【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯07『おまえだよ』
♯07『おまえだよ』
文字数:約1,010字
あるデパートで買い物をしていた主婦が、エスカレーターを使って階を移動している途中、二階の通路で泣いている幼い女の子を見つけた。
迷子かなと思って話しかけてみると、やはりそうらしい。
「誰と来てたの? ママ? パパ?」
「……ママ」
「お名前は言える? ママ、どこに行っちゃたんだろうね」
「……おまえだよ」
「えっ」
主婦は言葉に詰まり、泣きじゃくるその子の顔をよく眺める。
その間にも、女の子は訴えるような眼差しで主婦に繰り返す。
「おまえだよ……おまえだよ……おまえだよ……」
「へ、へんなこと言わないで!」
怖くなった主婦は、その子も買い物もそっちのけで、帰宅した。
◯
あくる日、主婦が別なデパートで買い物をしていた。
エスカレーターを使って階を移動している途中、四階の通路で、幼い女の子が泣いているのを見つけた。
……また、あの子がいる……今度は無視しよう。
そのままエスカレーターを乗り継ぎ、五階へ上昇していると、館内アナウンスが流れた。
『◯◯市からお越しの〝山田おまえだよ〟ちゃん。山田おまえだよちゃん。二階おもちゃ売り場で、お母さんが待っています。お母さんが待っています。――(声主が変わり)おまえだよ~、ママですよ~。二階のおもちゃ売り場まですぐに来てねぇ~』
その放送を聞いた途端、泣いていた女の子が笑顔になり「ママー!」と嬉しそうな声を上げながら、下りエスカレーターへと走って行く。
キラキラネームの次元を遥かに凌駕する謎ネームに、主婦は度肝を抜かされたが、内心、ホッとしていた。
数年前に駅のコインロッカーに捨てた我が子が突然現れて、都市伝説のように『(ママは)お前だよ』と告げてきたと、勘違いしていたからだ。一度目の迷子時に見かけた際、女の子が「おまえだよ」と連呼していたのは、ただ自分の名前を繰り返していただけだったのである。
憑き物が落ちたように晴れやかな気分になって主婦が五階に到着すると、こちらへ向かって通路を走ってくる女の子がいた。もちろん、二階に向かったおまえだよちゃんではない。その子は、スピードをゆるめることなく、主婦の体にがっちり抱きつく。
「見つけた」
と、振り上げられた顔には主婦の面影がある……。
(了)
