【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯14『バケモンGO』
♯14『バケモンGO』
文字数:2,130字
ある高校一年生の男子がスマホゲームにハマっていた。
位置情報を頼りに現実の町を巡ってモンスターを捕まえるAR(拡張現実)ゲームだ。
その日も、放課後にモンスターを捕まえながら帰っていた。
ちょうど、希少な最高レアキャラが出没する期間限定のイベントが開催されている。
いつもは行かないようなスポットまで足を延ばしていた。
しかし、お目当てのイベントキャラが中々入手できない。
もう夕焼け空になっているから次が最後だ。
と、向かった先は、山麓にある神社。
「頼むから出てくれよ」
男子高校生はゲーム内カメラ機能をONにしながら境内を進んでいく。
モンスターが潜んでいるだいたいの地点は、矢印によってわかるようになっている。
……どうやら社の裏手に居るらしい。
べつに実空間上で物音を立ててもゲームにはなんら影響ない。でも、追跡しているという状況からか、息を殺すような抜き足差し足になりがちである。
そうしてゆっくり境内を回り込んで行くと、
「あれ?」
社の裏手に人が居た。
制服姿から同じ高校に通う女子生徒であるとすぐに判別がつく。
もしかするとゲームユーザー仲間なのかもしれない。
でも、彼女が手にしている黒いものは、スマホではない。
黒猫だ。
黒い子猫を胸の前に掲げ上げている。
ああ、きっと捨て猫の世話をしているんだな。
黒猫の頭を撫でつける様子を見て、男子高校生はホッコリする。
声を掛けようか迷っていると、
ペキペキペキペキペキペキッ
ペットボトルの蓋を開けたときのような乾いた音だった。
女子生徒が黒猫の頭を鷲掴みにして、ぐりんっと回したのだ。
だからそれは、首の骨が粉々に砕ける音である。
パキッ
と、その後に一回鳴った音は、男子高校生が驚いて後退りしたときに、枝を踏んづけたため。
女子生徒が、鬼のような速度で、こちらを振り返る。
見知った顔だった。
同じクラスの学級員の女子だ。
しかも一年生全体のトップ。
彼女は学級委員長なのである。
男子高校生は反射的に顔を伏せて社裏から逃げ出した。
家に帰っている途中は何度も後方を見返した。
猫殺しがあとを追いかけて来ることはなかった……。
◯
翌日、学級委員長は何食わぬ顔で登校していた。
清く、正しく、美しくを絵に描いたような、いつもの姿。
真面目で、愛嬌があって、誰からも好かれるような人柄。
到底、猫の首をへし折るような人間には見えない。
一体なにが彼女を狂った行為に走らせたのだろう。日々のストレスだろうか、考えが及ばないような深い闇を抱えているのだろうか、それとも、生まれ持った性質なのだろうか。
休み時間中、男子高校生が自身の机を見つめながら悶々と座っていると、
スッ……
と、うしろから首筋に冷たいものが触れた。
振り返ると、学級委員長が後方に立っている。
「わかってるよね?」
首根っこをつかんでいる彼女が、光のない瞳で言ってきた。
やはり顔を見られていたのだ。
短い一言でも意味が通じる、口止めだ。
「……うん。ぜったい誰にも言わないよ」
男子高校生が返答すると、彼女は友達の輪に入っていった。
「あれれ~? 委員長~、今何話してたの?」
茶化すようにする友達に、
「糸くずが首に付いてたから取ってあげただけ」
彼女はしれっと嘘を吐く。
「そういえば聞いた? また猫が殺されてたらしいよ」
「怖いよね。誰がそんなひどいことしてるんだろう……」
と、そんなひどいことをしている張本人が言った。
◯
帰りのホームルームの時間中に、男子高校生はおもむろに立ち上がった。
「昨日、学級委員長が神社で黒猫の首をへし折っていました」
クラス全体が、こいついきなり何を言い出すんだろう?、という顔を向ける中、男子高校生は淡々と言葉を連ねていく。
「ちょうどスマホゲームをしていたときに目撃したので、ゲーム内録画機能で犯行のまさにその瞬間をバッチリ撮影してます。警察と、新聞社と、週刊誌と、それからSNSのニュース系インフルエンサーにも、既にリーク済みです。ついでに文集掲載時のポートレートも添付しときました。今日の休み時間中、彼女は脅しとも受け取れる発言をしてきました。予め想定していたので、それもスマホで録音してます。ということで、揉み消すことはできません」
それでもクラス全体が、ぽかんとしていた。
ただひとり、学級委員長を除いて。
彼女だけは、昨日自身が殺した黒猫のように、目をカッと見開き大口を開けている。
男子高校生は笑顔で親指を立てて見せつけた。
「バケモン、ゲットだぜ!」
(了)
