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「世界で最も価値の高いことを実現する」ための「現実的な方法」を、徹底的に考える ~対談・ティアフォー 加藤創業者兼代表取締役社長CEO×IISE 藤沢理事長

自社の考え(ソート)を社会に広く発信し、共感する仲間を集めて実現を目指す「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)活動」。これを体現している企業の経営層やキーパーソンの方々との対談を通じて、「ソートリーダーシップ活動」のヒントを探っています。
第8回のお相手は、ティアフォー創業者兼代表取締役社長CEOの加藤真平氏。学者から経営者に転身し、自動運転のOS「Autoware」を作りました。それをオープンソース化して世界中の企業を仲間にし、グローバルでNo.1を目指しています。ビジョンを語り、相手のニーズに応え、約束を売る。加藤さん流のソートリーダーのあり方を伺いました。


学者から経営者へ。自動運転は「3つの条件」がそろっていた

藤沢 ティアフォーを創業する前は、ずっと研究者をされてきたのでしょうか。
 
加藤 そうです。研究者の仕事とは、課題を設定し、先行事例を調べ、解決方法を考え、資金を集め、研究することです。この一連の仕事は、経営者と大きくは変わらないと思います。研究者の延長線上で、経営者をしている感覚です。

ティアフォー 創業者 兼 代表取締役社長CEO 加藤 真平 氏

藤沢 自動運転をテーマにされたのは、なぜでしょうか。
 
加藤 私の専門は、多くの技術の源泉となっているコンピューター・サイエンスです。2000年ごろ、日本ではその応用分野がPCから携帯電話へ移り、次はヒューマノイド・ロボットへ行くという流れができていました。
 
しかし、米カーネギーメロン大学に行き、車が自動運転で動いている様子を見て、ヒューマノイド・ロボットより可能性がありそうだと感じたのです。自動車には、すでに大きな市場があります。ロボットの市場を一から創るより早いですし、使用している技術はヒューマノイド・ロボットとほぼ同じでした。「経済性がある」「技術的な挑戦ができる」「社会貢献ができる」という3つの条件が全てそろっていたので、自動運転をやってみようと思いました。
 
3つの条件がそろって初めて、やりたいと思えます。経済性が無ければ、やがて先細りするでしょう。技術的な挑戦がないと、やる意味がありません。社会貢献ができないと、単なるお金儲けで終わってしまいます。自動運転は、この3つの条件をすべて備えていました。

世界No.1を目指すためにこそ「現実的」な方法を取り続ける

藤沢 テーマを自動運転に定めた後、それを広げるために「オープンソース」による推進を掲げました。その理由を教えてください。

IISE 理事長 藤沢 久美

加藤 ひと言で言えば、「価値の最大化」です。グローバルでNo.1を取らなければ、価値を最大化したとはいえません。今からNo.1を取るために、最も「現実的」な方法がオープンソースだと考えたのです。
 
コンピューターの世界には、「Linux」という前例があります。WindowsやMacOSが市場を席巻した後に、オープンソースとしてLinuxが現れ、地位を築きました。スマートフォンの世界でも、iOSの後に登場したAndroidはオープンソースの形をとっています。結果、グローバルな市場では勝っているのです。
 
同様に、自動運転の世界ではGoogleやトヨタが先行していますが、オープンソースではありません。ならば、私がオープンソースを作り、グローバルで勝てないかと考えたわけです。
 
藤沢 オープンソースは平和的な印象がある半面、権利を無償で開放するので、利益が出ないのではないかと思う人もいます。
 
加藤 例えば、IBMはLinuxしか使っていませんが、大きな利益を出しています。ソニーやサムスンも、オープンソースのAndroidで利益を出しています。
 
オープンソースは利益が出ないと考える理由は、誰もが簡単に真似できてしまうからでしょう。しかし、現にIBMもソニーもサムスンも利益を出している。なぜでしょうか。
 
実はオープンソースとは、登山に例えると五合目までの話だからです。五合目の完成度では、誰もお金を払ってくれません。しかし、それを使って頂上レベルの製品を作れば、多くの人がお金を払います。つまり、人々がお金を払う対象は、QCD(品質・コスト・納期)なのです。QCDが確立されれば、消費者はお金を払います。この時、消費者は製品のベースがオープンソースかどうかには関心がありません。私はソニーのAndroid端末を使っていますが、「オープンソースだから無料にしてくれ」とは全く思いません。
 
オープンソースの価値は、QCDにあります。普通は、Q(品質)を上げようとすると、C(コスト)とD(納期)が犠牲になります。しかし、オープンソースは基本が無料なので、Q(品質)を上げてもC(コスト)やD(納期)が犠牲になりにくい。このスキームこそが、一番強いと思っています。

▼参考:オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」GitHubのページ

藤沢 材料を無償で配布しても、料理人の腕次第で価値が変わるということですね。
 
加藤 オープンソースは、いわば1つの湖です。そこに具材としての魚が泳いでいます。
 
でも、具材を料理に変えるには、包丁やキッチン、レシピ、きれいなレストラン、優秀な店員などが必要です。それらがそろって、初めて商品になります。同じ具材が、高級な料理にも大衆向けの料理にもなります。オープンソースは「湖がそこにある」というだけの話なのです。

藤沢 湖から魚を獲る人たちは、魚が枯渇しないように、自ら餌を入れたり、手入れをしたりしているわけですね。
 
加藤 はい。誰かが何かを作ってくれれば、自分たちが利用できるかもしれないし、自分たちも積極的に何かを提供して、資源が枯渇しないようにします。

オープンソースには2種類ある。高い公共性が成功のカギ

藤沢 加藤さんは、その湖を最初に作ったわけですね。自動運転OSの業界標準を目指す国際業界団体「The Autoware Foundation(AWF)」は、何を目的として立ち上げたのでしょうか。

▼参考:The Autoware Foundation(AWF)公式サイト(英語)

加藤 オープンソースには、実は2種類あります。「特定の企業が管理しているオープンソース」と「本当の意味で公共的なオープンソース」です。
 
Androidはオープンソースと言いつつ、Googleがオーナーとして管理しています。しかし、Linuxは「Linux Foundation」という非営利の財団があって、公共性が担保されています。この違いは大きいです。
 
湖の話でいえば、Androidは「これは私の財産だけど、皆さんに開放します」という湖。Linuxは、真に誰のものでもない公共の湖です。
 
誰かの所有物である限り、「いつか締め出されるかもしれない」と思う人もいるでしょう。急にお金を請求されたり、湖を廃止されてしまうかもしれません。それよりは、公共性のある話にした方が良い。仮に、創設者である私がやめるといっても、財団は続くでしょう。私が急に「お金を取りたい」と言っても、私は理事の1人に過ぎませんから、ほかの理事が賛成しなければできません。公共性と信頼性が高く、リスクが低い仕組みをつくり出せます。

ティアフォーはAWFの創設メンバーの一社であり、加藤氏は理事長を務める。ティアフォーは、AWF参画パートナーと連携し、自動運転の技術革新、Autowareをベースにした自動運転システムの普及に努めている。(出所:ティアフォー様公式サイト

私は当初、個人商店のような形でオープンソースを始めました。それでも人はある程度集まってくれましたが、もっとスピードアップしたいと考えたとき、自分のしていることが非常に「Android的だ」と感じたのです。世界を席巻するには、Linux的な方法を採るべきだと思い直しました。
 
リーナス・トーバルス氏がLinuxを作ったように、私はAutowareを作りました。その後、トーバルス氏がLinux Foundationを作ったのと同じように、私もAWFを作りました。Linux Foundationには、IBMやGoogle、Red Hatがいます。AWFにはティアフォーがいて、ARMがいて、AWSも入って来ました。Linuxと同じモデルです。

藤沢 そういうやり方が実際のところ、王道なのでしょうね。
 
加藤 そう思います。私には模倣を前向きに捉える考えが学者として身に沁みついているのでしょう。物理学はアインシュタインやニュートンが考えたものの上に成立しています。先人の業績をよく学び、そこに自分のアイデアを加えて新しくする。テクノロジーやビジネスにも通じる考えだと思います。

相手のニーズを把握し、それに応える「約束」を提示せよ

藤沢 「自動運転の民主化」というビジョンを掲げていらっしゃいます。
 
加藤 英語では「The Art of Open Source」といっています。もう1つが「Reimagine Intelligent Vehicles」です。この「Inteligent Vehicles」は、自動車に限らずドローンや船も入ります。オープンソースを通じて、従来のVehicles(乗り物)を根本からReimagine(再創造)できるというわけです。

▼参考:ティアフォーは2024年11月20日、自動運転バスの社会実装を進める「Minibus 2.0」の販売開始を発表

藤沢 ビジョンを重視する姿勢は、学者時代からのものですか。
 
加藤 いいえ、会社を立ち上げた時にビジョンの重要性に気づきました。ヒト・モノ・カネをどう動かせばよいのか。手元にあるのは、ビジョンだけ。そのビジョンを、未来の約束を売るように、最大限に打ち出しました。
 
そこで私が少し有利だったのは、東京大学のコンピューター・サイエンスの准教授だったことです。「日本で自動運転に詳しい私が日本をけん引していく」という話ができました。
 
藤沢 ビジョンに共感してもらうことはできても、一緒に取り組んだり、投資してもらうには、個々の皆さんの具体的なニーズに応えなければなりません。
 
加藤 相手のニーズを把握し、それに応える「約束」を提案することが重要です。皆が同じ約束を求めてくるとは限りません。

例えば、効果的なプロジェクトの提案には、支援してくれる人を増やすことが欠かせません。まずは、担当者がその上の関係者に提案してくれないと、何も起きません。逆に言うと、担当者が適切に力強く提案すれば、通る確率が上がります。このためには、担当者がプロジェクトの価値を「共感」し、積極的に取り組むことが重要です。担当者がプロジェクトに熱意を持つことで、その取り組みが「成果」に繋がります。
 
藤沢 加藤さんはビジョナリーな人で、とても大胆な話をしているようですけど、一方でとてもきめ細かい人の機微を感じる繊細な感性もお持ちですよね。
 
加藤 ミッションは「点」で、ビジョンはミッションを達成するまでの「道」です。その道筋は論理的であり、クリアに見えていないといけません。例えば、A→B→C→D→……という形で一つずつ、「点」としてのミッションをクリアしていく。このステップを踏んでいき、Zまで行けば、ビジョンを達成できる。その中のCが「支援者への働きかけ」であったり、Dが「担当者の要求に応える」であったりします。
 
藤沢 最終ゴールとしてのビジョンに向かうための「道」が、加藤さんにおける「ソート」であり、それを人にクリアに見せられるからこそ、加藤さんやティアフォーの周りにパートナーが増えていくということなのでしょうね。

「柔軟な人」だからこそ、ビジョンやソートを語れるのでは

藤沢 例えば、日立Astemoのような自動車業界の伝統的な企業グループとも連携されています。その狙いは何でしょうか。

加藤 どうしたらグローバルでNo.1になれるかという話です。要素はいくつかあると思いますが、日本の自動車メーカーのサポートが必要でしょう。「日本の自動車メーカーが支持しないような日本のスタートアップ企業に、誰が協力してくれるのか」という話です。
 
日本の自動車メーカーはこれまで、デンソーや日立Astemoと組んできたわけですから、私もその方々と協働する必要があります。「ティアフォーは、自動車業界全体にメリットがある会社だ」と思ってもらうために、重要なことです。
 
藤沢 他にも東大松尾教授が技術顧問を務める松尾研究所と共同開発を行ったりと、高度な技術力を生かした共創を次々と発表されています。新しい価値を世の中に生み出す画期的なビジョンは、技術に明るい人でないと、なかなかつくるのは難しいんでしょうか。
 
加藤 先端技術の世界では、そうかもしれませんが、SaaSやエレクトロニクスなど、すでに市場ができている領域では、技術者でなくても活躍されています。例えば、ソフトバンクグループの孫正義さんは生粋の技術者ではないと思いますが、ものごとをかなり正確に把握し、新たなビジョンを打ち出しています。
 
藤沢 全く未知の領域というよりは、新しい市場ができる可能性が少し見えている領域の方が、ソートを提示するのには適していると私たちも考えています。そんなビジョン、あるいはソートを語れる人とは、どういう人だと思われますか。

加藤 自己実現を求めながらも、「柔軟な人」だと思います。自分の持っている知識をいかに柔軟にアップデートしていけるかが左右すると思います。何か困難や未知の概念が出てきたときに、「嫌だ」とか「できない」という固定概念を一度外して、どうしたらできるかと考えられる人だと思います。そういう人は自己実現欲求が強いながらも「柔軟」な人といえるでしょう。
 
藤沢 今後、加藤さんと同様にビジョンや約束、あるいはソートを語れる、いわば「ミニ加藤さん」のような人を増やしていくことは必要ではないかと思うんですが、どうでしょうか。加藤さん一人で今後もずっと全部やるのは大変ではないですか。
 
加藤 それができる人がいたら、きっと独立されているでしょうね。「会社はリーダーの器を超えないといけない」と言われますが、まさにそうだろうと。ただ世界を見渡した時に、相当に難しいことであるとも感じます。
 
藤沢 今後の展望について教えてください。加藤さんの自己実現の究極は、どこになりますか。
 
加藤 「世界で最も価値の高いことをやる」です。それは、最も価値の高い会社を作ることでもあります。
 
藤沢 そこに、モビリティという言葉は入っていないですね。
 
加藤 はい。その究極を少しブレークダウンすれば、「私が日本でできること」となり、その先に、日本の強みとして「モビリティ」や「街」というテーマが出てきます。その意味で、モビリティは良いテーマになり得ると思います。
 
藤沢 今日のお話には、ソートリーダーとしてのビジョンの描き方に加えて、ソートリーダーシップを実践するためのヒントがたくさんありました。加藤さんの今後の挑戦もとても楽しみです。ありがとうございました。

聞き手:IISE 理事長 藤沢 久美

<対談を終えて>

ミッションは「点」、ビジョンは「道」。ソートリーダーが新しい考え(ソート)を世の中に提示し、人や企業の「共感」を生み出そうとする時、そのあり方は一つではありません。加藤さんは、「共感」の源泉に、強い「説得力」を置いているのだと思いました。ソートのゴールを「Z」として、A→B→C→……と、「点」のミッションを一つ一つ置いていく。Zに至るまでの「道」を明確に打ち出しているからこそ、単なる「夢物語」ではない新たなソートを、説得力を持って提示できるのでしょう。まさに今、加藤さんのもとに人が集まってきている段階といえます。
これからのさらなる加藤さんの快進撃と、その後にまた「どうでした?」とお話を伺える時が来ることを、とても楽しみにしています。

藤沢久美
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て1995年、日本初の投資信託評価会社を起業。1999年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年~2022年3月まで同代表。2022年4月より現職。
https://kumifujisawa.jp/

企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、榛葉幸哉、石垣亜純)

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