れ。
ラメンスが入った後。
ベルギーの最後の一歩が、遅れた。
日本
「でも」
日本
「勝てない相手ではない」
ベルギーが、日本を見る。
日本
「2022年に勝った」
キュラソー
「どうやって?」
日本
「中央を閉じて」
日本
「奪った瞬間だけ、相手の背後へ出た」
日本は、ホワイトボードに短い矢印を書く。
自陣から。
外側の空いた場所へ。
日本
「ボールを持たない時間を」
日本
「何もしない時間にはしなかった」
ベルギー
「その話」
ベルギーは、フランスとスペインの名前を交互に見る。
ベルギー
「次の試合の前に、もう少し詳しく聞きたい」
日本
「そのつもり」
オランダが、ソファから身を乗り出す。
オランダ
「私は、決勝で負けた」
2010年。
延長戦。
あと少しで、PK戦。
だが。
スペインの一撃で。
オランダの三度目の決勝は終わった。
オランダ
「その四年後」
オランダ
「五対一で勝った」
キュラソー
「同じ国に?」
オランダ
「同じ名前の国に」
オランダは、少しだけ遠くを見る。
オランダ
「同じ相手でも」
オランダ
「同じ試合にはならない」
ドイツ
「2010年は、私も準決勝で止められた」
ベルギー
「つまり」
ベルギーは、日本とオランダとドイツを見る。
ベルギー
「スペインを倒した国も」
ベルギー
「スペインに最も痛いところで負けた国も」
ベルギー
「この部屋にいる」
チュニジア
「私も戦ったことある」
ベルギー
「勝った?」
チュニジア
「先制した」
ベルギー
「結果は?」
チュニジア
「その話も、次回に取っておこう」
8.城の世代
三つ目。
イングランド。
ノルウェーが、少しだけ姿勢を正す。
ノルウェー
「今のイングランドなら」
ノルウェー
「私が一番新しい」
ベルギー
「百二十分?」
ノルウェー
「百二十分」
ベルギー
「長かったね」
ノルウェー
「短かった」
ベルギーが、ノルウェーを見る。
ノルウェー
「負けた後は」
ノルウェー
「短く感じる」
ベルギーは、ゆっくりうなずいた。
ノルウェー
「中央を閉じた」
ノルウェー
「ハーランドを止めた」
ノルウェー
「それでも」
ノルウェー
「別のところから、二点取った」
スウェーデン
「八年前より」
スウェーデン
「形を変えられるようになった」
ノルウェー
「姉さんが戦った時?」
スウェーデン
「姉さんじゃない」
ベルギー
「何の話?」
オランダ
「長い話」
チュニジア
「主に姉妹を否定する話」
スウェーデン
「違う」
ベルギーは、イングランドの名前を見る。
ベルギー
「2018年に、二度戦った」
グループステージ。
そして。
三位決定戦。
どちらも、ベルギーが勝った。
キュラソー
「同じ大会で二回?」
ベルギー
「二回目は」
ベルギーは、少しだけ目を伏せる。
ベルギー
「お互い、もう優勝できない試合だった」
準決勝で敗れた二国。
最後に残った。
三位という場所。
ベルギー
「私たちは勝った」
ベルギー
「でも」
ベルギー
「敗者同士の試合だった」
ノルウェーは。
トーナメント表のイングランドを見る。
ノルウェー
「今度は、まだ敗者じゃない」
ベルギー
「そう」
ドイツ
「イングランドは、負け方を長く覚える国だ」
1966年。
1970年。
1990年。
2010年。
勝利も。
疑惑も。
PKも。
歴史の中へ残し続ける。
ドイツ
「そして」
ドイツ
「負けるたび、次の形を探す」
ノルウェーは、小さくうなずく。
ノルウェー
「私が戦った城も」
ノルウェー
「一度崩れてから、形を変えた」
9.神話の前で
最後の名前。
アルゼンチン。
オランダが。
少しだけ嫌そうな顔をする。
ベルギー
「詳しいんだろう?」
オランダ
「詳しい」
オランダ
「でも、客観的には話せない」
1978年の決勝。
1998年の準々決勝。
2014年の準決勝。
2022年の準々決勝。
勝った記憶。
負けた記憶。
PK。
挑発。
怒り。
オランダにとって。
アルゼンチンは、試合結果だけでは整理できない国だった。
オランダ
「一つだけ言える」
オランダ
「神話だけを見ていると」
オランダ
「周りの選手にやられる」
ノルウェーが、オランダを見る。
ノルウェー
「ハーランドと同じ?」
オランダ
「少し」
オランダ
「メッシを止めようとして」
オランダ
「アルゼンチンを止めるのを忘れる」
ドイツは。
アルゼンチンの名前を、静かに見ている。
キュラソー
「ドイツも詳しい?」
ドイツ
「三度」
キュラソー
「三回戦ったの?」
ドイツ
「決勝を」
キュラソーが、目を丸くする。
1986年。
1990年。
2014年。
同じ二国が。
三つの決勝で向き合った。
ドイツ
「マラドーナの国にも」
ドイツ
「メッシの国にも」
ドイツ
「勝ち、負けた」
ベルギーも。
アルゼンチンとの記憶を持っていた。
1982年。
前回王者を、開幕戦で倒した。
1986年。
準決勝で、マラドーナに止められた。
2014年。
準々決勝で、メッシの国に止められた。
ベルギー
「私にとっては」
ベルギー
「始まりと、終わりの両方にいる国」
日本が。
小さく口を開く。
日本
「私にとっては」
日本
「最初の世界大会で、最初に戦った国」
1998年。
初出場。
最初の相手。
アルゼンチン。
コートジボワールも、日本を見る。
コートジボワール
「私も」
2006年。
初出場。
最初の相手。
アルゼンチン。
キュラソー
「二人とも?」
日本
「うん」
コートジボワール
「世界大会へ来て」
コートジボワール
「最初に神話を見せられた」
ノルウェーは、
アルゼンチンとの対戦経験がない。
ノルウェー
「実際に戦うと」
ノルウェー
「どんな国?」
ベルギーは、少し考える。
ベルギー
「毎回」
ベルギー
「一人の名前で説明される」
マラドーナ。
メッシ。
ベルギー
「でも、戦うと分かる」
ベルギー
「一人だけの国じゃない」
オランダが、うなずく。
オランダ
「一人だけなら」
オランダ
「もっと簡単だった」
10.経験のない国
日本は。
ホワイトボードを見渡す。
四強の名前から。
無数の線が伸びている。
ドイツ。
ベルギー。
ノルウェー。
スウェーデン。
チュニジア。
オランダ。
日本。
エクアドル。
コートジボワール。
そして。
キュラソー。
キュラソーだけは、
四強のどの国とも、過去の世界大会で対戦していなかった。
キュラソー
「私だけ」
キュラソーは、少しだけ寂しそうに笑う。
キュラソー
「誰のことも知らないね」
ベルギーが、キュラソーを見る。
ベルギー
「それでいい」
キュラソー
「いいの?」
ベルギー
「私たちは」
ベルギーは。
部屋の中にある、無数の線を見る。
ベルギー
「知っているから」
ベルギー
「昔と比べてしまう」
ドイツは、歴史と。
オランダは、傷と。
日本は、始まりと。
スウェーデンは、似た敗退と。
ノルウェーは、昨日の感触と比べる。
ベルギー
「あなたは」
ベルギー
「誰とも比べずに、今の四人を見られる」
キュラソーは、四強の名前を見る。
キュラソー
「それって、役に立つ?」
ベルギー
「私たちが」
ベルギー
「昔の答えに引っ張られた時に」
ベルギーは、少しだけ笑う。
ベルギー
「一番単純な質問をしてくれる」
キュラソー
「例えば?」
ベルギー
「結局、どっちが強いの、とか」
キュラソー
「それ、聞こうと思ってた!」
チュニジア
「適性あり」
エクアドル
「知らないことも、一つの視点になる」
チュニジア
「また綺麗にまとめた」
11.十人の見方
日本は、
ホワイトボードを整理する。
日本
「ドイツは」
日本
「四強の長い歴史と、大会終盤を知っている」
ドイツは、黙ってうなずく。
日本
「ベルギーは」
日本
「2014年以降の四強すべてを知っている」
日本
「ノルウェーは」
日本
「今大会のフランスとイングランドを知っている」
日本
「スウェーデンは」
日本
「ノルウェーと同じ二国に止められた」
スウェーデン
「言い方」
ノルウェー
「姉妹」
スウェーデン
「違う」
日本
「チュニジアは」
日本は、少しだけ間を置く。
チュニジア
「昨日の議事録にあるよ」
日本
「フランスを倒した経験と」
日本
「勝利だけでは大会に残れないことを知っている」
チュニジア
「短くまとまったね」
日本
「オランダは」
日本
「スペインとアルゼンチンへの、勝利と敗北の両方を知っている」
日本
「私は」
日本
「スペインを倒した記憶と」
日本
「アルゼンチンから始まった記憶がある」
日本
「エクアドルは」
日本
「フランスを無失点に抑え」
日本
「イングランドに最小差で敗れた」
日本
「コートジボワールは」
日本
「初出場でアルゼンチンに挑んだ」
日本
「キュラソーは」
日本は、少しだけ考える。
キュラソー
「何もない国?」
日本
「最初から見る国」
キュラソーは、少しだけ目を見開く。
日本
「過去の答えを持たずに」
日本
「四強を見ることができる」
ベルギーは。
ホワイトボードに並んだ十カ国の役割を見る。
ベルギー
「ずいぶん揃ってるね」
チュニジア
「敗者だけは、豊富」
オランダ
「言い方」
チュニジア
「事実」
12.知っていることと、勝つこと
キュラソー
「これだけ知ってたら」
キュラソー
「どっちが勝つか、分かる?」
ベルギーは。
すぐには答えなかった。
四強すべてと。
近年の世界大会で戦った国。
その答えを。
全員が待っている。
ベルギー
「分からない」
キュラソー
「分からないの?」
ベルギー
「知っているのは」
ベルギー
「どうやって勝ったかと」
ベルギー
「どうやって負けたかだけ」
ベルギーは。
フランスを見る。
一点で、自分たちを止めた国。
スペインを見る。
昨日、自分たちの時間を終わらせた国。
イングランドを見る。
同じ大会で二度倒したことのある国。
アルゼンチンを見る。
三つの世代で、自分たちの前へ現れた国。
ベルギー
「四人とも」
ベルギー
「前に戦った時と同じではない」
ノルウェー
「イングランドも」
ベルギー
「もちろん」
スウェーデン
「フランスも」
ベルギー
「同じ名前でも」
ベルギーは、ホワイトボードの線を指でなぞる。
ベルギー
「倒してきた国の分だけ」
ベルギー
「少しずつ、別の国になっている」
エクアドルが、静かに続ける。
エクアドル
「知っていることは」
エクアドル
「未来を当てるためではない」
日本
「試合を見る場所を増やすため」
ベルギー
「そういうこと」
ベルギーは。
ようやく、部屋の中へ完全に入った。
13.十人目
オランダが。
自分の隣にある椅子を、軽く叩く。
オランダ
「座らないの?」
ベルギー
「四強の話をしたら」
ベルギー
「帰るつもりだった」
オランダ
「隣国なのに?」
ベルギー
「隣国だから何?」
オランダ
「帰るには、近すぎる」
ベルギーは、少しだけ笑った。
それから。
椅子へ座る。
キュラソー
「十人になった!」
チュニジア
「また正式な手続きなし」
ドイツ
「最初から、そのようなものはない」
ノルウェーが。
ベルギーを見る。
ノルウェー
「あなたも、続きを見る?」
ベルギーは。
スペインの名前を見る。
ベルギー
「私は」
ベルギーは、少しだけ言葉を探す。
ベルギー
「四強を知っているから来たと思っていた」
日本
「違った?」
ベルギー
「たぶん」
ベルギー
「私も、自分を倒した国の続きを見たいだけだ」
オランダは。
何も言わず、少しだけ身体を横へずらした。
ベルギーの椅子との距離が。
わずかに近くなった。
ノルウェーは。
託されたから、この部屋へ来た。
ベルギーは。
知っているから、扉を開けた。
けれど。
最後に二人を残した理由は。
それだけではなかった。
自分たちを倒した国が。
どこまで、自分たちの時間を持っていくのか。
それを見届けたい。
敗者が、この部屋へ残る理由は。
結局。
同じだった。
14.勝者の部屋
ベルギー
「ところで」
十人が、ベルギーを見る。
ベルギー
「私たちは、四強を知っている」
ベルギー
「でも」
ベルギーは、モニターを見る。
画面には。
準決勝へ進んだ四カ国が、順番に映っている。
ベルギー
「あの四人は」
ベルギー
「私たちのことを、どう覚えているんだろうね」
キュラソー
「勝者にも、部屋があるの?」
チュニジア
「勝者の控え室?」
ノルウェー
「行ってみる?」
ドイツ
「入れるわけがない」
ベルギー
「行く必要はないよ」
モニターの映像が、切り替わる。
会場の別の場所。
敗者の控え室よりも明るく。
まだ荷物の少ない部屋。
そこには。
四つの椅子があった。
一つ目。
フランス。
二つ目。
スペイン。
三つ目。
イングランド。
四つ目。
アルゼンチン。
敗者の控え室には、十人。
勝者の部屋には、四人。
敗者たちは。
勝者の過去を知っていた。
勝者たちは。
敗者から託されたものを持っていた。
次に言葉を交わすのは。
最後まで残った、四つの国だった。
第19章 四強を知る赤い悪魔 了
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次回も、敗者たちの控え室から大会の続きを見届けます。
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