【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯31『少年スキップ』
♯31『少年スキップ』
文字数:約1,570字
高校の女子学生が自宅に向けて自転車を漕いでいた。
部活帰りで夜7時を回っていたが、日の入りが遅い夏場のため、まだ夕暮れの空が広がっている。
田園地帯を突っ切るような通学路を自動点灯のライトが照らし、両脇からはカエルの合唱。
そのカエルの歌声にまじり、
タタンッ タタンッ
軽快なリズムの足音が聞こえてくる。
前方からこちらへ向かってスキップして来ていた子供の足音だ。
黄色い野球帽をかぶり、黒いランドセルを背負った男の子で、長い一本道のため何分も前から女子高生の視界に入り続けている。遠くに小さく見えていたときは走っているのかと思っていたが、徐々に近づいて来て、両手で肩ひもを掴んだ状態で軽やかに跳びはねるようにしているとわかった。
小学生の帰宅時間帯としてはだいぶ遅いが、友達と楽しく遊んでいたのだろう。
スキップする少年の顔には笑顔がある。
……でもなんかちょっと、気持ち悪い笑い方だな。
もうすぐすれ違いそうなところまで来て、女子高生はそう感じた。
口元は笑っているけど、目が笑っているように見えない。
目だけは真顔のときの目つきをしているような気がする。
それに、対面から人が来るようなときには、多少の警戒心の働きや相手の位置を把握するためなどで、何度か目を向けて見たりするものだけれど、少年にはそのような気配が無いのだ。目線はずっと正面を向いたまま固定されている。
いよいよすれ違ったときにも、スキップをする少年の目が、彼のすぐ脇を自転車に乗って通過していく女子高生に向けられることはなかった。
タタンッ タタンッ
と、拍子を刻んで過ぎゆく彼の両目はただまっすぐ進行方向を向いていた。
……やっぱ気持ち悪かったな、あの子。
タタンッ タタンッ
……飛び出し注意の看板みたいな帽子被ってたし。
タタンッ タタンッ
……よく考えると結構な距離をスキップしてたよなぁ。どこの子だろう。
タタンッ タタンッ
……てか、なんでまだ足音が聞こえてるの?
不審に思った女子高生が振り返り、ぎょっとする。
タタンッ タタンッ
自転車のうしろを少年がピッタリついてきているのだ。
依然として、口元だけが笑っている顔で。
すれ違うときにも正面を向いていた目が、今はこちらを凝視している。
「なんでついてくるの!?」
「――――」
訊いても、少年は答えない。
タタンッ タタンッ
と、表情を変えずにスキップを続ける。
怖くなった女子高生は自転車を漕ぐスピードを上げた。
タタンッ タタンッ
足音は遠のかない。
もっと速度を上げる。
陸上部なので足腰の強さには自信があった。
タタンッ タタンッ
まだついてくる。
さらに速度を上げる。
泣きながら限界までペダルを漕ぐ。
タタンッ タタンッ
まだ……。
そうだ、ブレーキだ。
キキィーーーッ
女子高生は思い切って、停車してみた。
前のめりになった上半身を起こして、振り返る。
と、少年の姿は消えていた。
「うわ~っ……あれ絶対に人じゃなかったよ」
女子高生は深呼吸を繰り返し、バクバクしていた心臓を落ち着つかせたあと、田舎超やべぇ~、と笑顔を見せる余裕も生まれ、またペダルを漕ぎ出す。
キキッ
すぐに自転車を止めた。
夕暮れ間際の長い一本道の向こうから、スキップをしてくるような子供のシルエットが見える……。
(了)
