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ファインデング・ユー! 第四話

この世界の唯一の大地、ルームル大陸のど真ん中に聳えるカトナーレ火山の噴火は、東方向の大地を瞬く間に灰と塵で覆い尽くし、時折巨大な岩が降り注ぐという大変な事態にまで発展してしまった。
北の殆どを埋めつくしていたきのこの森が約半分、東羊の草原、南東に位置するジェイリートと青年が出会った大都市メルマロールが主な被害を受けている。
山の頂上から、どろり、どろりと確かに流れる血のように赤く、てらてらと鈍い光を放つ溶岩は流れるスピードが遅くとも人々の恐怖を更に煽る。
一斉に北側への避難が促され、黒馬の空を飛ぶ橋やが空を駆け巡り、地上はどこも人や白馬の馬車で渋滞が出来ていた。我先に助かろうと怒号を上げる者、泣き叫ぶ者、火山灰から身を守ろうと必死に知恵を絞る者、船を出して海へ逃げる者もいる。

そんな中で、異世界からやって来た青年とオオワシドリのドリー、青年を元の世界へ戻す事でお金を稼いでいるジェイリートはルームル大陸南西に位置する小さな森の洞窟の中で身を寄せ合っていた。これからどうするかの作戦会議である。

「前に噴火した時は、どうしたの?」

青年の問に、ジェイリートは首を振る。

「前回の噴火は四百年前。確かに被害は今と同じように悲惨だったそうだし、火山の頂上付近にはドラゴンが飛んでいたという記録があったそうたが…たまたまそこに居合わせた異世界人がドラゴンに何かをしたという話はこれっぽっちも聞いた事が無いね!」
「そうなんだ」
「カトナーレは今も君の頭の中に話し掛けてくるのかい?」
「それが…」

今度は青年が首を横に振る番だった。

「噴火して、案内人さんを助けている途中でプツリとテレパシーが無くなってしまって」
「君、私のことを案内人と呼ぶのを止めてくれないか? 会った時に言っただろう? 私の名前はジェイリートだと!」
「あぁ、はい、ジェイリートさん。そして、僕の名前は圭佑(けいすけ)、ですよ」
「悪いが青年、君の名前は何度聞いても発音できそうにない」

圭佑が肩を落とすのを横目に、ジェイリートは再び洞窟内をぐるりと見渡した。影になって見にくいが、岩肌には所々宝石のように赤や黄色等、色のついた石がはめ込まれている。そして、更に奥に続く道もあるようだ。

「でかした青年、ここはカトナーレ火山に続く地下道がある! この色付き岩石がその証拠だ!」
「え、そうなんですか?」
「きっと、奥に行けば妖精もいるだろう…。ついてきなさい」

ジェイリートに言われるがまま、圭佑とドリーは彼の背中を追った。奥へ続く道は緩やかな下り坂になっており、歩いていると突然広い空間が現れた。そこは先程の色付き岩石が星空のように光り輝き、地面にはどこからか湧き出ている水が小さな川を作って穏やかに流れていた。キョロキョロと当たりを見渡す圭佑に、ジェイリートはある箇所を杖で差して言う。

「あれが火山の精霊だ」

そこには、薄桃色に淡く輝く羽に黒い模様が描かれた羽の蝶が一羽パタパタと飛んでいた。妖精と聞いててっきり小さな羽の生えた小人を想像していた圭佑は少しガッカリしながらも、神秘的なオーラを纏う蝶に見惚れる。ちなみにドリーは興味が無さそうだ。

「あの妖精は火山に繋がる洞窟にしか生息しない。やはりここをまっすぐ行くと火山に辿り着く。確実に、安全にだ!」
「そうなんだ…あの、ジェイリートさん」
「なんだい、青年」
「ドラゴンのこと、どれくらい知ってますか」

ジェイリートは足を止め、シルクハットのツバを触ってやや考えてから話出した。ふわり、妖精がジェイリートの顔の近くを飛び、彼をほのかにピンク色に照らす。

「ドラゴンは、もうマグマ遊びなんて出来る年齢ではないと言われている。寿命は五百歳まで、仮に前回の噴火でドラゴンが新しく産まれていたとしてももうその個体は四百歳だ。子を産むには高齢過ぎる。だが、ドラゴンが火山の噴火の原因を作るマグマ遊びが出来るのは名前を付けられる前の産まれて間もない個体しかいない…」
「現にこうして噴火しているんです。ドラゴンは新しく産まれている」
「そうだろうな」

ジェイリートは再び足を動かした。妖精が「こっちだよ」と言わんばかりにひらりひらりと先を飛ぶ。川の水流とは逆の方向、時折涼しい風が吹く為に外の大騒ぎなんて忘れてしまいそうだ。
十分程歩くと、洞窟の道は上り坂に代わり、更に歩くと一気に目の前が真っ暗闇に包まれた。妖精が圭佑とジェイリートの前をひらひらと飛びながら来た道を戻って行く。二人は洞窟が途切れた事を察した。
外はとっぷりと夜だった。空は灰で包まれてしまったらしい。上を向いても星も月も見当たらなかった。

「外に出るのは明日だ。洞窟内で一休みしよう」

ジェイリートは洞窟出口まで戻り、杖で地面に丸を描く。
ポン! と、簡易なテントと寝袋、チキンレタスのサンドイッチが入ったバスケットがそこに現れた。圭佑はまだ魔法に慣れていない様子で、その場に立ち尽くす。ジェイリートは笑って彼をキャンプへ招き入れた。


※※※※※

ジェイリートが魔法で出したホットココアは、しっかりとカカオとミルクの味がした。マグカップを両手で持ち、圭佑は黙ってココアを啜る。
自画自賛の独り言が止まらないジェイリートの声、噴火から数時間経って不気味なほど静かになった外から聞こえる風の音、ドリーの寝息。

この世界に飛ばされてから現在まで、夢を見ているみたいに思う。圭佑の居る地球では宇宙人なんて都市伝説として片付けられる夢物語。
それなのに、自室のベットで寝て目を覚ましたら異世界に来ていて、そこで出会ったよく喋る変な男にアップルパイを渡され、刀を飾っている雑貨屋に入ったら羊のいる草原にワープして、しまいには頭の中に『産まれてくるドラゴンに名前を付けよ、世界に安寧をもたらせ』と訳の分からない女性の声が流れてきて。
きのこだらけの森に行けばカラスの群れに襲われている巨大な鷲を助けたら懐かれて、背中に乗せてもらって空を飛んで、火山が噴火して。
思い出すだけで頭がキャパオーバーを起こしてしまいそうだ。

「これからどうなるんだろうなぁ」

元の世界に帰るのは、ジェイリートに頼ればきっとなんとかなるだろう。彼が言う研究所と教会が今回の噴火騒ぎでダメになっていなければ、だが。
ひらり、妖精と呼ばれる薄桃色の蝶が数羽、ランプと甘い匂いに釣られて寄ってきた。ジェイリートリートが妖精に頭を下げて紳士的に何か話し掛けている。変な人だな、と圭佑は思いながら明日からの大冒険に備えて早めに寝ようとココアを飲み干し立ち上がった。

噴火直前まで自分の脳内に話しかけてきた女性は、どうやらカトナーレという女神らしい。神様なら夢の中に出てきてくれて何故自分を選んだのか、ここからどうしたらいいのか教えてくれたりしないだろうか。そんな期待を込めて眠りにつく。

残念ながら、夢に彼女は出てこなかった。





1話 


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