【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯02『はじっこの蛇口』
♯02『はじっこの蛇口』
文字数:1,280字
ある中学校の校庭に、蛇口がたくさん並んでいる水道があった。
その水道の、校舎側に面している一番端っこの蛇口は、針金でぐるぐる巻きにされて、利用できないようになっていた。
ハンドルはしっかりと固定されてぴくりとも回すことができず、同様に、吐水口も針金によって下に向けられた状態で雁字搦めにされている。
ある日、校庭の水道を手洗い場としてよく利用していたサッカー部の部員が、ふと気になって、顧問の先生に尋ねた。
「なんであの蛇口だけ使えないようになってるんですか?」
「取っ手がひとりでに回って勝手に水が流れ出すからだ」
顧問の顔がニヤけていたため、冗談であるとわかった。
でも、実際、水がひとりでに流れ出したら面白い。
そう思ったそのサッカー部員は、後日、仲のいい友達を誘い、蛇口の針金を取り除いてみることにした。
友達に見張りを頼んで、家から持ってきた工具で切断を試みる。
錆の浮いた針金は何重にも巻きつけられていたが、ニッパーを使い、一本一本切っていけば、簡単に撤去することができた。
「……さすがに動かないって」
「しっ。見てみろよ」
何分とたたず、蛇口がひとりでに動き出した。
先に動いたのは吐水口だ。
下向きだったものが、音を立てずにゆっくりと、上向きに変わっていく。
完全に真上を向くと、今度はハンドルが回り始めた。
キュッ キュッ キュッ
と、こちらは金属が擦れる音を立てつつ、ひとたびひとたび止まりながら回転を繰り返す。
「……うわっ、ガチで動いてる」
「なんか変な音がしないか?」
と、サッカー部員が蛇口に顔を近づける。
最初、水が出かかっているときの空気が抜ける音かと思った。
しかしどうもそれとは違う。
ささやくような音だ。
なんだろう?
と、さらに顔を近づけ、
真上を向いている吐水口に、
耳を押し付けるようにする。
「人の声だ」
と、言った次の瞬間、サッカー部員は悲鳴を上げていた。
そうしてすぐさま血相を変えて逃げ出してしまったのである。
付き添っていた友達もサッカー部員のただならぬ様子に面食らってしまい、あとを追うようにして走り出した。
「おい、待てよ! 何があったんだよ!?」
友達は、自転車置き場でサッカー部員に追いつくと、急に逃げ出してしまった理由を尋ねた。
だが、サッカー部員は耳をふさいで首をしきりに振るばかり。
「人の声、ってなんだよ!?」
「ほんとうに聞きたいのか?」
友達がうなずくと、サッカー部員は彼の耳元に口を近づけ、ささやくように言った。
「オマエモキエル」
「……えっ?」
友達が横を振り向くと、そこに今の今ままで立っていたはずのサッカー部員が居ない。
こつぜんと姿を消してしまっている。
「お、おい。どこ行ったんだよ? 返事し――‥‥・・・
(了)
