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Q eND A《キューエンドエー》連載版 Q1

Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何?


1


【問題。漢字では、大きい口のさ】
「タラ」
 正解。
【問題。サイコロの目の数字をすべてた】
「720」
 正解。
【問題。日本三景とは、】
「天橋立」
 正解。
 Qが3問連続で正解し、ラウンドが終了した。僕の隣の女が目を血走らせ、Qに掴みかかる。
「お、おかしい!最後のなんてまだ3択じゃない!お前が『アンサー』だ!じゃなきゃあんな」
 ブッブー。不正解の音。女の頭が水風船みたいに破裂した。肉片が口に入った気がして、吐き気を堪える。
「やあ、ごめんね。勝ち抜け確定なのに、つい押しちゃって。でも、負けてから能力を指摘するのは、いいプレイングだ!どっちみちもう死ぬんだしね」
 Qはへらへら笑いながら死体をどけ、血がついたままの手で僕の肩を叩いた。
「君、Aだっけ。いい押しだったよ!判断力も知識量もある」
「はあ、どうも」
 つられて、僕まで気の抜けた返事をしてしまう。
「それとも、答えを知ってた、とか?」
 背筋が凍った。
 Qの推理は正しい。『アンサー』は僕だ。僕はクイズの答えがわかる。

【ラウンド5。解答者は前へ】

 アナウンスが響く。回答席に向かうミラと目が合った。無機質で真っ白な空間に、ピンクの髪が目立つ。
(能力バレてんじゃん!当てられて死んだらどうすんだよ。あたしにガチでクイズやれっての?)
 ミラの『テレパス』で、テンパってるのが伝わる。
(落ち着いて。外したら死ぬんだし、まだ当ててこないよ)
(でも、万が一……ああもう、なんでこんなピンチになってんの!答え知ってんだぞウチらは!)
 ミラは頭をかきむしる。
 僕だってそう思う。早く押さなきゃ答えられなくて死ぬし、早く押しすぎても能力がバレて死ぬ。本当に厄介だ。
(次の答えは、フッ素、だ。でも押さなくていい)
(なんで)
(問題を聞きたい。今は情報が欲しいんだ。Qの早押しは能力か、技術か。まずはそれを解明しないと、僕らに勝ち目はない)

【問題。】

 ミラがボタンに指を置き、僕は耳を澄ました。

2


 目が覚めたとき、僕は自分が全く知らない場所にいることに気がついた。
 どこまでが床でどこからが壁かもわからない、真っ白な空間に、二十数人ほどの人がいる。同じように目を覚ましたらしい。
「あ、起きた」
 よく知る声が頭上から聞こえて、僕は顔を上げた。
「ミラ……これって、一体」
「なんもわからん。何人かに話したけど、みんなそうみたい」
 ミラはピンク色のショートヘアを指でいじりながら答える。周囲を見渡すと、みんな不安げだったり、イラついているようだった。僕は体を起こす。
 なにかおかしなことになっている。正直僕は不安でいっぱいだったが、好きな女の子の手前、平静を装った。
「……とりあえず、ミラがいてよかった。他に知ってる人はいた?」
「いたけど」
 ミラは蛍光色のパーカーの裾をつかみながら、言葉を濁した。その理由はすぐにわかった。
「あ、Aさん!Aさんも巻き込まれてたんですね!」
 フリフリの服を着た小柄な女の子が、ミラの後ろから顔を出した。たしかゴスロリとかいうヤツだったと思う。
「よかった、仲間がいて!こういうのは仲間がいたほうが絶対有利だから!」
「えっと……」
 相手は僕のことを知っているようだが、僕にはこんな服を着るような友人はいない。声には少し聞き覚えがあったが……。
「……みぎわだよ。同じクラスの。いただろ、後ろの方で喋ってるオタク連中の」
「あ、ああ」
 そう言われて初めて思い出した。汀マイカ。あまり目立つ方ではなく、僕とも、ましてやミラともあまり接点がなかった。
「そうです、みぎわマイカです!マイカって呼んでください」
 マイカは周囲の他の人間と違い、やけにテンションが高かった。
「よ、よろしく」
「はい!」
 マイカが僕の手をとり、ぶんぶん振った。学校でのおとなしい様子とはずいぶん違う。
「……つーか、ずいぶん慣れなれしいのな。芦田のことAって呼んだり」
「え?御巫みかなぎさんも呼んでたじゃないですか」
「はぁ……ま、Aがいいならいいけど」
 ミラは僕(芦田エイ)のことをAと呼ぶ。まあ、発音の違いぐらいだから、誰がそう呼んでも、どうということはないのだけど。ともかく、ミラが紹介をためらった理由はなんとなくわかった。
「で、マイカは、その。なんでそんなに楽しそうなの?ここがどこか知ってる?」
「いや、知らないですけど。でもテンションあがらないですか?だってこれ絶対デスゲームものの導入ですよ。見たことないですか?マンガとかアニメとかで」
 なるほど、好きな作品とシチュエーションが似てるから盛り上がってるのか。
「あまり詳しくなくて。デスってのは穏やかじゃないけど……」
「きっとこのあと、謎の主催者が出てきて、『君たちにはゲームに参加してもらう』的なやつですよ!あ、もちろん私、現実と創作の区別はついてますから。あくまでそういうテイの企画かなにかだと思いますけど」
 早口だ。ミラがイラついていたのは、これにつきあわされていたからかもしれない。そんなことを考えていると、すぐ前でどよめきが起こった。
「あ、ほら!」
「うわ、マジかよ」
 マイカが小刻みにはねながら指さした先。扉のようなもの(そんなのあったか?)が開き、中からなにかが現れた。
「なんだあいつ。ロボか?」
 ミラがつぶやく。ここからだと少し遠いが、CGのアンドロイドのような外見の……おそらく女性だ。

「おい、お前なんなんだよ!」
 出現した場所に近かった男が、アンドロイド女に近づいていく。大柄で筋肉質な男だ。
「これお前がやったのか?おい、テメエ、なんとかッ」
 今にも男がつかみかかろうとしたとき。アンドロイド女は、銀色の唇を開く。

「            」

 何重にも重なった機械音のような声。それが耳に入った瞬間。
「っづあ!!!!」
 僕は頭を抱えて倒れる。ミラもマイカも、周りの人全員がそうしているのがかろうじて見える。しかし、何も考える余裕がない。
(なんだ、これっ…!!なんで『分かる』んだ?!)
 頭が爆発しそうになる。脳が強制的に、音声の意味を分からされていく。脳が悲鳴を上げる。
【我々はオラクル。このメッセージは超高圧縮言語プロトコルにより、有機生命の脳に直接情報を送信するものです。あなたがた人類の脳には少し負担かもしれませんが、テストの効率化のため、ご協力ください】

3


 言葉として理解できたのはそこまでだった。あとは、脳の中に生の情報が、無理やり展開されていった。

 オラクルの持つ『異能力いのうりょく』技術を人類が正しく使えるかのテストであること。
 テストの内容は、『異能力早押しクイズ』であること。自身の知能と『異能力』を使って、早押しクイズで競う。
 参加者はここにいる26人、それぞれ異なる『異能力』を与えられていること。
 勝利条件は、クイズで勝ち続けること、及び『異能力』を他人に知られないこと。クイズに負けるか、他の参加者に自分の『異能力』を指摘される、または他の参加者の『異能力』を指摘して間違えた場合は、死ぬこと。
 最後に残った参加者だけが、脱出できること。

 このテストに関する情報を、僕は知っていることになった。
「はぁっ、はあっ……うそだろ、し、死ぬって……」
 まだ収まらない頭痛に頭を押さえながら、僕は思わずこぼす。それが嘘でないことなど、完全に理解しているというのに。
 ミラとマイカのほうになんとか視線を向ける。ミラが倒れたままだ。
「え、Aさん、御巫さんがっ」
 マイカも頭を抱えながら、目を覚まさないミラの肩をゆすっている。
 こういう時、何から確認するんだっけ。いつか受けた救命研修のことを思い出そうとするが、さっき送り込まれた情報に頭が占拠されて出てこない。

「あまり強く揺らさないで、頭を打っているかも」
 落ち着いた声がした。一人の女性が、マイカの隣にしゃがみこみ、ミラの様子を見始める。半そでの白衣のような服装から、看護師らしいことがわかった。
「……うん、大丈夫……たぶん。頭とかは打ってないはずだ。こんな変なことをされたのは始めてだから、他にどんな影響があるかわからないけど」
 女性はミラのことを見終わると、がくりとその場にへたり込む。
「あ、あなたこそ大丈夫ですか?」
「まだ頭が痛くて……心配をかけてすまない」
 女性は大山ユウカと名乗った。やはり看護師で、自分も頭痛のする中、倒れたミラを見て駆けつけてくれたらしい。
「とにかく、ありがとうございました。大山さんも気を付けて」
「ああ……私はクイズとかさっぱりだから、どうなるかわからないけど。お互いがんばろう」
 大山は力なく笑って、他の目を覚まさない人のところに向かっていく。彼女もまた、オラクルに与えられた情報を疑っていないようだ。
 どんな理屈かはわからないが、オラクルの情報は疑うことができない。ウソをついていない、疑う必要がないと脳に刻み込まれ、僕はそれを知っている。

【予測より肉体へ負荷がかかっている個体がいますね。仕方ありません。ロスの多い形式ですが、これより先は口頭で説明します】

 しばらくしてから、オラクルは、こんどは普通の日本語でしゃべり始めた。流暢な発音だが、どこか機械的な抑揚の不自然さがある。
【テストのルールはあなた方に送付した通りです。ここからは、『異能力』関係の情報をお伝えします。漏れなく取得してください】
 オラクルの後ろの空間に、AからZまでのアルファベットが浮かび上がった。
【能力はランク付けがあり、Aが最上位、Zが最下位です。これは本テストにおける優位性を表すもので、能力自体の事象改変規模に依存しないランクです】
「っつ……」
 ミラが体を起こした。大山の見立て通りだ。
「ミラ!よかった、頭は大丈夫?話は聞こえてる?」
「大丈夫。あれの話は頭から聞いてた。起き上がんのがダルかっただけ」
 僕はミラに、大山が看てくれたことを伝える。ミラは礼を言おうと彼女を探し始めたが、僕はオラクルの説明のほうが気になった。
【『異能力』の内容は、参加者が一人減るたびに一つ、上位から公開されていきます。参加者は、その情報をもとに、他の参加者の『異能力』を指摘することができます】
「ふむふむ。強い能力ほどクイズに有利だけど、他の参加者にバレやすいのね……自分が能力者になるなんて、すごすぎるわ。オラクルって何者なのかしら」
 マイカが頷いている。オラクルは僕たちの常識を超えた力を持っているようだ。こんなところに僕たちを集めるのも、『異能力』なるものを与えるのも、オラクルには何ができてもおかしくない。脳に直接情報を送る、などということが本当にできるのだから。

【説明は以上です。テスト開始の前に、『異能力』最上位、Aの能力を開示します】
 オラクルがそう言うと、アルファベットのホログラムが縦一列に並び、「A」の後ろに単語が追加される。

【『アンサーAnswer』。クイズの答えがわかる能力です】

「は?!」
 会場のほぼ全員が、同時に声をあげた。
【それでは、5分後にテストを開始します。健闘を祈ります】
 淡い光になって消えていくオラクル。異様な消滅の仕方だったが、僕を含め参加者たちはそれどころではなかった。
「おいおい、どういうことだよ、クイズの答えがわかるって!?そんなのチートじゃねえか!」
「クイズに勝てないと死んじゃうのに、絶対にクイズで負けない人がこの中にいるってこと?!」
「……あなたさっき、ぜんぜん驚いてなかったよね?まさか、あなたが……」
「言いがかりはやめろ!俺はちがうから、それ言ったら指摘のミスで死ぬのはお前だぞ?!」
 騒然としている。主催者の謎さ、デスゲームの理不尽さ。そうしたわけのわからないものより、「この中に倒すべき、ズルをしている相手がいる」という単純な情報が、参加者を突き動かす。
「やべーぞA……なんかもうバチバチじゃん」
「私も、怖いです……」
 一気にヒートアップした会場に、ミラとマイカは少し怖気づいているようだ。僕も、この豹変ぶりはかなり怖いが、ミラの手前、なんとか表情に出さないようにした。

【ラウンド1を開始します。解答者は前へ】

 オラクルの声でアナウンスがあるが、姿は見えない。

 参加者の中から、3人ほどが選ばれ、いつの間にか用意されていた回答席に向かっていく。筋肉質で大柄な男性、整った顔の女性、そして派手なサングラスをつけた男性。3人とも、どこかで見たことがあるような気がした。

「どうもぉ!デメキンTVのデメキンです!!」

 だしぬけに、サングラスの男性がよくとおる声で叫ぶ。それで思い出したが、何度か見たことのある有名動画配信者だった。
「え、デメキン?!本物?!」
 マイカや一部の参加者にとっては有名人だったようで、にわかに色めきだっている。注目を集めたデメキンは、そのまま続けた。

「デメキンね、このゲームの必勝法思いついちゃったんだよねえ!みんなで生還できる方法!マジ天才かもしれん!」

4


 配信者、デメキンが思いついた「必勝法」とは、クイズの参加者が一切回答しないことで0問正解の同着とし、最下位を決めさせないことだった。
「ルールでは、『クイズに負けると死ぬ』って言ってたよね?だったら、勝敗が決まらなければ誰も死なないってわけ!」
 デメキンは丸く張った愛嬌のある顔で笑った。
「本当か……?」
「でも、それでいけるならすごいわ!」
 この状況に希望が見えたことが、参加者の張り詰めた空気は少し緩んだように感じる。
「マジか、すげーじゃんあのデブ」
 ミラは素直に感心していたが、僕は彼の作戦には半信半疑だった。
「……良くないですね」
「マイカもそう思う?」
「はい、だいたいデスゲームもので『必勝法がある』って最初に言うキャラはやられるんですよ」
「……マイペースだね、君は」
 僕は半ば呆れたが、ある意味でマイカの言っていることは正しく、僕の心配と一致していた。つまり、「すぐ思いつくような必勝法が、対策されていないわけがない」ということだ。
「そ、そんなの信じられない!わたしたちを騙そうとしてるんじゃないの?」
「そうだ。もし本当ならいいが、信用できない。本当にそのルールであってるのか?」
 デメキンの対戦相手2人も反論する。他の参加者の中にも、同じ考えの者はいるようだ。デメキンは対戦相手たちと僕らを見渡すと、朗らかに笑いながら言った。
「大丈夫だよ!デメキンは異能力『ギャランティGuarantee』で、『全員同じ点数なら勝敗なし』ってオラクルから保証してもらったから!」
「なっ……!?」
 いきなり飛び出した『異能力』の自白。会場がどよめく。
「何それ、本当なの?!」
「嘘をついているんじゃないだろうな?」
 対戦相手たちも驚いた様子で返す。デメキンは人懐っこい笑顔を崩さないまま続けた。
「もちろん、デメキンがウソついてると思ってもいいけど……でも、ウソかどうかはこのラウンドが終わればわかるよね?そんなすぐわかる嘘つくと思う?デメキンは、みんなでハッピーに生還したくて言ってるだけなんだよ!」
 会場のざわつきが収まらないまま、【ラウンドを開始します】のアナウンスが流れた。
「……わかった、そこまで言うなら信じよう。そこまでされて疑うのは男じゃない」
「そうね、みんなで生き残りましょう。疑ってごめんなさい」
 デメキンたちクイズの回答者は、席に用意されたボタンから手を離す。完全に押す気がないことを、お互いに確認したようだった。
「なんか、うまくいきそうじゃねーか。オラクルがテストしたかったのは、案外あたしたちの協調性なのかもな」
「そ、そうですね」
 ミラとマイカにも少し笑顔が戻る。
(確かにそうだけど……でも、なにかひっかかる)
 違和感の正体がつかめないまま、初めてのラウンドが開始された。

【問題。じゃんけんのように、3つの手がそれぞれ一方に強く一方に弱い状態をなんという?】

(三すくみ、だ)
 このぐらいであれば知っている。解かせる気のない難問だったらどうしようとおもっていたが、この感じが続けば……。

【正解は、「三すくみ」】

 回答席の3人は、まだボタンから手をはなしたまま。動き出すそぶりもない。

【問題。汚れ落としやベーキングパウダーに】

(重曹……?)
 これもわかる。しかし、僕には馴染みのない言葉だった。家庭科かなにかで習ったのか?思い出せない。

【使われる物質を漢字2文字でなんという?】

 しばらくの沈黙。

【正解は、「重曹」】

 またも誰も動かない。デメキンの提案通りに、クイズは進んでいく。その後も、クイズが出されては誰も答えない、という流れが続く。

「んー、けっこうムズいな」
「え、そうですか?」
「ナメてんのかお前」

 ミラとマイカを含め、他の参加者たちも、動きのない壇上に興味を失い始めていた。会場を探索したり、なんとか外部と連絡をとる手段を探す者もいた。僕はそれでも、さっき覚えた違和感が気になり、クイズを心の中で解き続ける。
(今のところ全問正解だ。難易度はちょうどいいな)
 そして10問目。

【最終問題です。問題。漫画『ONEPIECE』】

(ゴムゴムの実か)

 なんとなく、そう思った。次の瞬間、その思考のおかしさに気がついた。
(待て、まだわからないはずだろ?)
【で、主人公ルフィが食】
 問題は読まれ続ける。【食】まで聞けば、ルフィが食べたもの=ゴムゴムの実だとわかる。問題の難易度的は高くない。それはいい。なぜ、僕はその前にわかった?
 背筋が冷えていくのを感じる。
 まさか。

 そう考えた瞬間。

 ピコーン!

 無機質な空間に響く、解答音。ボタンが押され、回答席のランプが灯った。

5


 押されるはずのない解答ボタンが押され、発生するはずのない解答権が発生した。

「おいおいおいおい!何押しちゃってるの!?最初から裏切るつもりだったわけ?!」
 デメキンが目を剥く。ボタンを押したのは、彼の隣の席の女だった。
「だ、だって、あんたが押すからじゃない!先に裏切ったのはあんたでしょ!」
 回答席の女は、がたがたと震えながらデメキンを指差す。
「ハァ?!何言ってるのお前!?」
「あ、あんたが押さないって言うから乗ってやったのに!それで生き残れて、この後のゲームも3人でやっていこうって言ったのに!」
「待てって!なんだよコイツが押すって!?まだ押してないだろ?!」
もう一人の回答者の男が立ち上がって女に詰め寄り、会場は一気に騒然となる。
「おかしくなったのか?あの女……」
 ミラが思わず漏らした。デメキンがボタンを押していないことは、彼女のボタンが点灯していることからも明らかだ。錯乱しているのか?
 それを見ながら、僕はラウンド開始時に覚えた違和感に気がついた。

「そ、そんなの信じられない!わたしたちを騙そうとしてるんじゃないの?」
「そうだ。もし本当ならいいが、信用できない。本当にそのルールであってるのか?」

 デメキンに食って掛かってみせた二人の反応は、「デメキンが嘘をついているか・いないか」「デメキンの言ったルールの処理があっているか・いないか」のみ。少し考えれば思いつきそうな、「最後の問題を正解すればクイズの勝者になることができる」という必勝法の抜け穴は、意図的にふせられていたのだ。おそらくデメキンの仕込み。女が言っているように、わかる問題がきたら一人正解して勝者になってもいいし、仮に問題がわからなかったとしても、全員0点で勝敗がつかずに生還できる。必勝法を広めた立場を確保できれば、今後のゲームでも主導権を握ることができるだろう。これがおそらく、デメキンの「必勝法」の全容だ。

【解答をどうぞ】
「ゴムゴムの実」

 安っぽい正解音が響く。
【ラウンド終了。勝者、京橋キョウコ】

「あんたが!あんたが悪いんだからっ!私は悪くない!」
 錯乱した様子で解答席から走って逃げる女。目を見開き、涙を流しながら、壮絶な表情だ。
「てめえ、許さねえぞッ!!」
 他の解答者の男がそれを追い、女を思い切り殴りつけた。女の腰ほどもありそうな腕がうなり、無機質な床に女を叩き伏せ、血が飛び散った。
「う、嘘……これで終わりってわけ……?!俺の、必勝法は、完璧だって……なんでいきなり裏切ったんだよあの女っ」
 一方のデメキンは、回答席にうつむき、頭を抱えている。
「そ、そうだぁ!これってドッキリでしょお?!ねえ!!ミヤちゃん!サトくん!?また編集チームのイタズラなんでしょ!?すげー凝ってるじゃん!!もういいから!ほらっあの人あんなにブン殴られてるし!ヤバ、マジで死にそうじゃん笑。ねえ!もうやめよ!やめやめ!終わり!」
 デメキンはふらふらと解答席を降りて、どこかにカメラを探すような動きをしながら、歩いて行く。

【敗者、郡司タロウ、井手目ヨウジ。デスペナルティ】

「このアマっ!このっ」
「ねー撮れ高あったっしょ!終わ」

 女にマウントを取って殴っていた男。そしてデメキン。二人の頭が、弾けた。聞いたことのない音がして、白い空間に赤黒い肉が飛び散る。

 会場は一瞬静まり返り、その後悲鳴に包まれた。

6


 参加者たちの前で、二人の男の頭が爆発した。誰が見ても明らかに死んだとわかる方法で、殺された。
 悲鳴をあげる者、死体を見て吐き戻す者、気を失う者。僕はといえば、凍りついたように動けず、声を出すこともできずにいた。
「マジで死ぬのかよっ……こんなことで……!」
 ミラはうずくまりながら、嗚咽している。デスゲームものに詳しかったマイカも、赤ん坊のように泣きわめいていた。
 無機質でどこまでも続くような空間は、僕たち参加者の声を虚しく響かせる。
【参加者が2人敗退したため、『異能力』リストが2段階開示されます】

 抑揚のないオラクルの声。同時に、空間に浮かんでいた「アンサー」の下に、文字列が表示される。何もできないでいた僕の視界に、その内容はいやでも入ってきた。

A:Answer クイズの答えがわかる。
B:BAN  指定した参加者の能力を一定時間無効にする。
C:Counter 他の参加者がボタンを押す行動を予知し、その前にボタンを押すことができる。

「か、『カウンターCounter』……!?」

 必ず他の回答者より先に回答できる、と書いてある。強力な能力だ。そして、「他の参加者がボタンを押すのを予知」できるのであれば、説明のつく事柄が一つある。

「っひいっっ!!」

 怯えきった声が聞こえた。死んだ参加者、郡司タロウに殴られ、顔を腫らした女。ラウンド1の勝者、京橋キョウコだ。

「ち、違うっ!私じゃ、私じゃないっ!!」

 後退りしながら叫ぶが、その行動自体が答え合わせになっていることは明白だ。他の参加者たちも気づき始める。

「さっき『あいつが押した』とか言ってたよな?それって、この『カウンター』の説明そのまんまじゃねえか?」
「デメキンが押すのを予知したから、押されないように自分で押したってことかよ!」
「どっちにしろ、こいつの能力もチート級だ!しかも裏切り者だぞ?!」
「う、裏切り者にこんな能力もたせてたらダメよ!みんな殺されるッ!」
「そうだッ!今のうちに殺しておかないとッ!死ぬのは俺たちだッ、あ、あんなふうにっ!」
「死ねッ!!お前は生きてちゃダメだッ!」
「殺せッ!殺せッ!!」

 恐慌はすぐに広がった。あっという間だった。

「い、いやあっ!私は、私はただ!」

 20人近くの参加者が、キョウコを追い詰めていく。そして誰かが、指さして言った。

「『能力指摘』だ!京橋キョウコ、お前が『カウンター』だッ!!」

 ピンポーン!と、また安っぽい正解音が鳴る。次の瞬間、キョウコの頭が弾け飛んだ。『異能力』を指摘されると、死ぬ。それもまた、参加者たちの前でしっかりと示された。

「ううう”っ……やだよぉ……なんでこんなことに……帰りたいよぉ……」
 泣きながら僕の足にすがるマイカの背を撫でてやる。ミラはうずくまったままだ。僕はつとめて冷静に振る舞った。本当はおかしくなりそうだったけど、そんな態度をとっていないと、バレるからだ。
(さっきのクイズ……明らかに、僕は答えられないはずの段階で答えられていた。『アンサー』は、僕だ。絶対にバレちゃいけない、絶対に!)

 他の参加者たちの恐慌から背を向け、僕は精一杯、友人を慰めるのに精一杯なふりをする。

「Cでこんだけチートなんだ、やっぱり『アンサー』は生かしておけねえ!」
「『アンサー』を探せ!」
「探し出して殺せ!」

 日常では絶対に感じることのない量の殺意が、『アンサー』に向いている。頭がおかしくなりそうだった。

「A、あたし、ダメかもしれない……」
 うずくまっていたミラがよろよろと立ち上がり、バランスを崩した。僕はなんとかそれを受け止め、ミラが僕に抱きつく形になる。
 普段からぶっきらぼうで気が強く、芯の強い性格のミラでも、さすがにこたえたらしい。だぼっとしたパーカーの中の、細い体を腕の中に感じる。

「……『アンサー』ってさ」

 血の気が引いた。

「A、あんただよな?」

 僕から、ミラの顔は見えない。

7


 ミラが、僕が『アンサー』だと気づいている。なぜ?いつから?どうやって?!

「ミ、ミラ、それは」

 唇が震える。

(どう答えるのが正しいんだ?まさかミラが、僕を殺しに、指摘を?!)

 僕の曖昧な言葉に、ミラは答えない。心臓が壊れそうなほど脈打ち、気が遠くなりそうだ。

「っふううーーーっ……やっぱりそうか。よかったぁーー……」

 脱力。ミラが僕の体を離れ、大きく息をついてみせる。
「……どういうこと?」
 勝手に安心しているミラに、僕はおそるおそる尋ねる。すると、ミラは
「いいから、見てて。何があっても声出すんじゃねえぞ」
 そう言って、目を閉じる。

 少しの違和感があった後、
(……聞こえるか?)
「うわっ!?」
 僕は思わず飛び退く。頭の中に声が聞こえた。ミラの声だったが、彼女はずっと口を閉じている。
(声出すなっつったろ。さっき気づいたんだ、あたしの『異能力』。こういう感じのらしい)
(心が読めるのか?『テレパス』か)
(それも聞こえてるからな。よくわかんないけど、何かの条件で聞こえるようになるらしい。いまんとこA以外は聞こえない……そしてこれでわかった。受信できるようになると、そいつに向けて発信もできる……LINE交換したみたいな状態か?)
 これだけ人数のいる会場で僕の思考しか受信していないとなると、受信できるようになる条件はかなり厳しいのだろう。能力を知られてしまったのは痛いが、相手がミラで、今のところ僕を指摘殺してくる可能性が低いのはありがたかった。
「っぐ!」
 ミラがうめき、膝をつく。
「大丈夫?」
「……普段、お前あんな速度で考えてんの?どうりで成績いいはずだよ。あたしの頭じゃ処理しきれないわ」
 ミラはテレパシーの接続を切ったようだ。なんとなく、感覚でそれがわかる。心が読め、無言での会話ができるが、できる相手は限られ、接続していることが相手に伝わる。強力だが制約の多い能力のようだ。
(とにかく、『アンサー』がAでよかった。協力してくれないか?)
(協力?)
(答えがわかるんなら、『テレパス』であたしに教えてくれよ。そうすれば、『アンサー』が二人いる感じになって、その……いいんじゃないか?)
 なるほど。ミラの考えは正しい。答えを知っている状態の人間が2人いれば、どちらが『アンサー』でどちらが『テレパス』なのか、あるいは他の能力で答えているのか、わからなくなる。お互いが指摘殺しない前提において、このチームはかなり強そうだ。
(……まあ、こんなクソみたいなゲームの中だ。あたしも疑う、ってのも別にわかるけど。互いに『異能力』を知っちまったんだ。協力したほうがいいんじゃないか?)
 そして、僕はこの要請を断ることができない。『テレパス』の回線がつながっている以上、もしミラを指摘殺しようとしたら、そのことがミラにバレるからだ。まあ、断る理由もないのだが。
(わかった、協力しよう。一緒に生き残ろう。だから、とりあえず回線を切ってくれないか)
(なんで?)
(いいから)
 ミラは頷き、『テレパス』の回線を切った。好きな女の子を殺すような展開にならなくてよかった、という思考を読まれるのは、流石に少し気恥ずかしい。

【ラウンド2を開始します。解答者は前へ】

 ミラと話している間に、オラクルのアナウンスが入った。しかし、参加者たちは魔女狩りのような興奮に包まれ、反応しない。

【参加者は、芦田エイ。大山ユウカ。天上キュウ】

 僕だ。呼ばれてしまった。
「え、Aさぁん」
 ようやく泣き止んだマイカが、また泣き出しそうになりながら僕の袖をつかんだ。
「死なないでくださいね?!いやですからね、知ってる人が、し、死んじゃうの……ほ、ほんとは誰にも、し、死んでほしくないけど……っ!」
 鼻水をたらしながらすがりついてくるマイカ。
「う、うん、がんばるよ」
「なんでそんなに冷静なんですかぁ……?」
 なんとかマイカにどいてもらい、回答席へと向かう中、僕は気づく。対戦相手のうち一人は、少し前にミラを助けてくれた、看護師の大山だ。参加者の中から出てくる彼と目が合う。
「や、やあ。当たっちゃったね」
 大山は疲れ切った様子で、力なく笑った。
「さっきは、ミラをありがとうございました。自分も大変だったでしょうに」
「ああ、いいの。そういう性分だから」
「……」
「……」
 僕らのどちらか、あるいはどちらもが、死ぬ。第一ラウンドでまざまざと見せつけられた事実。僕らは、会話するのに適切な言葉を持たなかった。重い沈黙が流れる。

「やっとクイズができる!楽しみだなあ!」
 出し抜けに、明るい声が聞こえた。振り返ると、長身にメガネの青年が、僕たちのほうに……回答席のほうに歩いてくる。
「お、君たちが対戦相手だね!お互いがんばろう!」
 にこにこしながら僕たちの肩を叩き、鼻歌交じりに回答席に座る青年。僕と大山は、あっけに取られて見送るしかなかった。
「あれ?どうしたの?ほら、早く座りなよ!」
 待ちきれないといった様子の青年は、メガネの奥の切れ長な目を細める。
「楽しいクイズの時間だよ?」

8


 大山ユウカは、高校を出てすぐに看護師として働き始めた。職場で出会った夫と結婚し、双子に恵まれるが、夫はその直後に不慮の事故で命を失った。今、彼女は2歳になる子どもたちを一人で育てている。
 看護師の仕事は、不安定と不規則の連続だ。理解のある実家・義実家と同僚たちの協力はありがたいが、それでも2人分との育児の両立は、厳しい。物理的に不可能なのでは、とすら思う。
 それでも、ユウカが毎日を擦り切れることなく働けているのは、2人の子どもを守るためである。

――だから、こんなところで死ねない。私まで死んだら、あの子たちの親はいなくなる。それだけは絶対にダメだ。

 ユウカは、わけのわからないテストに巻き込まれ、クイズの結果理不尽に人が死ぬのを見て――生まれて初めて、他人の生を踏みにじる覚悟を決めた。自分が生きて帰るため。子どもたちの待つ家に帰るため。
 今、回答席に座ったユウカの隣には、小柄で利発そうな高校生ぐらいの少年と、こんな状況でも笑みを崩さない、不気味な長身の青年。彼らも誰かの子どもであることを思うと、胸が張り裂けそうになる。
 だとしても、とユウカは決意しながら、ボタンに手を置く。

――私は帰るんだ。アキとリサのもとに。そのための『異能力』も、私は与えられたのだから。

【ラウンド2を開始します。問題】

 オラクルの声でアナウンスが始まった瞬間。ユウカは『異能力』の使用を心のなかで宣言する。

【問題。】

 僕の耳にオラクルのアナウンスが届く。
(僕が『アンサー』だということは絶対にバレちゃいけない。まずは、答えを知らなかったものとして行動する……わかるなら押すし、わからないなら押さない。ラウンド1の問題からして、そこまで難しいものは出ないはずだ。2,3問はそれで……)
 『アンサー』が発動し、問題が読まれる前に答えがわかる。答えは「ビタミンK」。僕はよく知らないが、ビタミンなら含まれている食べ物から聞かれるのだろうか?

【正常な血液凝固に必須であることから、】

 違う。明らかに難易度が違う

【特に新生】

 ピコーン!隣の席のボタンが点灯する。大山ユウカ。彼女が解答権を得た。

「ビタミンK」

 正解音。少しほっとした顔の大山。
(なんだそれ?!全然知らないぞ?!)
 僕は思わずもう一人の回答者、天上キュウと呼ばれた青年を見る。
「へー、すごいね。あそこでわかるんだ」
 反応はニュートラルだ。情報がない。僕が知らないだけで一般常識なのか?

【問題。】

 熟考しているヒマはない。次の問題が読まれ始める。答えは「キャンベラ」。確か……。

【オースト】

(オーストラリアの首都は、キャンベラ!)
 そう思ってボタンを押そうとする。いや、押していいのか?

【リアの首都はウィーンですが、オーストラ】

(そういう問題か、それなら……!)

 【ラ】が読まれるか読まれないかのところまで、待って、僕はボタンを押した。まずい、早すぎたか?でも、ここで答えてもおかしくないはずだ。

「キャンベラ」

 正解音。僕は胸を撫で下ろす。同じタイミングで押そうとしていたらしい、大山が悔しがっている。

 これは所謂ひっかけ問題。オーストリアの首都ならウィーンと解答したいところだが、本当に聞いているのは名前の似ているオーストラリアの首都という問題だろう。焦って【ですが】の前で押すと間違える……という問題だ。

(そもそも、最初に押そうとした段階ではまだ何を答えればいいかもわかってない!応えられるのはおかしい!)
 危なかった。何が「答えを知らなかったものとして行動する」だ!一歩間違えば、答えを知っている人間にしかできない解答をするところだった。

【問題。】

 答えは「迷走神経反射」。何だこれは?どこまで聞けば答えて良い?

【注射などの強い痛みをきっかけとして、血圧低下や徐脈、意識喪失】

 鋭い音がして、大山のボタンが点灯する。

「迷走神経反射」

 正解だ。僕は気づく。
(このラウンド、おかしなことが起こっている)
 ラウンド1やさっき僕が答えた問題は、一般常識レベルか、学校で習うことが答えになっていた。だが今は、大山が答えるときだけ、やたら専門的な問題が出ている。しかも、内容は連続して、看護師である大山に有利なものだ。
(まさかこれが……あの人の『異能力』か……?!)

9


【問題。わずかな元手で大きな成果を得ることを、】
「海老で鯛を釣る」
【問題。東京に本拠地を置くプロ野球チームは、ヤクルトスワローズと】
「読売ジャイアンツ」

 2回の正解で、僕が3点。大山が2点。もう一人の回答者、天上が0点。全10問のラウンドも折り返しになる。
 おそらく大山の『異能力』は自分の得意なジャンルの問題を出させるものだろう。バレないようにオンオフをかけているようだ。『アンサー』でその問題を正解することは可能だけど、あまりに専門的なことを正解してしまうと今度はこっちがバレる。そういう状況は困るから、リードは守りきりたいが……僕がリードしたこの場面、大山が『異能力』を使うとすればそろそろだ。

【問題。】

 答えは「ナイチンゲール」。
(来た、大山さんの専門分野!)
 やはり『異能力』の推理は当たっていたようだ。そして、難易度までは制御できないようだ。ナイチンゲールは一般常識の範囲。問題の聞き方によっては、すぐに答えても不自然じゃない!

 大山はどこで押す?僕はそれより早く押せるか?

 問題文が、読まれ始める。

【小陸軍省】

 知らない単語だ、と思った瞬間。

 ピコーン!

 ランプが点灯する音がした。僕は思わず大山のほうを向く。だが、彼女のランプは点いていない。

「えっと……小陸軍省、ランプの貴婦人、クリミアの天使といえば、いずれも誰に関する言葉?ってとこかな」

 飄々とした声が、反対側から聞こえる。

「答えは、フローレンス・ナイチンゲール」

 答えたのは、天上てんじょうキュウ。正解だ。
「うん、なんか今回は医学や看護に関する問題が多いね」
 看護師の服を着ている大山を見ながら、キュウは言う。彼もジャンルを操る『異能力』に気がついているのだろうか。
「感じがつかめたから、ここからはガンガン押していこう。もう様子見はできないからね!」
 そう言ってキュウは席から立ち上がり、据え付けられたボタンを、
「よいしょっと」
 取り外した。そして、立ったままボタンに指をかけ、前傾した姿勢になる。ホルスターに手をかけるガンマンのような構えだ。
「ああ、気にしないで。いつものクセだから」
 こちらにひらひら手を振るキュウ。
「じゃ、こっからは本気でいこう」
 キュウの表情が変わった。
 目を閉じ、体をわずかに揺らす。ただならない雰囲気だ。

【問題。】
 答えは「脚気かっけ」。また病気に関する問題だ。もう大山もなりふりかまっていない。
【これを防ぐために、】
 しかし、僕だってそれは同じだ。1問でも追いつかれれば同点になり、同着最下位となる可能性がある。
【日本海軍】
 そうしたらラウンド1同様、2人とも死ぬのだ。それは絶対に……。
【ではカレーが】

 ピコーン!
 問題文への集中を、点灯音が引き裂く。大山が押している。だがキュウのほうがわずかに早かったようだ。点いたのはキュウのランプ。
「……脚気」
 正解だ。速すぎる。迷いがない。
(どこにわかる要素があるんだ?正解がわかってたって、この速さで押されたら解答できない!なんでわかる?!『アンサー』でもないのに!)

「うわああっ!!」

 大山が声をあげ、回答席を叩いた。自分に有利なはずの問題を連取されたのだ。ムリもない。もしかしたら、使用に回数制限のある『異能力』だったのかもしれない。
「なっ、なんでっ、なんで」
「なんで分かるのか?って?好きだからね、クイズが」
 キュウが顔をあげ、当然のように答えた。
「あー。そういえば。あなたは看護師、キミは高校生。服でわかる。なのにボクが何者か、明かさないのはあまりよくないね。自己紹介しとこうか」
 そして、指をかけたままのボタンを、僕と大山に向ける。

「ボクはQ。職業は……クイズ王。さ、ラスト3問!よろしくね」

10


 残りの3問も、天上キュウ……クイズ王Qが連取した。もうジャンルが偏ることはなかった。『異能力』に制限があったのか、大山の心が折れたのか。僕が知ることはできない。

【問題。漢字では、大きい口のさ】
「タラ」
 正解。
【問題。サイコロの目の数字をすべてた】
「720」
 正解。
【問題。日本三景とは、】
「天橋立」
 正解。

 ラウンド終了のアナウンスよりも早く、大山が目を血走らせ、Qに掴みかかる。ミラを看てくれたときの、あの優しそうな目の面影はない。

「お、おかしい!最後のなんてまだ3択じゃない!お前が『アンサー』だ!じゃなきゃあんな」

 ブッブー。空虚な不正解の音。大山の頭が、水風船みたいに破裂した。肉片が口に入った気がして、吐き気を堪える。
 最後、彼女の口が、誰かの名前を呼ぶように動いた気がした。その内容を確かめることは、もうできない。

「やあ、ごめんね。勝ち抜け確定なのに、つい押しちゃって。でも、負けてから能力を指摘するのは、いいプレイングだ!どっちみちもう死ぬんだしね」

 Qはへらへら笑いながら死体をどけ、血がついたままの手で僕の肩を叩いた。

「君、Aだっけ。いい押しだったよ!判断力も知識量もある」
「……どうも」
 怒り。安心。恐怖。ないまぜになって、僕の口からはぶっきらぼうな反応が出た。Qは笑顔を崩さないまま、何気ない調子で続ける。

「それとも、答えを知ってた、とか?」

 背筋が凍る。まさか、すでに僕が『アンサー』だと気づいているのか?まだ僕は3問しか答えていない、それもそこまでおかしな答え方はしていないはずだ。そのわずかな情報でも、「クイズ王」ならば見抜けるのか?

【ラウンド2、勝者は天上キュウ。敗者死亡のためデスペナルティはなし。続いてラウンド3。解答者は前へ】

 オラクルのアナウンスが響く。回答席に向かうミラと目が合った。無機質で真っ白な空間に、ピンクの髪が目立つ。

(能力バレてんじゃん!当てられて死んだらどうすんだよ。あたしにガチでクイズやれっての?)
 会話が聞こえたのか、ミラがテンパっているのがわかる。Qと話していて気が付かなかったが、いつの間にか『テレパス』の回線がつながっていたようだ。
(落ち着いて。外したら死ぬんだし、まだ当ててこないよ)
(Aこそよくそんな落ち着いて……いや、違うな。ごめん。さっきの大山って人と、Aは直に話してたんだもんな)

 僕は振り返る。すでに大山の死体はない。ラウンド1のときも、その後京橋キョウカが死んだときもそうだった。テストの進行に必要ないものはきれいに掃除され、回答席が用意される。僕は歯ぎしりをした。

(……今は、どうやったら生き残れるかを考えよう)
(そうだな。しかし、クイズの答えがわかるってのに、こんなに厳しい状況になるなんてな)

 僕だってそう思う。早く押さなきゃ答えられなくて死ぬし、早く押しすぎても能力がバレて死ぬ。本当に厄介だ。
(次の答えは、フッ素、だ。でも押さなくていい)
(なんで)
(問題を聞きたい。今は情報が欲しいんだ。Qの早押しは能力か、技術か。まずはそれを解明しないと、僕らに勝ち目はない)

【問題】

 ミラがボタンに指を置き、僕は耳を澄ました。


――つづく


Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何?
A1 A


↑次回↑



この作品は、2022年の逆噴射小説大賞に応募した作品の連載版です。

カクヨムに掲載したものをNoteに転載しています。


おまけ:この章で出てきたクイズの全文

Q 漢字では、大きい口の魚とも、魚へんに雪とも書く魚は何?
A タラ

Q サイコロの目の数字をすべて足すと21ですが、すべてかけるといくつ?
A 720

Q 日本三景とは、松島、宮島とどこ?
A 天橋立

Q じゃんけんのように、3つの手がそれぞれ一方に強く一方に弱い状態をなんという?
A 三すくみ

Q 汚れ落としやベーキングパウダーに使われる物質を漢字2文字でなんという?
A 重曹

Q 漫画『ONEPIECE』で、主人公ルフィが食べた悪魔の実は何?
A ゴムゴムの実

Q 正常な血液凝固に必須であることから、特に新生児にシロップの形で投与される、小松菜や納豆に多く含まれるビタミンは何?
A ビタミンK

Q オーストリアの首都はウィーンですが、オーストラリアの首都はどこ?
A キャンベラ

Q 注射などの強い痛みをきっかけとして、血圧低下や徐脈、意識喪失を招く現象をなんという?
A 迷走神経反射

Q わずかな元手で大きな成果を得ることを、海の生き物の名前を2つつかったことわざでなんという?
A 海老で鯛を釣る

Q 東京に本拠地を置くプロ野球チームは、ヤクルトスワローズと何?
A 読売ジャイアンツ

Q 小陸軍省、ランプの貴婦人、クリミアの天使といえば、いずれも誰に関する言葉?
A フローレンス・ナイチンゲール

Q これを防ぐために、日本海軍ではカレーが提供されはじめたといわれる、ビタミンB1の欠乏でおこる病気は何?
A 脚気(かっけ)





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