【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯10『午前二時のフミキリ』
♯10『午前二時のフミキリ』
文字数:約1,470字
小学五年生の子供たちが放課後に机を囲んでいた。
各々が知っている怖い話をもちよって聞かせ合っているのだ。
順番のまわってきた女の子が静かに語りだす。
「みんなは『午前二時のフミキリ』を知ってる?」
集まっている子供たちは皆怪談好きだったため、すぐに思い当たる話が浮かんだ。
真夜中の踏み切りに行くと電車に轢かれて亡くなった人の足だけがバラバラになった胴体を探し求めて歩き回っている、という内容の怪談である。
しかし語り手の女の子は、違う、と首を振る。
「午前二時ジャストに、まず、男が現れるの」
二十歳ほどの若い男性なのだそうだ。
大きな望遠鏡を肩に担ぎ、腰のベルトにラジオを結びつけた姿だという。
彼は決まって夜空を見上げ『雨は降らないらしい』とつぶやく。
「望遠鏡男が現れたあと、きっかり二分後に、今度は女が現れるの」
こちらも二十歳前後の若い女性で、彼女は山登りをするような大きな荷物を背負っているらしい。
そうして揃ったふたりは、一緒に望遠鏡を覗いて、見えないモノを探し始める。
「……見えないモノ、って?」
話を聞いていた女の子が恐る恐る尋ねると、
「お化けに決まってるじゃないか!」クラスで都市伝説博士を自称する男の子が勝手に答えた。「この怪談の怖さはね、深夜二時に現れる〝望遠鏡男〟と〝大きな荷物女〟の怪異が、望遠鏡を覗くことでしか見ることができない別な怪異を探している――という、二重構造的な怖さがあるんだよ!」
「さすが博士。でも、まだ足りないわ」
語り手の女の子がほくそ笑み、話を続ける。
「ふたりの怪異は、見えないモノを探そうとして、ひたすら望遠鏡を覗き込んでいるんだけどね、実は、その見えないモノは、望遠鏡を覗き込んでいては、見えないの」
集まっていた子供たちは皆、ゾクッとしたように息を呑んだ。
「……なるほど」と都市伝説博士が唇を震わせる。「出口に向かっているはずが入口に戻って来てしまうとか、幸運を呼ぶおまじないのはずが呪いの儀式だったとか、メガネが頭に乗っているのに必死でメガネを探している人――的な怖さが付加されているんだね」
「まだ、あるのよ」
「えっ?」
「望遠鏡男がフミキリに出現すると決まって『雨は降らないらしい』とつぶやく、って言ったじゃない? でもね、彼らが現れると、絶対、土砂降りの雨が降る」
おおお~っ……と、ありがちではない一風変わった怪談話に、集っていた子供たちは皆、怖がりつつ感嘆の声を上げて満足した表情を浮かべた。中には、泣き出しそうな顔で手を震わせて感動している子供もいた。
と、その時である。
――ガラガラガラッ
教室の戸を勢いよく開けたのは、廊下で怪談話をこっそり耳にしていた四十代の男性担任だった。
子供たちがびっくりして振り返り、静寂が室内を包み込む。
担任はその静けさを切り裂くように、こう叫んだ。
「オオイエェェエェェェッアハァァン!」
予想外の絶叫に子供たちは固まった。
語り手の女の子だけが、瞬時に立ち上がっていた。
そして彼女はまるで担任に呼応するかのように、
「ンアアハァァッアハァァァンイエェェイエェェッ!」
と、叫び返したのだ。
その瞬間、恐怖で張り詰めていた子供たちの緊張の糸が断ち切れ、いくつもの叫び声が生まれたのだった。
(了)
