【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯37『虫食い原稿』
♯37『虫食い原稿』
文字数:約1,430字
或る小説家がパソコンを起動して、執筆途中だった原稿を開くと、虫食い状態になっていた。
文章の大部分が欠落してしまっている。データに不具合が生じたと思って、何度か開き直してみるが、復元されない。それならば文字が反転してしまっているのかと、左クリック状態で文章をなぞってみるが、やはり空白部分に文字は浮かび上がってこないのだ。すっかり破損してしまっている。最悪なことに、バックアップは取っていない。
どうしたものか……と、原稿が映し出されているモニターをしばらく眺めた。
◯
「 、 まま に あ ます。 ま た 、 は ま 。 は ま 。 た し 、 た 、 は す。
『 』 にな た 、 なに し 。 、『 は す。』 は、 。 『 』 にな た 、 なに し 。 、 ま 。 、 、 、 なに し 。 す しは は にな た 、 、 なに し 。 な た た し 。 に は、 に は、 た し に。
。 は た 、あ た は、 な ました。
。 に な 。 、 た 。 に 、 た 、あはは。 。 あ は、 あ ま 。
し 。 な た な 。 。 、あ ま 、 ま な 。 に 、あ ま な 、 な し ます 。 な す 。
。 な 。 、 な 。 、 に し 。 に し 。 は、 す。 に た た 。 は 、 ます。 ま た 、 す 。 、 、 たな 、 ま あ ます。 た は 。」
、 に ま した。 は、 に は ま し 。
◯
句読点などの符号を除外すると、特定の五十音だけが残っていることに気づく。試しにその種類を冒頭から順番に抜き出していくと、『まにあすたはしな』の全8種だとわかった。でもそれだけだ。だからなんだというのだ。不毛なだけである。
小説家は成す術なく、また画面を、ぼーっと眺め始める。
「あ……な……た……は………」
目についた文字をつぶやいていて気づいてしまった。
薄気味悪い文章が出来上がることに……。
小説家は瞬時にワードソフトを閉じ、執筆データを削除した。
(了)
