【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯29『怪人・夜な夜なasker』
♯29『怪人・夜な夜なasker』
文字数:約2,440字
深夜帯に、若いサラリーマンの男性が、帰宅途中だった。
線路沿いの道を歩いていると、前方の路肩に人影を見つける。
赤いドレスを着た高身長の短髪女だ。
暗闇の中でぽつんと浮かび上がるように立っている街灯。その光をスポットライトのように浴びている彼女は、赤いドレスのスパンコールをキラキラ反射させながら、昭和の歌謡歌手がゆらりゆらりと体を左右に揺さぶるようなステップを延々と踏み続けている。
その手にはなぜかマイクが握られてもいた。
……なんか変なやつがいるな。
家に帰るにはこの一本道を進まねばならなず、サラリーマンは歩いていた路肩の反対側へと移り、赤いドレスの女からできるだけ距離を取ってすれ違うことにした。
接近していくと、彼女が何やらぶつぶつ呟いているのがわかる。
「踊らにゃ損、踊らにゃ損です」
という節を、ずっと繰り返しているのだ。
いよいよ関わっちゃいけない人だなと思った若いサラリーマンは、顔を伏せるようにして足早に通り過ぎようとした。しかしそこで赤いドレスの女が、待っていましたとばかりに、マイクを握る手を伸ばし、いきなり質問を投げかけて来たのである。
「恋と自由に生きていた?」
「ハッ?」
わけのわからないサラリーマンは訊き返すような声を反射的に発すると、マイクを差し向けていた赤いドレスの女は、ニコッと満足そうな笑みを浮かべたのち、呆気にとられているサラリーマンのもとから離れていく。昭和歌謡ステップを踏みながら「踊らにゃ損、踊らにゃ損です」と暗闇の中に消えていった。
◯
別な日の深夜帯に、若い専門学生の女性が、帰宅途中だった。
線路沿いの道を歩いていると、前方の路肩に人影を見つける。
赤いドレスを着た高身長の短髪女だ。
暗闇の中でぽつんと浮かび上がるように立っている街灯。その光をスポットライトのように浴びている彼女は、赤いドレスのスパンコールをキラキラ反射させながら、昭和の歌謡歌手がゆらりゆらりと体を左右に揺さぶるようなステップを延々と踏み続けている。
その手にはなぜかマイクが握られてもいた。
……なんか変な人がいるなぁ。
家に帰るにはこの一本道を進まねばならなず、専門学校生は歩いていた路肩の反対側へと移り、赤いドレスの女からできるだけ距離を取ってすれ違うことにした。
接近していくと、彼女が何やらぶつぶつ呟いているのがわかる。
「踊らにゃ損、踊らにゃ損です」
という節を、ずっと繰り返しているのだ。
いよいよ関わっちゃいけない人だなと思った若い専門学校生は、顔を伏せるようにして足早に通り過ぎようとした。しかしそこで赤いドレスの女が、待っていましたとばかりに、マイクを握る手を伸ばし、いきなり質問を投げかけて来たのである。
「あの鐘を鳴らすのは?」
「えっ、私ですか?」
わけのわからない専門学校生は、自分に対して質問してきているのだろうか?、という意味合いで反射的に訊き返した。マイクを差し向けていた赤いドレスの女は、ニコッと満足そうな笑みを浮かべたのち、そうであると言うように両手のひらを専門学校生に向けてくる。
「あなぁ~たぁ~!」
と、赤いドレスの女は大声で言ったのち、呆気にとられている専門学校生のもとから離れていく。昭和歌謡ステップを踏みながら「踊らにゃ損、踊らにゃ損です」と暗闇の中に消えていった。
◯
また別な日の深夜帯に、酔っ払いの中年おやじが、帰宅途中だった。
線路沿いの道をふらつきながら歩いていると、前方の路肩に人影を見つける。
赤いドレスを着た高身長の短髪女だ。
暗闇の中でぽつんと浮かび上がるように立っている街灯。その光をスポットライトのように浴びている彼女は、赤いドレスのスパンコールをキラキラ反射させながら、昭和の歌謡歌手がゆらりゆらりと体を左右に揺さぶるようなステップを延々と踏み続けている。
その手にはなぜかマイクが握られてもいた。
……なんかおもしれぇやつがいるぞ。
酔っ払いのおやじは、ちょっくら冷やかしてやろうと思い、街灯に向かってそのままふらふら歩いていく。
接近していくと、彼女が何やらぶつぶつ呟いているのがわかる。
「踊らにゃ損、踊らにゃ損です」
という節を、ずっと繰り返しているのだ。
いよいよおもしれぇやつだなと思った中年おやじは、「あんたモノマネ芸人かなんかかい?」と手をひらひらさせながら千鳥足で近づいていく。するとそこで赤いドレスの女が、待っていましたとばかりに、マイクを握る手を伸ばし、いきなり質問を投げかけて来たのである。
「永谷園の広東風?」
中年おやじにはどこかで聞き覚えのあるフレーズだった。
「ああ……アレだろ?…………麻婆春雨!」
マイクを差し向けていた赤いドレスの女の顔が、突然、鬼のような形相に変わる。
「カニ玉じゃろがぁあああい!」
「ひぃっ!?」
尻餅を着いた中年おやじが振り仰いだまま目をひんむく。
赤いドレスの女の背丈が、空に向かって急速にぐんぐんと伸びて行っているのだ。
その身長はあっという間に、M78星雲からやってきた超人のように巨大化する。
持ち上げられたその巨大な足の裏で、虫けらのように踏み潰されてしまった。
「うわーっ…………!?」
中年おやじが叫びながら目を覚めると、すっかり夜明けになっていた。
朝陽が射し込む線路沿いの道にはもう赤いドレスの女の姿はない。
「あれは一体何だったんだんだ……」
つぶやきながら、中年おやじは帰宅するか出社するかで、大いに悩んだのだった。
(了)
