【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯27『踊る包丁』
♯27『踊る包丁』
文字数:約1,980字
ある小学校の旧校舎では、夜中になると、家庭科室で包丁が踊っているらしい。
窓から射し込む月灯りが刃に反射し、キラッ、キラッ、と青白く輝くそうなのだ。
大型連休明けから旧校舎の解体工事が始まってしまう。
噂を動画に収めてSNSでバズらせるならこの連休中しかない。
と、将来の夢がYouTuberの六年生悪ガキ3人組が真相究明に乗り出した。
真夜中に家を抜け出した彼らは、校庭の二宮金次郎像前で待ち合わせたのち、旧校舎へ向かう。
屋内には立ち入らない。ALSOKがすっ飛んで来てしまうからだ。
家庭科室は一階にある。だから旧校舎脇から撮影すればいい。
3人組は窓に貼りつくようにして家庭科室の内部をうかがった。
「何か見えるか?」
「……何も。暗くてよく見えない」
月明かりを青白く反射させる包丁を噂通りに撮影するため、懐中電灯の明かりは消していた。
「そろそろ雲が抜けそうだよ」
月を隠していた雲が流れ行き、青みを帯びた薄明かりに辺りが照らされ始める。
家庭科室の窓にも光が射し込んでいく。
キラッ キラッ
「ひ、光った!!」
どうやら噂は本当だったらしい。
月灯りが射し込むと同時に、家庭科室内の虚空で、青白い光が反射したのだ。
断続的に瞬くようにして見えるのは、包丁が踊っていることで、光の当たる面が変わるからなのだろう。
「しっかり撮れよ!」
「ちょっと待って、」
と、スマホを構えていた悪ガキが眉をひそめる。
「あれは包丁じゃない〝校長〟だ!」
ライトをオンに切り替えると、くっきり浮かび上がった。
いつも見慣れたスーツを着ている姿だ。
真夜中の旧校舎の家庭科室で、テーブルをお立ち台にし、校長先生が踊っているのである。
キラキラと光を反射させていたのは、すっかり禿げ上がった校長の頭だった。
「噂は誰かが『校長』を『包丁』って聞き間違えたものなんだ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
校長の様子がおかしい。真夜中にこんな場所で踊っている時点でおかしいのであるが、その踊り方は、手足をふにゃふにゃさせるようなタコ踊りで、全身の力が抜けているように見える。およそ立っていられそうにはない、操り人形の糸で吊られているような感じで動いているのだ。
表情もおかしい。目を見開いて瞬きをしない無表情。その視線はどこにも焦点が合っていない。驚いている3人組が窓の外に居るのに、それを気にする素振りはなく、ぜんぜん見ようとしないのだ。まるで、魂が抜けているかのような状態。
「……校長先生?」
「……なにしてるんですか?」
「……正気ですか?」
悪ガキトリオが堪らずに尋ねても、反応を示さない。
ずっと、奇妙なタコ踊りを続けて、家庭科室のテーブルの上を移動している。
「とにかく動画で撮っとけ!」
「えっ、でも……」
「包丁が踊ってるよか断然バズる!」
発破を掛けられ、スマホを向け直した直後、
タコのように両手足をくねくねさせた校長が物凄い勢いで接近してくる。
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ダ
ッ
びたーんっ!
窓に張り付いた。
今まで見向きもしなかった目玉が、ギョロッ、と3人組を見下ろす。
「「「うわあああああああああっ!?」」」
悪ガキトリオは一目散に逃げ出したのだった。
◯
連休明けの朝礼で、校長先生はなんら変哲もなく体育館のステージに立っていた。
「みなさん、連休を有意義に過ごすことができましたか?」
と、いつもどおりニコやかな表情で、体育館に並ぶ児童たちに語り聞かせている。
悪ガキ3人組は、浮かない顔つきで整列していた。
「……普段と変わらないよな?」
「……うん」
「……証拠が残っていればなぁ」
けっきょく、スマホでの撮影には失敗していた。
万バズどころか、友達に話したとしても信じてもらえないだろう。
校長の話は滞りなく長々と進んでいく。
旧校舎の解体工事がいよいよ始まるため、危ないから決して近づくことのないように、とも告げられた。
肝をつぶすことになったのは、朝礼終わりである。
「◯◯くん、◯◯くん、◯◯くん。以上の3名は、放課後、校長室まで来てください」
校長が挙げたのは、悪ガキ3人組の名前だった。
(了)
