「意識」とは? 意識障害を診るために
「意識」に関する用語はたくさん
意識という単語そのものは把握していると思いますが、その用語のカバーするエリアを理解できているかというと、意外と難しいんですよね。例えば、呼びかけて応答がなければ意識障害があると臨床では判断したりもしますが、そもそも失語症のために反応がないだけかもしれませんし、心因性の問題で応答しない状況かもしれません。つまりそこには狭義の「意識」が存在することになりますが、その『意識』ってどの次元で語ってるの?と言われると説明が難しいかもしれません

意識消失・意識障害・失神
臨床でよく使う「意識」にまつわる用語には意識消失・意識障害・失神などがあります。意識が悪いことを意味する点では共通性がありますが、使うシチュエーションはちょっとずつ異なるでしょう
例えば、意識消失は急性にあるいは突然に意識が遮断させるような文脈で用いられることが多いと思います。そのため、てんかん発作、迷走神経反射、失神などをイメージするときに使いやすいです。一方で、意識障害も「急性」の文脈が多いでしょうが、持続的に/遷延性に認める意識の悪い状態をさすことが多いと思います。なお、失神は基本的に循環障害に起因した意識消失であるため、前二者とは使い方が根本的に違います(例えば、てんかん発作で意識障害を伴う時に、失神したとは原則的にいいません)。
意識の側面
ところで意識はイチかゼロのデジタルな世界ではあなく、意識障害そのものも連続的です。そして、この意識障害をどのように把握するかですが、臨床の観点では『意識』は以下の3つの側面から観察します
①客観的・生理学的な意味
②主観的・体験的な意味
③心理学的な意味
①は「目が覚めていて周りの刺激に反応できる状態」などをさし、②は「自分や周囲の状況を自分自身で感じたり、理解したりする状態」に該当します。そして「自分が自分であるという感覚、つまり「自我意識」については③です。救急診療で関わる意識障害については、基本的に①や②の問題です。③の自我は精神科の領域でカバーするような概念ではないかと思いますが、難しいのでとりあえずここからは用語の意味から整理していきましょう。
なお、この定義についてもその言葉を使う状況によってニュアンスが違ったりもするのではないかと思います。絶対的なものではないという前提をご理解ください。
意識:consciousness
個人が外界と自己について明瞭に認識している状態
つまり、意識とは「自分が今どこにいて、周りで何が起きているかをはっきりと理解できている状態」といえるでしょう。見当識が保たれているとも表現できます。

意識性:awareness
意識が存在し、何らかの対象を認識している状態
つまり、意識性とは「自分の意識がちゃんと働いていて、何かを見たり聞いたり感じたりして、それに気づいている状態」をさします
では、意識が悪い状態について、臨床ではどのように表現するのかを見ていきましょう
意識障害:disturbance of consciousness
意識の明瞭性が障害されている状態の総称。意識混濁から昏睡まで幅広く含む。あくまでも総称なので、軽くぼんやりしている状態から、まったく目覚めず反応しない状態(昏睡)まで、いろいろなレベルを含みます。
また、突然そうなったのかなど時間的な要素を求めない表現でもあると思います。

意識消失:loss of consciousness
一時的に意識が完全に失われた状態。原因として卒倒(急に倒れてしまったり:失神)や痙攣発作として意識がなくなったりするものを含めます。急性に生じているイベントを想起させる用語だと思いますので、意識障害とは若干、使い方が違うでしょう。
意識変容:alteration of consciousness
意識の内容が異常に変化する状態であり、通常とは異なった意識内容を経験する状況(意識の中身がいつもと違った状態になることで、たとえば、夢を見ているような不思議な感覚になったり、普段とは違うものが見えたり聞こえたりする状態)
意識混濁:clouding of consciousness
意識が曖昧で明瞭さを欠き、状況や周囲の理解が困難になる状態。
イメージとしては「頭がぼんやりしてはっきり考えられなくなり、自分がどこにいるのかや、周りで何が起こっているのかをよく理解できない状態」でしょうか
意識不鮮明:confusion
軽度の意識混濁で、特に意識内容の変容を伴わず、注意集中や思考能力が低下している状態。イメージとしては「意識が完全に失われてはいないけれども、頭がすっきりせず注意力や考える力が少し落ちている状態。ぼんやりして集中できず、考えがまとまらないような感じ」でしょうか
てんかん領域では発作後の朦朧状態をpost-ictal confusionと表現することがあります。
意識清明期:lucid interval
頭部外傷や硬膜外血腫、一酸化炭素中毒などで一時的に意識が明瞭になる期間を指す。
具体的には、頭を強くぶつけたり(頭部外傷)、脳の周りに血がたまったり(一例として硬膜外血腫)、一酸化炭素中毒になったりした時に、一度は意識を失った後で、一時的に意識がはっきり戻る期間のことをさします。この時期は症状が治ったように見えることもありますが、再び意識が悪くなることがあり、注意が必要です。
無意識:unconsciousness
意識が完全に消失した状態をさすようですが、筆者はあまり使い慣れていない用語です
昏睡に関する用語
次に、昏睡(coma)についてです。昏睡とは、強い刺激を与えても覚醒しない深刻な意識障害をさし、意識障害の代表的な状態ではありますが、この昏睡を使った表現をいくつか紹介したいと思います

深昏睡:deep coma
昏睡の中でも特に深いレベルを指す状態で、これは臨床でもよく使われている印象があります
病的に深昏睡に至っている時もあれば、麻酔薬を使って深昏睡の状態になっている時も使用しているのではないでしょうか
なお、昏睡を超えて不可逆的な脳死状態を示すようなものを超昏睡:coma dépasséと表現することがあるようですが、あまり馴染みがありません。
アルファ昏睡:alpha coma
これは脳波所見の用語です。脳波で持続的なアルファ波が現れているのに、臨床的には昏睡状態にあるときです。本来、アルファ波は覚醒を示唆する波形でもあるのですが、昏睡脳波の一つのタイプとしてalpha comaがあります
ちなみに、ほかにもtheta comaやdelta coma、spindle comaなどの亜型もあります。種類が多くて紛らわしいですが、alpha comaは予後不良だと覚えておきましょう。
覚醒昏睡:coma vigil
外見上は覚醒しているように見えるが、実際には意識のない状態と覚醒状態が交互に現れる状態
このほかには、特定の病態に関連して昏睡に至る時に、昏睡を用いて表現することがあり、例えば卒中性昏睡(apoplectic coma)は脳卒中に起因する昏睡状態で、糖尿病性diabetic coma、てんかん性昏睡epileptic coma、子癇性eclamptic comaなどもあります。
覚醒や反応、認知に関する用語
次に、覚醒や反応という単語から、意識をみていきましょう。これらの単語は他者からみた評価という文脈で使われることが多いと思います。

覚醒反応:arousal response
意識が外界の刺激に対して反応し、覚醒状態へと向かうこと。
具体的には、周りからの音や光、体を揺さぶられるなどの刺激を受けたときに、意識が目覚める方向へ向かい、反応を示すことです。例えば、寝ているときに誰かに声をかけられたり、身体を軽く叩かれたりしたときに、目を開けたり動いたりして目覚める反応のことをさします。
警告反応:alarm reaction
刺激に対して即座に注意を向ける反応。急に大きな音がしたり、強い光が当たったり、何か異常なことが起きたりした時に、とっさに注意を向ける反応のことです。例えば、突然の物音に驚いてすぐにそちらを見たり、危険を感じてすぐ身構えたりすることを言います。
回避反応:avoiding reaction
有害または不快な刺激を避けようとする反応。
生理的には、熱いものに触れて思わず手を引っ込めたり、不快な音がしたら耳をふさいだりする行動がこれにあたります。臨床では疼痛刺激への回避があるかをチェックしたりします
認知:cognition

意識的に外界を理解し、それに基づいて行動を決定する精神機能。目で見たり耳で聞いたりして周囲の状況を意識的に理解する機能のことをさし、その情報をもとにして自分の行動を決めたり、判断したりするプロセスもここには含まれます。例えば、道路を渡るときに車が近づいているのを見て、「危ない」と理解して立ち止まる、といった無意識に近い行動も含まれますし、シンプルに色や形を認識することも包括されます。例えば自己身体認知(autosomatognosis)や、四肢認知(acrognosis)、聴覚認知(auditory perception)、色覚認知(color perception)などの認知があります
ただ認知と意識とは似て非なるものです。例えば、意識障害があれば認知ができないことはありますが。認知ができないからといって狭義の意識障害があるとは限りません。それこそ、認知に慢性的に問題のある認知症という病態は「時間や場所」の見当識が障害されていますが、基本的には意識障害の範疇には入れません。意識障害は、急性期の文脈で使うべき表現なのでしょう。
認知運動解離(cognitive motor dissociation; CMD)
近年、注目されているCMDは用語として知っておいた方が良いと思います。重症頭部外傷や、低酸素脳症などでみかけ上は意識障害があるものの、そこには何かしらの認知が保たれているものの、それを伝えることができない状況で。文字通り、認知と運動に解離があることでコミュニケーションに大きな障害を起こしている状態です。急性期の治療方針決定において、このCMDがあるかどうかは重要です。
急性脳損傷患者の意識評価では、神経診察の判定だけでは脳の活動を完全には捉えることはできません。一見するとほぼ無反応であっても、何かしらの認知的な反応が脳内では起きていることがあって。それを認知運動解離(cognitive motor dissociation;CMD) と呼ぶらしい。NEJMでも論文になってた。
— 音成秀一郎 | 脳の内科医 (@neshige_s) October 15, 2024
てんかん性の意識障害
てんかんという病態を理解するうえで、「意識」という言葉の取り扱いは極めて重要です。なぜなら、その『発作』が真の発作なのかどうかを判断する上では、意識が保たれているのか、あるいが意識障害があるのかを把握する必要があるからです。しかし、この意識を他覚的に正確に把握することが意外と難しい。

長時間ビデオ脳波モニタリングで発作を観察する経験を積めば、その『発作』に意識障害があるのかどうかを見極めるスキルがある程度つきます。ですが、実際には発作をじっくりと観察できることは臨床ではほとんどありません。また、受け答えができていても実は脳波上では発作時が続いているということもあります。つまり、診察だけでのクリアカットな判断はできないのです。
てんかん界隈では、意識の表記は「consciousness」が用いられてきました。つまり広い概念での意識です。ですが、意識障害を伴う発作は、必ずしも昏睡状態に至るわけではありません。よって現在では「awareness(周囲や自分を理解する力)」という言葉が使われるようになりました。つまり、反応性や自分自身の認知が障害されているかどうか、記憶が保持されているかどうかが観点となります。よって、側頭葉てんかんなどでの意識減損発作はfocal impaired awareness seizure (FIAS)と表現します。
なおてんかんに限らない「意識障害」については「disturbance of consciousness」や「alteration of consciousness」という表現が用いられます。「disturbance of consciousness」は意識の明瞭さが障害されている具体的な状態を示すことが多く、軽度から中程度の意識障害を指す際に好んで使用される傾向がある。一方、「alteration of consciousness」は、意識の質的な変容を強調する際に用いられ、例えば、幻覚や妄想、せん妄などの症状を伴う意識状態をさす場合にも適した表現だと思います。
PNES: 非てんかん性心因性発作
PNES(心因性非てんかん性発作)とは、てんかん発作に似た症状を示しますものの、てんかん性のものではなく、心理的要因や背景に関連してv引き起こされる発作をさします。 けいれん、意識消失、感覚の変化など多様な発作型を認め、てんかんとの鑑別が難しい病態です。多くは見かけ上は意識障害がありますが、脳波上は背景活動が保たれているので、意識はあると考えられます。
https://note.com/nec283/n/nef21855aa4a2
ですがPNESで「正常な意識状態が維持できているか?」と言われればそれはちょっと違うのではないかなと思います。ここでも意識の捉え方をどの角度で評価するのかで変わってくると思いますが。ちょっとややこしくなるので、この辺で…
なおPNESについては谷口先生の本がおすすめです
谷口先生の本も含めて「neurologyのど真ん中ではないものの、neurologyの底力を上げてくれるような分野の書籍」はこちらでまとめました
このnoteの締めくくり方がよくわからなくなってきましたが、
思いつくままに関連用語をつらつらと紹介して終わりたいと思います
意識に関するその他の用語:
傾眠(somnolence):外的刺激により容易に覚醒するが、放置するとすぐに眠りに戻る状態。
昏迷(stupor):強い外的刺激によって一時的に開眼や簡単な運動反応を示すが、刺激がなくなると再び意識レベルが低下する状態など(昏睡よりは程度が軽い)
内科医としては、あまり使わなくなったでしょうか?最小意識状態(minimally conscious state; MCS):意識がわずかに存在し、限られた認知的な反応や随意運動がみられる状態。
せん妄(delirium):急性に発症する意識混濁を伴った認知機能障害で、注意力・見当識・思考の混乱が特徴。
半昏睡(semicoma):昏睡と昏迷の中間であり、非常に強い刺激でわずかに反応がみられる状態。
ちなみに傾眠傾向なことをよくdrowsyと言いますよね?
発音は「ドロージー」ではなく「ドラウジー」ですよ
研修医の時、傾眠な状態を「ドロージー」って言ってた。周りもそう言ってた。正しくはdrowsyは「ドラウジー」らしいということを数年度に知った
— 音成秀一郎 | 脳の内科医 (@neshige_s) April 10, 2025
失神syncopeまで記事を書く予定でしたが、息切れしましたので、この辺で失礼します。レジデントの先生に一つだけ申し添えると、失神と意識障害を混同して使わないようにしましょう。失神では「脳は被害者」であって、加害者ではありません。
失神(しっしん)
→ 一時的な脳への血のめぐりが悪くなって、一過性に気を失うこと
→ 数十秒〜数分で自然に目を覚ます。
→ よくある原因:立ちくらみ、迷走神経反射、心原性など
ちなみに、失神とてんかんは意外と鑑別が難しいんですよ
この本でも散々、意識障害については難しいケースを紹介しましたが
本当に、失神とてんかんの鑑別は難しいです
かなり難しい
てんかん発作を相当みてきました。ERでもビデオ脳波モニタリングでも。それでも失神とてんかん発作の区別はやっぱり難しい。目の前でイベントが起きたこともなん度もありますが、自信を持って区別できないことはまあまああります。でも、心因性は見ればわかります。あとGTCSも見ればわかります。
— 音成秀一郎 | 脳の内科医 (@neshige_s) April 7, 2025
