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【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯42『落ちる文具』


♯42『落ちる文具』

文字数:約1,970字

 水色のランドセルを背負った男児が、通学路をひとりでトボトボ歩いていた。

 放課後のめんどくさい委員会活動を終え、学校から家に向けて帰っている途中だった。

 帰ったらゲームのイベントステージをクリアしなくちゃ。

 そんなことを考えながら、差し込む西日にしびで歩道に長く伸びた自分の影を見つめ、足早に進んでいた。

 カチャンッ

 突然、うしろから物音が聞こえた。

 男児が振り返って見ると、すぐ背後の地面に、青いペンケースが落ちている。

 その青いペンケースは男児が普段使っているものとよく似ていた。

 しゃがんで拾い上げると、やはり自分のペンケースと同一のものだ。

 チャックを開けてみれば、入っている筆記用具まで一緒。

「僕のペンケース……?」

 すぐに背負っていたランドセルを歩道の上におろして確認してみる。

 被せフタはきちんと閉じていた。

 錠前じょうまえもしっかり掛かっていた。

 それでも一応、フタを開けて中を覗き込む。

 すると入れていたはずのペンケースだけが見当たらない。

「やっぱりコレは僕のペンケースだ」

 歩いている最中にランドセルの中から落ちてしまったようなのだ。

 でも、どうして?

 早歩きだったが走っていたわけではないし、なにより、フタはちゃんと閉じてあったのに……。

 男児は不思議に思ったけれど、落ちたペンケースをランドセルの中にしまい戻し、ふたたび歩き始めた。

 しかし、また……

 カチャンッ

 物音が立ち、振り返ると、青いペンケースが落ちている。

 表情を曇らせた男児がランドセルを再度下ろして中を確認すると、やっぱりペンケースが見当たらない。

「……なんでまた落ちたの?」

 穴がいているのだろうかとランドセルをくまなく調べてみるが、どこにも空いていない。

 歩いているだけでフタと本体の隙間すきまから落下するとは考えにくい。

 原因不明である。

 男児はしかたなく、もう繰り返さないように奥の方へペンケースを押し込むと、みたび歩き始めた。

 歩くスピードはゆるめた。

 振動をできるだけ抑えるため、肩ひもを両手でつかんだ。

 詰め込んでいる勉強道具がこすれ合う音も聞こえないほど安定した足取り。

 だが、

 カチャンッ

 と、三度目の不可解な落下が起こってしまったのである。

「落ちるはずないのに……」

 歩道に落ちた青いペーンケースを見つめて立ち尽くすしてしまっていると、

「ねぇ、◯◯く~ん!」

 同じクラスの女子が男児の名前を呼びながら走ってきた。

 彼女も帰宅途中で、後方からやって来ており、先を歩いていた男児に追いついた格好だった。

 その女児は、慌てた様子で男児のもとまで駆け寄ってくると、

「とにかく見て!」

 と、手にしていたスマホを掲げ見せてくる。

 画面には動画が映し出されていた。

 それはたった今、前を歩いていた男児を、女児が撮影したと思われる映像だ。

 ランドセルの肩ひもを握りながらゆっくり歩いている男児の後ろ姿。

 唐突に、青いペンケースが、ランドセルの本体上部とフタとのわずかな隙間から頭をのぞかせた。

 ススッ……スススッ……ススッ……

 と、内部からゆっくり押し出されるように青いペンケースが徐々に徐々に全貌ぜんろうをあらわにしていく。

 スマホのカメラは、ペンケースが歩道へ落下する間際に、ランドセルの中から押し出していたモノの姿を捉えていた。

 人の指だった。

 老人じみたシワくちゃの指である。

 その数本の指がペンケースを押し出し、ランドセルの暗がりへ引っ込む場面が映し出されていたのだ。

 後方からやって来ていた同じクラスの女児は、男児のペンケースがシワくちゃの指によってランドセルから落とされる二回目の場面を目撃していたのである。そして、また落ちるかもしれないと思い、スマホを構え、三度目の落下を録画していたのだ。

 動画を見て泡を食らっている男児に、クラスメイトの女児は言い放った。

「そのランドセル捨てたほうがいいよ! 妙なババアが棲み着いてる!」

 ◯

 男児は帰宅後、両親に新しいランドセルを買ってほしいと頼んだ。

 もちろん、二つ返事でOKされた。

 クラスの女児が撮影した動画を見せたからである。

 その後、男児が使っていた水色のランドセルは、リサイクルショップに売られたそうである。

 水色のランドセルを中古で購入する際は、ご注意を。

 妙なババアが棲み着いてるかもしれません……。


(了)


《怪怪談談 各話一覧用マガジン》

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