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【W杯 2026】Group E/F - 敗者達の控え室 #9 |最後のベスト16、揃う八強

第9章 最後のベスト16


この物語について

『Group EF - 敗者達の控え室』は、FIFAワールドカップ2026のベスト32で大会を去った、Group E, Group Fの国々を擬人化し、敗者たちが控え室から大会の続きを見届ける非公式サッカー擬人化群像劇です。

試合結果、対戦カード、サッカー史、報道などをモチーフにしていますが、登場人物はすべて創作上の擬人化キャラクターです。公式大会・各国協会・実在選手・実在団体とは関係ありません。

初めて読む方へ

この章の時系列

この章は、ベスト16最終日 7/8前後で行われたアメリカ vs ベルギー、アルゼンチン vs エジプト、 コロンビア vs スイスの試合の試合終了時点をモチーフにしています。
グループステージで不調に見えた赤い悪魔の復活、静かに勝つスイス、メッシの伝説がベスト8に続いていく物語を8か国の視点から描いています。


1. 赤い悪魔は、戻ってくる

大型モニターの右上に、試合結果が固定されている。

アメリカ 1-4 ベルギー

控え室の空気は、少しだけ乾いていた。

キュラソー

「開催国、また消えた」

チュニジア

「カナダ、メキシコ、アメリカ。
場所を持ってた国が、順番にいなくなっていくね」

日本

「場所だけじゃ、残れない」

エクアドル

「でも、場所は力になる。
力になっても、届かないことがある」

オランダは、モニターに映る赤い競技衣装を見ていた。

オランダ

「ベルギー、起きたね」

ドイツ

「赤い悪魔の復活、という見出しになるだろうな」

チュニジア

「グループステージでは、危なっかしく見られてたのに?」

日本

「そういう国ほど、トーナメントで戻ってくることがある」

オランダ

「ベルギーは、昔からちょっとそういうところがある」

キュラソー

「オランダ、ベルギーに詳しいの?」

オランダは少し嫌そうな顔をした。

オランダ

「詳しくなりたくなくても、隣にいると詳しくなる」

チュニジア

「近所の強豪、面倒くさそう」

オランダ

「面倒くさいよ」

日本は、ホワイトボードの端に書く。

ベルギー → アメリカ
2014年:延長2-1
2026年:4-1

日本

「2014年も、アメリカはベルギーに止められてる。
あの時は延長戦。
アメリカのGKが止めて、止めて、それでもベルギーが押し切った」

ドイツ

「耐えても、耐えても、最後に届かない試合はある」

エクアドル

「守っても、守っても、一本だけ足りない時がある」

チュニジア

「今日のエクアドル、守備の話になると急に強い」

エクアドル

「守備は、負けを遅らせることもある。
でも、勝利に変えるには、別の何かがいる」

日本は、モニターを見た。

日本

「今回は、耐える試合じゃなかった。
ベルギーが先に殴って、追いつかれて、また突き放した」

オランダ

「赤い悪魔、完全に目が覚めた感じ」

チュニジア

「赤い悪魔って、寝起き悪そう」

ドイツ

「寝起きが悪いまま、四点を取る国は厄介だ」

日本は少し黙ってから言った。

日本

「知ってる」

全員が日本を見る。

日本

「ベルギーは、終わったように見えて終わらない」

オランダは、日本の顔を見て、少しだけ声を落とした。

オランダ

「2018年?」

日本

「うん。
2点取っても、終わらなかった」

控え室に、短い沈黙が落ちた。

チュニジア

「日本が言うと、赤い悪魔の戻り方が急に重い」

コートジボワール

「戻ってくる力は本物だ。
倒れたように見えて、そこから牙を出す」

ドイツ

「ベルギーは、消えたようで消えていない」

オランダ

「隣国としては、あまり嬉しくない」

キュラソー

「でも、見届けるんだよね?」

オランダはため息をついた。

オランダ

「見るよ。
嫌でも見る。
ベルギーが進むなら、私の記憶も、少しずつ動くから」

日本は、ホワイトボードのベルギーの名前を見た。

赤い悪魔は、また戻ってきた。

それは、日本にとっても、ただのニュースではなかった。

2. 南米の牙は、静かな壁に止められた

次の試合結果が映る。

スイス 0-0 コロンビア
PK 4-3

エクアドルは、しばらく何も言わなかった。

日本

「エクアドル?」

エクアドル

「見ている」

チュニジア

「南米の牙の行方?」

エクアドルは、ゆっくりうなずいた。

エクアドル

「ブラジルは消えた。
でも、アルゼンチンとコロンビアが残っていた。
牙はまだあると思っていた」

オランダ

「PKで止まった」

ドイツ

「PKは、残酷だ」

オランダがドイツを見る。

オランダ

「それ、私たちが言うと重いね」

ドイツ

「重いから言っている」

日本は、ホワイトボードに書く。

コロンビア → スイス
0-0
PK 3-4

キュラソー

「点が入らなかったのに、終わるんだ」

日本

「PKは、そういう終わり方をする」

オランダ

「やめて。説明されると傷が開く」

ドイツ

「同感だ」

チュニジア

「この部屋、PKへの耐性が低すぎる」

日本

「笑えない」

チュニジア

「日本も?」

日本

「笑えない」

チュニジアは紙コップを両手で持ち直した。

チュニジア

「じゃあ、笑わない」

エクアドルは、モニターから視線を外さない。

エクアドル

「コロンビアは、噛みつけなかった」

コートジボワール

「噛みつけなかったのか。
噛ませてもらえなかったのか」

エクアドル

「たぶん、両方」

オランダ

「スイスって、そういう国だよね」

キュラソー

「そういう国?」

オランダ

「静かに立ってる。
派手じゃない。
でも、気づいたらそこにいる」

ドイツ

「静かに勝つ国」

日本は、その言葉をホワイトボードに書く。

スイス:静かに勝つ国

チュニジア

「嫌な強さだね。
ニュースになりにくいのに、トーナメント表には残ってる」

エクアドル

「残ることは、派手でなくても強い」

エクアドルは、コロンビアの名前の横に小さな線を引いた。

南米の牙は、一本折れた。

でも、南米の神話は、まだ残っている。

3. 古い王と、神話の戻り方

最後の試合結果が映る。

アルゼンチン 3-2 エジプト

ただし、数字だけでは足りなかった。

0-2。
そこから、3-2。

控え室の誰も、すぐには言葉を出さなかった。

日本の指先が、少しだけ止まっていた。

チュニジア

「……エジプト、二点取ってたのに」

コートジボワール

「古い王が、王者を追い詰めた」

日本

「二点差」

その声は、小さかった。

でも、全員に聞こえた。

オランダ

「日本」

日本

「大丈夫」

チュニジア

「それ、だいたい大丈夫じゃないやつ」

日本は、否定しなかった。

日本

「2-0は、終わりじゃない。
知ってる」

ベルギーの赤が、まだホワイトボードの端に残っている。
その横で、アルゼンチンの青と白が光っている。

別の試合。
別の国。
別の時間。

それでも、日本の中では、同じ数字が鳴っていた。

2-0。
2-3。

日本

「この日は、思い出す試合が多い」

ドイツ

「二点差から戻る国が、二つ出た」

オランダ

「ベルギーと、アルゼンチン」

チュニジア

「嫌な並び」

日本

「うん。嫌な並び」

キュラソーは、ホワイトボードの左側を見ていた。

そこには、まだ小さな星が描かれている。

カーボベルデの横に、キュラソーが描いた星。

モニターの光を受けて、その星が、いつもより明るく見えた。

キュラソー

「また、3-2」

日本

「カーボベルデも、3-2だった」

キュラソー

「アルゼンチンは、カーボベルデを3-2で倒した。
今度は、エジプトを3-2で倒した」

チュニジア

「初出場の星も、古い王も。
同じ数字で落としたんだ」

キュラソー

「うん」

キュラソーは、星を見たまま言った。

キュラソー

「カーボベルデが弱かったわけじゃなかった」

ドイツ

「弱くない」

オランダ

「アルゼンチンから二点取った国だよ」

キュラソー

「でも、勝てなかった」

ドイツ

「それも事実だ」

キュラソー

「エジプトも、二点取った。
でも、勝てなかった」

チュニジアは、紙コップを見つめた。

チュニジア

「アフリカ勢としては、かなりきつい」

コートジボワール

「エジプトは、軽く負けていない」

チュニジア

「わかってる。
わかってるけど、勝ってほしかった」

コートジボワール

「それでいい」

チュニジア

「いいの?」

コートジボワール

「勝ってほしかったと言える負けは、軽くない」

チュニジアは、小さく息を吐いた。

チュニジア

「エジプト、勝ってほしかった」

誰も茶化さなかった。

画面には、終盤の得点シーンが繰り返し流れている。

79分。
83分。
90+2分。

アルゼンチンが、一点を返す。
アルゼンチンが、追いつく。
アルゼンチンが、ひっくり返す。

そして、その中心に、メッシがいた。

キュラソー

「メッシ」

オランダ

「また、メッシ」

ドイツ

「また、メッシだ」

その言い方に、少しだけ疲れがあった。
けれど、敬意もあった。

キュラソー

「みんな、メッシのこと知ってるんだね」

チュニジア

「知らない方が難しいでしょ」

日本

「この大会で、何度目なんだろう。
もう終わるかもしれない、と思ったところで、また出てくる」

オランダ

「メッシは、終わりそうな試合を終わらせない」

ドイツ

「アルゼンチンは、神話を連れて勝つ国だ」

キュラソー

「神話」

オランダ

「嫌な言葉だよ。
負けた側からすると」

ドイツ

「だが、正確な言葉でもある」

モニターの中で、メッシが走っている。

速さだけではない。
強さだけでもない。
一瞬だけ、全員の視線を奪う場所に立っている。

日本

「ロメロが一点返して、メッシが追いついて、最後にエンソが決めた」

チュニジア

「メッシだけじゃない」

日本

「うん。
でも、メッシがいると、試合の見え方が変わる」

オランダ

「わかる。
すごく嫌だけど、わかる」

ドイツ

「一人の名前が、国全体の時間を引き戻すことがある」

エクアドル

「神話は、一人で完結しない。
でも、一人の名前で思い出される」

キュラソーは、ホワイトボードに近づいた。

カーボベルデの星の横に、もう一本だけ線を引く。

カーボベルデ → アルゼンチン
エジプト → アルゼンチン

二つの線が、同じ名前に向かっていた。

キュラソー

「アルゼンチンが勝つほど、カーボベルデの試合も残る?」

日本

「残る」

ドイツ

「強く残る」

オランダ

「悔しいけど、残る」

キュラソーは、少しだけ息を吐いた。

キュラソー

「じゃあ、まだ見る」

チュニジア

「帰ったのに?」

キュラソーは、小さく笑った。

キュラソー

「まだいる」

ホワイトボードの小さな星が、モニターの光を受けて、ひときわ明るく見えた。

消えた星ではなかった。
アルゼンチンが進むたびに、もう一度光る星だった。

4. ベスト8が揃う

日本は、ホワイトボードの右側を消して、新しいトーナメント表を書き直した。

フランス vs モロッコ
スペイン vs ベルギー
ノルウェー vs イングランド
アルゼンチン vs スイス

八つの名前が並ぶ。

控え室の八人は、それを見た。

チュニジア

「出そろったね」

オランダ

「とんでもない組み合わせになったね」

ドイツ

「強豪、復活した国、初めてここまで来た国、静かに残った国。
種類が多い」

キュラソー

「ベスト32から始まったから?」

日本

「うん。
今回は、ここに来るまでの物語が多い」

エクアドル

「一試合多く勝った国は、一試合多く誰かを背負っている」

チュニジア

「それ、重いね」

コートジボワール

「重い方がいい。
軽く勝たれては困る」

スウェーデンは、ノルウェーの名前を見ていた。

スウェーデン

「ノルウェー、まだいる」

チュニジア

「姉さん、嬉しそう」

スウェーデン

「姉さんじゃない」

いつもの返事だった。
でも、その声は少しだけ柔らかかった。

日本は、スペインとベルギーの名前を見た。
オランダは、モロッコとアルゼンチンの名前を見た。
ドイツは、フランスとアルゼンチンの名前を見た。
エクアドルは、スイスの名前を見た。
チュニジアとコートジボワールは、モロッコの名前を見た。
キュラソーは、アルゼンチンの横に伸びる二本の線を見た。

それぞれ、見ている場所が違った。

でも、同じホワイトボードを見ていた。

日本

「ここから先は、どこを見ても誰かの続きになる」

オランダ

「推しは減ったのに、見る試合は増えた」

チュニジア

「敗者の控え室、忙しすぎない?」

ドイツ

「勝者が、敗者を背負い始めたからだ」

コートジボワール

「なら、見届ける」

スウェーデン

「最後まで」

キュラソー

「帰ったのに、まだいる」

チュニジアが、少しだけ笑った。

チュニジア

「みんなそうだよ」

大型モニターの光が、控え室の床に長く伸びた。

ベスト16は終わった。
ベスト8が揃った。

勝者だけの名前ではなかった。
それぞれの後ろに、敗者の線が伸びていた。

敗者たちの控え室は、まだ終わらない。


第9章 最後のベスト16   了

ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回も、敗者たちの控え室から大会の続きを見届けます。


続き・前回はこちら

前回:#8 |王国が落ち、伝説が去る夜

次回:#10|無敗という重さ


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