【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯45『使用禁止のブランコ』
♯45『使用禁止のブランコ』
文字数:約1,700字
その団地に隣接して作られている公園には、使用が禁止されたブランコがあった。
2人用ブランコのため通常は座板が2つ並んで垂れ下がっているはずなのだが、そのどちらもが、頭上にあるフレームにチェーンがぐるぐると巻きつけられ、座板が梁に接着している。
ワルガキが面白がってやる悪戯のような状態であるが、これを毎日行っているのは団地の管理人だった。その目的は、団地の子供たちが間違っても乗ってしまわないようにするためである。
『ブランコにぜったいのってはいけません! 管理人』
と、注意書きがされた立て看板もブランコの脇に設置されている。
この団地のブランコは、乗ると怪我をするという曰くつきのブランコなのだ。
過去に何人もの子供が大なり小なりの怪我を負っている。
その怪我のしかたがいずれも妙なのである。
ブランコに乗っていると、急に背中を強く押されて突き落とされる。でも、うしろを振り返っても誰もいない。
友達がゆっくり押してくれていると思っていると、徐々にスピードが上がっていき、もうやめてと訴えるが、背中を押してくれていたと思っていた友達は全然違うところで遊んでいた。今まで誰が背中を押していたんだと思って振り返ると、そこには誰もいない。しかし、体が振り戻されると、また背中を押される感触があり、怖くなって自ら飛び降りる。
ブランコに座って休もうとしたら、周りには誰もいないのに、急に椅子をうしろへ引かれる悪質なイタズラのように座板がひとりでに後方へと動き、尻餅をついてしまう。
ブランコに座って話をしていたら、ブランコが横にスピン回転をし始め、チェーンが絡まり合い、どんどん捻れていき、最後には背中から放り出されるようにして落下してしまう。
このように、怪我の原因がどれも薄気味悪い。
最初の事案が発生してから1年ほどは、子供の言うことだからと放置されていた。しかし、大人までも「誰かに押された」と被害者を訴え始め、定期的に怪我をしてしまう人が出てしまうことから、ついには団地で暮らしている人たちが「幽霊の仕業だ」と不気味がり、撤去する方針となった。
けれども、撤去作業はうまくいかなかった。
依頼した業者の車は来る途中事故に遭い、ブランコの撤去を強く求めていた団地の住民が至って健康体だったのにもかかわらず心臓発作で急死、もう一度仕切り直して呼んだ別の業者はまた事故り、そのときにも撤去を求める団地の代表者が謎の急死……。
その結果、「あの団地の遊具撤去作業は引き受けるな」と業者の間で噂になり、依頼する団地側も「撤去は諦めよう」となって、使用禁止処置が取られるようになっているのだ。
使用禁止になってからもう20年近く経過している。その間、他の遊具は入れ替え作業が行われたが、そのブランコだけは手つかずになっている。支柱の塗装はあちらこちらが剥がれ、チェーンはすっかり錆びついている。でも、今後も撤去される予定は無い。
使用禁止処置が開始された当時は、フレームに巻き付けた座板を誰かが元に戻してしまわないようにするため、梁に座板のチェーンをぐるぐる巻きにしたうえ、南京錠付きの別なチェーンで座板ごと厳重に縛り、鍵を掛けていたのだが、今はそのようなロックを行っていない。
いくらロックしても夜間には鍵が外れてしまうようになったからである。
誰も乗らなくなってしまい寂しがっているのか、この団地のブランコは夜中ひとりでに動き出すのだ。梁に巻きつけられた座板が、鉄棒競技を行う体操選手のように、正位置に戻るまでぐるぐると逆回転で回り、その勢いのままに、キィ~‥‥キィ~‥‥、と音を立てて暗い夜闇の中、陽が昇るまで動いている。そして朝一番に管理人が来て、梁へと巻き戻しているのだ。
「ブランコから人の手が何本も生えてるよ……」
団地に住んでいる女の子がカーテンから公園を覗いて見たとき、そんなことを言っていたそうであるが、真相は不明のままだ。
(了)
