【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯25『妖怪もろちん』
♯25『妖怪もろちん』
文字数:約1,100字
これは或るオカルト書籍から抜粋された妖怪〝もろちん〟に関する記述である。
◯
出版業界で恐れられている怪異がいる。
それは〝もろちん〟という名の妖怪だ。
この妖怪〝もろちん〟は、活字に含まれている『もちろん』という言葉を、作者も編集者も校閲部も、出版に関わっているすべての人々が気づかぬうちに、『もろちん』に変換してしまうという末恐ろしい特性を有している。〝もろちん〟と名付けられているのは、無論、そこからそのまんま取られている。
その姿を見たものは未だいない。
だが、この妖怪は確実に存在している。
なぜならば、正しくは『もちろん』と入らねばならない箇所が『もろちん』と誤って表記された冗談みたいな書物が、現代においても尚、ほんとうに出版され続けているからである。
これは決して誤植などではないのだ。
妖怪のせいなのである。
作者が打ち間違えるわけがない。
編集者や校閲部が許すはずがない。
『もちろん、OKよ』が『もろちん、OKよ』となったら、それはそれは大変なことになる。
男性器をフル露出している、もしくは、まさしく男性器そのものだ、と受け取られかねない誤植を、はたして見逃すことがあるだろうか!
否ッ!!
見逃すはずがない!!
重ね重ね言おう。
妖怪のせいなのである。
誰も悪くない。
悪いのは妖怪〝もろちん〟なのだ。
やつらが人目につかないどこかで、ひっそ~り、こっそ~り、書き換えているのである。
だからSNSで『もろちん誤植はっけーん!』などと騒いで擦るのはもうやめよう。
騒いで許されるのは、生活にチンとウンが共にある小学生だけだ。
もし万が一、購入した書籍で、明らかに『もちろん』となるべき場所が、不自然に『もろちん』となっていた場合は、「ああ、妖怪〝もろちん〟の被害にあった本なんだな。可哀想に」と、素直に読み流せばいいのである。
妖怪〝もろちん〟に狙われないためにはどうしたらいいか?
残念ながら有効な手立ては見出されていない。
ある出版社では、『もろちん』撲滅用の検索工程をわざわざ設けて対策したが、結局、それでも掻い潜られたという話である。
狙われたら終わりなのだ。
ちなみにではあるが、私の著書は、まだ妖怪〝もろちん〟の被害にあったことはない。
幸運こなことである。
この文章も、作者の私自身が目が血走るほど何度も読み返した文章なので、もろちん大丈夫だ。
(了)
