見出し画像

【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯03『目玉ガチャ』


♯03『目玉ガチャ』

文字数:約1,560字

 幼稚園児ようちえんじが、スーパーのイートインスペースに設置されたガチャガチャを回していた。

 ガチャ本体の正面に掲示けいじされている商品紹介の黒い台紙には、大きな白文字で『?』マークが描かれている。

 何が出てくるのかわからない、いわゆるなぞガチャと呼ばれるものだ。

 どうせカプセルの中身はあまものの寄せ集めに違いない。

 やるだけ無駄むだだ、と近くで見守っている母親は思ったが、息子の幼稚園児が「一回だけ、一回だけ!」と駄々だだをこねてきかず、価格が現在ではあまり見ることのなくなった1回100円ということもあり、「特別一回だけですからね」と、財布から100円玉を取り出して与えたのだった。

 ゴソゴソゴソとぜられ、黒塗りのカプセルがひとつ排出されてくる。

「開けてあげようか?」

「いい。ぼくがじぶんであける!」

 うんしょ、うんしょと悪戦苦闘したのち、

 パカッ

 小気味こきみ良い音を立てて開く。

「なにが入ってた?」

「……めだまだ」

 幼稚園児が手のひらに乗せてながめているカプセルを、母親もかたわらからのぞき込む。

 たしかに、目玉めだまだ。

 昔よく駄菓子だがし屋で見かけたスーパーボールくじの景品に似ているな、と母親は第一印象で思った。

 白目のところに血走ちばしった血管けっかんが浮いている、少し気持ち悪いやつ。

 しかし、あれ?、とすぐに印象がかわる。

 だいぶ生々しい。

 スーパーボールにしては、ぬめり気のような光沢こうたくがあり、完全な球体ではなく、若干じゃっかんつぶれたように形が崩れている。それに、神経がたばになっているような尻尾しっぽじみたものまでくっついているのだ。虹彩こうさいは赤色だったが、ひとみきざまれている黒い点や線の描き込みが、本物のソレのようで、かなりリアルに寄せた作りの眼球がんきゅうなのである。100円のクオリティではない。

「ママ……これきもちわるいよ」

「だねぇ。今にも動き出しそう」

 きょろっ

 と、今まさに動いた。

 まるで会話に反応を示したかのようで、ふたりともドキッとする。

「こいつ、ぼくのことみてる」

「変なこといわないの。生き物じゃないんだから」

「みてるよ! だって、まんなかのクロいところが、おおきくなったり、ちいさくなったりしてるもん」

「そんなこと――」

 ない、と続けるつもりが、ほんとうに瞳孔どうこうがピントを合わせるように、拡大と収縮しゅうしゅくをくりかえしているので、母親は閉口してしまった。

 どこぞのおやじではないのだから、生きているはずがない。

 でも、見れば見るほど、生き物のように思えてしかたない。

 眺めているうちに、眼球から生えた尻尾のような物体まで、クネクネと動き出してしまう。 

 水のなかから丘にうちあげられて藻掻もがいているオタマジャクシのように……。

「うわーっ! あっちいっけ!」

 恐怖にたえられなくなった幼稚園児が、目玉をむんずとつかまえると、いきなり明後日あさっての方向へと放り投げてしまった。

 えがいた目玉は、イートインスペースに隣接するベーカリーコーナーへとまっしぐら。

 パンを購入しようとしていたおじいさんの、たまたまポケェ~と開いていた口の中へ、飛び込んだ。

 それを見て、幼稚園児がすかさず叫ぶ。

「ジジイ、のみこめ!」

「なんてこと言うの!?」

 と、しかりつけた母親は、のどをおさえて苦しそうにするお爺さんのものとへとけ寄っていく。

「うちの子がすみません! 大丈夫ですか!?」

「な……なにかが……わしの口の中に……」

「飲み込めますか!? お菓子のグミなので、安心です。飲み込めるなら、飲み込んじゃってください!!」




 ……ごくっ。


(了)


《《怪怪談談 各話一覧用マガジン》

#創作大賞2025 #ホラー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!