【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯12『黒い人』
♯12『黒い人』
文字数:約1,330字
『……屋上に誰かいる』
高校の体育でソフトボールの授業中だった。
バッターボックスに立った女子生徒が、なんとはなしに校舎の方へ目を向けると、その屋上に人影を見つけた。
だいぶ遠巻きだったが人であることはハッキリわかる。
フェンス際に立っている。
両手で金網をつかみ、こちら(校庭)側を見下ろしているようだ。
黒ぐろとした完全なシルエットになっていて、男性なのか女性なのかの区別はつかない。
サボりの生徒かと思ったが、屋上は立入禁止の場所で、ドアには鍵が掛けられてあるはず。
教職員の誰かなのだろうか?
「ストライク!」
球審を務めていた男性体育教師の声で、女子生徒は我に返り、バットを握る手元に視線を移す。
その打席で三振に倒れたあと、彼女は屋上にまた目を向けてみた。
しかしもう人影は屋上のどこにも見当たらなかった。
守備についている間、女子生徒はモヤモヤとしていた。
屋上の人影が気になったのだ。
先ほど目撃した光景に違和感を覚えていた。
なにがそんなに気になるのだろう?
考えていると、対戦チームの生徒が高いフライを打ち上げた。
飛球を追って空を見上げたときに、ハッとする。
太陽が逆光になっていない。
屋上の人影がシルエットになって見えていたのは、てっきり、逆光のせいだとばかり思っていた。
けれども、太陽は校舎の後ろに浮かんでいなかったのである。
逆光に見える位置ではないのだ。
それなのに墨汁のような黒さで見えていたのは、不自然なのではないか?
いや、絶対におかしい。
残りの時間中、女子生徒は何度も屋上を見返してみたが、結局、黒い人が再び現れることはなかった。
「今日はどうしたんだ。ずっと校舎の方ばかり見て、全然集中していなかっただろ?」
授業終了のチャイム後、体育教師に呼び止められた。
「先生、実は――」
女子生徒は授業時間中に自分の見た光景を話して聞かせた。
前々からフランクに接してくる教師だったので相談しやすかった。
それでも、なにかの見間違いだろう、などと返され、どうせ取り合ってもらいえないだろうと思っていた。
しかし、話を聞き終えた体育教師は、神妙な顔つきになって屋上をジッと見つめるのだ。
「……先生?」
「今日の放課後、俺がキミを車で送って帰ろう」
「なぜです?」
「何年か前、授業中にキミと同じことを言ってきた生徒がいたんだよ。『屋上に黒い人がいる』って」
「えっ」
「その生徒は、その日の帰り道、トラックに撥ねられて亡くなったんだ……」
黒い人を見たことと自動車事故に遭ったことに因果関係があるかは定かではない。
でも、万が一のことがあってはいけないから、と体育教師は送迎を強く提案した。
不安に駆られた女子生徒は「ぜひお願いします」と了承した。
そしてこの日の放課後を境に、ふたりとも行方不明になった。
体育教師は現在、誘拐犯として指名手配されている。
(了)
