【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯44『スーパー紙を噛んで』
♯44『スーパー紙を噛んで』
文字数:約1,370字
ある夜、父親がリビングで寝そべりながらバラエティ番組をぐだぐだ眺めていると、二階の部屋から降りてきた小学3年生の娘が尋ねた。
「パパ、スーパーカミオカンデってなに?」
「すーぱー……かみをかんで……?」
「えっ、もしかして知らないの? 知らないことがあったらパパに訊きなさい、パパは何でも知ってる、っていつも言ってるのに。あれは嘘だったの? パパは嘘つきだったの?」
「嘘じゃないよ。パパはもちろん知ってるよ」
「じゃあ、スーパーカミオカンデが何か教えて」
「すーぱーかみをかんでとはね、その名の通り、地域のスーパーに現れて『紙を噛んで』と何度も繰り返し言いながらノートの切れ端を差し出してくる変なオジサンの姿をした妖怪のことだよ。だから、〝スーパー紙を噛んで〟と呼ばれているんだ。いいかい、もし、そんな変なオジサンの格好をした妖怪が現れたときには、すぐに防犯ブザーの紐をひっぱって、その妖怪の股間が潰れるくらい思いっきり蹴り上げて逃げるんだよ」
「うん、わかった。でもパパ?」
「なんだい」
「スーパーカミオカンデはニュートリノを捕まえるためのものらしいんだけど」
「……にゅうとりの? ああ、それは、〝丹生都リノ〟のことを言っているんだね。スーパーに出没する『紙を噛んで』オジサンは、じつはね、丹生都リノという名前の小学生の女の子を探し出すためにノートの切れ端を噛ませているんだよ。紙についた歯型から、丹生都リノちゃんを見つけて捕まえようとしているんだ。だから同じような歳頃の女の子ばかりを狙って『この紙を噛んで……紙を噛んで……紙を噛んで!』とやってくるわけなんだよ」
「陽子崩壊とも関係しているらしいんだけど、どういうこと?」
「……ようしほうかい? ああ、それは簡単な話だよ。現在の丹生都リノちゃんの姿が、本来の姿形からすっかり別人のようになってしまっているからなんだ。丹生都リノちゃんは大変な事故に巻き込まれてしまい、容姿が崩壊してしまったため、全身整形外科手術を受けたんだよ。だから見た目では丹生都リノちゃんだと判断できなくなっている。そのため〝スーパー紙を噛んで〟は、歯型による捜索を行っているんだね」
「スーパーカミオカンデは、何の目的で、ニュートリノを捕まえようとしているの?」
「……何の目的? それは少し答えにくい質問だね。宇宙の神秘に触れようとしているとでも言っておこうかな」
ガラガラっ
と、そこでお風呂に入っていた母親がリビングに戻ってきた。
「スーパー紙を噛んでについて、これでわかったかな?」
「うん。スーパーカミオカンデは、宇宙の神秘に触れようとして、ニュートリノを探している」
父子で何の話をしているのだろうかと母親が耳を傾けると、どうやら科学の話らしい。スーパーカミオカンデなんて久しぶりに聞いたな、電球のような観測装置が無数に連なっているニュートリノ検出器のことだ、と思いながらそのまま話を聞く。
「もし、スーパー紙を噛んでを見かけたときには、どうすればいいのかな?」
「タマタマをぶっつぶす!」
お母さんは叫んだ。
「そんなことしちゃダメでしょ!!」
(了)
