#15「リスク分担」という名の爆弾回し ーLemonadeとGrenade
対象:リスクアセスで焦ってる人
概要: 部分最適は悪気なくても最悪で、
プロマネは命張っているという主張
英語圏には、コンサルタントが好みそうな前向きな格言がある。
"When life gives you lemons, make lemonade."
(運命がレモン(試練)を与えたら、甘いレモネードに変えてしまえ。)
酸っぱいトラブルを、知恵と工夫で甘い成果に変える。美しいメタファーだ。
だが、我々の住む「現場」という戦場において、このレモンはしばしば別の姿で現れる。甘いレモネードではなく、ピンの抜かれた手榴弾、すなわち「グレネード」として。
リスクの「薄切り」
現代のプロジェクト、特に大規模になればなるほど、そのリスク管理は複雑さを極める。
関係者は皆、賢い。賢すぎるがゆえに、「リスク分担」という鋭利なナイフを使って、一つの巨大なレモン(プロジェクト)を極限まで薄く、自分たちが有利なようにスライスしようとする。
責任所掌を明確にし、契約書で防壁を築く。これを「リスク分担の最適化」と呼ぶ者もいるが、私はこれを「フラグメント化(断片化)」と呼びたい。
しかし、このレモンの薄切りには罠がある。
レモンを薄切りにすればするほど、「断面(インターフェース)」は増えるのだ。
プロジェクトも同じである。
リスクを細かく分割すればするほど、組織間の接点は増え、そこで「所掌・責任」範囲を巡る論争が起きる確率は跳ね上がる。自分が持つリスクを減らすために薄く切ったはずが、皮肉なことに「争いの火種」の総量を、自ら幾何級数的に増やしている。
剥き出しになった断面は外気に晒され、急速に鮮度を失っていく。丸ごとのレモンなら長持ちしたかもしれない問題が、細かく切られたことで酸化をはじめるのだ。
黄色い爆発物
腐敗の始まった酸っぱいレモンスライスを、好んで「自分の問題」として直視する者はいない。細分化されているがゆえに、全体を見ている者は稀有だ。
誰もが自分の管轄だけを守ろうとし、境界線上の断片は「取るに足らない、誰のものでもないゴミ」として扱われやすくなる。担当者たちは、腐臭を放ち始めたその小さな破片を、自分の境界線の外へ指先で弾き飛ばす。
「仕様範囲外です」
「契約に含まれていません」
そうして現場の片隅に、誰も所有権を主張しない「レモンの山」が築かれる。そしてあるとき、放置された酸味は臨界点を超える。
その時、人々は気づくのだ。
自分たちが爪弾きにしていたのは、安全ピンの抜かれた爆発物(グレネード)だったのだと。
爆心に飛び込む者
ばらばらになったレモンを、もう一度かき集め、砂糖と水で中和し、飲み下せる形(レモネード)に再統合する。
誰かがやらなければならない。
だが、誰もやりたくはない。
その時、泥にまみれたスーツを着て、転がるグレネードの上に飛び込む者がいる。
プロジェクト・マネージャーと呼ばれる職種の人間だ。
彼らは知っている。
誰かがその「グレネード」の爆発を身体で受け止めない限り、甘いレモネードは永遠に完成しないことを。
時には爆発で吹き飛ばされ、その身が傷つくこともあるだろう。それでも我々プロジェクト・マネージャーは、レモンを拾う。
それが、プロマネの矜持(プライド)だからだ。

