【怪談ショートショート集 怪怪談談】 ♯20『ポッポッポ』
♯20『ポッポッポ』
文字数:約1,470字
リストラされたおじさんが行く宛もなく公園のベンチに腰掛け、鳩に餌を撒いていた。
「ぽっぽっぽー……ハトぽっぽー……パンくずだけど……そらやるぞ」
死んだ魚の眼をして念仏のように鳩の歌を口づさんでいる。
そこへ、4時間授業を終えて帰宅途中だった小学生数名が、近くを通りかかった。
おじさんの念仏歌を聞いて思い出したように、ひとりの女の子が歩みを止め、友達たちに問う。
「ねえねえ、『ポッポッポ』の怪談を知ってる?」
「なんだっけそれ」と考えたあと、博士のような印象を受ける眼鏡を掛けた男の子が答える。「あっ、〝八尺様〟だ。すっごい背が高くて、白い帽子かぶった女の人の怪異で、『ぽぽぽ』って変な声を出す」
「残念、博士。それじゃないの。――誰か知ってる?」
そこにいた全員の小学生が首を振ると、語り手の女の子が満足そうな表情を浮かべて話を続ける。
「『ポッポッポ』はね、電話にまつわる怪異なの。ある番号に掛けるとね、いきなり『ピッピッピ』ていう音が聞こえてくるのね。つぎに『何時何分何十秒をお知らせします』という女の人の声が聞こえてくるんだよ。その謎の女の人の声が告げる時間は、今のその現在の時刻とまったく一緒なの。『ピッピッピ』は一秒ごとのカウント音で、十秒刻みで『ポーン』という音が鳴るんだけどね。ジャスト00秒と30秒のときだけは『ピッピッピ』というカウントが3秒前から『ポッポッポ』に変わるんだよ」
「それでそれで?」
「それだけなの」
「……え?」
「朝でも、お昼でも、真夜中でも、いつその番号に掛けても、ずっと女の人が現在の時間を喋り続けて、カウントの音が延々と鳴り続けてる不思議な番号なの」
「うわ~……意味がわからない系の怪談だね」と、博士と呼ばれた男の子が体を擦る。「時間なんて、スマホとか時計を見ればすぐわかるのに、それを休むことなく無意味に延々と喋り続けているなんて、ほんとうに何がしたいのかわからないくて恐ろしいよ」
周りの子供たちも「イミフでヤバい」と頷きあっている。
語り手の女の子がふたたび得意げに笑う。
「あたしね、その怪異に繋がる番号、知ってるんだ」
「うそっ!? 今スマホで掛けられる!?」
女の子はピンク色のスマートフォンを手に取ると、ハンズフリーモードで電話を掛けた。
『ピッピッピッ……午後1時23分50秒をお知らせします……ピッピッピッポーーーーン……ピッピッピッ……午後1時24分ちょうどをお知らせします……ポッポッポッポーーーーン……ピッピッピッ……』
スピーカーから流れ出てきた内容が、女の子の話と一致していたため、輪になっていた子供たちから驚きと恐怖の入り交じる小さな悲鳴が連続して上がる。
「……ガチだよこれ」と、博士くんが自分のスマホを眺めながら驚いている。「ぼくのスマホの時刻とぴったり同じだ。この女の人、今という時間をひたすら言い続けてる! 異常だ!」
「ね? ヤバかったでしょ」
ふたたび歩き出した小学生たちをベンチから眺めていたおじさんは密やかにおののいていた。
……〝時報〟が怪談として語られている!?
可笑しさをこらえきれなくなったおじさんが腹をよじって笑い出す。
ひとしきり笑ったあと、残っていたパンくずをバラ撒き、
「イミフだけどヤバい元気出てきたな。仕事でも探しに行くか」
と、公園をあとにしたのだった。
(了)
