【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯39『じゅじゅ坊主』
♯39『じゅじゅ坊主』
文字数:約2,340字
ある晩、小学4年生の女の子が、自室のベッドでうつ伏せになっていた。
枕に顔を埋めて、溜め息をくりかえしている。
なかなか寝入れずにいるのは、明日、学校の課外授業で登山にいくことになっているからだ。運動嫌いの女の子にとって、登山など、むやみやたらと疲れるだけの苦行以外のなにものでもない。登山を楽しみしているクラスメイトたちの気が知れなかった。
つまり明日を迎えるのが嫌なのである。
「雨降らないかなぁ……」
そうすれば中止になる。
できることなら仮病を使って休んでしまいたかったが、登山の日を嫌がっていることを母親は承知しているため、嘘はすぐに見抜かれる。ズル休みは認めてくれないだろう。
だから天気の悪化を期待するしかない。
しかし何度となくスマホで天気予報を確認しても、朝から晩まで晴れマークが並んでいる予報に変更はないのだ。
「どうにかして雨にできないかなぁ……あっ、そうだ!」
女の子はスマホのAIアシスタントアプリを起動させた。
「ねぇ、天気を雨にするおまじないを知らない? ぜったい、ぜ~ったいに効くやつを教えて!」
困った時のAI頼みである。
パパママよりずっと賢いAIなら、何か方法を知っているかもしれない。
いつもよりも返答に時間が掛かったあと、AIが、回答をスマホ画面に表示させた。
―――――――――――――――
【AIの回答】
天気を雨にする効力の高いおまじないに〝じゅじゅ坊主〟があります。以下に表記する順番を厳守し、実行してください。
白い紙の中心に、自分の名前(フルネーム)を赤いインクで記入する。
左手薬指の爪を切り、紙に記入した自分の名前の上に乗せる。
爪を乗せた紙を四回折りたたむ。
白い布やティッシュペーパーなどで「てるてる坊主」を作る。このときに『1~3』の工程で作成した紙を、てるてる坊主の頭の中に、確実に封入する。
てるてる坊主の頭と胴体の境目となる箇所は、自分の頭髪を用いて、きっちり結び留める。
てるてる坊主の顔に当たる部分に『己』という文字を赤いインクを使って書く。
完成したら「降りますように、降りますように、降りますように」と三回願をかけながら、てるてる坊主を窓際に逆さ吊りする。
これで〝じゅじゅ坊主〟が完成となります。作成した〝じゅじゅ坊主〟に不備があったり、記載した手順が守られなかった場合には効力が得られませんので、くれぐれも注意してください。
―――――――――――――――
女の子はダメ元で質問していたが、AIから返ってきた答えが具体的であったため、本当に効き目がありそうなおまじないだと思った。
「〝じゅじゅ坊主〟をつくろう!」
と、すぐにベッドから飛び起きる。
準備するものは、リビングから爪切りを取ってくる以外は部屋の中にあるもので済んだ。
手順を間違わないようにスマホを何度も確認しながら〝じゅじゅ坊主〟を作っていく。
明日雨になるのなら自分の髪の毛を数本切ることだって、なんの躊躇いなどない。
そうして完成させると、
「降りますように……降りますように……降りますように」
手順通りに三回唱えながら、窓ガラスのできるだけ高い位置まで手を伸ばし、〝じゅじゅ坊主〟の裾をセロテープで留めて、逆さ吊りにした。
これで起きたときには雨になっているはずだ、と、女の子はすっかり安心して眠りについた。
……のだが、
「晴れとるやないかい!!」
目が覚めてカーテンを開けた女の子は、カラッカラに晴れている青空に向かってつっこんだ。
あまりの腹立たしさから、AIに嘘をつかれたことを朝食時に母親に語って聞かせた。
「あんたも馬鹿だねぇ」と母親は笑った。「〝じゅじゅ坊主〟なんて聞いたことないよ。下手な尋ね方をするから、AIが勝手に創作して答えちゃったんだね。ハルシネーションとか言うやつだよ」
「ムカついたから今日は登山休む!」
「だ~め」
結局、女の子の登山を回避したいという願いは叶わなかった。
◯
その日の正午頃、女の子の母親が、ふと、朝食時に娘から聞かされていた〝じゅじゅ坊主〟のことを思い出した。
「これから雨になるかもだから、まだそのままにしてるから、ぜったい触らないでね!」
と言って娘は玄関を出て行ったものの、残念ながら、現在も空はカラッカラに晴れ渡っている。
AIが提示したおまじないなんかを本当に信じて〝じゅじゅ坊主〟なる怪しげなものを部屋の窓に貼り付けっぱなしにしているのだろうか、と気になり、母親はちょっとだけ覗いてみることにした。
娘の部屋のドアを開けると、確かに、張り出し窓の上の方に、『己』と顔に描かれたてるてる坊主らしき真っ白い物体が、頭が下向きになった逆さ吊りの状態で貼りつけられている。
「まあ、まだおまじないを信じちゃう可愛いお年頃だよね」
そう微笑ましく思って、ドアを閉じ戻そうとしたその時だった。
――ぽとっ
セロテープの貼り付けが甘くなってきていたのか、〝じゅじゅ坊主〟が、頭から真っ逆さまに床に向かって落下してしまったのである。
貼り付け直してあげようかと思い、母親が窓際に向かう。
そして、顔をしかめた。
床に転がっている〝じゅじゅ坊主〟の白い頭が、脳天から胴部の裾のほうに向かって、赤く染まり出しているのだ。じわじわ、じわじわ、液体が染みていくように、全体が真っ赤に着色されていく。
――プルルルルッ
母親のスマホに通話着信が入った。
学校からだった。
(了)
