【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯35『スマ太郎』
♯35『スマ太郎』
文字数:約3,333字
これは或るオカルト書籍から抜粋された学校の怪異〝スマ太郎〟に関する記述である。
◯
スマ太郎は、学校に現れる、男の子の姿をした怪異です。
学校の怪談でよく語られる「◯◯さん」「◯◯太郎」「◯◯くん」といった系統の怪異は、えてしてトイレに現れるものと相場が決まっていますが、このスマ太郎も例にもれずトイレに出没します。
トイレの花子さんが女子トイレに出現するのに対し、スマ太郎は男子トイレに出現します。
スマ太郎は、いつも〝スマートフォン〟を手に持った姿で現れます。名前の〝スマ〟は文字通りここから取られたものです。
人型の怪異の場合、特徴的な外見をもつものが多くいます。たとえば、トイレの花子さんなら、おかっぱの髪で白いシャツに赤いスカート。口裂け女なら、長い黒髪に大きなマスクと真っ赤なコート。
しかし、このスマ太郎は、特徴がないことが特徴とでもいいましょうか、トレードマークになるような見た目の特徴がコレといってありません。髪型も服装も、どこにでもいそうな男子となんら変わらない格好で。出現する場所が、小学校なら児童の姿、高校なら制服を着た学生の姿、と変幻自在に容姿を適応させて出てくるのです。
そのため、ひと目見て、あれは人ならざるモノだ、と気づくことは、きわめて困難となります。
スマ太郎には、『◯月◯日の◯時◯分に現れる』『個室のドアを三回ノックする』というような特定の出現条件はありません。
ある日突然、そこに居るのです。
これからスマ太郎との遭遇事案をいくつか紹介いたしましょう。
👻 👻 👻
【ケース1.小学校編】
小学4年生のAくんが、二時間目の休み時間が終わるギリギリにトイレに駆け込むと、一番奥まったところの壁際に、ひとりの男子児童(スマ太郎)が立っていた。同学年ほどに見えるが、その顔には見覚えがない。彼は、うつむいたまま手元のスマートフォンを無言で見続けている。
スマホの持ち込みは許されているが、学校で使うことは禁止されていた。
イケナイことだと思ったAくんは、時間がないので小便器で用を足しながら、トイレ内の隅っこにいる男の子に、顔だけを向けて、
「学校でスマホ使っちゃダメなんだよ」
と、指摘した。
だが、壁際の男の子は、忠告などまるで耳に入っていない様子で、ずっとスマホの画面に視線を落としている。
無視されたAくんは、嫌な気持ちになったが、もう次の授業が始まってしまうため、おしっこを終えるとその場を立ち去った。ムカついたので「もう休み時間が終わるよ」とは教えてやらなかった。
その日の夜、Aくんがベッドで眠りにつこうとすると、スマホに通知が入った。誰からだろうと思って手に取った瞬間、画面が勝手に、ある映像に切り替わる。
そこに映し出されたのは、学校のトイレの小便器で用を足す自分の姿だった。
『学校でスマホ使っちゃダメなんだよ』
と、眉根を寄せた自分がカメラ目線で告げている。
Aくんは、すぐに今日の二時間目の休み時間のときの映像だと気づいた。
……注意を与えた男の子が隠し撮りしていた?
しかしそれは有り得ない。なぜならAくんが注意をしていたとき、あの男子児童はずっとスマホに視線を落としていた。彼のスマホのカメラは、真下の床、を向いていたのである。映像を撮影することなど不可能なのだ。
でも、Aくんのスマホ画面には、あのとき壁際にいた男子児童が、こちらへカメラを向けて撮影していたとしか思えない映像が流れている。
「存在するはずのない映像なのに……」
Aくんが気味悪がった直後、
『フフッ』
スマホのスピーカーから男の子が鼻で笑ったような音がこぼれ、映像は途切れた。
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【ケース2.中学校編】
中学2年生のBくんが、放課後にトイレへ行くと、一番奥まったところの壁際に、ひとりの男子生徒(スマ太郎)が立っていた。上履きの靴紐の色で同学年の生徒だとわかるが、その顔には見覚えがない。彼は、うつむいたまま手元のスマートフォンを無言で見続けている。
……あんなやついたっけ?
そう思いながらBくんが小便器で用を足していると、トイレ内の隅っこからクスクス笑う声が聞こえてきた。顔を向けて見ると、スマホを見続けていた男子生徒が、面白い動画でも鑑賞しているときのように笑っているのだ。
「なに見てんの? 今バズってるやつ?」
気になったBくんは、用を足し終えると男子生徒に近づいていく。
声を掛けてもずっとクスクス笑っているだけだったので、彼が手にしているスマホ画面を小脇から覗き込んでみた。
事故映像のショート動画だった。
それも、自転車を漕いでいる人が十字路で車に轢かれるという、目を背けたくなるようなショッキングなもの。あきらかに助からないだろうと思われるような酷い衝突で、とうてい笑えない。
しかし男子生徒はこの数秒間の事故映像を何度も何度もくりかえし再生させて、クスクスと可笑しそうにしているのである。
……うわぁ、最悪。
関わってはいけない人物だと思ったBくんは、
「あっ、やべ、部室の鍵取りに行かないと……」
急に思い出したように言って、足早にトイレから出て行った。
その日の帰り道、Bくんは交通事故に遭った。
自転車を漕いでいて、十字路で車に轢かれたのだ。
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【ケース3.高校生編】
高校1年生のCくんが、昼休みにトイレへ行くと、一番奥まったところの壁際に、ひとりの男子学生(スマ太郎)が立っていた。上履きの靴紐の色で同学年の生徒だとわかるが、その顔には見覚えがない。彼は、うつむいたまま手元のスマートフォンを無言で見続けている。
……あの黄色いスマホカバー、俺との同じだったな。
小便器で用を足していたCくんがそう思ったあと、自分のスマホを入れているブレザーズボンのポケットになんとなく意識が向く。
……あれ? ズボンにスマホ入ってなくね?
トイレに向かう前、教室でいじっていて、ズボンのポケットにしまってから席を立っていたはずなのに、スマホを入れている重みが、ズボンから消えてしまっているのだ。
用を足し終えてすぐにポケットを上から押さえてみるが、そこに入っているはずの自分のスマホが、やっぱり無い。
Cくんは、トイレの隅にいる男子学生に目を向け直す。
彼が手にしている黄色いカバーのスマホが、どうしても自分のスマホに見えてならなかった。
「あの……急にごめんなんだけど……そのスマホの裏側、ちょっとよく見せてくれない?」
Cくんが頼むと、男子学生はとくに何も言うことなく、すんなり、自身が手に持っているスマホの裏側を、こちらに向けてくれた。その黄色いカバーには、アメリカのロックバンド〝NIRVANA〟のロゴステッカーが貼ってある。それはCくんが貼っていものと、大きさも位置も、まったく同じだった。
「やっぱり……俺のスマホじゃん、それ!! えっ、なんで君が持ってるの!?」
男子学生がニヤッと不敵に笑ったかと思うと、当惑しているCくんをよそに、すぐ近くにあった窓を開け、手にしていたスマホを外に向かって思いっきり放り投げてしまった。
「なにやってんだよ、ここ三階だぞ!?」
Cくんは大慌てで窓へと駆け寄り、外を眺めるが、もうスマホがどこへ落ちたのかさえ確認できないような状況だった。
「おい、お前、ふざ――・・・」
顔をトイレ内に振り戻したときには、男子学生の姿は無かった。
その後、Cくんは友達に協力してもらいスマホを捜索したが、結局、どこにも見当たらなかったという。
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以上のように、〝スマ太郎〟は、間の抜けた印象の名前に反し、とっても不気味なやつなので、遭遇することがないよう、トイレに入る際には『スマ太郎が居ませんように!』と心のなかで祈って入ろう。ただし、祈ったとしても、そこに居るときには、居る。
(了)
