Q eND A《キューエンドエー》連載版 Q2(前)
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Q2 漫画家、桜井のりおの作品で、三つ子の『みつば』『ふたば』『ひとは』を主人公とするギャグマンガは何?
1
【ラウンド8終了。休憩時間とします】
オラクルのアナウンスで、時間の経過を初めて意識した。
僕と、ミラとマイカは生き残った。だが、ラウンドごとに必ず1人以上の死者が出て、僕たちの人数は15人にまで減っていた。
「や、やっと一巡終わったな……」
「そうだね、なんとか……」
ミラと僕はため息をついた。『アンサー』と『テレパス』の組み合わせは、予想通りかなり強かったのだが――。
【問題。将棋や囲碁などで】
(答えは……待った)
(え、何?)
【相手が手を指してから】
(だから、「待った」だって!)
(待ってるじゃん!)
【自分の手のやり直しを要求することをなんという?】
(ミラ、押して!答えは「待った」だ!)
(だから、押していいの?!ダメなの?!)
【……正解は、「待った」】
(……「待った」が答えだったのか!)
(だからそう言ってたじゃん……)
――連携については万全とはいかず、予想より苦労させられた。
頭をつかいすぎてぐったりしているミラの横で、マイカはまだ涙が止まらないでいる。
「わっ、私っ、クイズなんてぜんぜんできないのにっ……あの人達、なんでっ……」
マイカが参加したラウンド4は特にひどかった。他の2人の参加者が互いに能力を指摘しあい、どちらも外して死んだのだ。マイカの眼の前で、2人の頭が破裂したのだから、かなりキツかっただろう。
他の参加者たちも、かなりまいっているようだった。
「まだ『アンサー』はみつかんねぇのかよっ!!」
太った男がいらだたしげに大声を上げる。
「リリ、わたし怖いよ……」
「ララ、だいじょうぶ。ふたりならきっと」
年端もいかない双子が、寄り添って慰めあっている。
その中にあって、異様な雰囲気になっている一団があった。
「Qさん!俺に早押しの秘訣おしえてくださいよ!」
「うーん、まだ早いかな!クイズに慣れてからじゃないと、付け焼き刃じゃ勝てないよ?」
「ねえ、わたしにも教えて?Qくんの言う事なら何でも聞くから!」
「ホント?じゃあ能力教えてもらおうかなー」
「な、なあ俺の能力、どう使えばいいのかなあ?!」
「うんうん、いっしょに考えよう!きっとうまい使い道が見つかるよ!」
ここまでのラウンドで圧倒的なクイズ力を見せつけたQのもとに、数人の男女が集まり、彼を取り囲んでいた。Qはその中心で、にこにこと変わらない笑みを浮かべ続けている。Qはタレントとしても活動していたらしく、参加者にも知っている人が多かったようだ。早押しクイズの技能と、東大卒の頭脳。どちらも、他の参加者が頼りたがるのに十分な要素だ。
「あいつら、能力教えあってるっぽいけど、大丈夫なのか?」
ミラはQたちを睨んでいる。
「参加者同士は知らないけど、Qに教える分には安全だと思う。だって、クイズやってれば勝てるんだから、わざわざ指摘のリスクを負う必要がない」
「そりゃそうか……クソっ、上位互換じゃねえか」
僕は『アンサー』を使ってクイズに正解しているが、Qは能力なしでクイズに正解しつづけている。同じ結果が出るなら、バレる心配のないQのほうが、僕の上位互換といえる。最終的には、僕らはQを攻略しないといけないが、Qのほうは能力を見せる必要もないのだ。攻守ともに、隙がない。
「Qだって参加者だ、あの中のどれかの能力は持っているはずなんだ」
僕はずいぶん開示の多くなった能力表を見上げた。
Answer:クイズの答えがわかる。
BAN:指定した参加者の能力を一定時間無効にする。
Counter:他の参加者がボタンを押す行動を予知し、その前にボタンを押すことができる。
Detective:クイズや能力に関する情報以外を、任意に聞き出すことができる。
Erase:クイズの問題文や選択肢の一部を非表示にできる。
Fifty-Fifty:クイズを2択扱いで回答できる。
Genre:問題の出題ジャンルを変更できる。
Holoscope:ラウンドに1回、参加者のうち一人の能力を知ることができる。
Immortal:指摘によって死なない。
Judge:能力の処理やクイズの詳細なルールについて、正確な情報を得ることができる。
Knight:ラウンド不参加時、参加者一人を選び、死亡しないようにできる。
Loop:死亡したとき、クイズをやり直すことができる。
「……こんだけ多いと、何がなにやらだな。あたしもマイカみてーに能力バトルマンガとか読んどくべきだったよ。スマホがありゃすぐに読めたんだろうけどな」
ミラが力なく笑った。見たことのない表情だ。
【ラウンド9を開始します。解答者は前へ】
休憩はそう長くはなかった。またクイズが始まる。参加者たちの間でうめき声が響いた。楽しそうにしているのはQだけだ。
【参加者は、芦田エイ、桔梗ユカリ、須藤ヤスミ】
僕の番がまた回ってきた。僕はミラに頷き、いちおう『テレパス』の回線をつなぐ。
「あーあ、もうウチの番っすか」
もじゃもじゃ頭の小柄な女性は桔梗ユカリだ。身長が低く、野暮ったいメガネをかけている。年齢不詳な感じだ。
「Qくん!ねえわたしこのままだと死んじゃうっ!!助けてよお!」
もう一人、須藤ヤスミは、どこかの企業の制服を着た女性で、いかにもOLという出で立ちだった。おそらくQより年上なのだろうが、彼女は終始Qに泣きついていた。
【汀マイカ】
「ゔえ!?」
突然名前を呼ばれたマイカが、素っ頓狂な声をあげる。
今まで呼ばれることのなかった4人目の名前。参加者たちの間に動揺が広がる。
【このラウンドは2対2で行います。「芦田エイ・汀マイカ
」ペア対、「桔梗ユカリ、須藤ヤスミ」ペア。合計得点が低いほうのチーム2人に、デスペナルティが課せられます】
2
「え、え、Aさぁん……私っ、ぜったい足ひっぱっちゃう……」
いつの間にか2対2仕様に向き合って配置された解答席。マイカの涙は止まっていたが、まだ涙声のままだった。
「まずは落ち着いて……マイカも、わかったら遠慮なく押して。それで間違えても、足を引っ張ったとは思わないから」
「で、でもぉ、私のせいでAさんまで、し、死ぬことになったら……」
「心配はわかる。だけど、僕だけがクイズをやって結果負けたら、僕は君を殺したことになる。だから、2人でやれるだけがんばろう」
「う、ううう~~っ」
僕の言葉がマイカに伝わったかはわからない。だが、クイズは容赦なく始まる。
【ラウンド9を開始します】
「須藤さん、がんばってねー!」
外野からQの声がした。
「大丈夫、桔梗さんと協力すれば勝てるよ!チームワーク、チームワーク!」
スポーツの応援でもしているような、呑気な呼びかけだ。須藤のほうは、彼の言葉に力強くうなずいていた。先程の時間で、なにか入れ知恵をしたのだろうか?
「ね、Aくんだっけ」
僕の視線に気がついたのか、もう一人の対戦相手、桔梗ユカリが、対面から僕に声をかけてきた。
「ウチも死ぬわけにはいかないんで。全力でやるけど、恨みっこナシっすよ」
「……はい」
自分で言うのもなんだが、妙に冷静な……あるいは、覚悟の決まった様子だった。
【問題。4ヒントクイズです。10秒ごとに1つずつ表示されていく画像から、連想される都道府県を答えてください】
僕らの間の空間に大きな画像が表示された。4分割され、1から4の数字が振られている。今はまだ数字以外何もないが、これが一つずつオープンされていくらしい。
答えは「北海道」だが、最初から時計塔や雪まつりの画像が出てくるわけはないだろう。
【それでは、スタート】
「1」と書かれた部分の画像が変わり、何かの祭りのような、
ピコーン!
「北海道っす。これはイオマンテ、アイヌの儀式っすよ」
正解音。押したのは、相手チームだった。桔梗が得意げに答えている。
「え、ええっ!?速すぎですよぉ!」
「すごいな、全然わからなかった……」
これは本当だ。僕は答えしかわかっていなかった。画像がなんなのかも全くわからず、押して良いかの判断もできなかった。
「あ、あはは……なんでみんな、そんなにクイズ得意なんですかぁ?」
マイカはもう泣き笑いだ。確かに、クイズが得意、たまたま知っていたという可能性もある。だが、これはただのクイズではない。
「……もう『異能力』を使っていると考えた方がいい」
「そっか!じゃああれ!あのOLがきっと『アンサー』なんですよ!」
騒ぎ立てるマイカを落ち着けようと、僕はできるだけ優しく反論しようとする。
「えっと、それは……」
「あー、ないない!ありえないから!それは!」
Qの声だ。僕らに聞こえるように、Qは大声で喋り続ける。
「須藤さんは『アンサー』じゃないよ。キミらはともかく、すぐとなりに他の参加者がいて……しかも自分が『アンサー』で勝ったらその人は生き残るんだよ?バレる危険が高すぎるでしょ!ちょっと考えればわかるよね?」
Qはマイカを嘲笑い、そしてそのまま僕のことを指さした。
「A、ボクはキミを買ってるんだ。さっきのラウンドでは楽しませてくれたからね……だから、こんなところで負けないでよ?」
相変わらず楽しそうな表情だ。嫌な男に目をつけられてしまった。
「ま、漫画のライバルキャラみたいなこと言ってる……この展開、助けてくれるとか……」
「須藤さんにはボクから、クイズのコツを教えてあるし、能力の使い方も教えてあげたけど、キミなら勝てるよね?」
「うわぁ!戦闘狂キャラのほうだ!」
マイカに少しずついつもの調子が戻ってきたようだ。Qの言い方はムカつくが、それは少し安心した。
クイズは画像の開示が終わってから次の問題となるようで、今ようやく4枚目の画像が見えた。札幌の時計台だ。
僕はそのまま、横目で能力表を見る。あんな芸当ができるのは、『アンサー』ぐらいしかないように見える。そして、まだ見えていない下位の能力を含めて、「クイズに正解する」という結果を直接導くものはないだろう。(『フィフティ・フィフティ』で当てずっぽうをやるぐらいか?)
すると、考えられる可能性は。
「未知の『異能力』の相互作用か……」
3
【問題。にんじんや大根を縦に半分に切るのは】
正解は「いちょう切り」だ。でも、記憶が正しければそれは、
【半月切りですが、よ】
僕はボタンを押した。ランプが点灯する。相手チームも同じぐらいのタイミングで押したようだ。僕は安心して答えを出す。
「いちょう切り」
正解。現在8問目で、これで5対3になった。リードはあるが、それでも油断はできない。桔梗と須藤のチームは、通常の問題でも相当な早押しをする。だから僕が『アンサー』で早押ししても即座に異常さがバレることはないのだが……なぜそこまで自信満々に押せるのか、その答え、つまり桔梗と須藤の『異能力』にはまだたどり着いていないのだ。それが不気味だ。僕は『アンサー』を使わされているのかもしれない。
「Aさん、知ってたんですか?」
マイカが聞いてきた。リードができたので、少し落ち着いているようだ。
「うん、家庭科かなにかでやったかな」
もとから知っていたので、嘘はついていない。
「うう、真面目に授業受けとけばよかった……でも、『ですが』ってズルくないですか?あんなのなんでもアリじゃないですか」
マイカの言葉に、僕は一瞬「たしかに」と思った。【日本で一番高い山は富士山ですが、6の10乗は?】という問題も、作ろうと思えば作れそうだ。でもそれでは、「ですが」の前に意味がない。
「ですが、の前と後は対応してなきゃいけない、っていうクイズの約束事なのかもしれない。いままでなんとなくやってきたけど、これはQの技術を解明する手がかりになるかも」
Qは須藤にクイズのコツを教えたと言っていた。彼女の押し方から、なにかわかるかもしれない。
【問題。ズームアウトクイズです。これは誰の作品?】
再び空間に画像が浮かび上がる。今度は黄色一色の画像だ。
【では、スタート】
さすがにこれでは相手チームもわからないのか、1問目のように即回答はできないようだが……。
答えは「ゴッホ」なのだが、どこで押すか。
画面が引いていく。まだ黄色以外見えない。
ピコーン!
「うそっ?!」
マイカが声をあげた。まだ画面には、黄色一色以外には、ごく一部、何かの線ぐらいしか写っていない。こんな状況でわかるのか?
「……ゴッホ」
須藤が答え、正解した。他の参加者の間にも、ざわめきが広がる。画像のズームアウトが進み、ゴッホの『ひまわり』の全景が映された。
これで、5-4だ。最終問題を取れば、僕たちの勝ちだ。相手の能力はわからないままだったが、このままいけば……。
【最終問題です。問題】
【テレビゲーム『ポケットモンスター』シリーズで、全国図鑑番号1番のポケモンは】
ピコーン!
回答席のライトが灯る。押したのは僕ではない。マイカだ。
「やった、最後に私も押せました!」
最後の問題も、両チームほとんど同時にボタンを押していたが、マイカのほうがわずかに早かった。詳しい分野だったからかもしれない。
【回答をどうぞ】
アナウンスに促され、マイカはうれしそうに答えた。
「図鑑番号001番は、フシギダネ!」
「なっ!?」
僕は思わず声をあげる。それは違う。
ブブーッ!不正解の音だ。
「なんでぇ?!」
マイカの表情が一転する。
「図鑑番号1番はフシギダネでしょ!誰だって知ってる!なんで不正解なの?!」
【テレビゲーム『ポケットモンスター』シリーズで、全国図鑑番号1番のポケモンはフシギダネですが、1000番のポケモンは何? 正解は、「サーフゴー」】
『ですが』問題。1と1000で対応している。「お約束」通りだ。
「う、うそ、そんな……やっちゃった、私……」
マイカはがっくりと膝をつく。これで4-4。同点だ。相手チームも押していたのだから、押して正解された場合と同点なのは変わらないのだから、そこまで落ち込むことはない……のだが、落ち込みようを見ると声をかけられる状態ではない。
一方の相手チーム、桔梗と須藤は一安心しているようだった。緊張が解け、顔に笑みが戻っている。
「ふー、間一髪でしたね。ミスに救われたっす」
「そうね、もし押せてたら私のほうが……」
須藤がこちらの視線に気が付いて、あわてて言葉を切った。なんだ?今の反応は?
【全問終了、得点は芦田・汀チーム4点、桔梗・須藤チーム4点で引き分け。よって】
まあ、同点なら死者は出ない。人を殺さなくてよかったと思えば、
【これよりラウンド9延長戦に入ります。相手チームより2問多く正解した時点で、そのチームの勝ちとなります】
4
同点ならば勝敗が決定せず、死者も出ない。ラウンド1でデメキンが持ち出した「必勝法」のせいで、僕はそう思い込んでいた。
しかし、それは根も葉もない嘘だったのだ。今ならばわかる。
デメキンが自称した能力『ギャランティ』の頭文字はG。すでにその枠は、おそらく大山の能力だった『ジャンル』だと開示されている。
そこからはもう、互角のたたき合いだった。
【問題。6面サイコロを2つ振った時、ぞろ目になる確率は】
「1/6」
僕が正解すれば、
【問題。『まだあげそめし】
「『初恋』」
須藤・桔梗チームも取り返す。
【問題。『キツネ』『ドレミソラシド】
「日向坂46」
【問題。併殺、重殺とも】
「ダブルプレー」
【問題。あかい・まるい・お】
「あまおう」
【問題。世界で一番長い川はナイル川ですが、日本】
「信濃川」
【問題。専用のしょうゆが発売されたことでも話題になった、TKG】
「卵かけご飯」
【問題。フィギュアスケートのジャンプのうち、唯一前】
「アクセル」
【問題。享保の改革を】
「徳川吉宗」
【問題。水を電気分解すると発生するのは、す】
「酸素」
【問題。赤外線を感知するピット器官】
「蛇」
【問題。ラテン語で「商売】
「メルカリ」
【問題。ある物体を構成する要素がすべて置き換えられた】
「テセウスの船」
決着がつかない。いや、つけることができない。相手チームの相互作用に、Qから伝授されたらしいクイズの解き方が合わさって、僕の『アンサー』とほぼ同等になっているのだ。
そしてその状態は、延長戦においては『アンサー』より強い。僕は答えがわかっているからといって、絶対にわかりえないポイントで押すことはできない。通常のラウンドであれば、勝ち切ってしまえば問題に答えなくて良いが、延長戦では2問差がつくまで延々と答えさせられ、判断を迫られる。
問題数を重ね、こちらが『アンサー』だという証拠がそろえば、指摘殺は免れ得ない。
「ぐっ……」
頭が痛い。喉がひりつく。死のリスクを抱えたまま、最大限の集中を保ったままクイズを解き続け、脳が悲鳴をあげている。足がもつれ、倒れそうになる。
「Aさん!」
マイカが僕の肩を支えた。
「あ、ありがとう……大丈夫」
「大丈夫じゃないですよ!足ががくがくしてるし、鼻血だって……」
僕のシャツにいつの間にかドス黒い血がついていた。抱き止めてくれたマイカの服のフリルにも、べたりと血がついた。
「わ、私のせいで、こんな……きっと何か強い『異能力』の副作用で……」
そんな漫画みたいな副作用はないと思うが、『アンサー』がバレないようにするために考える量が2倍になっているのは、副作用と言えるのかもしれない。
「え、Aさん……なんで私のこと怒らないんですか?私が勝手にまちがえたせいで、こんなことになってるのに……なんでそんなに頑張れるんですか?!Aさんは何も悪くないのに、怒ったって、殴ったって、ヤケになってなげだしたっていいのに!」
熱をもってふらつく頭の中で、そう言われれば、と僕は考える。僕はなんでこんな、わけのわからないゲームに、真剣になっているのだろう。
自分の命がかかっているから。好きな女の子と生還したいから。もちろんそれはある。だけど、一番は――。
「やれるから、やる。このまま解き続ければ、僕の命も、君の命も守れる。だからやる。そのための『異能力』もある」
そうだ。やれるからやる。諦めない。僕は諦めたくないんだ。
【問題。4ヒントクイズです。次のヒントから連想される鳥は何?】
相手チームの得意な形式のクイズが、ここにきて出される。現在、1問リードされているので、ここで正解されればおしまいだ。
僕は画像の出る場所を凝視する。何かヒントが出た瞬間に、押す。かなり能力がバレるリスクが高いが、もうやるしかない。そういう状況に追い込まれていた。
画像が、公開される。僕と須藤が同時に動いた。
ピコーン!
音は、対面から。僕は押し負けた。
終わりだ。結局あの2人の能力を暴くことはできなかった。あとは「ホトトギス」という答えが聞こえて……。
「カッコウ」
ブブーッ。不正解の音だ。
「なッ!?」「ええーっ!?」
桔梗と須藤は当然驚いている。改めて見れば、ヒントの画像で表示されているのは、「郭公」という漢字だ。なぜだ?答えは「ホトトギス」なのに?!
その瞬間、僕の中で、いくつもの要素がつながった。能力表、相手チームの行動や、目に映るものに覚えていた違和感。
「……Aさん?」
急に口を抑え、黙り込んだ僕をマイカが覗き込んできた。
「相手の2人の能力が、わかったかもしれない。でも、どっちがどっちか……」
どんな相互作用をしているのかがわかっても、指摘殺するには誰がどんな能力を持っているのか指摘する必要がある。僕とミラが組んでいる理由の裏返しだ。相互作用なら、起こっている現象の解明と、能力指摘を結びつかなくできるのだ。
「あと、少しなのに……!」
思わず歯を食いしばる。そんな僕を見て、マイカは少しうつむいてから、そして強い意志の籠もった目で僕を見つめて、言った。
「どっちかの『異能力』がわかれば、勝てますか」
5
「Aさんがこんなにがんばってるのに、私が何もしないんじゃ、ダメですよね」
マイカは自分に言い聞かせるように言った。
「でも、それは」
僕が返すと、マイカは首を振る。
「いいんです。今までいろいろな理由をつけて、『異能力』を使うのを避けてたけど。私も、できることはやります」
「……わかった」
クイズ力が完全に互角なら、相手の『異能力』を暴いて指摘殺するしかない。それは、自分の意思で人を殺す、ということだ。マイカは僕を信頼して自分の『異能力』を明かす上に、その覚悟を決めたのだろう。だったら、僕も答えなければならない。
僕は目を閉じ、もう一度脳内で考えをまとめた。これならいけるはずだ。
マイカの能力は『ホロスコープ』だろう。ラウンドに一回、指定した参加者の能力を知ることができる。
チャンスは一度きり。
「対象は……須藤だ」
マイカが小さくうなずき、手をにぎって、開く。
『Stop』
手のひらには、先ほどまでなかった文字が浮かび上がっていた。
「ありがとう。これで、つながった」
僕は対面の回答席を見つめ、腕をまっすぐ伸ばして指をさす。自分の指先が小さく震えているのが見える。
「『能力指摘』」
会場の空気が凍り付いた。この瞬間、どちらかが死ぬことが確定したからだ。クイズの出題も停止した。
「え、ほ、本当に?!なんで?!」
須藤がうろたえる。
「……Aくん。やめるなら今のうちっすよ」
桔梗の方は、やけに落ち着いた様子で、僕のことを見る。
「やめません」
「外したら死ぬの、わかってるっすか?」
「はい」
「そうっすか……だったら、その前に聞かせてほしいっす。君の推理を」
桔梗がそんなことを言い出して、僕らも、須藤も目を見開く。
「なっ、なんでそんなこと?!あんたバカなの?!それより先にあっちの『異能力』を指摘すれば……」
「まぁ、それはそうなんっすけどね。ウチらはここまで、相手の『異能力』を絞りきれなかった。当てずっぽうで指摘し返してもいいっすけど……でも、あんな子供たちが、先に命を張る決断したんっすよ。それには応えるのがスジってもんでしょう」
意外な展開だった。『能力指摘』を返してくるようであれば、先に指摘してしまうつもりだったが……。
「……Aさん、これって……」
マイカが僕を見上げてくる。わかっている。桔梗はただ譲歩してるのではない。僕に喋らせて、情報を吐かせるつもりだ。ミスがあれば、僕だって次のラウンド以降ただではすまないだろう。それに、推理中に最も大きな手がかりになったマイカの『異能力』を言うわけにもいかない。推理なんて言わないで、さっさと指摘してしまえばいい。
だとしても。
「……わかった」
互いに命を張っている。だから、その提案を断るわけにはいかなかった。
「僕らは延長戦前最後の問題で、ほぼ同時に押していたけど、そこは適切ではなかった。さっきの誤答した問題もそうだ。そちらのチームに起こっている組み合わせは『適切な場所で押せたら、ほとんどわかる状態になる』と推理できる。答えが直接わかる……『アンサー』や『フィフティ・フィフティ』に類する能力じゃなくて、自分で答えを考える必要があるってことだ」
僕は話し始めた。会場の空間には、何も反響しない。
「そうすると……4ヒントクイズの早押しに違和感が出てくる。特に絵画の問題は、明らかに知っていたからでは済まない速さだった。考えたってあの情報ではわからないだろう。でも正解しているということは、あの時点で解答に必要な情報が揃っていたということだ」
「な、なにいってるのよ!あれは……」
「いいから」
反論しようとした須藤を、桔梗が止めた。僕は続ける。
「断片的にでも画像があれば、その全体がわかる。画像から適切な情報を読み取り、自分が知らなくても答えることができる。……つまり、そちらのチームは画像検索を使っている」
「画像検索!?」
「そんな能力があるの?」
「スマホでも持ち込んだっつーのかよ」
周りの参加者たちがざわつく。桔梗の表情は変わらない。
「検索できることを前提にすると、解答の速さにも説明がつく。グーグルかなにかで、読まれた場所までの内容を検索すれば答えは出るだろう。だから、検索してわかるところまでは情報が必要なんだ」
「で、でも、検索なんて、いつ……」
マイカの言葉に、僕はうなずく。
「そう、そこだ。ボタンを押してから、須藤・桔梗チームはすぐに解答している。検索をして、その結果から答えを探しているような時間はない……いつ検索しているんだ?そう考えたときに、ひとつの違和感に気がついたんだ」
「な、なによ違和感って」
須藤の表情に焦りの色がにじむ。
「相手チームのボタンは、いつも須藤さんが押している。解答自体は2人ともしていたけど、ボタン押しはいつも須藤さんだ。そして、ボタンを押した後必ずあるはずのあることが起こっていなかった……ボタンの点灯だ」
「なるほど、確かにそういえば、点いてなかったね」
Qが相変わらずの表情で相槌を入れる。
「なぜボタンが点かないのか?故障ということは考えにくい……もしかしたら、点灯したものが自然に消えていたのかもしれない。そう考えると、さっきの疑問とつながってくる。検索はいつしているのか?ボタンはいつ消えたのか?どっちもいつの問題だ。相手チームにだけ時間があった、と考えると、この疑問はどっちも解消できる。つまり、相互作用のもう一つの能力は『時間操作』……あるいは、『時間停止』だ」
「ええ!?ラスボス級じゃないですか!そんな強い『異能力』、もっと上位にあっていいのに……なんで?!」
ザ・ワールドじゃん、とこぼしながら驚くマイカ。それに答えるように、桔梗が言った。
「それよりもっと重大な欠陥があるっすよ。その推理は。それじゃあどうやって時間操作とか時間停止しながら検索したっすか?一人じゃ相互作用はできないっすよ?」
確かに、そうだ、と、周囲の参加者たちがささやく。僕は疑いの目が強まるのを感じながら、続けた。
「そう。『異能力』は一人ひとつ。検索ができる参加者は時間停止できないし、時間停止できる参加者は検索できない。この疑問をどう解消するか?そこが問題だった」
「そもそも『時間停止』ってなんだ?時間が止まっているなら自分も止まっているはずだ。自分だけが動けたとして、服や周りの空気はどうなる?止まってたら呼吸できない。自分や自分の所持品だけが停止の例外になるのか。そう考えた時、僕は一つの可能性に思い至った。なにも、『異能力』で検索しなくたっていい」
「ど、どういうことですか?」
「さっき誰かが言っていたように……スマホが一台あれば全部足りる。もう一つの能力は、『スマホ』だ。『時間停止』側に『スマホ』側がスマホを渡して、『時間停止』中にそのスマホで検索すればいい。これが一人相互作用のトリックだ」
桔梗はそこまで聞くと、笑って手をたたいた。
「『時間停止』して検索している間にボタンの点灯が切れた。でもボタンの音は持ち物じゃないから聞こえていた……すごいっすね。点灯のことはウチも気が付かなかったっす。まあ、推論が多くてギリギリの線っすけど。合ってるっすよ」
「な、なに肯定してんのよ!ねえ!あっちの『異能力』わかんないの?!ねえ!早くブっ殺さないと!!」
桔梗は、自分の頭をがくがく揺さぶってくる須藤を手で制した。そして、ボタンの影においてあったものを手にとって、掲げる。それはよく見知ったスマートフォンだった。
「ま、マジかよ!?」
「ほんとにスマホが出てきた!?」
ミラや他の参加者たちが声をあげる。
「あと一歩っすよ、名探偵。生還できたら作家にでもなるといいっす……たはは、これウチが言うことになるんすね」
これから殺される人のものとは思えない、桔梗の軽口。僕は促されるまま、改めて2人を指さした。
「……『時間停止』のきっかけになるのがボタンを押すことだとすれば、須藤さんが毎回ボタンを押していたことにも説明がつく。したがって……」
大きく息を吸って、吐く。
「『能力指摘』。須藤ヤスミが『ストップ』、桔梗ユカリが『フォーン』。これが僕の答えだ」
↑次回↑
この作品は、2022年の逆噴射小説大賞に応募した作品の連載版です。
カクヨムに掲載したものをNoteに転載しています。
おまけ:この章で出てきたクイズの全文
4ヒントクイズは一部省略
Q にんじんや大根を縦に半分に切るのは半月切りですが、四分の一に切るのは何?
A いちょう切り
Q テレビゲーム『ポケットモンスター』シリーズで、全国図鑑番号1番のポケモンはフシギダネですが、1000番のポケモンは何?
A サーフゴー
Q 6面サイコロを2つ振った時、ぞろ目になる確率は何分の一?
A 1/6
Q 『まだあげそめしまだ前髪の林檎のもとに見えしとき』から始まる、ロマン主義を代表する作家、島崎藤村の詩は何?
A 初恋
Q 『キツネ』『ドレミソラシド』などの楽曲で知られる女性アイドルグループは何?
A 日向坂46
Q 併殺、重殺とも呼ばれる、野球で一回に2つのアウトをとるプレイをなんという?
A ダブルプレー(ゲッツー)
Q あかい・まるい・おおきい・うまいの頭文字をとって命名された、いちごの品種は何?
A あまおう
Q 世界で一番長い川はナイル川ですが、日本で一番長い川は何?
A 信濃川
Q 専用のしょうゆが発売されたことでも話題になった、TKGとも呼ばれる料理は何?
A 卵かけご飯
Q フィギュアスケートのジャンプのうち、唯一前に踏み切るジャンプは何?
A アクセル
Q 享保の改革を行ったことで知られる、江戸幕府の第八代将軍は誰?
A 徳川吉宗
Q 水を電気分解すると発生するのは、水素と何?
A 酸素
Q 赤外線を感知するピット器官を持つ生き物といえば何?
A 蛇
Q ラテン語で「商売」という意味の言葉が名前の由来である、フリーマーケットアプリは何?
A メルカリ
Q ある物体を構成する要素がすべて置き換えられたとき、もとの物体と同一と言えるのか?というパラドックスを、ギリシャ神話に由来する名前でなんという?
A テセウスの船
Q 4ヒントクイズです。次のヒントから連想される鳥は何?郭公・霍公鳥・時鳥・不如帰
A ほととぎす
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