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交渉術 第21話:決断の行方

(この物語では、メーカーの技術者である武井(27歳)が、問題解決を通して交渉術を学んでいきます)

前回までのあらすじ

第20話:千田への報告
三淵の抱える課題に技術支援を提案したい武井。しかし、それが杉下課長の管轄に影響を与えかねない点を懸念し、千田への説明を慎重に考えた。武井は、三淵の課題の重要性と香田の分析力を活かす意義を論理的に伝え、負担管理の責任も明確化することで千田を説得。

千田は条件付きで協力を了承し、武井は三淵にも「短期決戦」で取り組むと決意を共有した。


第21話:決断の行方

夕方、前岡工業の技術部の一室。

武井青のスマートフォンが鳴り響いた。画面には「本山自動車 橋本」の名前が表示されている。

「もしもし、武井です。」

電話の向こうから橋本の声が聞こえた。

「武井さん、急な連絡で申し訳ありません。前回の打ち合わせの件でいくつか確認したいことがありまして。至急、明日にでもこちらの会議室に来ていただけますか?」

「具体的にはどのような件でしょう?」

「いただいたデータの中に、弊社のデータと矛盾する箇所がありまして。 詳細はメールでお送りします。」

「概要を教えていただけますか?」

武井は電話越しにおおよその内容を把握した。

「はい…はい…  わかりました。 その件でしたら、明日ご説明に伺えると思います。」

「急で申し訳ありません。 明日15:00から社内報告があるのですが、直前でチーム内から指摘が挙がったものですから。」

「会議は11時からでよろしいでしょうか?それ以前は別件もありますので。」

「… わかりました。 私ひとりの参加になりそうですが、よろしくお願いします。」橋本はやや恐縮したように答える。

 「承知しました。明日、そちらに伺います。詳細を準備しておきます。」

武井は電話を切ると、深く息を吐いた。

「橋本さんですか?」 香田が武井に尋ねた。

武井は「そうだ」と短く答えた。

机の上には資料が山積みされ、香田が三淵の問題を解決するための最後の詰めに取り組んでいた。三淵自身も隣で真剣な表情で作業している。

「武井さん、あと1ケースシミュレーションを行えば、全方位での検証が終わります。」
 香田はモニターに映る数値を指差しながら言った。

「そうか。でも、もう時間がない。」 武井は腕時計をちらりと見た。「明日の本山自動車との打ち合わせの準備も進めないと、まずいぞ。」

香田は少し躊躇した後、静かに口を開いた。

「武井さん、このまま切り上げたら、三淵さんの問題は解決しないかもしれません。あと数時間あれば、結論を出せる可能性があります。」

武井は眉をひそめた。

「分かっている。しかし優先順位を考えなければならない。 最初に、そう言ったろ?」

その言葉に、香田は一瞬言葉を失ったが、目を伏せながらも反論を続けた。

「確かに、橋本さんとの打ち合わせは重要です。でも、三淵さんの問題も明日、顧客への報告書に反映されなければなりません。もう少しなんです。」

武井は香田の言葉に耳を傾けた。

「香田、お前の言いたいことは分かる。」

武井は腕を組み、考え込むような表情を見せた。

三淵が口を挟んだ。

「状況はわかった。 武井、そっちの仕事に戻ってくれ。 そういう約束だ。」

「三淵さん、あと1ケースです。」香田が懇願するように三淵を見る。もはや、これが香田の課題であるかのようだ。

「あとどれくらいだ?」武井が言う。

「2、いや1時間半でやり切れます。」香田が答える。

「あと2時間だ。その間に、問題を片付ける手立てを考えろ。ただし、2時間以内に終わらなかったら、そこで切り上げる。それでいいか?」

香田は真剣な目で頷いた。 「はい、それで十分です!」

「俺は先に戻る。 三淵、あとはよろしくな。」

「わかってる」三淵はキッパリと答えた。



香田が最後の計算を終えた。

「これで解決策が示せますね。」 香田の声に、三淵がほっとした表情を浮かべた。

「ありがとう、香田くん。本当に助かったよ。」 三淵は座っている香田の肩を掴み、感謝を伝えた。

「少しでも役に立てたなら良かったです。明日の顧客への報告、よろしくお願いします。」
香田が答える。 と、その背後に武井が現れた。

「時間通りか?」武井が香田に声をかけた。

「武井さん」香田が少し驚いたような表情で武井を見た。

「ご苦労さん。 明日の橋本さんへの報告ストーリーはまとめておいた。 内容に沿ってデータを入れ込んでくれ。」
武井は香田に指示を出すと、三淵の方を見た。

「三淵、 なんとかなりそうだな」

「ああ、感謝してる」

武井と三淵は出来上がった資料に目を通しながら、顧客への交渉戦略について話を始めた。

香田は、そんな二人の姿を背中に残しながら、その部屋を出て自分のデスクへ向かった。
(武井さんのレポートに付随するデータを付けて仕上げる作業が待っている。)
幸い、交渉戦略は武井さんに100%頼ることになるが、今回はそれでいいだろう。現場で学ばせてもらおう。

香田は、ことのほか順調に行った仕事に満足感を覚えながら、軽い足取りでデスクに向かった。




良かった点

交渉戦略

  1. 柔軟な優先順位設定
    武井は橋本からできる限りの情報を即聞き出し、必要な時間やリソースを想定した上で、打ち合わせ時間を先に設定するアンカリングを行うなど、顧客意向を無視せず、かつ、自身にできるだけ有利な方向に話を振っていった。

  2. データと論拠の重視
    香田は「あと1ケースのシミュレーションが必要」と言い、三淵の課題解決において、客観的で必要十分なデータを基に対応を進めた。

コミュニケーション戦略

  1. 部下の意見を尊重
    香田の提案に耳を傾け、リスクを認識しつつも解決の機会を与える姿勢を見せた。

  2. 明確な指示と協力体制
    「あと2時間」という具体的な制約を設定しつつも、香田と三淵の自主性を尊重する形で進めた。

仕事の進め方

  1. 効率的な時間管理
    タイトなスケジュールの中で、短時間で結果を出すための適切なリソース配分を行った。

  2. チームの力を活用
    香田と三淵が協力し、それぞれの強みを活かした役割分担が成功した。

  3. 報告と準備の徹底
    顧客への報告ストーリーの準備と現場課題解決の両立を目指し、成果に結びつけた。

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