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ソートリーダーシップの実践事例【Vol.7】 近藤麻理恵(こんまり)氏

ビジネスの世界では古今東西、様々な創造的取り組みが為されてきました。後から振り返ると、「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」の教科書的な事例、ケーススタディといえるものも少なくありません。様々な事例をビジネスの潮流や市場の拡大などの実績から俯瞰的に見つめなおし、学ぶべきところを見つけ出していきます。


世界的支持を集める「片づけコンサルタント」

第七回となる今回は、「こんまり」の愛称でおなじみの片づけコンサルタント・近藤麻理恵さんを取り上げます。ご存知の読者も多いと思いますが、こんまりさんといえば“一度片づけたら絶対に元に戻らない”独自の片づけ法「こんまりメソッド」を提唱した方です。著作の『人生がときめく片づけの魔法』(2010年)が話題となり、一躍有名になりました。

さらに同書は海外で翻訳出版され、世界42カ国でシリーズ累計1400万部を超える大ベストセラーに。その後も『TIME』誌の「最も影響力のある100人」(2015年)に選出、自身のNetflix番組がテレビ界のアカデミー賞ともいわれるデイタイム・エミー賞(2022年)を受賞するなど、世界の"KonMari"として確固たる地位を築いています。

世界で最も有名な日本人の一人といわれるまでの知名度を獲得し、現在進行形で人々を魅了し続けている、こんまりさん。IISEが考えるソートリーダーシップの定義と照らし合わせて考えた時、まさに世界規模でのソートリーダーシップを発揮していると感じました。

IISEが考えるソートリーダーシップの定義についてはこちら

なぜこんなにも多くの人々からの支持を集め、「片づけ」の市場を拡大し続けられているのか。今回は、以下3つのポイントから考えてみたいと思います。

1.方法論にとどまらない、独自メソッド
2.圧倒的な体験、「共感」のしやすさ
3.こんまりさん自身が、いちばんの片づけ熱狂者

1.方法論にとどまらない、独自メソッド

まずはこんまりさんの代名詞、こんまりメソッドを見ていきましょう。以下5つのステップで構成されています。

STEP1:「理想の暮らし」を考える
STEP2:「モノ別」に片づける
STEP3:触った瞬間に「ときめき」を感じるかどうかで判断する
STEP4:正しい順番で片づける
STEP5:家にある「あらゆるモノの定位置」を決める

出所:「KonMari Method™ とは

注目すべきは、こんまりメソッドの最大の特徴でもあるSTEP3です。片づけにおいて進めることは、所有物の見直しです。何を手放し、何を残すか。その判断軸としてこんまりさんが提示するのが、モノに触れたときに体が感じる「ときめき」。論理的に判断するのではなく、自分の感覚に従って必要か不要かを判断していくことで、結果として自分の理想の暮らしに必要なモノだけを残すことができるようになるそうです。

人は平均で、一万個ものモノを所持するといわれます。それら一つひとつを手に取って決断を繰り返すうちに、自分の判断軸や価値観が明確になる。やがて片づけのみならず、人生のあらゆる行動・選択に変化をもたらしていくと、こんまりさんはいいます。

世にある片づけ術は、どう整理・収納していくかという方法論に留まるものも多いですが、こんまりメソッドではモノとの向き合い方のみならず自分自身との向き合い方も示唆することで、多くの人の琴線に触れているのでしょう。

「片づけを通じて自分の感覚や価値観を研ぎ澄まし、ときめく人生・暮らしを手に入れる」

これこそがこんまりさんの信念であり、ソートとも取れるのではないでしょうか。実際、こんまりさんがご自身で発信されるSNSはもちろんのこと、イベント登壇や番組出演、取材記事など、どんな場面・媒体においてもこんまりさんのメッセージには上記の要素が必ず組み込まれているように感じます。

発信一つ一つに対する徹底したクオリティコントロールがなされていると想像されますが、そのことにより人々もこんまりさんのメッセージをまっすぐ受け取ることができるのでしょう。

また、こんまりさんはビジネス研修なども展開されています。こんまりさんのノウハウやメッセージに一貫性があるからこそ、ビジネス領域でも支持を得られるのだと思います。ぶれてはいけない、軸をしっかりと定めること。市場拡大における重要なポイントです。

2.圧倒的な体験、「共感」のしやすさ

こんまりメソッドを用いた、片づけのすごさ。その一つは、思い立ったら誰でもすぐに行動に移せるということです。片づけを始めるのに、特別な道具や収納用品、まとまった費用などは必要ありません。「そんなの当たり前でしょ」と思われる読者もいるかもしれません。しかし、この「当たり前」こそが、こんまりメソッドへのハードルを下げ、間口を広げているのではないでしょうか。

こんまりメソッドの神髄は、体験してみてこそ感じることができるものです。実際の体験者が増えていくことで、こんまりメソッドへの「共感」が広がっていきます。

Netflix番組シリーズの『KonMari〜人生がときめく片づけの魔法〜』『KonMari 〜"もっと"人生がときめく片づけの魔法〜』では、人生に変化をもたらす片づけの力を実際に体験し、たくさんの人々が感動する様子が映し出されます。片づけを通じて変化を遂げた人ほど「この感動を、他の人にも体験してもらいたい」と感じるのではないでしょうか。

こうしたニーズに応えるように、こんまりさんは「こんまり流片づけコンサルタント養成講座」を開設しており、現在では世界で900人ほどのコンサルタントが活躍されています。コンサルタント養成のアイデアは、人々からの要望に加え、自身も多忙を極めクライアントからの依頼に対応しきれないもどかしさから生まれたものだといいます。

こんまりメソッドを人々に実際に体験してもらう活動を、認定コンサルタントの方々に託する。そうすることで、こんまりさん自身はより広く、こんまりメソッドを世に伝える活動に時間を割くことができる。そうして「共感」の輪を広げていったのではないかと思います。

「共感」が生まれ、集まってきた人々の受け皿として、コンサルタント養成講座は機能しています。彼ら/彼女らが行動・活躍できる場を作っていくということも、ソートリーダーシップ推進における一つのポイントになるでしょう。

3.こんまりさん自身が、いちばんの片づけ熱狂者

こんまりさんはSNSでも日々発信されています。そこで筆者が感じる共通の印象は、片づけについて語るときのこんまりさんがとにかく「楽しそう」ということ。彼女は自他ともに認める「片づけの変態」だそうですが、心の底から片づけが好きなんだろうということが、視聴者・読者にも伝わってきます。

この誰にも負けない片づけへの情熱こそが、こんまりさんをソートリーダーたらしめる理由なのだと思います。誰よりも片づけの可能性を信じ、自分の信念を伝え続ける。その熱が誰かに伝わった時、ソートリーダーとしての認識が人々に生まれていくのではないでしょうか。

ソートそのものが広がり、ソートリーダーとしての認知が高まってくると、顧客からのいわば「指名買い」が始まってきます。専門外の領域からも声がかかればなおさら効果的です。こんまりさんは多くの外部イベントに登壇されていますが、「指名買い」の事例として筆者がぜひ挙げたい例が、New York Times主催の気候変動に関するフォーラム Climate Forward 2023への登壇です。ビル・ゲイツ氏やアル・ゴア氏など名立たる著名人とともに、キーノートスピーカーとして登壇しています。

特筆すべきは、環境活動をしている人々と並んでこんまりさんが登壇しているということです。「気候変動という課題に対し、片づけの力がどう作用するのか」という問いがフォーラム運営側(=顧客)に生まれ、専門領域の枠を超えてスピーカーとして選ばれた(=指名買いが行われた)と想像します。

しっかりとしたソートを持つことで、それに「共感」した人々がソートの領域・可能性をさらに押し広げてくれるのです。ソートリーダーが日々発信を行い、人々もそのメッセージをしっかりと受け取る。そんな両者の関係があってのことでしょう。

こんまりさんの洗練されたメッセージの数々からは、以下のように発信の仕方においても学ぶべきポイントがたくさんあります。

  • きちんと相手に伝わるかたちでソートを発信すること

  • 人々がソートの可能性を広げられるよう、ソートに「余白」を持たせること

また、発信のやり方次第でソートの可能性が幾分にも広がっていくことも、本事例から見ることができます。

国境を超えて「共感」を生むソートとは?

ここまで、こんまりさんが絶大な支持を集めるポイントを考えてきましたが、まとめとしてIISE が考えるソートリーダーの条件に照らし合わせて見ていきたいと思います。

IISEが考えるソートリーダーシップの条件についてはこちら

こんまりさんの活躍は、5歳から始めた長年の片づけに関する経験の賜物だということが分かります。研究と実践を繰り返しながら自らの思いを深め、独自メソッドへと落とし込み、時代の流れや顧客が抱く潜在ニーズを的確に捉えて、人々が「共感」を抱く言葉を選びながら適切なコンテンツで硬軟に発信を続ける。

こうした一連の動きで築き上げた活動の土台があったからこそ、国や文化が異なっていても、芯のあるソートリーダーとして、世界中に受け入れられていったのでしょう。

番外編:「こんまり流」ソートリーダーシップを組織に生かすには

ここまで記事をお読みいただいた方の中には、こんまりさんのケースは、個人型のソートリーダーシップの事例として受け取られた方も多いかもしれませんが、こんまりさんの数々の功績も、それを支えるチームがあってこそのものです。こんまりさんの輝きの裏側に目を向けてみると、ソートリーダーを支えるための仕組みに関するヒントが溢れています。そこで最後に、このケーススタディを、組織におけるソートリーダーシップ活動にどう活かすことができるかについて考えてみたいと思います。

チームの中心であるプロデューサーの川原卓巳さんは、チーム編成を始め、こんまりさんがベストパフォーマンスを出せる環境づくりを常日頃心がけているそうです。チームのサポート体制が整っているからこそ、執筆や登壇、取材対応などといった発信活動を中心に、自身が果たすべきソートリーダーとしての役割にこんまりさんも集中することができるのでしょう。

ソートリーダーが自身の役割に集中できる環境を整え、維持するか。これもソートリーダーシップにおける重要なポイントです。

そして、チームがソートリーダーを支えるいちばんの原動力は、ソート(リーダー)への「共感」です。ソートに心から「共感」し、ソートリーダーが描く未来像をともに実現したいという思いがメンバーのモチベーションとなっているように、こんまりさんのチームからは感じます。

ソートリーダーシップ活動においては「仲間づくり」が重要ですが、最も身近な仲間は、ソートリーダーの日々の活動を支えるチームメンバーではないでしょうか。

まずは身近にいる人を、最強の仲間にする。ソートリーダーを支えていくためのチームビルディングを行う。これが組織でソートリーダーシップを推進するうえで、重要な第一歩なのでしょう。

今回はここまで。また次回。

文:IISEソートリーダーシップHub 石垣亜純

石垣亜純
NECにて営業、新規事業開発を経て、現職。現在はIISEにおいて、TL Hubの企画・運営およびweb3事業領域におけるソートリーダーシップ活動の企画・推進などを担当。

引用・参考文献

KonMari Methodとは|KMJ
プロデューサーが解説!こんまりメソッドが米国で受けたワケ|Diamond.jp
『川原卓巳プロデュースの学校(上)』(匠書房)川原卓巳(著)
『川原卓巳プロデュースの学校(下)』(匠書房)川原卓巳(著)
「片づけで人生が変わる」って…一体どういうこと?|【公式】こんまりちゃんねる(YouTube)
世界一有名な日本人「こんまり」のプロデューサーが語る世界的ムーブメントのつくり方と目指す未来|こんまりと仲間たちちゃんねる(YouTube)

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